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『FORSPOKEN』でフレイがやってきた“アーシア”には石造りの大きな建造物があり、最後の砦シパールに見られる装飾を排したシックな外観は、石材の白さもあってどこかSF的な雰囲気も感じさせます。
建物の観察をじっくりするときによく出るのが「~様式」という言葉ですが、さらっと流されて、具体的に何がどの様式かという説明は大抵スキップされているように思います。改めて、代表的な建築様式とはどういうものなのでしょうか?
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建築物の様式を見分ける上でポイントになる特徴が「アーチ」です。並んだ柱の上部にあって、屋根や上層の重さを支える部分ですね。この部分の形によって、建築デザインの大まかな方向性を知ることができます。様々な種類がある中で最も重要なものは2つ、「半円アーチ」と「尖頭アーチ」です。
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「半円アーチ」はローマ時代によく使われたアーチ構造を取り入れているのでローマ風、「ロマネスク建築」の特徴です。ロマネスク建築は暗黒時代が終わった10~11世紀頃に流行し、厳かな修道院でよく見られます。分厚い石積みの壁が重厚感を出し、いかにも中世という雰囲気ですね。
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こちらは先端がとがった「尖頭アーチ」。ロマネスク様式の次に現れた「ゴシック様式」のものです。ロマネスクと対照的な高く開放的な空間、大きく取られた窓によって差し込む光。12世紀以降の大聖堂、特にステンドグラスが美しいものは大体ゴシックだと思えばあなたも建築シッタカです。
半円アーチと尖頭アーチ、とりあえずこの2つは単に見た目が違うだけでなく、移行するに当たって構造上の大革新がありました。
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もともとロマネスク建築は、一度は滅んだローマ帝国の技術を後世の人々が再興させようと試みたデザインです。4世紀頃にローマ帝国が崩壊して以降、様々な動乱に見舞われた暗黒時代が続きます。秩序が回復した11世紀になってようやく石材の供給が安定し、大規模建築をするにあたって参考にしたのがローマ時代でした。
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ロマネスク建築はひとつの大きな欠点を抱えています。それは、重さを支える壁が必要であるために、採光する窓が少ないという点です。
アーチを上から押さえると、このように横へ広がろうとする「推力」が働くので、鉄骨のない石積みでは推力を抑えるための安定的な支えが不可欠でした。それを担っているのが重厚な壁です。教会のように階層を重ねて高く大きな建物にすればするほど、壁はより分厚く、窓は減って建物の中は暗くなってしまいます。
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ゲーム中で訪れる石組みの塔です。堅牢性はあるため、例えば戦争が起きたときの避難場所には良かったかもしれませんが、窓がひとつしか無く書物を読むにはやっぱり不向きな空間ですね。
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こちらはロマネスク建築を代表するピサ大聖堂(イタリア)。柱と半円アーチ、そして開けられている窓を見てみましょう。柱が壁に埋まっているような格好で、建物全体に対して窓が小さく見えますね。ちなみに奥で傾いてるのが例の斜塔です。
ロマネスク様式で大きな教会が11世紀頃にいくつも建てられましたが、神の威光を感じる場ですから、圧迫感を感じるような空間ではミサに集まる信者達も落ち着きません。そこで必要とされたのが、より開放感のある広くて明るい空間を造るための建築技法でした。つまり、横向きの推力を支える壁を減らす構造への変更です。
アーチの頂点から柱への曲線を緩くし、安定する三角形に近い尖頭アーチであれば屋根の重さが真っ直ぐ柱へかかり、なるべく柱だけで自立できれば壁の強度を無視して良いデザインにできる。柱のバランスさえ保てればどこまでも高さを伸ばせる。その革新がゴシック建築でした。
尖頭アーチのおかげで、壁をぶち抜いた場所にはガラス窓を嵌め込み、外の光を大きく取り入れることに成功しました。そこからステンドグラスの技法も大きく発達して、色鮮やかな装飾は後のサグラダファミリアまで連なる大聖堂のスタンダードになります。
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尖頭アーチの他にもゴシックの注目ポイントがあります。1つは天井を筋交いのように補強する「リブ・ヴォールト」。正方に並べた柱の四辺にアーチを組み、対角線にも補強のリブを入れて天井の重さを分散させる構造です。視覚的にも上方への開放感があり、リブの部分に色を差すとより装飾的になります。
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「バラ窓」はゴシック建築の文字通り「華」となる、建物の中でも最も目を引くところ。強度の弱いガラス窓をこれだけ大きく取れるのは、重量がそこにかからないからこそ実現したものです。
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ゴシック建築の代表作と言えばやはりパリのノートルダム大聖堂です。『キングダム ハーツ 3D』『アサシン クリード ユニティ』でもお馴染みですね。2019年の火災で屋根が消失してしまいましたが、正面の外観は変わらず美しさを保っています(画像は2013年のもの)。中央に構えた立派なバラ窓、そして極端に長い柱。間近で見上げたら天にも届きそうな印象を受けるでしょう。
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以上を踏まえて建物を見ていくと、シパール上層は縦に長いゴシックの特徴を盛り込みつつ、石壁が印象的なロマネスク調ではないでしょうか(間違ってたらごめんなさい)。華美と質実剛健の両面を持つ街が、この地を治めるタンタの気質を表しているように思います。