12年ぶりの新作『Half-Life: Alyx』―Source 2 EngineとValveのVRアプローチ
『Half-Life 2: Episode Two』より12年ぶりの新作となる『Half-Life: Alyx』の内容を見ていきましょう。『Alyx』は、『Half-Life 2』の拡張版であった『Aftermath』初期案のようにアリックス・バンスが主人公となり、G-MANによってゴードン・フリーマンがCity 17へ投入される以前の出来事が語られます。
この間に起きた出来事を簡潔にまとめてみると、初代『Half-Life』は西暦2000年ごろを舞台にしており、事件の発端はゴードン・フリーマン博士が謎の男G-MANからもたらされたXenのクリスタル“GG-3883”を反重力分光計装置に入れ込んだことから始まります。これによってブラックメサ研究所で事故が発生。研究所中にポータルが開いてしまい、Xenの侵攻軍が各地に出現します。


フリーマン博士は、事態の収集を図るため最終的にポータルを閉じるための衛星ロケットを打ち上げ、別次元に存在するXenにまで乗り込み支配者ニヒランスを倒しますが、最終的にG-MANによって身柄を拘束されてしまいます。


この事件後、地球ではXenと繋がるポータルストームが発生。Xenに存在する多くの生物が地球へと避難します。その嵐に乗じ、多次元を支配する連合組織「コンバイン」が地球への侵略を開始。それらコンバイン軍と戦ったのがトレイラーでも言及された「7時間戦争」です。この戦争によって地球上の全ての軍は降伏し、ブリーン博士が国連に代わる地球人類の代表としてコンバインの下についています。なお『Half-Life 2』本編は、ブラックメサ事件後から約20年後を舞台にしていて、今回の『Alyx』は『Half-Life 2』本編より前が描かれます。


公開されたスクリーンショットやトレイラーを観てみると、City 17を代表する高さ約2.5kmにもなるシタデルは建設中で、一般兵の装備も『Half-Life 2』本編のような完成形に至っていないようにも見えます。またアリックスが装備しているグローブは、見た目が無骨ながらも重力銃のような機能を有しているご様子。拳銃を遠距離から持ち上げたり、グレネードを盗み取るシーンが映されています。


本作で採用された「Source 2 Engine」についても見てみましょう。ValveのDeveloper Communityの説明を読むと、64/32bitのシステム対応の他にも、ローレイテンシーとレスポンスの向上、ハードウェア上限の引き上げ、物理ベースのシェーディング、Steam Audio、社内物理エンジンRubikon、パノラマGUIの強化などが特徴のようで、Vulkan APIやOpenGLもサポートしています。ちなみに。Steam AudioはゲームやVR等に特化した没入型オーディオ環境を構築出来るツールのことです。
『Portal』と『Portal 2』―『Half-Life』と同一世界で繰り広げられるChellの物語
多くのSteamユーザーの間でポピュラーな『Portal』は、デジペン工科大学の学生が開発した『Narbacular Drop』をベースに発展させたタイトルです。青と黄色のポータル(出入口)を駆使し各ステージに盛り込まれたパズルと解き進めていくと、施設に隠された真の目的が分かるという内容です。


『Half-Life』ユニバースに接続されており、ブラックメサ研究所に対する言及や、『Episode Two』に登場するボレアレス号がアパチャーサイエンス所属の船であることが語られています。また続編の『Portal 2』ではストーリーテリングを強化し、復活したGLaDOSに対しWheatleyと共に立ち向かう内容となり、パズル要素も大幅に強化されています。
『Portal』は4時間ほど、『Portal 2』はそれより倍の8時間から12時間ほどのボリュームで構成。オータムセール等で頻繁に値引きされることから未体験のユーザーには手に取りやすいタイトルでもあります(加えて、PS3/Xbox 360向けのコンソール版もリリースされている)。
『Half-Life』シリーズを今から遊ぶには
ここまでは主に『Half-Life』とその歴史を追ってきました。もしかしたら、20年以上もあるシリーズをどこからプレイすべきか、新規プレイヤーは頭を抱えてしまうかもしれません。ゲームそのもののグラフィックを強化するものなどいろいろなコンテンツがあるので、ここからは「今触ってみてほしい『Half-Life』関連作品」を紹介していきましょう。
■初代『Half-Life』ユーザーリメイクゲーム『Black Mesa』
元々はSourceエンジンを利用したユーザー制作の初代『Half-Life』リメイクModでしたが、開発が本格化することで有料化されたタイトルです。初代『Half-Life』の雰囲気をそのままにグラフィックの強化や、更なるリアリティを重視したマップ構成などが特徴。PCのみでしかリリースされていないタイトルなので、プレイ出来る環境にあるユーザーは手を出してみてもいいかもしれません(有志によって日本語化されています)。■『Half-Life 2』グラフィック強化Mod『Half-Life 2: Update』
『HAlf-Life 2: Update』は、『Half-Life 2』をそのままにライティングやシャドウのオーバーホールや描写距離の調整、そして細かなバグ修正など様々な調整を施した内容となっています。オリジナル版より美麗なCity 17を体験可能なのもうれしいところ。基本的なゲームプレイは同じなので、オリジナル版でなく本作からプレイしても問題ありません。■初代をSourceエンジンへ移植した『Half-Life: Source』
『Half-Life: Source』は基本的なゲームシステムはオリジナル版と変わりませんが、ライティング等が一部グレードアップされています。先に紹介した『Balck Mesa』と比べるとグラフィックやゲームシステムがクラシカルに感じられますが、オリジナルに極力近い状態で体験したいのであればこちらからプレイし始めてみると良いかもしれません。なお『Half-Life: Source』版も有志によって日本語化されています。
このように『Half-Life』の歴史は、ValveだけでなくPCゲームそのものの歴史を辿っているかのような出来事の連なりと言えます。その歴史の一部はネットミームにもなっていて、Valveによる「リリース延期」は「Valve Time(バルブタイム)」とも呼ばれています。
日本のユーザーの間では、新情報が出るまでユーザーが待つことを“忍耐(Patience)”と言い表すこともあります。その起源は、かつて存在していた情報サイト「halflife2.net」のフォーラムにおけるゲイブ・ニューウェル氏のコメント。「ユーザーに求めるものは?」という質問に対して、ニューウェル氏は「忍耐」と応えていていました(他にも過去のValveプレスリリースなどの公式発表をまとめたファンサイトによると、1998年4月の『Half-Life』リリース日明確化発表の際に「継続的なサポートと忍耐に感謝します」と“忍耐”が既に公式から使われている)。
今回の『Half-Life: Alyx』は、ファンが長年待ち望んだ『Episode Three』や『Half-Life 3』と別の作品とは言え『Half-Life』ユニバースの歴史の一部が語られるまたとない機会。その発売は2020年3月とされていますが、いちシリーズファンとしては「忍耐」を求めるのは最小限に抑えていただきたいところです。