先日、次世代機向けの『スペシャルエディション』が発表された『デビル メイ クライ 5』。恒例のバージルプレイアブル化、新モード「レジェンダリーダークナイト」の追加で、更なる大暴れが期待できますね。
そんな本作にはイギリスの詩人ウィリアム・ブレイクの詩集が重要なアイテムとして登場。登場人物の一人「V」が常に持ち歩いていて、戦闘中には朗読することで魔力を回復します。今回の連載では本に書かれている内容と、『デビル メイ クライ 5』における意味について解き明かします。
練習問題の解答
問題:I’ve been working here ever since my mama was a baby
回答例:おたくのお袋さんが赤ん坊の頃からここで働いとるよ
今回の引っかけポイントは「my mama」の部分です。ここではカエル先生自身の母親ではなく、パラッパの方の母親のことを言っているのです。文章を額面通りに受け取ると誤訳になってしまう例ですね。ゲームの翻訳では状況が不明な状態で文章だけ渡されるケースがあり、違和感にちゃんと気がついて意味を考えることが大事です。文章量が増えてくるとその精度が落ちるので、クリティカルエラーを起こさないよう体調を整えて取りかかりましょう。
「V」は何を読んでいるのか? ページを覗き見してみよう
本稿にはネタバレが含まれます。クリア後にお読みください。
Vの朗読中には詩集が開かれ、フォトモードを使えばその詳細を見ることができます。ゲーム中には2ページ用意されており、それぞれ拡大した物がこちらです。
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確認できるのは「INFANT SORROW」「HOLY THURSDAY」「The Tyger」「My Pretty ROSE TREE」「AH! SUN-FLOWER」「THE LILLY」の6篇。内容もちゃんと読めるようになっています。これらは詩集「無垢と経験の歌(Songs of Innocence and of Experience)」に収められています。
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こちらはイエール大学所蔵の原本画像。多少デフォルメされていますが、ブレイク自身による挿絵も忠実に再現されていますね。ブレイクは晩年に英語版のダンテ「神曲」の挿絵を手がけています。
朗読している文章はこれらのページとは異なり、「無垢の予兆(Auguries of Innocence)」と無題詩から引用しています。
To see a World in a Grain of Sand
And a Heaven in a Wild Flower,
Hold Infinity in the palm of your hand
And Eternity in an hour.
The Angel that presided o'er my birth
Said "Little creature, form'd of Joy & Mirth,
Go love without the help of any Thing on Earth.
Vの手本を聞くと分かるように、英語詩の朗読は強弱を揃えることで一定のリズム、「韻律」を生み出します。同じ韻律を持つ数行のまとまりを「スタンザ」といい、上の例だと「Sand」「Flower」「Hand」「Hour」のABAB形式の4行で1つのスタンザになります。スタンザを揃えるのに「強」に当たるところへ印象的な単語をどう置くか、これが英語詩で最も重要であり、また、読み手にもどう表現するか腕が問われます。
朗読のポイントは1つのスタンザの中でトーンを統一すること。後半の無題詩では行頭の「Angel」「Little」「Love」を強で揃えていますね。Vのコスプレをするときには、是非この韻律をマスターして堂々と詩の朗読に臨みましょう。
悪魔も知らない「ユリゼン」とは何か? ブレイク神話から読む「分離」と「統合」
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劇中でVは「名前のない悪魔」に「ユリゼン」と名付けます。魔界出身のトリッシュも聞いたことがないというその名前は、ウィリアム・ブレイクの創作神話から引用されました。
ブレイク神話を大まかに説明すると、世界の始まりには人間の始祖であり世界そのものである存在「アルビオン」がありました。アルビオンの中には「4つのゾア」という別の性格を持つ存在があり、「アーソナ」「サーマス」「ルーヴァ」「ユリゼン」という名前です。ゾアはそれぞれ元素や方角、理性や感情を司り、ユリゼンはアーソナ、ルーヴァはサーマスと対になる存在でしたが、アーソナとルーヴァは切り離されて低い次元の世界に落とされてしまいます。アルビオンが死の眠りに入り、残されたユリゼンはバランスを失った世界を支配しようとして、破滅を招く大戦争が引き起こされる……というものです。
鍵となるのは、分離したゾア達が統合することによって、再びアルビオンが蘇る、という点です。対立する要素は切り離しては存在できず、相反し合うからこそ互いに支え合い、進歩することができる。キリスト教の悪を排除する教義に、ブレイクは疑問を持っていました。人間の中にある善と悪、その両方が人間を成すものである、ブレイクの神話にはそんな思想があると解釈されています。
ダンテに敗北したバージルは自身の中にある悪魔と人間を分離しようと試み、その結果「ユリゼン」と「V」が生まれました。ダンテがユリゼンを倒した後にVの人間性が戻り、再びバージルとして蘇る。これはブレイクの神話における「分離」と「統合」のモチーフを踏襲しているととれます。そして、ダンテとバージルもまた双子。欠けたピースを取り戻した二人の決着は、おそらく未来永劫付くことはないのでしょう。
覚えておきたい英単語集:悪魔の辞書に不可能の文字はない?
- Puny:卑小な、小さな
- Dime:10セント硬貨、端金
- Dead weight:重荷、足手まとい
- Dismal:ヘタレ
- Creepy:気色悪い
- Badass:やるじゃん!
- Apocalyptic:予兆的な
- Savage:残酷な
- SSS:Smokin' Sexy Style!
- Qliphoth:クリフォト
今週のキーフレーズ:My grandmother was called the“.45 Caliber Virtuoso”...Legendary gunsmith.
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祖母は『45口径の芸術家』と呼ばれた伝説のガンスミスだったんだ
『5』が初登場のニコは、ダンテの愛銃エボニー&アイボリーを制作したニール・ゴールドスタインの孫。自身も憧れる祖母の作品を超えるべく、ハイテク義手の開発に余念がありません。いずれはどこかの堕天使ともライバルになれるでしょうか?ニールの通り名である“.45 Caliber Virtuoso”の「Virtuoso」とは達人を意味するイタリア語で、音楽や絵画、建築などの芸術分野で名実ともに巨匠と呼ばれる人物に使われる呼称です。ただし、イタリア語では男性名詞、女性名詞があるため、本来は女性名詞の「Virtuosa」に変えなければなりません。ジェンダーに厳しい昨今では何気なく使っている言葉が男性本位になっていることに注意しましょう。
練習問題:次の詩の引用元を探しなさい。
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1、And it grew both day and night. Till it bore an apple bright.
2、As the air to a bird, or the sea to a fish, so is comptempt to the comptemptible
何かにつけて詩の引用が飛び出すあたり、Vのブレイク好きは根っからのようです。とにもかくにもブレイクづくしの『デビル メイ クライ 5』、銅版画にも素晴らしい作品が多く残っているので、「神曲」の挿絵も合わせてご覧ください。