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ここ数年のゲーム業界は、まるで玉手箱をひっくり返したかのような怒涛の大作ラッシュが続きました。しかし、今年はまだ雪の季節のうちに目ぼしい大作が軒並み放出され、窓の外に桜が咲いたころには早くも喪失感を抱いたのは筆者だけでしょうか。
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その一方でSRPGやシミュレーション、ストラテジーといった“Sジャンル”は、話題作の陰に隠れながらも順調に勢力を伸ばしています。2024年3月発売の『ユニコーンオーバーロード』などの大作はもちろん、筆者が足しげく通うDLsiteでも『SRPG Studio』のような専用ソフト、あるいは主流の『ツクール』シリーズで制作されたシミュ作品が次々と配信され、多くのユーザーに支持される定番ジャンルとなっているのです。
そういうわけで、大作ラッシュが一段落を迎えた現在、とにかく“安い・長い・面白い”の三拍子そろったシミュ系タイトルが今年のトレンド最有力候補。春は入学シーズンの季節でもあり、各ジャンルの支持者が熱心に入部勧誘をするものと思われますが、次の大作ラッシュまでの繋ぎとしてもシミュ系タイトルは非常に魅力的です。筆者もこの場を借りて、その素晴らしさを布教したいと思います。
わずかな投資で永遠に楽しめる魔法のジャンル
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まずはじめに、これら“Sジャンル”のタイトル最大の特徴はコストパフォーマンスの高さ。奥深いシステムを備えたシミュやストラテジーは100時間、1,000時間という単位のプレイを見据えて設計されており、どのタイトルも値段以上のボリュームがあります。
さらに、グラフィックよりもシステムに重心があることから、リリースから10年以上が経過した作品でも最新タイトルと遜色のない仕上がり。そうした往年の名作は、Steamセールなどで定期的に大幅値引きされているので、本来ならフルプライス価格のタイトルを最安数百円で購入することも可能です。
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ひとつのタイトルが長い歴史を持ち、公式による長期のアップデートを期待できるのも高コスパたる所以。他のジャンルとは比べ物にならない豊富なダウンロードコンテンツも、タイトルによってはサブスクライブに対応しており、本編そのものが「PlayStation Plus」などの定額サービス対象となっているのも見逃せません。
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時間という概念を忘れる沼ボリューム
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前述の通り、Sジャンルの2つ目の強みは圧倒的なボリューム。ベースそのものはシンプルな構造ながら、マップやシチュエーションのランダム生成や、自分だけの物語を紡いでいく他にはない感覚が常に新鮮なプレイ体験をもたらします。
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10分前後のステージをさくっと攻略していく短編の形式もあれば、セーブロードを挟みながら何日もかけて結果を積み上げていく長編タイプも存在。将棋やチェスのような頭脳戦、宇宙開拓のごとく無限に続く拡張、ほのぼのと釣りや畑仕事をして過ごしたりとゲームの数だけプレイヤーの人生があると言えるでしょう。
また、このジャンルのタイトルはダウンロードコンテンツの数もたっぷり。シミュやストラテジーはシステムに大きく依存している特性上、ほんの少し拡張要素が導入されるだけでゲームプレイが根底から激変し、全く新しい展開を楽しめます。
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いまからでも!いまさらでも面白い
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あと1ターン、と言い続けて気が付いたら春になっていたのは筆者の実体験です。Sジャンルの名作は、プレイヤーから無慈悲に時間を奪い取ることでも知られています。それは、ひとえに面白いから。時間が過ぎ去るのを忘れるほど熱中してしまうという意味で、エンターテインメントであるゲームに贈られるものとしては最高の誉め言葉に違いありません。
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ただ、シミュやストラテジーの真の面白さはゲームシステムを理解し、プレイヤーが自発的に試行錯誤をするようになってからが本番です。実際、このパッと見て情報量過多で複雑な作りをしているゲームの仕組みを完全に把握するのは骨が折れますし、特にRTSのような忙しい種類のタイトルでは息つく間もなく忙殺されます。
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なんだか難しそうということで敷居が高くなりがちなSジャンルですが、ターン制や一時停止機能で自分のペースを確保でき、ヘルプやチュートリアルの充実が図られているタイトルも多いです。そもそも、じっくり思考するプレイがシミュ系の持ち味なので、ゲームも「習うより慣れろ」の精神が大事なのかもしれません。
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基本的にシミュ系はソロプレイを前提としており、対戦型のストラテジーもプレイヤー同士で協力してAIと戦うPvE戦など、程よい緊張感で踏み込んだ試合が行えます。そうして他のプレイヤーとの連携、ゲーマーとして重要な“考えるプレイ”を学び、さらには農業や歴史などの知識まで身についてしまう。古い時代から存在感を放ち続けているSジャンルが、今年を代表するジャンルになることを筆者は切に期待しています。