2010~2020年代は「忙しい人向け」が主流!?さらに多様化を続けるコンピューターRPG
近年では多くのコンピューターRPGで「ダンジョン攻略を見据えた長期のリソース管理」から、「毎回の戦闘を全力で突破する短期的リソース管理」に重きを置くようになっている傾向があります。これはスマートフォンが登場し、隙間時間でも濃密なRPGの体験をできるような風潮が求められたからなのかもしれません。
人気リメイク作品の戦闘は、「短時間の激しい攻防」に魅力をおいた?
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例えば、『HD-2D版 ドラゴンクエストIII』(2024年)には3段階の難易度調整が追加されましたが、どの難易度においてもオリジナル(1988年)やSFCリメイク(1996年)と比べて大きく敵の行動パターンに手が入れられて敵が強化され、要所要所で強力なボス敵が追加されるなど、単純な戦闘の激しさにおいてはオリジナル・SFCリメイク版をはるかに上回っています。
ただし、プレイヤー側も全体的にHP・MPの量が上昇し、レベルアップ時に全回復する、どの職業にも強力な特技が追加されている、最低難易度ならばHPが1で常に踏みとどまる……など、長期的なリソース管理の重要性は薄れ、こちらのリソースをフルに投入して短期決戦で出来るだけ被害を少なく敵を倒すことが重要なゲーム性へと変化しました。
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『ロマンシング サガ2 リベンジオブザセブン』(2024年)も、「毎回の戦闘を全力で突破する短期的リソース管理」の傾向がより強くなりました。こちらはSFCのオリジナル版(1993年)から毎回の戦闘でHPが全回復するなど、短期的リソース管理の傾向はあったのですが、今回は技の使用に必要なリソースのBPの回復手段が豊富であり、また出来るだけ被害を少なく敵を倒すことが重要な点は『HD-2D版 ドラゴンクエストIII』と共通します。
また、本リメイクではさまざまな「マスクパラメーター」も、ゲーム内で確認できるようになっており、閃きが発生する可能性のある技には電球マークが付くなど、今までプレイヤーに不可視だった要素が明確にされているのも特徴です。
マスクパラメーター、見たい派?見たくない派?
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マスクパラメーターを開示するという流れは(日本ではRPGとみなされることは少ないが、海外ではRPGとみなされることが多い)『モンスターハンター:ワールド』(2018年)以降の『モンハン』では顕著で、それ以前ではゲーム内では確認できなかったモンスターの部位・肉質がゲーム内の図鑑で確認できるようになっているほか、明確な与ダメージ表記が追加されてどこへの攻撃が有効なのか一目でわかるようになりました。
こうしたマスクパラメーターの開示の流れは、出版不況や攻略サイトの登場により昔ほど攻略本が売れなくなったという出版業界の都合のほか、攻略本や攻略サイトに頼って情報格差が生じるくらいなら、いっそゲーム内で情報を開示してしまった方がフェアなのではないか?という制作者の考えもあるのかもしれません。
一方で、これはマスクパラメーターに秘められたメカニズムを解き明かすプレイヤーの「気付き」の快感とのトレードオフになるわけですが、すべてのプレイヤーがその「気付き」に至れるかというとそんなことはなく、また仮にメカニズムに気付いたとしても、プレイヤーが有利にゲームを進めるための最適解を探す上でマスクパラメーターがノイズとなるのであれば、これを排除しようという流れになるのもおかしくないと思います。
なお、マスクパラメーターの開示をオプションでOFFにできるタイトルもリメイク作品を中心にありますが、ユーザー全てがそのオプションの意味に気づくかといえばそんなことはないので、それらがデフォルトでONになっていることの意味は小さくないでしょう。
伝統的な「長期的なリソース管理」ゲームも生き残っている
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とはいえ、すべての近年のコンピューターRPGが短期的なリソース投入を主軸においた戦闘で構成されているわけではありません。いまでも昔ながらの系譜は生き残っています。
海戦ウォーシミュレーションを基にしたと公称している『艦隊これくしょん』(2013年)は資源等も見据えた長期的な艦隊の運用サイクルが求められますし、『Wizardry Variants Daphne』(2024年)もスマートフォンゲームながら、ダンジョンに潜ってから脱出するまでの計画的なリソース管理が必要とされます。また、両者には「キャラクターロストが存在する」という共通点もあります(よほど無理な運用をしなければロストすることはありませんが……)。
そして、さらなるコンピューターRPGの進化へ……
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最後に、近年の世界的な人気作品に目を向けると、『バルダーズ・ゲート3』(2023年)は現在の『Dungeons and Dragons』のルールを踏襲しつつ、環境を利用(油樽に引火したり、水面に電撃を放ったり、高いところにプレイヤー自身が物を持ち込んで落としたり)して敵にダメージを与えることも可能になっています。
環境や物理挙動の利用は謎解きにもおよび、ひとつの問題に対しプレイヤーが現実的な知識をベースに考える様々な解法を多くのケースで実際に実行させてもくれます。これが80年代のADVなら正解のコマンドを一語一句想像しながら打つしかなかったところを、プレイヤー自身が納得できる体験として味わえます。
ゲーム側が柔軟になればなるほど……再び多様化する「難易度」
こういった環境利用が可能になったのは、まさしく「ハードウェアの進歩で今まで不可能だった描写がコンピューターRPGでも可能になった」好例であり、コンピューターRPGのさらなる進化の象徴とも言えるでしょう。同様に、AIやボクセルなど、プレイヤーの入力に対してゲーム側がより柔軟に応えられる環境が整いつつあることで、この先RPGの難易度についても再び多様な観点から語られていくのかもしれません。
ここまで、筆者独自の観点から「コンピューターRPGの難易度の変遷」について見てきたわけですが、皆様はこの「難易度の変遷」についてはどう思われますでしょうか?是非ともコメント欄で皆様のご意見をお聞かせください。