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『Wo Long:Fallen Dynasty』では、妖気を秘めた丹薬と共に、「真の丹薬」の器となるという龍が物語の鍵を握ります。龍は各地の祭りや吉祥デザインで必ず目にする、中国を代表する神獣です。
中国の龍の起源は約7000年前の新石器時代にまで遡り、抽象的な細長い生き物の像が数多く確認されています。最古の漢字である甲骨文字の時点でも、既に龍の元となる字が存在していました。
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中国は元々数多くの部族が集う多民族地域でしたが、接触して権力統合が進む中で、各地の信仰対象がまとまりながら架空の生き物になっていったのかもしれません。その過程は未だ不明な点も多く諸説あります。そこにインドから渡ってきた蛇神ナーガと混ざり、雨や川などの水の性格が与えられました。
中国の創世神話に於いては始祖となる伏羲、女媧が半人半龍(蛇)の姿をしており、神としての位置づけは最初から最高位に近いところにありました。
龍とよく対になるのが虎で、四神で青龍は東、白虎は西に対応。四字熟語では「竜虎相搏」など実力伯仲する良きライバルとして並べられます。日本では上杉謙信と武田信玄を「越後の龍」「甲斐の虎」とよく評しますね。逆に仲の良い夫婦は「龍と鳳凰」の組み合わせで表現されます。
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数多くの民族を束ねる象徴となった龍は、漢王朝の時代に皇帝との結びつきを強くします。漢民族は伝説上の王「黄帝」を祖先と信じており、黄帝は「応龍」を従えていた、半人半龍だった、龍に乗って昇天したなど、様々な形で龍にまつわる伝承を持っています。漢の皇帝はそういった龍の加護を得ているとし、皇帝の血筋を「龍子龍孫」と言ったりします。
これは漢王朝を開いた劉邦の出自に関わることで、劉邦は元々何の由緒も持たない一般の農民に過ぎませんでした。秦への反乱に加わって功を上げた末に新たな皇帝にまでなったのですが、中華統一を果たして統治するにはやはりただの農民、しかも若い頃はそれほどできた人物でなかったというのは都合が悪い。劉邦から7代目の武帝の時代、司馬遷が歴史書として記した「史記」には、劉邦と龍を関連付けるエピソードが描かれました。
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劉邦が生まれる前に父親の夢の中に神が現れて、母親の上に龍が乗っている場面を見せられたというのです。人相も龍らしき特徴があったとか、酒で酔い潰れているときに龍が守っているのを見たとか、秦王朝を倒すために生まれた男だ、と言うのを劉邦の伝説化で正当性を持たせたのです。
後漢の時代には現在の東洋龍のイメージが出来上がり、9種類の動物の特徴があると唱えられました。角は鹿、頭は駱駝、目は鬼、うなじは蛇、腹は蛟(みずち)、鱗は魚、爪は鷹、掌は虎、耳は牛、これらをまとめて「九似」といいます。
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三国志における劉備は漢王室の末裔、つまり劉邦の子孫を名乗って蜀の旗揚げをするわけですが、貧しい家から義勇兵を経て建国、皇帝になる流れはまさしく漢を建てた劉邦をなぞっているのです(エリートから没落した家という違いはありますが)。
「三国志演義」では周辺にも龍の要素を配置し、関羽が使うのは「青龍偃月刀」ですし、三顧の礼で迎える諸葛亮はタイトルにもなっている「臥龍」と称されます。将の筆頭である趙雲の字も「子龍」ですね。『Wo Long』では神獣の青龍が蜀のメンバーから得られ、「龍子」である劉邦の後継を示す暗喩でもあるのです。最終的には魏に全部持って行かれるのですが……。
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時代が下り唐の時代になると、龍は皇帝のみが使えるシンボルとして法的に制限が課されます。骨董品の話題で龍の爪がよく出てきますが、この時代に五本爪の龍は皇帝のみ、四本は近しい臣下、さらに下は3本爪と、明確なランク付けのもとに厳しく管理されます。偽物には相応の罰を与えられた時代もあるので、その当時に作られた五本爪の文様はお宝に違いない…と偽物に騙される人は数知れず。清の時代になるとこの規定も取り合われなくなり、民間でも龍のデザインが流通するようになっていったそうです。
タイトルの「臥龍」は諸葛亮の代名詞であると共に、まだ世に見いだされていない優れた人物のことを指します。流浪の身だった義勇軍時代の劉備も、一兵卒として戦場に立つ義勇兵の主人公も、大きく見れば「臥龍」と言えるのではないでしょうか。諸葛亮に会えるかどうか楽しみにしつつ、漢の龍の繋がりを感じてみてはいかがでしょうか。