日本時間3月20日、GDC 2019でGoogleの新ゲーミングプラットフォーム「Stadia」が発表されました。“ゲームは専用ハードやゲーミングPCで遊ぶもの”という従来の発想を覆すだけでなく、現行機を遥かに上回るスペックのサービスの発表が大きな反響をよびました。
Stadiaについて
「Stadia」については既にお伝えした通り、下記のようなプラットフォームとなっています。
- Google Chromeから起動するゲームストリーミングプラットフォーム
- PCはGoogle Chromeのブラウザが利用できるOSであれば全て対応
- Chromecast Ultraがあればテレビでも利用可能
- スマホでのプレイにも対応
- PS4 ProやXbox One Xを超える10.7テラフロップスのGPU
- 4K/HDR/60fpsのゲームプレイが可能で、将来的には8K解像度や120fps以上でのプレイも視野に
- 専用のコントローラー「Stadia Controller」も準備
- 通常のコントローラーも使用可能
- YouTubeと連動し、4K/HDR/60fpsで簡単に生配信可能
- YouTubeで配信しているゲームにそのまま参加できる「Crowd Play」機能
- ゲームの状態をリンクにしてシェアできる「State Share」機能
- 19の地域、58のゾーンのデータセンターで200以上の国と地域をカバー
これまでのゲームは、専用機もしくはPCやスマホなど手元のハードウェアがゲームそのものの処理を実行するものが一般的であり、多くのゲーマーにとってゲームをするということとハードウェアが常に一体のものでした。
ところが今回発表された「Stadia」はコントローラーのみ。つまりハードウェア側でゲーム処理をする必要がなく、全てサーバーサイドで処理が実行され、ユーザーは手元のコントローラーで入力処理をするのみというわけです。
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革新的、世界が変わる……と各メディアがこぞってとりあげている今回の発表ではありますが、コアゲーマーならご存知の通り、別にこうしたゲームストリーミングサービスがこれまで歴史上存在しなかったわけではありません。
2010年代以降は一般ユーザーに向けたサービスの提供も加速しており、「G-cluster」などファーストパーティー以外の事業者が提供するサービスも積極的に展開されています。ファーストパーティーも、Gaikaiを買収したSIEは「PlayStation Now」を展開しており、任天堂もニンテンドースイッチ向けに『アサシン クリード オデッセイ』や『バイオハザード 7』のクラウド版を提供中。E3 2018では、マイクロソフトも今回発表された「Stadia」と同じ思想をもつ「Project xCloud」を発表し、2019年内にローンチ予定としています。また、ゲーマーにはGPUでお馴染みのNVIDIAもクラウドゲームサービスを展開しており、19日には「GeForce NOW」の今後の展開についてもアナウンスがありました。
とはいえ、やはりそのスペックや各種機能について、発表の内容が実現するのであれば“革新”といっても過言ではないでしょう。
普及への壁
新たなゲーム体験ということで、ユーザーの期待を受けて登場したゲームストリーミングサービスですが、今ひとつ普及しない最も大きな要因としては専用機との「体験の差」が上げられるのではないでしょうか。筆者もいくつかのサービスで遊んでみましたが、どうしても「これなら今までどおりプレイするよ…」と感じてしまったものです。特に入力遅延がとても我慢できるレベルでなかったり、せっかくの映像にブロックノイズが乗ってしまったりと、やはり「もうゲームはクラウドでOK!」というレベルには至っていないと感じた方も少なくはないはず。
遅延については「5Gの普及で解決するのではないか」とも言われています。5Gとは、10Gbpsの大容量通信、応答速度1ms、さらには1平方キロ当たり最大100万台という多接続性を実現する次世代の通信規格のことです。コアにオンラインでゲームをプレイするユーザーであればその数字の凄さは説明する必要もないかもしれません。
かつて、ゲームサーバーを提供する会社の方に「本当に5Gでゲームはクラウド化するのか?」と聞いたことがありますが、その時の回答は「多分無理」とのことでした。前述の数字も理論値であり、ユーザーの体感がどの程度のレベルになるのか、本当に4Kさらには8Kのゲームを専用機あるいはPCと同じ感覚で操作できるのかは、実際に触ってみてからのお楽しみというところでしょうか。
ただ、「Stadia」では、Google Cloud Platformのエッジコンピューティング技術も活用されるということで、これまでのクラウドサービスとは違うレベルでゲームを体験することができるのかもしれません。
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15年前に「映画はDVDじゃなくてネットで見るんだよ。」とか、「CDなんかもう買わないでネットで音楽を聞くんだ」と言って信じてくれる人も少なかったでしょうし、ましてやそれが月1,000円で使いたい放題なんて言った日には、少し頭がおかしいんじゃないかと心配されたかもしれません。しかし、今や多くの人が映画・音楽をストリーミングで楽しんでいることを考えると、
- メジャー作品(ゲームならAAAタイトル)を含む既存の枠を超えた豊富なコンテンツの供給
- ストリーミングであることを感じさせない快適性
この2点さえ実現すれば、ゲームストリーミングサービスも一気に普及する可能性は高いのではないでしょうか。後者については、実際の応答速度が云々という話より、ゲームプレイがこれまで専用機やPCで実現できていたものと“体感”で変わらないことが重要であるように思います。
もちろん、Modなど遊び方の多様性がゲーム文化の面白さでもあるので、そうしたユーザー発の遊びとストリーミングサービスとの相性は気になるところです。
各社の動向とビジネスモデル
2018年は、SIEとマイクロソフトが初めて公に次世代機の開発について言及した年でもありました。まだその全貌が明らかになるのは先になりそうですが、次世代機の展開において「PS Now」や「Project xCloud」がどのように位置づけられていくのかにも注目が集まります。
そして、ストリーミングサービスにおいて通信と同じく重要になるのがゲームを処理するサーバーの存在です。現在世界中でサービスできるサーバーを持つ企業は、Google、そして「Azure」を持つマイクロソフト、あとは「AWS」のAmazonに絞られるでしょうか。もしAmazonが同じように本格的に参入するとなると、以下のような並びになりそうです。
- Google:Stadia
- マイクロソフト:Project xCloud
- Amazon:???
もう一つ気になるのは、ここまで映画・音楽・アニメなどのエンタメ領域でサブスクリプションサービスが普及するなかで、ゲームが主要なエンタメコンテンツにおいては最後のフロンティアであるということです。現時点でもファーストパーティーの有料オンラインサービスを利用しているユーザーは多いでしょうし、特にPC版では月額遊び放題というサービスも少なくはありませんが、NetflixやSpotifyレベルで世界的に人気のゲームサブスクリプションサービスはまだないと言っても差し支えないでしょう。「Stadia」の料金体系は明らかにされていませんが、昨今の時流を考えるとサブスクリプションモデルになる可能性が高いのではないでしょうか。
もう少し未来の話をしてみよう
さて、先日SXSWというイベントに行ってきました。ゲーム関係の取材ではなく、自動運転関連のセッションを回っていたのですが、イベントの特性上、参加者は「自動運転も実現するし、空飛ぶ車も20年くらいでは実現する」という人達ばかり。
そこで議論に上がっていたのが、運転から解放された人間の“新たな時間”を何で埋めるかということです。新たに生まれた時間に対して「ゲームは重要なコンテンツになる」という声も多かったのが印象的でした。もちろんゲームのカンファレンスではないので、具体的な議論はありませんでしたが、クルマの走行情報とゲームを連動させるこれまでのゲームになかった遊びはもちろん、旅行に行く途中にLANパーティーとかもできるんじゃないか?というなかなか興味深い意見も。
5G×自動運転はよく語られているので目にする方も多いと思いますが、5G×自動運転×ゲームという話はまだ盛んではありません。そのうちGoogleの自動運転車でGoogleのゲームプラットフォームを通じてゲームを遊びながら移動するなんて日も来るかもしれませんね。全部Googleかよ、とうんざりしなくもないですが、「Stadia」の発表を眺めながらそんなことも感じてしまいました。
まだまだ発表されていない情報も多いので、この発表でゲーム業界に革命が!とか専用機もゲーミングPCもいらない!と片付けるには早計に過ぎますが、いずれにせよ期待を抱かせる内容になったことは間違いありません。まずは日本でのサービスが発表されることを祈りつつ、編集部としても引き続き動向を追っていきたいと思います。現在緊急アンケートも実施中ですので、ぜひ読者の皆さんの率直な声もお聞かせください!