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2021年2月27日で『ポケットモンスター 赤・緑』が25周年を迎えます。ポケットに入るほど小さくなってしまう不思議な生物「ポケモン」を集めながら冒険し、友達と交換や対戦を楽しむ本シリーズも、今ではすっかり馴染んでいますよね。
当然ですが、『ポケットモンスター 赤・緑』も最初はマイナーな一本のゲームでしかありませんでした。むしろ今になって初代を振り返ってみると、かなり意外な印象を受けるかも……?
ゲームボーイを取り巻く環境
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『ポケットモンスター 赤・緑』の企画は発売の数年前から動き出していたものの、開発は難航していたようです。今でこそポケモンに似たゲームはたくさんありますが、「ゲームボーイの通信機能を活かして交換する」という考えは本当に突飛なものでした。
そもそも交換や対戦をするには「通信ケーブル」という別売りのアクセサリーが必要(価格は1,500円ほど)だったのです。無線通信やインターネット上で気軽に交換・対戦できる現代はすごく恵まれていますよね。
そして、いざポケモンが発売されてもすぐに大人気とはいきませんでした。当時をリアルタイムで体験した筆者も、発売当初は「クラスメイトがなんかポケモンとかいうのを買ったらしい」くらいの情報しかなかったのですが、徐々に口コミで人気が高まり、アニメが放送される頃には大ブームとなっていました。それまで無名だったのに、気づいたときにはもう流行っていたのです。
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ゲームボーイは1989年に発売されており、ポケモンが出る頃には7年も経過していました。年々発売されるタイトルも少なくなりかけていたのですが、ポケモンのおかげで人気が再燃。ポケモンが出る前は4,766万台ほど売れていましたがその後も伸びに伸び、最終的には1億1,869万台の販売台数を記録しています。
現在ではポケモンは社会にすっかり馴染んでおり、多くの人が遊んだり親しんだりしています。しかし初代が出る前は当然ながらシリーズとしての人気なんてものは皆無でしたし、通信ケーブルを使った交換が楽しいのかというのも未知数。25年前にはポケモンの影もなかったというのは、なんとも信じがたいですよね。
ポケモンは今や約6倍に増えた! タマゴや性別も後付け!?
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『ポケットモンスター 赤・緑』ではカントー地方の151種のポケモンたちが登場しました。フシギダネ、ヒトカゲ、ゼニガメといった最初のパートナー。コラッタやポッポ、ニャースやナゾノクサ、サイドンにラプラス。どれも印象深いポケモンです。
現在『ポケットモンスター』シリーズでは898種のポケモンが登場しており、約6倍に増えています。しかもこれは図鑑の分類の数で、バトル中のみ特殊な姿になる「メガシンカ」や「キョダイマックス」、あるいは地方によって見た目が変化する「リージョンフォルム」などを含めるとさらに増えるのです。
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また、進化前があとから見つかるのも意外なところ。ピカチュウは進化前がピチューで、進化後がライチュウなのですが、ピチューが初登場したのは『ポケットモンスター 金・銀』から。つまり次回作で後付けされた存在なのですね。
そもそも初代には性別の概念がなく、ゆえに「ニドラン♂」「ニドラン♀」という極めて不思議な生物がいます。後の作品で「特定の性別のポケモンのみが進化する」というケースも出てきますが、オス・メスでそれぞれ図鑑に掲載されているのはニドランくらいのもの。図鑑を作ったであろうオーキド博士のミスかと思われます。
なお、今でこそポケモンはピカチュウがマスコットのような存在になっていますが、実は最初から推されていたわけではありません。むしろゲームではピッピのほうがマスコットキャラクターとして推されていました。ピカチュウが人気になったのはアニメからですね。
初代はエスパー最強で、ニドラン狩りまくりゲーだった!?
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そもそも『ポケットモンスター 赤・緑』の頃はポケモンの種類が151しかいなかったので、必然的にゲームバランスもかなり尖ったものでした。たとえばゴーストタイプのポケモンはゴースとその進化系しかいなかったですし、ドラゴンタイプの技もほとんどありませんでした。
そのためエスパータイプが恐ろしく強かったのです。エスパータイプの攻撃を「いまひとつ」で受けられるポケモンは、エスパーのみ。エスパータイプの弱点を突けるのはむしタイプですが、初代のむしタイプの技は「ダブルニードル」くらいでまったく話になりませんでした(しかも覚えるのはスピアー)。
おまけに、初代は「とくこう」と「とくぼう」が一緒になっていたのです。ゆえに基本的に特殊技が強く、ミュウツーは無茶苦茶な強さを誇りました。そのため、『ポケットモンスター金・銀』ではあくタイプとはがねタイプが追加されたわけですね。
また、現在のポケモンでは「基礎ポイント」をプレイヤーも見ることができますが、シリーズの途中までは隠された数値になっていました。しかも初代は仕様が今と異なり、ニドラン♂を1,000匹ほど(厳密には936匹)倒せばきちんとポケモンを鍛えられると言い伝えられていました。
そもそも基礎ポイントの存在を知らない人も多かったですし、知っている人もニドラン♂を大量に狩りまくるというとんでもない環境だったのです。当時からタウリンなどの栄養ドリンクがあったのは幸いですが、一方でポケルスは存在していませんでした(ポケルスは『ポケットモンスター金・銀』から導入)。
おまけに、通信対戦で強いとされていたポケモンがケンタロスでした。ケンタロスは初代では「ふぶき」「10まんボルト」「はかいこうせん」などを覚えるうえに、さまざまな仕様が噛み合って伝説級のポケモンになっていたのです。
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しかし、ケンタロスやラッキーといったサファリパーク産のポケモンは捕獲が超困難。図鑑を完成させるために1匹捕まえるのですらかなり苦労します。後に『ポケットモンスター 青』が発売され、NPCとの交換でケンタロスを手に入れられるようになったり、ハナダの洞窟にもラッキーが出るようになったのは本当に革命的だったのです。
初代といえばバグ!
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そして『ポケットモンスター 赤・緑』といえばバグも印象的でした。たとえば道具欄の7番目で「セレクトボタン、B、B」と押してからバトルを開始し、一番下の技でセレクトボタンを押してから敵を倒すと、戦闘終了後にいきなりレベル100になります。おまけに選択した技が変化するのです。
これは「セレクトバグ」と呼ばれるもので、道具欄でいろいろな動作を取るとメモリ(ゲーム内部の数値)が入れ替わってしまい異常な状態になるというもの。いきなりレベル100になってしまうのは、ポケモンの経験値がほかのとんでもない数値を参照してしまうからなわけです。
インターネットもない時代なのに、この手のバグ技は「裏技」として口コミで広まっていきました。本来であればリアルで実施されるイベントでしか手に入らないミュウが釣れるようになるバグだとか、育て屋でミュウを発生させる方法だとか、ふつうでは覚えないポケモンの技を覚えさせるだとか、マスターボールといった任意の道具を増やしまくれるなど、なんでもアリ。
バグを発生させると「けつばん」や「アネ゛デパミ゛」という意味不明なポケモンを呼び出すこともできました。現在ではこのバグが解明されており、道具を一定数手に入れたあといきなりエンディングを呼び出すことも可能になっているようです。ポケモンはめちゃめちゃ売れたゲームなのですが、初代はバグもめちゃくちゃだったわけですね。
なお、バグ技以外にも初代ポケモンは不思議なところがたくさんありました。たとえば「きりさく」や「はっぱカッター」といった急所率が高い技は、異様にクリティカルが出るのです(すばやさがクリティカル率に関係している模様)。
「ふぶき」は最強の技で、威力120・命中90なうえに30%で凍結します。おまけに凍った状態は基本的には溶けないので、実質的に一撃必殺。このほかにも「はかいこうせん」で相手を倒すと反動が発生しないなど、カオスな環境でした。
それでも初代ポケモンはすごかった!
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このように、改めて振り返ってみると『ポケットモンスター 赤・緑』はいろいろな意味で特徴的な作品だったわけですが、それでも当時のプレイヤーたちにとって新鮮でおもしろいゲームだったのは間違いないわけです。
個人的に印象的だったのは、ゲームをよりコミュニケーションとして活用できるという部分。当時はインターネットなどまだ一般的ではなく、誰かと一緒に遊ぶゲームも選択肢がかなり少なかったのです。一方でポケモンは交換・対戦をはじめ、裏技だのミュウの出し方だのいろいろな話題で盛り上がれました。
今では「『ポケモンGO』で子供や孫との会話が生まれる」なんてことが起こっていますが、『ポケットモンスター 赤・緑』から続くポケモンの伝統でもあるわけです。ポケモンもいろいろな部分が進化していますが、それは25年間受け継がれてきた“変わらないもの”と言えるでしょう。