遡ること5ヶ月。ちょうど東京ゲームショウ 2019の会場でのことでした……。「プラチナゲームズから重大な発表がある」との情報を入手した編集部。幕張メッセからほど近い会議室で、同社プロデューサーの稲葉敦志氏とディレクター神谷英樹氏から告げられたまさかの『The Wonderful 101』を『 Wonderful 101: Remastered(ザ・ワンダフル ワン・
オー・ワン: リマスタード)』としてリマスターし、プラチナゲームズが自社パブリッシングするとの報。
長らく情報が公開できずにいましたが、2月4日に遂にクラウドファンディングの実施がアナウンスされたため、改めてインタビューの模様をお届けいたします!なぜ稲葉氏と神谷氏はこれほどまでに『The Wonderful 101』を愛するのか……。たっぷりと作品やオリジナルタイトルへの想いを聞き、このタイミングで自社パブリッシングを実施する狙いについても伺いました。
取材から掲載まで時間が空いたので、読みやすさを重視しインタビュー中の時制を変更一部変更しています。いくつか前後する箇所もありますが、予めご了承ください。
『 Wonderful 101: Remastered』Kickstarterページ
プラチナゲームズから重大発表!
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ーー今日は「重大発表」があると伺ったのですが……。
稲葉敦志氏(以下、敬称略)2013年にWii Uで私と神谷がプロデュースした『The Wonderful 101』というタイトルを任天堂さんからリリースしました。かなり多くの要素を盛り込んだ斬新なタイトルだったんですが、皆さんもご存知の通り、正直なところセールスは伸び悩んで悔いが残っていて、なんとか新しいプラットフォームでもう一度この作品を世に出せないかと考えていました。とはいえ、『The Wonderful 101』は任天堂さんがパブリッシングしているタイトルなので、言わずもがな任天堂以外のプラットフォームで出すことは難しいと思っていたんです。
でも、私と神谷が、世界各地のイベントで「『The Wonderful 101』出したい!」と何年も言い続けたのが実ったのか、任天堂さんから「プラチナゲームズさんがご自身で責任をもってパブリッシングされるのであればいいですよ」という回答をいただきました。任天堂さんのご厚意によって、プラチナゲームズがパブリッシングをすることが許可されたのですが、僕らも自分たちでパブリッシングをしたことはないので、どうやってやろうかな……ということを考えていたんです。色々と選択肢があるなかで検討を重ね、今回はクラウドファンディングでリリースを目指すのが一番いいんじゃないかという結論になりました。先ほど発表したKickstarterで『The Wonderful 101: Remastered』キャンペーンをやって、ストレッチゴールを達成すれば他のプラットフォームでのリリースを行うことも任天堂さんにご了承いただきました。任天堂パブリッシングの『The Wonderful 101』がPS4やSteamでリリースできる……かはユーザーの皆さんのご支援にかかっています。
神谷英樹氏(以下、敬称略)実現したら異例中の異例ですね。『The Wonderful 101: Remastered』のクラウドファンディングが成功すればですが、他のプラットフォームでの展開もできるので、ゲーム史上稀なことが起こると思いますね。
『The Wonderful 101』への情熱
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ーー!!? す、すごい……詳しく聞かせてください!このアイデアはいつくらいから思っていたのでしょうか
稲葉ずっと思っていましたね。
神谷再リリースの気運が高まってきたのはここ3年くらいでしょうか。僕たちは『The Wonderful 101』の内容にもボリュームにも自信あったんですが、多くのユーザーに遊んでもらうことができずショックが大きかったんです。せっかくの機会ですし、今回の移植でもっと多くの人に触れてほしい!と思っています。Twitterでは僕も『The Wonderful 101』リリースしたいと言ってましたが、今回こうした取り組みにこぎ着けたのは稲葉の執念だと思いますね。
稲葉ゲームの開発というのはタイトルごとに規模や予算も違うので、僕たちは与えられた条件の中で最高の品質を目指してゲームを開発しています。長くゲームの開発に携わっているので、仕上がったクオリティからある程度のセールスが予想できるんですが、本数が全てではないとはいえ『The Wonderful 101』はクオリティと売り上げの乖離が大きすぎたと思うんです。どうしてもそこに納得ができなくて、このまま笑って死ねるか?というとそうはいかない。納得いかないまま終わるのは嫌だという思いがこうして再び世にこの作品を問う一番大きな理由ですね。明確なきっかけがあったわけではないのですが。
神谷同じく明確に何かきっかけがあったから……というのはないですね。稲葉も言っているんですけど、とにかくずっと心に引っかかっていたんです。
稲葉社内でも『The Wonderful 101』の話題になるときあんまりいい取り上げられ方をしなくて、それが繰り返される中で僕の中に溜まってくるものがあったということもありますね。僕が以前パブリッシャーにいた時はオリジナルタイトルも手掛けていましたが、すぐにヒットすることはなくて、常に新しいアイデアで勝負してようやく何本目かでヒットが出るものなので、1回くらいの失敗で諦めてダメだったと言われ続けるのは納得いかないにもほどがある。
そういうスタンスならオリジナルの作品なんて作らないほうがいい。もちろん、ビジネス的に成果が出なかった事実があるので、それは謙虚に受け止めてちゃんとした道を作ろうと思います。僕らが出したい出したいと言って、思いだけで出すのもしっくりこないので、クラウドファンディングというカタチで「出してもいいでしょうか?」というお伺いをたてて、「ぜひ!!」とユーザーの声に応援されて出すという流れを実現したいですね。
神谷先ほど売れなくてヘコんだという話をしましたが、正直なところゲームクリエイターとして本当に深刻な打撃を受けてヘコむのは、遊んだ人から酷評される時なんですよ。まだその段階にさえ至っていないので『The Wonderful 101』を正しくユーザーに判断してほしい。それを問うにもクラウドファンディングはいいのかなと思っていて、「このプロジェクトに協力してくれるか?」とユーザーに聞いてみたいですね。
ーーお二人の強い思いがベースにあり、様々な課題を乗り越え数年越しでこのお話は進んだのですね
神谷幹部レイヤーでこの議題を挙げたときは、当時の開発メンバーが上層部になっていたこともあり、開発側は移植したいと言ってくれたのですが、経営の面ではなかなか賛同が得られなかったですね。
稲葉僕らも経営陣なんですけどね(笑)。映画だと過去の作品も、手軽に見ることができるんですが、ゲームはプラットフォームが変わると遊べなくなるのでかなり残念な状況だと思っています。重ねてになりますが、オリジナルタイトルをずっとやってきた身としては、一度失敗したからといってあきらめるのは本当にもったいないんですよ。オリジナルタイトルだからこそ、ユーザーに何度も触る機会を提供する必要があるんです。
神谷Twitterとかでユーザーの会話を眺めていると、プラチナゲームズのタイトルはボリュームがライトだとか似たようなのが多いだとか言われてることもあるですけど、「いや『The Wonderful 101』は他と似てないだろ!?『The Wonderful 101』のボリュームはライトじゃないだろ!やってから言ってくれよ!」という気持ちになります。ユーザーが僕らに持つイメージを覆す作品だからこそ、『The Wonderful 101』もプラチナゲームズの作品を語る上で触れてほしいですね。
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