漫画家の水島新司先生が、2022年1月10日に肺炎のため亡くなりました。享年82歳でした。
水島先生は「ドカベン」をはじめ、さまざまな野球漫画を中心に長年活躍。「ドカベン」や「野球狂の詩」など多くの代表作がアニメ化もされています。また、ゲームでは1990年にファミリーコンピューター向け『水島新司の大甲子園』、2003年にPS2/ゲームキューブ/アーケード向け『激闘プロ野球 水島新司オールスターズVSプロ野球』などが発売、さまざまなメディアミックスも行われています。
本稿では、ファミリーコンピューター『水島新司の大甲子園』とPS2版『激闘プロ野球 水島新司オールスターズ VS プロ野球』を紹介。水島新司作品を心から愛している筆者による、本作の素晴らしきこだわり部分をお届けしていきます。
深すぎる野球愛!水島新司先生の人生
水島新司先生(以下、水島先生)は1939年、新潟県の魚屋の家で生まれました。家の経済事情により高校進学を諦める、丁稚奉公として働くなど少年時代に苦労したエピソードがあり、こういった苦労の経験は「出刃とバット」など、水島先生の作品にも活かされています。
働きながら絵の勉強を続け、1958年に投稿作が入賞。デビュー後は大阪に移り住み、貸本漫画作家として活躍していました。水島先生の初の野球漫画は、1969年に「週刊少年キング」に連載した「エースの条件」でした。以降は1970年「男どアホウ甲子園」、1972年「野球狂の詩」「ドカベン」、1973年「あぶさん」、1975年「一球さん」など、水島先生を代表する作品が次々と生み出されていったのです。
そんな水島先生を象徴する作品として、1983年から連載された「大甲子園」を欠かすことはできません。異なる雑誌で連載された水島先生作品のキャラクターを、出版社の垣根を超えてクロスオーバーさせ、山田太郎の高校最後となる3年生夏大会を描いた「大甲子園」は、当時としても非常に画期的な作品だったようです。
また、水島先生といえば、その深すぎる野球愛も有名です。多忙な漫画家業を続けつつ草野球を続けて汗を流しただけでなく、プロ野球選手との交流も非常に盛んでした。特に、代表作「あぶさん」の主人公・景浦安武が所属した「福岡ソフトバンクホークス」は、前身の「ダイエーホークス」「南海ホークス」の頃から“顔パス”で監督や選手たちと交流できたというのは有名です。水島先生の作品に登場するのを夢見る野球選手も多かったと言います。
2018年にすべての連作作品を完結させ、2020年12月に63年間におよぶ漫画家引退を発表。2018年の読切「あぶさん~球けがれなく道けわし~」が最終作でした。2022年1月に亡くなるまで、野球と漫画への愛をどこまでも感じさせてくれる素晴らしい人物だったと思います。
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タクティカル野球ゲーム『水島新司の大甲子園』は今やっても面白い!
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さて、ここからは水島先生の野球ゲームを紹介していきます。まずは、1990年発売のファミリーコンピューター向け野球ゲーム『水島新司の大甲子園』。開発を手がけたのはカプコンです。
本作はタイトルこそ「大甲子園」ですが、内容としては明訓高校の1年生夏から3年生夏までを描いており、どちらかと言えば「ドカベン」要素が多め。登場するチームも神奈川予選の強敵から甲子園の通天閣高校、いわき東高校、土佐丸高校、弁慶高校など勢揃いです。もちろん「球道くん」の青田高校、「一球さん」の巨人学園、「ダントツ」の光高校なども登場します。
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そんな本作ですが、ゲームとしてはアクションゲームではなくコマンド選択式の変則ルール。投手は「球種」「コース」を選択。打者は「コース」「スイング速度」を決定し、読みが当たればヒッティング成立になります。もちろん単純に打つだけでなく、バントやヒットエンドラン、盗塁などの作戦も選択可能です。
守備はボールに追いつくまでは自動なのですが、捕球後にどのベースに投げるのかをリアルタイムで選択しなければなりません。また、二遊間などへの打球時は「セカンドとショートどちらが取るか」の選択肢も。アクション性は低く、適度に戦略性も高いので今ファミコン基準の処理速度で遊んでも十分に楽しめます。
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そしてなにより、本作の最大の特徴は必殺技の存在。殿馬(明訓)の「白鳥の湖」「黒田節」などの“秘打”や不知火(白新)の“超遅球”、影丸(クリーンハイスクール)の“背負い投法”、中西球道(青田)の“剛速球”など、一部のキャラクターは作品の印象深い投球や打法が使用可能です。使用のためにはパワーが必要になるため、連発はできませんが非常に強力で、原作ファンには非常に嬉しい要素です。
また、各チームにいるキャラクターの再現度にも要注目。顔グラフィック付きのキャラは多くないのですが、打順やキャラ名はほとんど原作通りに設定されています。個人的には「ドカベン」の信濃川高校が完璧で嬉しい。でも、やっぱり谷津(横浜学院)くらいは顔グラ欲しかったな……とは思いますが。
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隠しチームには「男どアホウ甲子園」藤村甲子園の率いる“南波高校OBチーム”(OBにしないと「大甲子園」原作に南波高校が出ているため)、岩田鉄五郎率いる“東京メッツ”が登場。もちろん初の女性プロ野球選手でおなじみの水原勇気は“ドリームボール”を使用可能ですよ。
登場チーム数も多くやりごたえも抜群。審判が何故か水島先生だったりと、ファンサービスもたっぷりです。今プレイしてみたら「左文字と武蔵坊と才蔵のグラフィック一緒だ!」となったり面白い発見もありました。
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水島漫画の集大成!『激闘プロ野球 水島新司オールスターズVSプロ野球』
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続いては、セガから2003年発売の『激闘プロ野球 水島新司オールスターズVSプロ野球』をご紹介。今回の記事ではPS2版でプレイしています。本作は、2003年のプロ野球界に水島漫画15作品から35人のキャラクターを参戦させたという作品。登場する実在の野球選手は実名で再現されているほか、オリジナル選手の作成も可能です。
ゲームとしてはオーソドックスな野球ゲームで、歓声や実況などにもこだわった臨場感が抜群。実在の選手はポリゴンで、漫画の選手はトゥーン手法で分けられているのもユニークです。ちなみに2003年のデータなので近鉄バファローズが解散しておらず、まだ東北楽天ゴールデンイーグルスも存在していません。パ・リーグは近鉄ファンだった筆者は、チーム選択画面でもちょっとばかり涙が……。
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本作の最大の特徴は、ゲーム内で水島キャラのやり取りが非常に豊富なこと。「水島キャラ同士の対戦」「水島キャラでのバッテリー」「水島キャラが両チームの先発時」などの条件で、漫画のようなカットイン入りのセリフが用意されているのです。汎用セリフも多いのですが、特定の状況下や組み合わせでは特別なかけあいもあり、探し出すだけでも楽しい要素です。
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そしてもちろん、ゲーム内性能の再現も素晴らしい部分。“悪球打ち”の岩鬼はミートカーソルが「ストライクゾーンから離れるほど大きくなる」、殿馬がフォークを投げられる、山田がピッチャーだと「キャッチャーの構えで投げる」など、原作ファンには嬉しすぎる要素が満載。「これは再現されてるかな?」の部分は、かなり細かく作り込まれています。もちろん各キャラには原作要素の必殺技も用意されています。
本作の漫画再現へのこだわりは逸品。キャラクターグラフィックやセリフ、一部キャラクターはアニメ版の声優を使用するなど原作へのリスペクトを感じます。メインモードの「選手名鑑」のテキストや、ゲーム中の実況(太田真一郎さん)が原作についてのちょっとしたエピソード(例:中西球道と明訓メンバーの対戦時に甲子園での18回延長の話など)を説明するのも最高です。
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ゲームモードもオープン戦やペナント、ホームラン競争など多彩。キャラクター作成モードでは、ポリゴンタイプからトゥーンタイプまでさまざまな顔にできるだけでなく、女性選手も作ることが可能です。トゥーンタイプの最後の選択肢が「山岡さん(明訓高校→東海大学→SS青森→東京スーパースターズ)」なのが個人的にアツすぎる……!
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プレイすればするほど発見のある本作。まさしく水島野球漫画ファンに捧げる最高の作品だと言えるでしょう。
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次のページでは、筆者による一部水島新司作品への解説、その愛を掲載。少しディープかも知れません。