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「中華ゲーム見聞録」第58回目は、90年代当時の日本の事件や民間伝承、怪談などを元にした見下ろし型アドベンチャーゲーム『黒森町綺譚(Tales of the Black Forest)』をお届けします。
本作は拾英工作室が開発し、SakuraGameによって9月26日にSteamで配信されました。中国産のゲームながら、ゲームの舞台は90年代の日本。日本の妖怪文化や実際の事件をモチーフにした内容になっています。開発者の月光ショウ螂氏(「ショウ」は「章」に虫へん)とyszk氏は日本文化に興味を持っており、特にyszk氏は大学で日本史を専攻しているとのこと。今回は月光ショウ螂氏からコメントをいただけましたので、記事の最後でインタビューもお届けします。
本作の内容ですが、RPGツクール製の見下ろし型アドベンチャーゲームです。主人公である女子高生の希原夏森(きはらかしん)は、黒森町にある鹿鳴駅に迷い込み、帰り道を探すための旅に出ます。実際に日本で起きた事件もモチーフにしているという本作、さっそくプレイしていきましょう。
平成10年の物語
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ゲームが始まると、主人公である希原のモノローグが入ります。彼女は8歳のころ、母親とともに交通事故に遭いました。彼女は奇跡的に助かりましたが、母親は命を失ってしまいます。
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そして平成10年(1998年)。高校生になった希原が目を覚ましたとき、見知らぬ駅のベンチに座っていました。周囲を暗い森に囲まれています。駅の名前は「鹿鳴駅」というようです。
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希原は電車に乗って家に戻る途中でした。しかしいつの間にかここにいたようです。希原は交通事故に遭うまで「黒森町」に住んでいました。鹿鳴駅のある「鹿鳴村」は、黒森町の郊外にあるとのこと。この状況でもあまり動じていないのは、そういうクールな性格だからなのでしょうか。
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とりあえず周辺の探索。ベンチの上には希原のカバンがあり、中を調べると学校のことなどを回想できます。駅舎の壁には鹿鳴村のポスター。果物の名産地のようですね。駅舎に入ろうとしたときに、汽笛が聞こえてきました。
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駅舎に入ると、すぐ前に大きな穴が開いていました。そしてそこに白い羽毛が浮かんでいます。羽毛を手に入れると、入り口のすぐ横のスピーカーから、鹿鳴鉄道の広報と称して、世界の終わりを告げるような放送が流れてきます。終末論を唱える宗教団体が流しているものでしょうか。「最近そういう宗教団体が多くなってきた」といったようなことを話す希原。そういえばこの時期の日本では、ノストラダムスの大予言が流行っていましたね。
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ラジオを調べていると、突然あたりが暗くなりました。目を開くと、どうも周囲の様子がおかしい。しかも目の前には、先ほどいなかったはずの銀髪の少女の姿がありました。
過去に遡る力
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希原は銀髪の少女に質問しようといましたが、しゃべることができないようです。筆談でやりとりし、少女が何かしらの呪いを受けていることが分かりました。希原も何かの呪いを受けてしまっているようで、それを解除するための方法が黒森町の劇場にあるとのことです。
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「じゃあ、今から黒森町の劇場に行く?」とあくまでクールな希原。しかし劇場へ行くには、まず「念写」を解除しなければならないとのこと。先ほど希原が拾った羽毛には、電気製品から過去の記憶を読み取り、時間を遡ることができる力「念写」が宿っていたようです。
念写と言うと、目の前にない風景や人物などをポラロイドカメラで映し出す超能力が思い出されますが、ここでは過去の空間を映し出す力(=過去に移動する力)のことのようです。するとここは過去の世界ということでしょうか。
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戻るときは、同じ空間内にある電気製品なら何でもいいらしいです(正常に動くものであれば)。左側にあったレコーダを使おうとしましたが、どうやら電池が入っていない模様。まずは電池を探さなければなりません。
ちなみに銀髪の少女は桐谷雪(きりたにゆき)と言い、作家だとのことです。人ならざるものかと思っていたのですが、どうやら普通の人らしいですね。日本各地の怪談に関することを書いているようで、これまでに北海道と京都を舞台にしたものを出版しているそうです。
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レコーダの隣には、1995年の黒森町鉄道安全委員会からの、車内で異常な気体が発生したときの対処法が貼っていました。「1995年と言えば、営団地下鉄毒ガス事件があったころだ」と希原は思い出します。これは同年にあった地下鉄サリン事件が元になっているのでしょう。ここは1995年のようですね。ちなみにすぐ右上には、映画「トトロ物語」のポスターがありました。元ネタはあの映画ですね。
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戸棚の中に電池が入っているようですが、ダイヤル式の鍵が付いています。ここで謎解き。ヒントは部屋の中にありますので、それほど難しくはありません。
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電池を手に入れ、念写を解除して元の世界に戻った希原。桐谷の姿が見当たりません。と思ったら、おにぎり状の動物がいました。どうやらこれが桐谷のようです。呪いのせいでハトの姿(と本人は言い張っている)と人間の姿を行ったり来たりしているのだそうです。ハトの姿のときは話をすることができるようです。
黒森町を目指して
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駅舎を後にして黒森町を目指す希原と桐谷(ハト)。途中、ニワトリなどの動物と出会いましたが、希原はなぜかその言葉を理解することができます。桐谷が言うには、希原の手に入れた白い羽毛にはそのような能力があるとのこと。
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途中の掲示板には廃校の通知や、列車で発生した毒ガス事件についての情報が貼られていました。車内での毒ガス事件は、前述の営団地下鉄での事件以降、日本各地で発生しているようです。ここでは「真理天堂」という宗教団体の信者であり、鹿鳴駅の管理員でもある松山正男(62歳)が事件を引き起こしたとのこと。松山は事件後、自宅で自殺してしまったそうです。
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先へ進もうとしたとき、背後に赤ん坊を抱いた女性が現れました。「しばらくこの子を抱いてくれませんか?」と頼んできます。なんだか様子が変ですね。桐谷は早く逃げるよう忠告します。どうやら悪霊の類で、赤ん坊を抱くとどんどん重くなり、やがて押しつぶされてしまうそうです。
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悪霊から逃げて先へ進んだところに橋がありました。この先が黒森町のようですが、橋が巨大な頭蓋骨に押しつぶされ、通れなくなってしまっています。ここで「第一章 鹿骨怪談」の文字が。先ほどまでは序章で、ここから本格的な物語が始まるようです。
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黒森町への道を探していると、鹿を見つけました。黒森町に行くために他の道はないか聞いてみたところ、枯れた大樹を救うために「太陽雨」が必要なので手に入れたら教えるとのこと。
太陽雨は「狐の嫁入り」の時にしか降らないそうで、今すぐ入手するのは困難です。しかし「いつ降ったか」さえ分かれば……。果たして希原は黒森町にたどり着くことができるのか。そしてこの悪夢のような場所から抜け出すことができるのか。続きは自身の目で確かめてみてください。
開発者インタビュー
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本作は日本を舞台にしたアドベンチャーゲームですが、プレイしていて開発者たちの日本文化への理解や愛情が感じられました。また様々な魅力的なキャラクターたちも多く登場し、隠密行動や追いかけっこなどのアクションもあり、章立て形式と相まって飽きさせないような作りになっています。以下は月光ショウ螂氏へのインタビューです。
――まずは自己紹介をお願いします。
月光ショウ螂氏:インディーゲーム開発者の月光ショウ螂氏と申します。現在は一人で家でゲーム開発を行っており、どこの企業にも所属していません。監修のyszk氏は日本史を専攻しており、ちょうど今日本に留学しています。
――本作の開発はいつどのようにして始まったのでしょう?
月光ショウ螂氏:私は動画サイトでゲーム実況を観るのが好きです。特に日本の開発者がRPGツクールで作ったゲームは、中国のゲーム実況サイトでも人気があります。これら実況動画の影響を受けて、私もRPGツクールでの開発を始めました。
私とyszk氏は日本文化に対して興味を持っており、また日本の社会現象の背景における様々なファクターについて探求するのが好きです。本作の一部では、日本の地下鉄サリン事件を改編してモチーフにしています。私たちは本作を通じて、事件が発生したことの原因や、それによって引き起こされた影響などを探求しようとしました。ゲームは昨年10月に開発を始め、およそ一年ほどかかりました。
――本作の特徴を教えてください。
月光ショウ螂氏:本作の特徴ですが、実際に起こった事件をモチーフにして開発しています。例えば前述したような地下鉄サリン事件や、日本のバブル経済などです。完全なフィクション作品のように見えますが、現実を基盤にして開発しています。
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それと登場人物たちの造形にも力を入れました。本作の主人公は女子高生の希原夏森ですが、実際のところは群像劇のような作りになっています。プレイヤーは希原の視点を通して、その時代の様々な信仰や夢、選択などを感じ取ることができます。ゲーム中には重複のない30人ほどの登場キャラクターがいて、どのキャラクターも魅力的に作られています。ストーリーとキャラクターはゲームの核心部分なので、特に力を入れています。
本作は3つの章から成り立っています。プレイヤーに最後まで新鮮な気持ちと探索の欲求を保持してもらえるよう、ストーリーは何度もブラッシュアップしました。同様に、プレイヤーにキャラクターを好きになってもらえるようにするのは簡単なことではありませんので、キャラクター造形には多くの心血を注いできました。
――本作が影響を受けた作品はありますか?
月光ショウ螂氏:まず挙げられるのは、当然宮崎駿監督の作品でしょう。私は彼の作品が大好きです。例えば「となりのトトロ」や「千と千尋の神隠し」など。本作中でもこれらの影響は少なくありません。また黒沢明監督の作品からも多くのインスピレーションを得ました。その他にも様々な作品から影響を受けています。プレイヤーはそれらを本作で見出すことができるでしょう。
――本作の日本語対応予定はありますか?
月光ショウ螂氏:あります。現在すでに英語版と日本語版を開発中です。日本語版はおそらく年内に提供できるかと思います。
――最後に日本の読者にメッセージをお願いします。
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月光ショウ螂氏:本作は日本の妖怪文化を題材にした伝奇ファンタジーアドベンチャーゲームです。私は文化交流と情感を通じ合わせることに国境はないと信じています。本作では「愛、勇気、夢」といった人類作品不変のテーマを扱っていますので、日本のゲーマーが本作でそれらを感じ取っていただければ幸いです。また本作品を通じて日本のゲーマーと交流ができることを望んでいます。
――ありがとうございました。
90年代の日本を舞台にした本作。現在は中国語のみですが、年内には日本語版も配信される予定とのことです。今後の本作の発展に期待したいと思います。
製品情報
『黒森町綺譚(Tales of the Black Forest)』
開発・販売:拾英工作室、SakuraGame
対象OS:Windows
通常価格:410円
サポート言語:中国語(簡体字、繁体字)
Steamストアページ:https://store.steampowered.com/app/1093910/Tales_of_the_Black_Forest/
※本記事で用いているゲームタイトルや固有名詞の一部は、技術的な制限により、簡体字・繁体字を日本の漢字に置き換えています。
■筆者紹介:渡辺仙州 主に中国の歴史ものを書いている作家。母は台湾人。人生の大半を中国と台湾で過ごす。中国の国立大学で9年間講師を勤め、現在台湾在住。シミュレーションゲーム・ボードゲーム好きで、ブログ「マイナーな戦略ゲーム研究所」を運営中。人生の理念は「あまり知られていないけど、知っていると人生が面白くなるもの」を発掘・提供すること。著書に「三国志」「封神演義」「封魔鬼譚」(偕成社)、「文学少年と運命の書」(ポプラ社)、「三国志博奕伝」(文春文庫)など。Twitterはこちら。