押しも押されもせぬ大傑作の呼び声高い『UNDERTALE』。まだ体験したことがないという人は一切の情報をシャットアウトしたまっさらな気持ちでプレイしましょう。本記事はネタバレにならない範囲で構成していますが、貴様たちをオールデリートしてやるのでくれぐれもコメントでネタバレをしないようご注意ください。
練習問題の解答
『UNDERTALE』AI翻訳に負けるな!作品愛が生み出す「クリエイティブ翻訳」の力【ゲームで英語漬け#63】解答例:ちょ、待てや! 誰が押してええ言うたん?
Deepl翻訳:おいおい、相棒よ! 誰が私を押しのけられると言った?
ホネ縛り6連発!訳者泣かせのダジャレ合戦
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翻訳をする中で一番困るのがダジャレなどの言葉遊び。できることなら原文のダブルミーニングをそのまま活かしたいものの、それが日本人にとって面白いかは別問題です。特にゲームの場合は日本発のゲーム以外はルビを振れないので、執れる手段がかなり限られてきます。成分の半分がダジャレでできている『UNDERTALE』では相当苦労したに違いありません。
しかも冒頭のトリエルからスケルトン兄弟登場までに「ホネ」系のダジャレが何度も出てきます。こうなると大喜利のお題のような縛りなので、自分の中からひねり出すにも限界があります。
こんな時に使うのが「日本語の辞書」です。デジタルやネットでももちろん良いですが、できれば一度に目に入る量が圧倒的に多い、分厚い紙の辞書が一冊あるととても便利です。慣用句と同音を含む言葉をたくさん集めて使えるものを探し出しましょう。
「明鏡国語辞典」で「骨」を引くと、「心骨」「気骨」「老骨」「反骨」「骨が折れる」「骨を埋める」「骨を惜しむ」「骨を拾う」「骨に刻む」と、この項目で10以上の言葉があります。他には「骨折り損のくたびれもうけ」「積毀骨を銷す」「骨を刺す」と、なかなか使わないものも。同音だと「こつこつ」「託ける」「恍惚」「粗忽」など。
良い訳をひらめくまで、この中からベストな言葉を見つけ出す地味な作業が延々と続きます。これで大スベりすると結構へこむので、自分のセンスとプライドとの戦いですね。その代わりに、改心の一作ができれば喜びもひとしお。苦労が多くても翻訳の醍醐味の一つなのです。
それでは、実際にダジャレの部分が英日でどうなっているのか対訳で確認しましょう。原文に近づけたニュアンスで再訳もしています。(あまり期待しないでください……)
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原文:What did the skeleton tile his roof with?
...SHIN-gles!
直訳:スケルトンは何を使って屋根を葺いたでしょう?
…屋根板で!
筆者訳:「セ」メント・モリで!
公式日本語:スケルトンは どんなおうちに すんでいるでしょう?
てっ“こつ”マンション!
Tile:敷き詰める
Shingle:屋根板
Shin:すね
「Shin」「Shingles」のような2語にかかったものだと。まずそのままでは無理です。同じ問題で違う答えにするか、完全に入れ替えるしかありません。屋根材を検索すると「セメント」があったので、無理矢理ですがスケルトンに関連する「メメント・モリ」とくっつけてみました。
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原文:Why did the skeleton want a friend?
Because she was feeling BONELY...
公式日本語:スケルトンは どうして ともだちが ほしかった?
さみしさが ホネみに しみたから…
これは変更無しで原文の意味をうまく反映していますね。「Bonely」は「Bore」と「Lonely」を一緒にした最近の言葉で、「退屈で寂しい(特に独身)」という意味です。
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SANS!! YOU ARE NOT HELPING!! YOU LAZYBONES!!
ALL YOU DO IS SIT AND BOONDOGGLE!
筆者訳:フォローになってないしッ! このポンコツ!
いっつも動かないでダラダラしてるだけのくせに!
公式日本語:ちょっと! てきとうなこと いわないでよ! この、くされスケルトンめッ! まいにち なーんもせずに、ホネくそほじって ばっかのくせに!!
Boondoggle:意味のない仕事、時間の浪費
日本語だと縦書きと横書きのスケルトン兄弟は、小文字と大文字で区別されています。縦書きを仕込むのはプログラムレベルの改変が必要なので、原作側とローカライズ側の規格外な協力の賜物ですね。この場面のやりとりは全面的に書き直されていて、二人のやりとりの軽妙さが淀みなく伝わります。
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原文:hey, take it easy. i’ve gotten a ton of work done today. a skele-ton.
筆者訳:まあ落ち着けって、オイラだって今日はとこトン働いたぜ。メガトン級(スケール)にな。
公式日本語:いやいや。こうみえても トントンびょうしに しゅっせ してるんだぜ。スケルトンなだけに!?
“a ton of work”の部分がかなり厄介ですね。「働く」にかかる「トン」の付く言葉となるとどんなものがあるでしょうか?
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原文:wow, sound like you’re really working yourself...
down to the bone.
筆者訳:おお、オマエの方はしっかり働いたみたいだな…
…骨身を削って。
公式日本語:パピルス たまには かたのちから ぬけよ。それが ほんとの…
ホネやすめ…! なんつって。
“Down to the bone”は「骨の髄まで」でも良いですね。このあたりは原文よりもややゆるいテンションの会話です。
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原文:PUT A LITTLE MORE, “BACKBONE”INTO IT!
筆者訳:兄ちゃんはもうちょっと「気骨」をみせてよねッ!
公式日本語:兄ちゃんは、ホントに… 「ホネ」のずいまで なまけものだな!
Backbone:背骨
"Put backbone into”で「気合いを入れる」「しゃきっとする」の意。日本語では「骨を抜く」という表現があって英語では逆に「背骨を入れる」というのはなかなか面白いですね。
練習問題:Make a bad ice pun.
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ダジャレは翻訳者の必須技能です。雪や氷に関するダジャレを1つオリジナルで考えましょう。他のゲームのパロディも混ぜて構いません。