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中華を題材にした中華圏以外の海外作品を紹介する「中華ゲーム見聞録外伝」。今回は毛沢東の亡くなった1976年から冷戦後期の1985年までの中国を運営するポリティカルシミュレーション『China: Mao's legacy』をお届けします。
本作はKremlingamesによって5月25日にSteamで配信されました。Kremlingamesはロシアのデベロッパーで、これまでにもソ連運営シミュ『Crisis in the Kremlin』や東ドイツ運営シミュ『Ostalgie: The Berlin Wall』など冷戦時の東西対立や共産圏の政治を描いた作品をSteamで配信して好評を得てきました。
本作は大躍進や文化大革命で疲弊してしまった中国の政治・経済を立て直し、改革開放で市場経済へと向かっていく転換期が舞台となります。政治的にはややこしい時期ですが、ゲームとしてはある意味やりごたえのある時期とも言えます。
本作の内容ですが、国家の育成や政治的判断をしていくシミュレーションゲームです。人気のあるポリティカルシミュといえばアメリカ政治をシミュレートした『Democracy』シリーズがありますが、基本的にはそれと同じようにゲーム画面はテキストと数字が中心になります。毛沢東亡き後の中国で中心的人物となるのは、跡を継いで最高指導者になった華国鋒と、現実的な市場経済路線へと舵切りをしたトウ小平。中国経済を立て直して冷戦時代を切り抜けられるのか。さっそくプレイしていきましょう。
1976年の中国情勢
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ゲームを開始すると政治体制で色分けされた世界地図が表示されます。ドクトリン、エコノミー、サイエンスなどのタブが上に並んでいますね。画面左上に一時停止マークがあるということは、ゲームはリアルタイムで進むようです。うわっ、楽しそう(笑)。『Hearts of Iron(以下『HOI』)』シリーズっぽさもあって筆者的にはワクワク感が半端ないことになっています。ちなみに言語は英語とロシア語のみなので英語でプレイ。中国語がないのが残念です。
画面上部にはパラメータが並んでいます。中ソ対立の時期なので、アメリカとの関係は80、ソ連とは30。史実では、ソ連との仲が改善するのはトウ小平体制以降ですね。ちなみに中国の立ち位置は『トロピコ』シリーズ的な感じで、アメリカ・ソ連の2大国とどう関係を作っていくかが重要になります。筆者の好きな2人用ボードゲームに「Twilight Struggle」があり、こちらは冷戦時の米ソ対立をテーマにしています。その中で「中国カード」というのがあるのですが、使用すると相手の手に渡ってしまうという振る舞いが面白いなと思いました。
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影響力マップ。赤がソ連、青がアメリカ、黄色が中国です。中国はアルバニアとカンボジアに影響力を持っていますね。アルバニアはソ連の援助を受けていた社会主義国でしたが、スターリンの死後はソ連との仲が険悪化。1968年にはWTOを脱退してしまい、同じくソ連と対立していた中国から援助を受けていました。
この時期、中華民国(台湾)が国連の常連理事国、すなわち「中国代表」だったのですが、1971年にはアルバニアなど23か国の提案によって中華民国を国連から追放し、中華人民共和国を中国代表として常任理事国にする決議案を提出(アルバニア決議/2758号決議)。可決されたことによって中華民国は国連を脱退し、中華人民共和国が中国代表となります。
『HOI』シリーズだとネタ扱いされているアルバニアですが(失礼)、中国や現在の世界情勢に影響を与えた国とも言えます。ちなみにトウ小平体制になってから中国と不仲になるなど、かなりガチな社会主義国でした。1991年以降は「アルバニア共和国」となり開放路線を取っています。
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ドクトリンのタブで国家体制を見ることができます。政治体制を変更するには条件を満たさなければならず、初期で変更できるものはなさそうです。共産党内での派閥は極左が30%、保守派が45%といったところ。トウ小平が属する改革派は10%程度です。条件がそろえば政党政治による民主化も可能のようですね。
ちなみにゲームスタート時は1976年2月4日(ゲーム画面の日付は日・月・年の順で並んでいます)。毛沢東は同年9月9日に亡くなりますのでまだ存命ということになり、文化大革命も終結していません。この年は1月8日に周恩来、7月6日に朱徳と、立て続けに重要人物が亡くなった時期でもあります。
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エコノミーのタブでは、国家予算をどの項目に振り分けるかを決めることができます。軍事や農業、福祉、工業、科学、外交など様々な項目があります。ちょっと『Democracy』シリーズっぽいですね。汚職のパラメータがあるのもポリティカルシミュの定番といったところでしょうか。この手のゲームは軍事費を削って内政に割り当てるという鉄板の初手がありますが、本作で通用するかどうかはまだわかりません。
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サイエンスのタブにある技術ツリー。項目は農業、工業、軍事の3つ。サイエンスポイントを貯めることによって次の技術がアンロックされていきます。多数の餓死者を出した大躍進とそれに続く文化大革命によって中国経済はガタガタの状況なので、農業と工業に力を入れる感じでいきましょう。
華国鋒の決断
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政治のタブでは共産党員の一覧を見ることができます。あまり似てないせいか(失礼)、パッと見て誰が誰だかよくわかりません。一番上にいるのは華国鋒かなと思ったら、その通りでした。毛沢東の死後に最高指導者となった人物です。しかし毛沢東もトウ小平も名前が書いてなかったら誰だかわからないような……。毛沢東の妻である江青に至ってはおっさんにしか見えませんし……。
各人物をクリックすると、画面左に年齢や派閥、性格、状態などの情報が出てきます。党内での配置を決めたり、条件が揃えば粛清もできるようですね。また人物同士の忠誠度(好感度)も設定されています。史実では大躍進失敗後、毛沢東が一線を退き、トウ小平と劉少奇が中心となって市場経済を導入し始めたことから毛沢東と不仲になっていきます。
1969年に毛沢東は紅衛兵を率いて文化大革命を引き起こし、トウ小平は失脚(劉少奇は幽閉されて病死)。周恩来の計らいでトウ小平は1973年に復帰したものの、毛沢東との不仲は続きます。本作でも2人の関係はよろしくありません。しかしゲームスタートが1976年2月4日だと、4月にトウ小平が再度失脚する「第一次天安門事件」が起こりそうですね。
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時間を進めるとイベント発生。ことの発端は1月8日の周恩来死去。国民に人気のあった人物なので、文革に失敗した毛沢東には目のかたきにされていました。追悼集会がそのまま毛沢東や、江青を中心とした文革の中心人物たち「四人組」への批判に転じてしまう可能性があるため、追悼集会の取り締まりも行われていました。
実際の歴史では4月4日の清明節、周恩来の追悼集会が北京で行われ、何万という人たちが天安門に集まりました。四人組は自分らへの批判が集まることを怖れて集会を「反革命行為」とし、天安門広場を兵で取り囲んで武力弾圧。トウ小平は集会の首謀者とされて失脚します。これが「第1次天安門事件」の経緯です。1989年の第2次天安門事件では自身が弾圧側に回るあたり、歴史は繰り返すというか何か運命的なものがありますね。一般的に「天安門事件」というと第2次の方が知られています。
ちなみに第2次のころに筆者は北京で日本人学校に通っていましたが、家の窓の外を民衆にまとわり付かれた装甲車が走ってたり、道路のあちこちに横倒しになったトロリーバスが転がっていたり、家族でタクシーに乗って空港へ行く途中に前方の横断歩道に現れた兵士の一団から一斉射撃されたりと、なかなかに混沌とした状況でした。あのときタクシーの運転手が笑いながら言った「このまま突っ込みますか?」のセリフは今でもよく覚えています(Uターンしてもらいましたが)。
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ここでは周恩来の追悼式を禁止する法令を毛沢東が出し、それに対する華国鋒のアクションを決定します。命令を実行するか妨害するかなどの選択肢がありますが、ここは様子見でいきましょう。結果として周恩来に対するネガティブキャンペーンが展開され、追悼式の禁止令も出ました。これがどう今後につながるのかはまだわかりません。
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時間を数日進めると、またイベント発生。江青らがトウ小平への批判を強めています。華国鋒としてどちら側に付くのかという判断を迫られますが、毛沢東の死去を見越してトウ小平に付いた方がよさそうですね。トウ小平を擁護しておきましょう。結果、党の上層部からは睨まれることになりましたが、人民へのアピールにはなったようです。
新たな時代へ
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予算をいじってみましょう。軍事費を減らして科学と工業への予算を増やしてみます。いじった結果どうなるのかがわかりにくいのも「ポリティカルシミュあるある」ですね。科学は技術ツリーのサイエンスポイントに関係するかと。あと外交にも予算を少し割り振って、米ソと仲良くしておきましょう。
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技術開発ができるようになったので、大躍進からの復興を進めていきます。大躍進は思い付きだけでやってみたような政策が多く、「スズメは農作物を食い荒らすから駆除しろ」の結果が「スズメの餌だった害虫が大量発生して農業に大打撃」だったりなど、餓死者を数千万人も出す悲劇へとつながっていきました。学問は大切ですね。
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マップでのソ連の圧迫感が半端ないので国交正常化したいところですが、条件の中に「1979年以降」というのがあるので今すぐは無理のようです。ちなみに実際の歴史だと1989年5月にやっと国交正常化まで漕ぎつけましたが、その直後の6月に第2次天安門事件が発生。さらにポーランドやハンガリーなど東欧で民主化革命が相次ぎ、11月にはベルリンの壁崩壊と、ソ連にとってのバッドイベントが連発してしまいます。ソ連自身も1991年に崩壊してしまいました。ソ連をサポートする条件はそろっているようなので、これで関係性を少しづつ上げていきましょう。
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4月に入ってタイで選挙が行われました。タイは1973年に革命が起こり、軍事政権を打倒してタノーム首相を追い出し、民主主義的な選挙制を導入しました。しかし、そもそもそういう政治体制に国民が慣れていなかったためあまり上手くいかず、さらにはベトナムやカンボジアなど周辺国の共産化と大量の難民流入によって国民の不満が高まり、1976年の選挙では保守寄りの民主党が社会行動党を破って大勝することになります。同年9月にタノーム元首相が帰国し、それに反対した学生たちを国境警備警察や右派組織らが虐殺(血の水曜日事件)。直後、軍事クーデターによって軍事政権がまたもや誕生してしまいます。
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ここでは4月のタイ選挙に介入するかどうかの決断を迫られます。ここは歴史に反して「選挙なんて糞くらえだ!タイ共産党(CPT)に武器を送ってゲリラ戦を展開しろ」で行きたいところですが、他国の政治に干渉するのもどうかと思うので(それに効果なさそうなので)介入はしないでおきましょう。国際的な評判も落ちそうですしね。結果は歴史どおりに民主党が勝利します。
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中国では江青らが周恩来やトウ小平を「走資派」(資本主義の道を進む実権派)と呼び、メディアを利用したネガティブキャンペーンが続けられています。それに対する行動ですが、報道を禁止するか、サポートするか、傍観するか。ここは傍観しておきましょう。結果、周恩来への侮辱は民衆を怒らせたようで、北京にデモ隊が押し寄せる結果に。これは第1次天安門事件発生か。
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時間を進めると第1次天安門事件発生。2万人もの人たちが天安門広場に集まり、周恩来の追悼集会を行いました。江青らへの批判に転じる可能性があるため、江青らは武力によって集会を中止させたい構え。
これに対する華国鋒の決断ですが、穏便に追い払うか、武力弾圧に協力するか。ここは穏便にいきましょう。結果、大事にならず解散させることに成功。しかし集会の責任をトウ小平が取らされることとなり、トウ小平は失脚してしまいます。
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7月に唐山大地震発生。唐山市の住宅の94%が壊滅し、死者は20~60万人とも言われる20世紀最大の被害者数を出した大地震です。2010年にはこの地震をテーマにした映画「唐山大地震」も上映され、興行収入は中国歴代映画1位になっています。地震に対する政府の対策ですが、歴史に反して海外の人道援助を受け入れましょう。予算もカツカツですし。
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そして9月9日、毛沢東死去。どう弔うかについての選択がありますが、史実通り天安門広場に毛主席紀念堂を建てておきましょう。ここでは保存処理された毛沢東の遺体を見ることができるので、有名な観光スポットにもなっています。そして本作はここからが本番とも言えます。この先の中国は、あなた自身の手で導いてみてください。
予想以上に楽しいポリティカルシミュ
普通、中国の近代ものといえば『HOI』シリーズのようにWW2時や冷戦初期を扱ったものが多いとは思いますが、毛沢東亡き後の華国鋒やトウ小平の時代をテーマにしたものは珍しいので、筆者的にはとても楽しめました。史実通りにイベントが起こったり、それに対してどうアクションを取っていくのかを選択できたりと、近代史が好きな人は間違いなく楽しめる作品になっています。Steamでのユーザーレビューの評価が良いのも納得です。あとBGMも中国の革命的な歌が多くて雰囲気が出ていました。
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それと国ごとに外交項目が違うのも面白い点です。例えば日本相手だと、条件が揃えば宮本顕治を暗殺して日本共産党を支配下に置くというようなこともできます(宮本顕治と毛沢東は互いの路線を受け入れず、日本共産党と中国は不仲になっていました。しかしずいぶん直接的な解決方法です)。
他にもインド相手にナクサライト(インドの武装革命主義者)支援ができたり、北朝鮮相手に新たな朝鮮戦争を引き起こしたり武器を送ったりなど、各国がただのパラメータの違いになっていないのがいいですね。歴史のIFを楽しむには持って来いの作品かと思います。近代史の勉強にもなるので、機会があればぜひプレイしてみてください。
製品情報
『China: Mao's legacy』
開発・販売:Kremlingames
対象OS:Windows、MacOS、Linux
通常価格:720円
サポート言語:英語、ロシア語
Steamストアページ:https://store.steampowered.com/app/950740/China_Maos_legacy/
※本記事で用いているゲームタイトルや固有名詞の一部は、技術的な制限により、簡体字・繁体字を日本の漢字・カタカナに置き換えています。
■筆者紹介:渡辺仙州 主に中国の歴史ものを書いている作家。母は台湾人。人生の大半を中国と台湾で過ごす。中国の国立大学で9年間講師を勤め、現在台湾在住。シミュレーションゲーム・ボードゲーム好きで、ブログ「マイナーな戦略ゲーム研究所」を運営中。著書に「三国志」「封神演義」「封魔鬼譚」(偕成社)、「文学少年と運命の書」(ポプラ社)、「三国志博奕伝」(文春文庫)など。Twitterはこちら。