ベセスダ・ソフトワークスの人気RPGシリーズ『Fallout』。『The Elder Scrolls』シリーズと並び、同社のニ大巨頭として今日までゲーム業界に存在感を示しつづけています。
4月11日からはAmazonプライムビデオにてドラマ版の放映も実施予定ですが、このドラマはなんとゲーム版の世界とつながりのある「正史」として描かれます。そのため、ゲームで見た要素が登場したり、今後発売するゲームにこのドラマの要素が出てきたりといったことが考えられます。
本シリーズはほとんどのゲームが正史扱いですが、その中でもとある事情で「非正史」となってしまった作品をご存知でしょうか。本記事では、そんな悲劇のタイトル『Fallout: Brotherhood of Steel』がどのような内容であったかに迫ります。
日本初上陸の『Fallout』!
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本作は、2004年にPS2とXboxで発売された作品です。開発および発売はInterplay Entertainment。日本ではPS2版のみ発売されました。
タイトルの通り、ブラザーフッド・オブ・スティール(本作では鋼鉄の同志と翻訳)に入隊した主人公の視点から物語が描かれます。タイトルが似ていて非常に紛らわしいのですが、『Fallout Tactics: Brotherhood of Steel』とはまったくの別物(かつこちらは一応正史)です。
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本作はシリーズ初のコンソール向け作品であるほか、日本に上陸したのも初めて。そのためか、説明書では本シリーズの基礎となる設定が解説されています。舞台はテキサス州のカーボンという架空の町です。
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さて、なぜそんな記念すべき作品が「非正史」扱いとなってしまったのでしょうか……?詳しい方であれば察しが付いたと思いますが、本作は2007年にベセスダに知的財産権が譲渡される前、つまり初代『Fallout』や『Fallout 2』を手掛けたInterplayから発売された作品ということが一因です。
Interplay時代のシリーズ作は現在でも基本的には正史として認められていますが、スピンオフ的な立ち位置であった本作はベセスダの見解としては非正史とみなされています。具体的には、後の作品で矛盾が生じてしまうような設定やキャラがいる、といった理由が挙げられます。
見下ろし型アクションRPGとしての『Fallout』
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本作のジャンルは見下ろし型のアクションRPGとなっており、初期『Fallout』とも『3』以降ともどちらともつかないゲームプレイとなっています。本作と同じエンジンで作られた作品に『バルダーズ・ゲート ダークアライアンス』があり、こちらと共通する点がいくつか存在します。
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主人公はキャラメイクではなく固定となっており、デフォルトではスーパーミュータントの軍に故郷を奪われた男性・サイラス、都会で盗みを続ける孤児だったところを拾われた女性・ナディア、ネクロポリスのセス軍(初代に登場した町や人物)の傭兵だったものの、BOSに入ることになったグール・ケインの3名から選びます。
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キャラごとに固有スキルを持っており、屈強なサイラスはピンチ時にダメージ上昇、サディスティックなナディアは敵を倒すとHP回復、グールのケインは放射線に触れて回復などそれぞれ個性的なビルドに育てることができます。
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グラフィックは見下ろしで、アイソメトリックビューだった初期作品を彷彿とさせます。敵との戦闘は基本的に、R1ボタンでロックオンしながら□ボタンで攻撃するというもので、ドッジロールでの回避やジャンプによるダメージ床の回避も可能です。
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段ボールや木箱など一部オブジェクトの破壊も可能で、キャップ(お金)や弾薬、武器などを入手できます。それほど本格的なハクスラではないものの、探索を進めたり敵を倒したりして武器を得て、より強い敵が倒しやすくなるというルーティンはまさしくアクションRPGです。
序盤に手に入る武器ではなかなか敵が倒せませんが、スパイク付きバットなど強い武器を入手してサクサク倒せるようになるという、ジャンルならではの快感が味わえます。
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フィールドはオープンワールドではなく、エリアで区切られています。ベセスダの『Fallout』でも建物に入るとローディングすることはありますが、本作ではかなり狭いエリアで区切られており、移動の度にローディングします。初期作からオープンワールド的な作りであった本シリーズらしくない点といえます。
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町にはさまざまなNPCがおり、ミニマップ上で「!」アイコンになっているキャラには話しかけることができます。これらのキャラからはストーリーに関する噂を聞いたり、クエストを受注したり、アイテムの売買を行ったりできます。ただ基本的には一本道で、自由度と呼べるようなものはありません。
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序盤のクエストはひたすらサソリを倒したり、複雑に入り組んだ荒野を探索したりしますが、どちらも時間がかかって単調気味。しかし、ゲームを進めていくと人間とのバトルがあったり、巨大なミュータントとの戦いになったりと、派手さを増していきます。ただ、会話イベントがやや乏しいのは寂しい点です。
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全体の雰囲気はシリーズとしてはかなり異色。主人公のナディアを含め女性キャラがやけにセクシーな衣装だったり、一部のサントラを除きSlipknotやKillswitch Engageといったハードコアメタルバンドの楽曲を使用していたりと、ポストアポカリプスといっても『Fallout』ではない作品を見ているようです。本作を黒歴史とみなす人も多いようですが、その気持ちもわからなくはありません。
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ローカライズの品質は悪くなく、クエストの目的やストーリーの内容はわかりやすく翻訳されています。しかし、なぜかテキストフォントが創英角ポップ体であり、全体的にどこかダサさがつきまとっています……。『Fallout』はおろか、本作の世界にもあまり相性が良いとはいえないでしょう。
『Fallout: Brotherhood of Steel』は名前こそ『Fallout』を冠してはいますが、その実かなり「らしくない」作品となっています。物語的にもゲーム的にもややシンプルな作りになっており、初期作やベセスダ作品のようなものを期待すると肩透かしを食らうでしょう。
とはいえ、会話を聞いて世界の秘密を紐解いていったり、マップを隅々まで探索してみたり、武器やステータスを成長していったりと、RPGらしい要素は備わっています。また、2人協力プレイも用意されているのは本作ならではです。
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『Fallout』シリーズを深く楽しみたいとしても、本作をプレイする必要性はさほどありません。しかし、「有名シリーズが辿った変な歴史を体験したい」という筆者ととても気が合う方は、正史になれなかった本作に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。