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「中華ゲーム見聞録」も40回を越え、2019年の上半期も終わったので、これまでのまとめ的な意味も含めて、Steamで遊べるオススメの中華ゲームを紹介していきます。選択基準ですが、日本語で遊べる(もしくは言語の壁が低めな)もの、Steamで話題・影響力のあったものを中心としています。
海賊版の影響によってシングルプレイのPCゲームは商売にならないと言われていた時代もだんだん過去のものとなり、Steamなどのクライアントを配信の場として利用するクリエイターも増えてきた中華インディーゲームの世界。さっそく見ていきましょう。
『中国式家長』―無料アップデートで女の子バージョンも追加された中国一般家庭の子育てゲーム
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中国の一般的な家庭の子育てをシミュレートした本作。子供が生まれたときから育成が始まり、親の期待を背負いながら学校生活を過ごしていき、来たるべき中国の大学統一試験「高考」を目指します。中国では日本以上の学歴社会で、受験戦争も熾烈なものです。しかし本作は内容が暗くならないようユーモアを多く交えており(ブラックなものも多いですが)、楽しめる作品となっています。配信当初は育成できるのは男の子のみでしたが、無料アップデートにより女の子の育成も可能になりました。さらには現在、日本語版ベータテスト中なので、日本語でのプレイも可能です。この作品を通して、中国一般家庭の生活を垣間見ることができるかと思います。
(製品情報:定価1,010円、日本語版ベータテスト中、Steamページ、プレイレポート)
『Bright Memory』―たった一人の開発者が生み出したAAA風格のFPS
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AAAゲームと見紛うクオリティのFPS。しかもたった一人で開発したというのですから驚きです。本作はただ銃を撃つというだけでなく、敵を空中に浮かせて銃撃や剣撃を叩きこむといったコンボ攻撃も可能で、しかもゲーム中の展開を飽きさせないようフィールドイベントの緩急にも細心の注意を払って開発されています。「ゲーム開発が好きで作っている」という開発者の気持ちがよく伝わってくる作品です。中国語と英語のみで日本語はありませんが、FPSなのでプレイすること自体に問題はないかと思います。Game*Sparkでは開発者インタビューも行っていますので合わせてご覧ください。また本作は『Bright Memory Infinite』と改題してさらなるクオリティアップが進められるなど、まだまだ進化が続いていきます。『Bright Memory』をすでに持っている方は無料でアップデートされるとのことです。
(製品情報:定価720円、日本語なし(英語あり)、Steamページ、プレイレポート)
『還願』―80年代の台湾を再現した懐かしくも物悲しい3D心霊ホラー
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2Dホラーのヒット作『返校』のデベロッパーが放つ新作3Dホラー。舞台は80年代の台湾で、グラフィックや小道具など当時の雰囲気がかなりよく出ています。台湾に住んでいる筆者的にとっては、作り込まれたゲーム舞台を見て回るだけでも十分元が取れてしまう出来です。またホラー作品ですが、大きな音などで驚かすといったいわゆる「ビックリ系」ではなく、台湾文化に根ざした物悲しいストーリーが展開されていきます。当時の台湾の雰囲気を知ることができるのでぜひともプレイしてみてください……と言いたいところなのですが、本作は中国への政治批判が含まれているとのことから現在Steamで配信停止になってしまっています。日本語サポートもある作品なので、いつか再配信できるようになる日が来ることを願っています。
(製品情報(配信停止前):定価1,730円、日本語あり、プレイレポート)
『Bladed Fury』―春秋戦国時代を舞台にした中華ファンタジーアクション
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春秋戦国時代の斉国の内乱をテーマにした爽快バトルアクションゲーム。斉国は「封神演義」でもお馴染みの太公望(姜子牙)が封じられた国で、姜氏が代々支配していました。しかし戦国初期に力のあった田氏に国が乗っ取られ、国王の娘である主人公・季姜も追われる身となります。攻撃方法は主に剣で、敵の攻撃力が結構高いためゲーム自体の難度も高く、格闘ゲーム的なセンスも必要になってきます。攻撃が当たる直前でガードする「完璧」(格闘ゲームで言うところのジャストガード)が使えないと後半厳しくなるかと。ただその分クリアしたときの達成感はかなりのものなので、骨のあるアクションゲームが遊びたいという方にはオススメの作品です。
(製品情報:定価1,010円、日本語あり、Steamページ、プレイレポート)
『食用系少女』―擬人化された台湾グルメ少女たちとともに経営難のボロ夜市を救う運営育成ゲーム
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「タピオカミルクティー」や「ルーロー(滷肉)飯」「鶏排(台湾式フライドチキン)」などの台湾グルメを美少女として擬人化したことで話題になった本作。Steamを運営するValveから「未成年ポルノのコンテンツが含まれる」との指摘があり、一時は配信日が無期延期になったことでも話題になっていましたが、キャラクターデザインの変更を行ったことで6月6日に無事配信されました。主人公は経営コンサルタントで、台湾グルメ少女たちと協力して経営難のボロ夜市を立て直すのが目的です。店を宣伝したり、店のクオリティを高めたりしてボロ夜市を盛り上げていきましょう。いつでもセーブできますのでシミュレーションが苦手な方でも気楽に楽しめるシステムになっています。また日本語字幕だけでなく、日本語音声もあるのが嬉しいですね。台湾グルメに興味のある方はぜひチェックしてみてください。
(製品情報:定価2,999円、日本語あり、Steamページ、プレイレポート)
『太吾絵巻』―100万本セールス突破のローグライクな武侠人生シミュレーションゲーム
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中国における人気ジャンルの一つ「武侠もの」。日本ではあまりなじみがないとは思いますが、中国ではゲームや映画、ドラマ、小説などで根強い人気を誇っています。本作はその武侠者の人生をシミュレートしたローグライクゲームです。プレイヤーは自由に世界を旅し、どこかの門派に所属して武術を磨いたり、他の派閥の戦ったり、友人や恋人を作ったりと、武侠世界での生活を楽しむことができます。プレイすればするほどNPCとの人間関係も複雑になっていき、自分だけの武侠世界が作られていくでしょう。現在のところ中国語以外のサポートはありませんが、それでも発売まもなくで50万本セールスを突破し、さらには去年の10月に80万本、12月には100万本を突破しました。言語の壁があることが本当に残念なのですが、いずれ日本語版か英語版が出たときには日本のコアゲーマーにもぜひプレイしていただきたい作品です。
(製品情報:定価2,050円、日本語無し、Steamページ、プレイレポート)
『Dusk Diver 酉閃町』―台北の西門町を再現した3DバトルアクションRPG
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台北の渋谷とも言われるファッションと文化の中心地・西門町。筆者もよく散歩に行ったりしていますが、本作はその西門町と裏世界である「酉閃町」を舞台に戦う3DアクションRPGです。戦闘はただ敵を攻撃するだけでなく、必殺技を使ったり変身したりなど爽快感を味わえる作りになっています。そして特筆すべきなのは西門町の再現度。実際にある店がそのまま出てきたりしますので、西門町に行ったことのある方なら探索するだけでも楽しいかと思います。また本作は中国語音声に加え、日本語音声もサポート。西門町に行ったことのある方、これから行こうと思っている方はぜひプレイしてみてください。
(製品情報:定価2,800円、日本語あり、Steamページ、プレイレポート)
『eSports Legend』―e-Sportsチームを育成して世界の頂点を目指すマネジメントゲーム
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日本でe-Sportsというと格闘ゲームがまず思い浮かぶのではないかと思いますが、中国や台湾では『リーグ・オブ・レジェンド(以下『LoL』)』や『Dota 2』などの「MOBA(Multiplayer Online Battle Arena)」が中心で、プレイ人口も多く、プロを目指すための専門学校まであるといった状況です。本作はそのMOBAのプロチームを運営していくマネジメントゲームで、プレイヤーは選手の獲得やトレーニングから、試合における使用キャラのBan & Pickや試合中の采配などを決めることができます。使われているMOBAゲームは『LoL』をベースにしているので、『LoL』をプレイしたことのある方なら取っ付きやすい内容かと思います。試合中の動きもリアルで、「『LoL』をプレイしたいけど時間が無くてやらなくなってしまった」という方にも適しています。『LoL』を知らないとつらい部分も多々ありますが、筆者的にはお気に入りの作品です。
(製品情報:定価1,010円、日本語無し(英語あり)、Steamページ、プレイレポート)
『MUSYNX』―演奏する楽しさを追求した遊びやすい音楽ゲーム
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iOSやAndroid、海外PS4、PS Vita、ニンテンドースイッチなどさまざまなハードで配信されてきた音楽ゲームのSteam版。システムの煩雑さを避け、誰でも楽しめるようにとの開発者の思いから、4鍵と6鍵の音楽ゲーム初心者でも分かりやすい2種類のモードが用意されています。またキーを押したときの音もただのパーカッションではなく、元の楽曲の楽器や音声を使用した「本物のキーサウンド」ですので、音楽の演奏感を楽しむことができます。曲のジャンルもさまざまで、『DJMAX』などで知られるM2U氏、Paul Bazooka氏、Lunatic Sounds氏、MEMME氏も楽曲を提供しています。値段も安いので、「何か音楽ゲームが遊びたい」という方はぜひとも本作を試してみてください。
(製品情報:定価410円、日本語あり、Steamページ、プレイレポート)
『Dungeon Munchies』―ダンジョン内の敵を料理して食らうアクションRPG
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一見メトロイドヴァニア型の横スクロール探索アクションRPGですが、ダンジョン内に蠢く敵を倒すだけでなく、それらを食材にして料理を作り、食べて主人公をパワーアップさせていくという「アクション料理RPG」でもあります。料理の効果はその敵の能力に関連したものとなり、しかも自機の外見にも繁栄されていきます。たとえば「大蚊のフライ」を食べると背中から翅が生えて2段ジャンプができるなど。いろいろな料理を食べることにより、自機もだんだんとすごい外見になっていくのが面白いですね。現在のところ中国語と英語だけで日本語サポートはありませんが、開発者によれば今後日本語にも対応するとのこと。まだ早期アクセス版ですが完成度も高く、今後が期待できる作品です。
(製品情報:定価1,500円、日本語版予定あり、Steamページ、プレイレポート)
2019年上半期の中華ゲーム10選、いかがだったでしょうか。お気に入りのゲームが見つかったのであれば幸いです。プレイレポート記事で開発者インタビューなどをして感じられたのは、やはり「好きだから作った」というインディーゲーム精神ですね。少ないスタッフと資金で「よくぞここまで」といったゲームも多く、本当に好きじゃないとできないかと思います。
それとSteamでは、中国インディーゲームの5人の開発者を2年間追ったドキュメンタリー「独行(Indie Games in China)」が配信されています。中国インディーゲームの開発現場や、その栄光と挫折を描いた見応えのある作品です。6月25日に日本語字幕も追加されましたので、興味のある方はぜひご覧ください。今後も中華インディーゲームの発展を見守っていきたいと思います。
※本記事で用いているゲームタイトルや固有名詞の一部は、技術的な制限により、簡体字・繁体字を日本の漢字に置き換えています。
■筆者紹介:渡辺仙州 主に中国の歴史ものを書いている作家。母は台湾人。人生の大半を中国と台湾で過ごす。中国の国立大学で9年間講師を勤め、現在台湾在住。シミュレーションゲーム・ボードゲーム好きで、ブログ「マイナーな戦略ゲーム研究所」を運営中。著書に「三国志」「封神演義」「封魔鬼譚」(偕成社)、「文学少年と運命の書」(ポプラ社)、「三国志博奕伝」(文春文庫)など。Twitterはこちら。