本題に入る前に、まずお伝えしておくべきことがあります。
日本国内で物議を醸していた「寺社内における行動」等について、製品版では以下の制限が加えられることになりました。
武器を持っていないNPCを攻撃した場合流血表現が無くなる
寺院や神社においての余計な流血表現が減少する
寺院や神社に置かれているテーブルや棚は破壊が不可能となる
表現性能が上がった現世代機におけるオープンワールドゲームでは、様々なオブジェクトにインタラクトし、時には破壊できることも魅力の一つになっています。本作でもそれを取り入れた結果、刀を振った通りにオブジェクトが斬れる、吹き飛ばした敵で小道具が動くといった、ダイナミックな物理表現がシリーズで初めて実現しています。故意ではないと思いますが、尊重すべき「神域」に破壊不可の例外を設定するのを怠ったことが、物議を醸す表現の原因になったのだと推察されます。
これまでも各文化の「聖域」に立ち入ってきたシリーズですから、デモを出す前に十分なカルチュラル・コンピテンス(≒日本における寺社の位置づけや文化的な理解)を醸成すべきでした。今後も多文化を扱ってシリーズを継続していくためにも、真摯な改善を希望します。
本記事を含めこれまでに出ていた画像、映像はあくまでも開発中のものであり、完成版とは異なる場合があります。そのことを改めて確認した上で、購入を保留するにしても、完成版の仕様を以て最終的な判断を下すことを推奨します。
さて、ここからがいよいよ本題です。Game*Sparkではユービーアイソフトからキーの提供を受けて事前の先行プレイを行いました。今回は別記事としてGame*Sparkレビューも公開していますので、本稿とあわせてご覧ください。
プロモで観た粗をいくらほじくり返されたとしても、やはり百聞は一見に如かず、美術面に限るなら、いつもの『アサクリ』のリアリティは十分満たしていると保証します。物見で広がる大パノラマを一目すれば杞憂など直ぐに吹き飛ぶこと間違い無し。
もちろんどうみても変、なんてこともまあまあ見つかりますが、長い長いプレイ時間の内の1分もありませんし、任務に集中していれば気に留める余裕もないでしょう。過去作でも同様の指摘は数多く出ているのですから、これが『アサクリ』の舞台に選ばれるということなのです。
時代劇ベースで中世日本をこれだけのクオリティで表現できるスタジオは、日本国内でも指折り数えるほどしかないでしょう。そもそもピラミッドやノートルダム大聖堂が明らかに時代錯誤の外観だったわけですし、そこは割り切ってプレイすることを推奨します。
忍びの道は道無き道、全ては己の耳目で確かめよ

ヴァイキングやペロポネソス戦争など、パルクールをベースに様々なテーマを乗せてきた『アサシン クリード』シリーズ。今作の焦点はずばり「諜報活動」です。プレイヤーに課されているのは刺客としてマトを仕留めるだけでなく、目標を探し出して場所を特定するところからやる必要があります。クエストの発生、アクティビティの場所など、全てを手探りで見つけ出します。
まず、高所のビューポイント(物見処)で明らかになるのは、同じ物見処と主要なランドマークのみ。ファストトラベルのポイントとしては機能しますが、シンクロで得られる情報は大幅に減少しました。自分で直接足を運ばない限り、そこに何があるのかはわからなくなっています。


ビューポイントの代わりにそれらの情報をどうやって入手するかというと、市井の人々の噂話を耳にして初めて、地図上に具体的な目標地点が出現するのです。メインミッションを進めている途中に、通りすがりの人から話を聞くことで少しずつ明らかにされていきます。
噂話は、道で野盗や野武士に脅されている人々を助けることでも集められます。一廉の武芸者ならば助太刀に入るのが道理というもの……といいつつも、防御が弱い奈緒江だと油断すればあっという間に返り討ちに遭うくらいの強さです。挑むのは相手の力量を測ってからにしましょう。
飯に掛ける汁は少しずつ。食べやすい量の配膳が地味に嬉しい
オープンワールドにおけるコンテンツ量の見せ方は様々ありますが、本作のようなやり方は「埋めの義務感」が少なくて良いと思います。とても食い切れないドカ盛りバイキング状態にはならず、常にちょうど良い量だけプールされている回転寿司、といった感じでしょうか。

クエストの管理はミラージュから継承したミッションボードにまとめられ、どのカテゴリがどのくらい進んでいるか、進捗確認や目標設定が一目瞭然です。ここから目的を設定して行動するのですが、最初は「場所はこのあたり」程度の大まかな場所の情報だけ与えられて、そのままでは地図上に目的地マーカーがつきません。プレーヤー自身が自分の目でしらみつぶしに探すハメになります。

クエスト目標のエリアを絞り込んだマーカーとして表示させるには、結成した忍び一党の「密偵」に調べさせる必要があります。アクティブな密偵は最大5人で、一度派遣すると季節が進むまで自動回復しません。
追加の活動量を与えるには、隠れ家で活動資金の補充が必要です。大きな物資の盗みも指示ができ、潜入時に印を付けておくと折りを見て(季節経過で)仲間が持ち出してくれます。こちらは2人必要で、大きな拠点に潜入する前に密偵の体制を整えておくのがいいでしょう。

オープンワールドのゲームはクエストを追いやすい工夫としてマーカーを使ってきましたが、「マーカーを追うだけ」の作業感を生んで、探索の楽しさが損なわれる欠点を抱えています。広大なフィールドと探索の楽しさのバランスをどう取るか、マーカー点灯の条件に一工夫し、過程に突発の人助けが組み込まれることで、他のコンテンツとの連携に成功したと思います。
泥に塗れ、闇に紛れ、蛇の道を進むべし

今回のステルスアクションは匍匐の追加で大幅に強化されており、隠れ場所に素早く逃げ込む「潜伏」が重要です。これまで同様の低木に加えてそこら辺の草むらでも匍匐で飛び込めるため、遁走の際の一手段から屋敷への侵入まで様々な場面で活躍します。匍匐専用の床下通路や屋根裏も存在し、「蛇の道」を『アサクリ』で使えるのはステルス回帰としても嬉しいです。

屋内では障子や襖を細かく開け閉めできて、誰もいない部屋に飛び込んで巡回をやり過ごす、そっと開けて覗き込む、閉め切って邪魔者の寝首を掻くなど、忍者っぽいアクションを十分できるようになっています。障子越しの暗殺はロマンです。
もし迂闊に室内で刀を振ろうものなら、障子が破れて遠くからも丸見えになってしまいます。歩くと金具が軋む鶯張り(実は偶然の産物)もあるので、日本家屋を活かした忍び方を上手く身につけましょう。

そして夜間の潜入では『シャドウズ』のタイトル通り、照明の量を減らして暗がりを作り出すと、より有利になるシステムがあります。同社のタイトルでいえば『スプリンターセル』の要素ともいえるでしょうか。苦無や手裏剣などで明かりを積極的に潰していけば、相手の攪乱と同時に暗殺の機も作りやすくなるはずです。
なお、城内にいる奉公人は関係者扱いになり、民間人殺傷のシンクロ解除ペナルティから除外されます。奈緒江は排除対象として認識しているようで、目撃者を全て消すのも忍びの仕事。残念だけどこれ戦ですからね。情けを掛けるのも結構ですが、それが命取りになっても自己責任です。
逆手持ちは殺陣の華、相手に「拍子」を合わせるべし

奈緒江は『アサシン クリード ミラージュ』のバシムに近く、苦無、手裏剣、煙玉と、従来のアサシンと同じスタンダードな道具を備えています。バシムの素早さに慣れている人なら直ぐに馴染むでしょう。
弥助の方は力押しに特化した分、これまでの戦士とも異なる豪快な戦い方です。体格が抜きん出ているので間合いや回避が一際大きく、奈緒江で手こずっていた強敵とも十分に渡り合えます。
正面切って城へ殴り込むのも無謀ではないですが、相手は矢弾で容赦なく撃ちかけてくるので、十分な修練と備えを整えるまでは控えておきましょう。

弥助は矢と鉄砲、2種類の強力な遠距離武器を使えて、ステルスは不格好ながらもスナイパープレイにも向いています。ただし装備スロットは遠近共用の2つで、遠距離武器を1つ使うと、もう片方は強制的に近接武器になります。遠近計4つ装備できていた今までとは勝手が違うのでご注意ください。

鎧を身に着けている敵は厄介で、防御力の高い体力ゲージが追加されています。これを壊すには「脆弱」状態、相手の体勢が崩れている時を狙わなければいけません。強力な攻撃が来るときには敵の武器が光り、青い光はガードの弾き、赤い光はガード不可なので回避で対処します。これをタイミング良く成功させると、一定時間「脆弱」に陥ります。
鎧を付けていない敵に対しては積極的に攻める、鎧有りや強敵相手には機先を制す、つまり弾きと回避で隙を作ってから仕掛ける、いわば反撃を主体とした殺陣。この緩急を乱戦の中で使い分けられるか、そこが腕の見せ所というわけです。

手強いと感じたときは、控えていた仲間を呼び出して加勢してもらうことも可能です。戦は勝つことが本にて候、蛮勇で落命するくらいなら、使える物は出し惜しみせず、退くべき時は素早く退くべし。
なにしろ手練れの一撃は強力なので、見切りをしっかり合わせないと大きなダメージを喰らいます。フレームレートが安定していないとプレイが厳しく、PC版の人は細かい調整がいるかもしれません。

全体として、イメージとしては時代劇で「御頭」と呼ばれる立場のロールプレイを実現しています。「雲霧仁左衛門」のような義賊と違って、殺しも厭わない汚れ仕事をする白浪にはなりますが、手下を使って盗みや大立ち回りを演じる、そうしたロマンに憧れがあるならプレイしてみて損は無いと思います。


物語については、後は皆さんの目で確かめるだけですから、具体的なことは口を噤みます。雰囲気は時代劇の調子にしっかり合わせてあり、歴史の流れで起きていく出来事は上手く奈緒江達の活躍と噛み合っていました。いわゆる「東洋の神秘」的な描写はほぼ無く、血腥い戦国の残忍さが色濃く充ちています。惜しむらくは「首」の表現だけは残して欲しかった…!
市井の人々が華やかな柄の着物を纏っていたり、堺の商人の力が描写されていたりと、雰囲気は「麒麟が来る」の序盤に近いでしょうか。大河ドラマ感に溢れる世の流れとは別に、直江が父の仇討ちを誓う「百鬼衆」は外連味たっぷりの活劇的なスタイルです。派手も王道もある戦国時代劇の範疇で展開しつつ、隙間にどうやってアサシンやテンプル騎士団が見え隠れするか、そこが大きな見所ですね。

シリーズお馴染みの「身内の死」から、奈緒江が炸裂させる恨み節はこれまでのアサシンとはひと味違います。信長役の玉木宏氏はギラギラした刺すような声質なので、大勢を斬り捨ててきた「魔王」の雰囲気にはぴったりでした。燃えさかる炎を背にニヤリと笑う、まさに王道の信長を演じています。奈緒江と弥助の道が交差する瞬間はまさにドラマチック。是非ご期待ください。

物事の善し悪しは何事も己の耳目で確かめてこそ判別できるというもの。我が言を贔屓目だと罵るならばそれもよし。「真実」はいずれ同志たる日ノ本の「刺客」が詳らかにするであろう。
……と、ここまでは内容に触れない程度で雰囲気の良さを伝えてきましたが、それだけではわからぬと不安の方もまだいらっしゃるはず。ここからはもう一歩踏み出して、具体的に歴史や文化がどう描写されているのか、序盤の物語を見せながらご説明致しましょう。「刺客」の同志としてあえて言います。「心配御無用!」
これより物語の序盤のシーンに触れていくので、
既に心を決めている方は実プレイ後に改めてお読みください。


『シャドウズ』の物語は1581年、宣教師ヴァリニャーノと信長の謁見から始まります。信長は長年にわたり石山本願寺との戦いを繰り広げており、その対抗馬として南蛮勢力を利用したいと考えているようです。本作では決して前のめりでは無く、手向かうなら斬り捨てる意図を隠そうともしません。
当時のキリスト教勢力は各大名とのコネを作って布教を進め、大名側も貿易で利を得たいと考え、両者の利害一致から「キリシタン大名」が多く存在していました。そして、肥後の大村純忠など一部は布教を口実に、一揆を先導する寺社勢力を排除しにかかっていたと言います。
長らく日本では寺社焼き討ちは決して珍しくなく、利益があれば信じても、役に立たない、邪魔だと思ったら容赦なく神仏を破壊していくのが武士の世の習いでした。神罰仏罰は恐れるものの、だからといって役に立たない神仏を唾棄することにためらいは無い、それが武家と宗教勢力の微妙な関係です。
そうした緊張の中に、キリスト教が新たにやってきたというのが実情です。その矛先はキリスト教にもいずれ向けられることになるのです。

時は少し進んで同年の秋、信長は信雄と共に軍を率いて「第二次伊賀攻め」を開始します。伊賀忍の会合の最中にその知らせを伊賀に持ってきたのは、徳川家康に仕えていた服部半蔵でした。
服部半蔵(正成)は伊賀忍の家系ではあるものの、父の初代半蔵(保長)が武家への仕官を目指して岡崎に移住。ドラマなどではそれ以来、服部家は伊賀忍と折り合いが悪い、関係を絶っているなどと描写されることが多いです。
本作でも織田方(徳川家なので間接的)に与する「裏切り者」と伊賀忍達に罵られ、雰囲気は険悪に。シリーズの設定上はアサシンになっていましたが、本作でどうなっているかは全くの未知数です。分派した伊賀忍がどう関わってくるのか、そこにも注目ですね。


奈緒江は会合に集った父である藤林正保(保豊)、百地三太夫らと共に、伊賀衆の誓いの儀である「一味神水」を執り行います。神前にて誓った起請文を灰にして、水と共に連盟者全員で飲むという儀式です。ここから転じて「一味」が組織の仲間を意味するようになりました。誰ですか、吐けばどうにでもなるとか言ったのは。
伊賀の里を焼き滅ぼさんとする苛烈な織田軍の攻撃の最中、奈緒江は辛くも脱出し、摂津にいる知り合いの下へ身を寄せました。以降はここを拠点に忍びとしての活動を行っていきます。

仇討ちを目指して手を結ぶ仲間を探る中、奈緒江は本願寺の残党に助太刀することになります。率いるのは顕如の長男「教如」。顕如の和睦に異を唱え徹底抗戦を続けたことから、顕如から絶縁されて孤立無援状態になっています。教如は再び織田家への攻撃を企て、その手助けを奈緒江に要請します。

別の筋においては、直江は今井宗久の仲介を経て千利休の催す茶会に同席します。茶の席においては全員が等しく身分を脱ぐ躙り口から入り、上下も敵味方も無い対等の関係として相対します。
戦の世にあっても「外」の争いを決して持ち込まない、茶室にはそうした「聖域」の意味合いがあるのです。それ故に、茶席は重要な外交ルートとして用いられ、それをセッティングできる千利休は政治的にも一目置かれる存在になったのです。

忍び一党の立て直しを図る内に、奈緒江には「ある任務」の依頼が舞い込みます。それは日ノ本の歴史、そして奈緒江と弥助の運命を大きく動かしていく――。
と、これ以上はアブスターゴに消される危険があるので、ひとまずこれにて退散します。続きは皆さんが自らアニムスにダイブして確かめましょう!
『アサシン クリード シャドウズ』は、PS5/Xbox Series X|S/Windows(Steam、Ubisoft Store、Epic Games Store)/Mac(App Store)向けに3月20日発売予定です。