注意:本記事は『Starfield』のネタバレを含みます。
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『Starfield』の世界では地球は完全な死の星となっていて、人類どころか生命が全く住めない環境になっています。序盤に一度訪れる機会があるのですが、降り立ってみれば草一本生えておらず、海も完全に干上がっています。その原因は大気がなくなってしまったこと。景色はまるで現在の火星のようで、宇宙服無くしては呼吸もままならない不毛の地が広がっていました。
地球の大気がなくなるような事態はなかなか想像できませんが、お隣の火星では同じ事が実際に起こっており、丸裸になった地表には赤い酸化鉄の砂しかありません。そもそも「大気」とは、惑星の表面を覆う気体の層のこと。惑星ができるときの恒星からの距離で大気の厚さは変わり、近い方では岩石の表面に薄く密度の高いもの、遠いと木星・土星のように密度の小さいほとんどガスでできる惑星になります。重力が小さい星では保持していられる気体の量が少なく、水星や月にはごく微量の空気しか残りませんでした。
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大気は「鍋の蓋」のような役割があり、気圧があることによって蒸発しやすい物質が押さえ込まれ、特に水を液体の状態で保持することができるのです。液体がないと削る、溜まるなど物質の動きが大幅に少なくなり、生命の誕生に必要な有機物質が生成されにくいと考えられています。
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気圧が低い山の上では沸点が下がり、気圧を高める圧力鍋の中では沸点が上がります。さらに真空に近い状態では水分は液体にならず氷から直接気体となる「昇華」を経て蒸発します。昇華は宇宙食のフリーズドライにも使われますが、そういう環境では湿り気が必要な土や泥ができず、ほとんどが砂塵になって飛んでしまいます。
逆に「流れ」の痕跡がある地形が見つかれば、そこには必ず何かしらの液体があったことが分かります。火星の地形には地球の海や川と同じ形態のものが見つかっていて、地球の兄弟星と言われるほどに、かつては似た環境であったことが近年の調査から判明しました。表面はすっかり乾いているものの、地下にまだ残留している可能性も示唆されています。
火星に潤沢な水があったと明らかになったのはここ20年のことで、それが何故失われたのか、原因の研究はまだ始まったばかりですが、ひとつの説として「太陽風によって吹き飛ばされた」というものがあります。
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太陽の爆発から波及する太陽風は非常に強いエネルギーを持っており、太陽系全体まで届くような強力なものです。地球は普段地磁気によってその影響を免れていて、そのエネルギーの一部が地磁気を突破して流入すると、北極南極の光り輝くオーロラとなって現れます。時折太陽フレアによって地磁気で防ぎきれない「太陽嵐」が発生すると、荷電粒子が地上にまで侵入し、電気系統を破壊するほどの影響を及ぼします。1989年の太陽嵐ではカナダの電力設備が壊れ、丸一日停電が起こる事態になりました。
それほどに強い太陽風が直接大気に当たると、荷電粒子が大気の物質を「剥ぎ取り」、宇宙空間に持って行ってしまいます。火星は中心部が冷えて固まり、バリアとなる磁場が存在しません。太陽風に対して無防備であり、そこが現在も地磁気がある地球との差になったのです。一気に吹き飛ばされるようなことはありませんが、億単位の時間で削られていく中、火星の大気と水分は宇宙に散逸してしまったという考えです。
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火星が磁場を失ったプロセスは研究途上ですが、地球も地磁気が弱まるタイミングがあります。それが現在注目されている「地磁気逆転」です。地球の磁場は内部のコア、あるいは対流運動によって発生します。地球は超巨大な磁石またはコイルとも言えますが、不定期的にS極とN極が反転していることが地質調査から判明しています。そして現在地球の磁場が大幅に弱くなっていく傾向にあり、次の地磁気逆転が近いのではないかと危惧されているのです。
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もしこのまま地磁気が弱くなっていけば、前述の太陽嵐の影響がより頻繁に出るようになります。歴史上では京都でも真っ赤なオーロラを観測した記録があり、もしそれと同じだけの太陽嵐が直撃すれば、電子機器に頼る現在の社会は致命的なダメージを受けるでしょう。
それでも過去の地磁気反転で大気の散逸や生物の死滅などは起こっておらず、完全消失と違って不毛の地球になることはまずないので安心してください。そのくらい磁場のバリアは丈夫ではありますが、太陽風でなくても地球の重力の範囲から離れた物質は自然に宇宙へと流出していきます。地球から飛ばされた水分子が月で検出されるくらいには、結構遠くまで流されているようです。とはいえ、これもほとんど影響はありません。『Starfield』のように50年くらいで急激に失われる可能性は低いですが、惑星データを観ると磁気圏の項目が「なし」になっていて、SF的に拡大解釈すれば十分にリアリティのある設定だと思います。
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大気の薄い火星表面の水は干上がっていますが、ゲーム中で火星を訪れると時々雨らしきものが降ってきます。これは設定のミスかと思われるかもしれませんが、実は火星でも降る可能性が示されています。ただし、これは水によるものではなく二酸化炭素によるもので、探査機キュリオシティが上空にかかる雲を観測していました。私たちは地球を基準に考えてしまいがちですが、水以外の物質でも同じような液体の循環は有り得ますし、水を基準にしたハビタブルゾーンの外でも生命誕生の可能性はあるかもしれません。系外惑星の探査はこれから大きく進んでいくので、一足先に『Starfield』で惑星の大気を調べてみてはいかがでしょうか。
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