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カプコンが手がける、ハンティングアクションシリーズ最新作『モンスターハンターライズ』。新たなモンスターも登場する無料タイトルアップデート「Ver.2.0」も配信され、ますます狩猟生活が盛り上がっているのではないでしょうか。
4月30日から、本作では初となるイベントクエスト「溶岩洞の巨大ガマ」が配信されています。HR4以上のプレイヤーが対象のこのクエストは、ヨツミワドウ1頭の狩猟を達成することでジェスチャー「忍術」を獲得できるという内容です。
さて、拠点「カムラの里」など全体的に和風テイストの本作。新規モンスターにも"和"の要素があるとして、前回は「雪鬼獣 ゴシャハギ」と"なまはげ"についての記事を執筆しました。
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今回注目するのは「河童蛙 ヨツミワドウ」です。異名で書かれている通り、ヨツミワドウのモチーフは河童。本稿では、おなじみの妖怪である河童の紹介とともに、ヨツミワドウの「河童要素」を取り上げていきます。
超メジャー妖怪!河童は土方歳三にも関係あり?
かっぱ【河童】(カハワッパの約)
1.想像上の動物。水陸両生、形は四、五歳の子供のようで、面は虎に似、嘴尖り、身に鱗甲あり、毛髪少なく、頭上に凹みがあって、少量の水を容れる。その水の存する間は陸上でも力強く、他の動物を水中に引き入れて血を吸う。河中で子供が溺死するのはそのためだという。かわっぱ。河郎。河伯。河太郎。旅の人。
2.水泳に巧みな人。
3.頭髪のまんなかを剃り、まわりを残したもの。→おかっぱ
4.見世物などの木戸にいて、観客を呼び込むもの。
5.江戸、柳原や本所の私娼。
6.キュウリの異称
岩波書店 「広辞苑」第2版(1973年)より引用
広辞苑にも記載されているほどに、日本ではおなじみの河童という存在。その目撃談や伝承は日本全国に分布しており、甲羅や皿などの見た目や水場に生息するといった特徴はほぼ共通しています。北海道のミントゥチ、奄美のケンムン、沖縄のキジムナーなども共通する部分が多いと指摘されます。
一般的な河童のイメージは「頭の皿が割れると弱る/死ぬ」「相撲が得意」「人や馬を水場に引きずりこむ」「人から尻子玉を抜く。尻子玉を抜かれた人間は腑抜けになる/死んでしまう」「金属に弱い」「女好き」「キュウリが好物」などがあります。また、人間の子供と仲良く遊ぶ、人間の手伝いをするなどの話も多く残されています。
河童が人間に「薬」の作り方を教えると言った伝承も多く伝わっています。新選組副長・土方歳三の生家で製造していた「石田散薬」は、河童(明神)から製法を教わったという逸話が残されているようです。また、江戸時代の摺物「水虎相伝妙薬まじない」には河童の絵とあわせて、薬の効能に関する記述があります。古くから「河童=薬」というイメージは存在していたようです。
また、河童は現代にいたるまで形として残されている物が多いのも特徴です。「河童のミイラ」と呼ばれるものは東北、関東、九州など多くの場所に現存しています。佐賀県の松浦一酒造では、酒蔵見学で「河伯のミイラ」が見られるので有名です。なお、江戸時代の見世物小屋でも、定番アイテムとして見られるものだったようです(その多くが「工芸品」だったようですが……)。
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日本人の心に根付いている河童というキャラクター。果たしていつの時代から存在していたものだったのでしょうか?
河童の起源は「日本書紀」まで遡る?
河童の起源については、日本各地で様々な伝承が語り継がれています。中国神話に登場する"河伯”や"水虎"由来とする伝来説(関西・九州)、安倍晴明や左甚五郎などが使役した"人形"が変化したもの説(関東)などが有名な起源です。
また、その正体を水神が堕ちたものして、水の精霊"ミズチ(蛟、虬、水霊 )"との関連性や文化的融合を指摘する説もあります。上述の北海道のミントゥチのほか、青森で河童をメドチと呼ぶ地方があるのは、ミズチが語源ではないかと言われています。
河童が記録として最初に登場するのは「日本書紀」まで遡ります(ミズチ説)。巻11の仁徳天皇に、旅人に毒を吐きかける虬が退治される一節が記述されています。また、"水虎"という記述は中国の古い奇書「襄沔記(じょうべんき)」に登場し、日本で江戸時代に編纂された「和漢三才図会」に引用されています。
「和漢三才図会」は、日本で初めて河童の姿を絵にしたものと言われています。本書が現代まで伝わる河童の見た目に影響したようで、前項で紹介した「水虎相伝妙薬まじない」のほか、江戸時代後期の「水虎十弐品之圖」などには頭の皿部分など今にも通じる共通項が多く残されています。また、シーボルトが土産のひとつとして河童の絵を祖国に持ち帰ったとされる逸話も残されています。
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古くからさまざまな伝承が残されている河童には、伝説に関連する土地が多く存在しています。そこで筆者は、とある場所に行ってみることにしました!
河童で有名な遠野まで行ってきました!
筆者の住んでいる岩手県盛岡市から車でおよそ1時間半。山を越え、トンネルを抜けた先に"民話の里"遠野市は存在します。民俗学者・柳田國男著「遠野物語」の舞台にもなっているこの土地は河童や天狗、座敷童子など多くの妖怪の伝承が残されています。
なかでも河童は遠野市でもメインと言って良いスーパースターのひとつ。JR遠野駅前にある池には、河童たちが楽しそうに語り合っている銅像があります。本項では、そんな遠野市における河童をクローズアップしていきます。
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岩手県で語り継がれる河童の正体のひとつに「山猿が変化したもの」というのがあります。山猿が変化した「淵猿」が転じて「経立」という妖怪となり、水に関連することで河童になるというのです。里山に関連することで座敷童子になるという話もあります。
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ちなみに遠野の河童は、一般的なイメージの緑色ではなく赤いのが特徴。とは言え、お土産などでは緑色の河童も多いので現在はどちらも共存できているようですね。
とおの物語の館で柳田國男に出会う
まず訪れたのが、遠野駅から歩いて数分の場所にある「とおの物語の館」です。遠野に伝わる民話を体感できる「昔話蔵」「遠野座」などがあるこの施設。「遠野物語」の柳田國男が岩手県への旅行時に滞在していた「旧高善旅館」や「旧柳田國男隠居所」などが保存されています。同館の昔話蔵では、遠野の民話を語り継ぐ"語り部"の話をいくつか聞くことができるビデオが用意されています。語り部はお婆さんが務め、「むがし、あったずもな」から始まり「どんどはれ」で締めるのが遠野民話のルールです。河童関連では「かっぱ淵」「カッパの肝」という民話が残されていました。
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旧高善旅館は、柳田だけでなく折口信夫やニコライ・ネフスキーなどの民俗学者が宿泊した旅籠。柳田はこの旅籠を拠点として活動中、岩手在住の民俗学者・佐々木喜善から語られた遠野の民話を基に「遠野物語」を執筆しました。
旧柳田國男隠居所は、柳田が晩年過ごした東京の家を移築したもの。どちらの施設にも柳田の軌跡や手紙などの貴重な資料が残されています。「遠野物語」内では、五五から五九まで河童(川童)についての民話が記述されています。
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女好きの河童が住んでいた「太郎淵」
遠野物語には「川には川童多く住めり。猿ヶ石川ことに多し」とあります。猿ヶ石川は、遠野市を流れる一級河川。この川の流域に存在している「太郎淵」には、女好きの"太郎河童"が住んでいたという言い伝えがあります。女性がこの淵でしゃがみながら水仕事をしていると、水面から太郎河童が顔を出して女性の腰のあたりを覗いていたらしいです。また、下流に太郎河童と仲のいい女河童が住んでいたという話も残されています。
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現在の太郎淵は、ベンチなど置かれて休憩所のような場所になっています。ただし、ベンチに行くためにあまり整備されていない道を歩かなければならず、天気が悪い際には注意が必要です。
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ちなみにここの看板にある「遠野物語」五五の話は「河童に孕まされた女性」の話。その内容はかなり残酷な要素も含まれています。ただの女好きな河童の逸話とは言い難いですね。
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河童好きの聖地「カッパ淵」
さて、遠野市の河童伝説で最も有名な観光地になっているのが「カッパ淵」です。日本でも珍しい"カッパ狛犬"が存在している常堅寺(現在は建物が破損しており境内立入禁止)の裏手を流れるこの水場には、かつて多くの河童が住んで人々を驚かせていたと言われています。過去にバラエティ番組で取り上げられたこともあり、今では遠野の定番観光地として全国でも有名な場所です。カッパ淵の水の流れはとても穏やか。不思議なほどに音もなく、どことなく不思議な雰囲気を感じます。淵の側には小さな社があり、観光客が自由に書き込めるノートも用意されています。ちなみにこの社ではカッパ神が祀られており、乳の形の布を納めることで乳の出が良くなると言われています。
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また、カッパ淵では用意された釣り竿でカッパ釣りを体験可能。ただしカッパを捕獲するためには、岩手県遠野市観光協会が発行する「カッパ捕獲許可証」が必要なので要注意です。許可証は遠野市内のさまざまな場所で購入可能なほか、現在はネット販売も行われています。筆者は許可証を購入済みだったので、用意された釣り竿で河童ハントを目指しましたが惜しくも釣ることはできませんでした。
なお、今回の観光中に運良く「2代目カッパおじさん」こと運萬治男さんに出会えました。筆者は過去に初代の阿部与市さんに会ったことがあり、そのことを伝えたところ色々と面白い話を聞くことができました。その成り立ちを含め、カッパ淵に住む河童は「人々の守り神」としての側面が強いというのが印象的です。
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そんな守り神を釣ろうとしている人間は強欲だ。ハントとか言ってる人間がこの記事を書いてますが。
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遠野という土地は、来るたびに学ぶことが多い不思議な場所です。現在は新型コロナウイルスのため気軽に県外からの旅行はしづらい状況ですが、民俗学や妖怪などに興味がある方ならばきっと楽しめると思いますよ。
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ヨツミワドウの河童要素は?
さて、大きく脱線した気がしますがここからは『モンスターハンター ライズ』の話に戻りましょう。ここまで追ってきた河童と、 ヨツミワドウとの共通項を見つけ出します。
ヨツミワドウの見た目の特徴的な部分に「頭の皿」「甲羅」「くちばし」があります。また、緑色の体表などを含め、多くの部分が河童を思わせるパーツで構成されています。ゲーム公式Instagramではヨツミワドウのラフ画が公開されていますが、一部が赤いのはもしかしたら遠野の河童から来ているかもしれませんね。
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次はその生態についての特徴です。ヨツミワドウは「突っ張り」「ねこだまし」など、相撲モチーフの攻撃を使用してきます。これはやはり、河童といえば相撲という発想から来ているものでしょう。ちなみに、ヨツミワドウの好物「ウリナマコ」もまるでキュウリのようなフォルムをしています。
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名称に関して、ヨツミは相撲用語の「四つ身」由来であることは想像しやすい部分です。しかし、残されたワドウ部分には謎が残ります。前回のゴシャハギは「ごしゃぐ+なまはげ(ぎ)」という2つの言葉の足し算であるとしました。河童を音読みして「カワドウ」とする説があるようですが、現状ではそれ以上の答えを導き出すことができません。
最後はヨツミワドウの素材です。ヨツミワドウの素材には「河童蛙の苔堅甲」「河童蛙の嘴(大嘴)」「河童蛙の皿(大皿)」のほか、精算アイテム「きれいな尻子玉(輝く尻子玉)」など、河童の見た目にふさわしい名称が用意されています。しかし、尻子玉は河童が抜くもの。きれいな尻子玉の説明文には「河童蛙の体内で生成される玉。負かした者の魂の結晶との噂」とあるので、厳密にはヨツミワドウ本人の素材ではないのでしょうか。
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見た目、相撲要素、素材などやはりヨツミワドウには多くの河童が潜んでいました。実際のところ、そもそもの異名が「河童蛙」なので疑う余地はないという話でもあるのですが……。
ここまで、河童についてのさまざまな話を紹介してきました。本記事で触れてきたのは日本全国に伝承される河童について、ごく一部に過ぎません。今回訪れた遠野だけでも、危害をくわえる/人々を守るなど異なる伝承があるのです。
「川で遊んでいると河童が現れて水に引き込まれる」という話は、水場で遊ぶ子どもたちへの注意話として多く用いられています。妖怪とは”現象”であるという考え方があります。水場での危険性を可視化、具現化したものとして河童は大きく貢献してきたのだと思います。
しかし、河童は妖怪の中でも特に古くから目撃談が多い存在です。もしかしたら、今でもどこかに生息しているのかも知れませんね。
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参考文献:「妖怪の本」 学研
「増補新板 河童を見た人びと」岩田書院 高橋貞子
「河童よ、きみは誰なのだ」中公新書 大野芳
「岩手の伝説を歩く」岩手日報社