コンシューマゲームの歴史は40年以上にも及び、これまで多様な作品が世に送り出されました。それらのなかには珠玉の逸品とも呼ばれる名作タイトルから、どうしちゃったのよコレと言われるタイトルまでほんとうに様々です。
そこで今回の特集記事ではとりわけ後者の方のゲームに焦点を当て、昨今いろいろな形で注目を集めたアクションRPG『ファイナルソード DefinitiveEdition』を取り上げていきたいと思います。
おことわり
まず最初に謝らなければならないことがあります。筆者は今回の記事執筆にあたり本作をプレイしましたが、「深い洞窟」「砂漠」エリアで心が折れてしまい、本作の全てをプレイ体験できていないのです。
ゲーム開始後、トロルの時点で挫けそうな己を鼓舞してレベル上げを続けてはスパイダークイーン、マンティコアとボス戦に挑んできました。しかしヒドラ戦で死亡しGAME OVERの文字が見えた時、ぷつんと精神力が尽きてしまい脱力してしまったのです。もう少し説明しましょう。これは強すぎて倒せない敵が悪いということでは決してありません。レベルを上げて戦えば勝てるものでしょう。ただそこに至るまでのレベリングが、これまでの道中で行ってきた退屈な単調作業の延長線で、しかもラスボスまでずっと続くのである……と冷静に気付いたまさにその瞬間、心が折れてリタイアと相成りました。
そのため今回の記事ではゲームプレイそのものについては、「プレイ続行が困難な作品であった」という結論の上でレビューを進めさせていただきます。
「いやいや全部クリアしていないくせに偉そうにレビューしやがって!」というご意見は、自分でもまさにその通りだと感じます。そのためもしこの時点で、どうしても受け入れ難いものがあるという方におかれましては、お時間を無駄にしないためにもどうかブラウザバックをお願い申し上げます。前置きが長くなりましたが、さっそくやってまいりましょう。
そもそも本作ってどんなゲーム?
本作はHUP Games Inc.が手掛けるタイトルで、魔王と魔物によって支配された世界において、剣と魔法で戦い平和を取り戻すアクションRPGです……こうして文字に起こすと実にオーソドックスなRPGですね……。それなのに本作を一言で表すなら「シュール」に尽きると思います。プレイ中の気分は漫画「ギャグマンガ日和」に登場したパロディゲームネタ「海に行くイレブン」のソレに極めて近いものがあり、普段使わない筋肉と脳機能が突然使用されたかのような困惑も感じました。
ゲーム内容について
さて筆者が本作をプレイしたのは、2021年1月21日に装いを新たに、『DefinitiveEdition』として配信されてからです。そのため実際にプレイしてみると、20年7月リリース直後にネットで散見された前評判のような理不尽さはそこまで感じず、ゲームとしてはぎりぎり遊べるものだと思いました。また筆者は、持ち前の下手なプレイによって最初のボストロルを倒す際のレベル上げにすら手こずっていた体たらくなので、安易に全体を語ることにお叱りを受けることはよく理解しております。
しかしながらこうして記事を執筆するにあたり、本作がプレイを続ける気持ちを削ぎ、モチベーションを保つことを困難にさせる最大の原因はなんだったのかと考えると、それは「前世紀レベルの演出」に他ならないと思います。そしてその中に含まれる要素として、さらに以下の2つを挙げることができます。
- 魅力に欠けるキャラクターが織りなす味のないストーリー
- レベリングの作業感
意外かもしれませんが、時間をおいて冷静に自分の心へ問いかけてみても、本作に対する感情に「嫌い」というものは全く思い浮かびません。むしろ好意的にすら思います。それはおそらく、ゲーム自体が悪ふざけでも冗談でもなく、いたって真面目に進行していくからかと。筆者はそこに、製作者の「こういうことがやりたい」という目標と、それを達成しようとする努力すら感じました。ただそれを上回る勢いでモチベーションが削がれていったので、結果は残念ながらコントローラを置くことになってしまいましたが……。ともあれ、ひとつずつ見てまいりましょう。
前世紀レベルの演出
グラフィック、効果音、フォント、モーション……挙げたらキリが無いほど本作の演出は押し並べて低水準。これらがゲームを盛り下げる方向で大いに影響を与えています。そのあまりの仕上がりっぷりには、しばしば90年代へタイムスリップしたのかと錯覚しうる程でした。いやむしろ当時のゲームでさえ、もうちょっとしっかりした作り込みがされていたのでは?と思えてしまう印象です。
ゲーム開始早々、ムービーの時点で「こいつぁやべぇぞ……」となる趣深い映像がカクつきながら流れていきます。そして登場する我らが主人公スパくん(命名)のこれまた味わい深い表情。村から外に出ればフワァァ~という気の抜ける効果音とともに表示される柔らかいフォント……以降、一事が万事この調子です。序盤はまだおかしみを感じてプレイを楽しんだものの、次第に失速して辛くなりはじめ、最後にはそういった感情の起伏すらも消えていきました。
魅力に欠けるキャラクターが織りなす味のないストーリー
キャラクターとストーリーは演出の根幹をなす大切な要素。それにもかかわらず本作の場合は、控えめに言っても魅力に欠け、かつ味気ないという評価にならざるを得ません。このキャラクターが実は!とかこのゲームならではの!といったオリジナリティを感じることが出来なかったのです。ひょっとすると最後までプレイすれば、何かどんでん返しがあるのかもしれませんが、序盤中盤の時点で魅力を感じるには少々厳しいものがあります。
本作は、突き詰めれば「剣と魔法で敵を倒すARPG」というコンセプトをもとにしています。同じコンセプトでも、名作と呼ばれるタイトルは数多くありますよね。しかしながら、そうやっていくらでも膨らませて肉付けができる物を取り扱っているにもかかわらず、後述のアセットをはじめ、素材を調理せずほぼそのまま並べただけなのが本作。これは折角の素材を使いこなしておらず非常に勿体ないと思います。
また会話テキストもやや怪しい。個人的に、こういうジャンルのゲームでキャラクターに幅を持たせて物語を彩るツールのひとつとして、会話テキストが大切だと感じています。喋る主人公であればその人となりがわかりやすいですし、無口なら無口で周囲の人間の反応から魅力が伝わることでしょう。そこを踏まえ本作の会話を振り返ると、破綻こそしていないものの、ただ台詞が順番に並んで表示されるだけです。しかもその脈絡は若干怪しく、内容も微妙に噛み合ってない。
一応、母を助けていくなかで戦士の才を見込まれた主人公が、キングダムに向かう途中ブラックドラゴンの攻撃に巻き込まれて……というストーリーの一本筋の通った流れ自体はあります。しかしながら前述の演出と相まって、キャラクターとストーリーへの没入感は極めて薄く感じてしまいました。
レベリングの作業感
本作のゲーム進行はフィールドでの探索、雑魚敵ならびにボスとの戦闘によって進み、その攻略にはレベル上げが必須で、レベリングを繰り返していくことが基本になります。雑魚を倒して経験値を稼ぎ、どんどんレベルアップしていきましょう。敵の硬さに苦戦していたとしても大丈夫。店で強い装備の購入が可能で、進行によっては便利なスキルが解放されますし、さらにレベルさえあがればHPや攻撃力といった各種ステータスも上昇するため、戦いやすくなっていきます。
そのため結局のところ、本作はプレイ時間の大半をこのレベリングの戦闘に費やすことになります。普段なら、筆者はレベリング自体に抵抗はありません。「強く育てよ大きくおなり」とキャラを手塩にかけるのは楽しいですからね。しかしそれが本作においては、またしても演出のおかげで単調な作業に様変わりしてプレイが辛くなっていくのです。戦闘には駆け引きの要素がありますが、爽快感などを楽しめるかと問われれば、首肯しかねます。ではそういった要素がまったくないのかというと、それもそれで違う……このなんとも中途半端なプレイ体験が作業感をさらに加速させます。
一応のフォローとして本作の戦闘操作自体に注目すると、前述の通り、駆け引きが可能な作りになっており、これは本作の良い部分だと思います。弱、強、盾ガード、溜め技、魔法、緊急回避といった要素を組み合わせた戦闘は、たしかに遊びごたえがありますね。たまに敵の至近距離で攻撃しても当たらなかったり、敵から予備動作ほぼゼロの攻撃を食らったりやや理不尽のきらいがありますが……それでも練習したり動きを覚えたりすれば太刀打ちできるため、まだプレイできる範疇であると言えましょう。
シュールさの源
さてここからは周辺事情についても触れてまいります。語弊を恐れず申し上げるなら、本作は「低水準のクオリティでも一応はゲームとして纏まっておりプレイできること」、また「細かいアップデートを繰り返していること」から、少なくとも完成度を高めようとしている製作チームの真摯(?)な姿勢をみることができます。
それでは、本作のシュールさは一体どこから出てくるものなのでしょうか。思うにそれは、まさに「低水準のゲームクオリティ」と「製作チームの姿勢」にあり、それらのギャップがあまりにも大きいからではないかなと。真顔で放たれる渾身の腰砕けゲームに、プレイヤーは思わずツッコミを入れずにはいられない……筆者はそう感じます。
周辺事情その1:本作が何故話題になったのか?
本作はもともとスマホアプリとして2019年8月にリリースされていました。当時のネットにおける反応といえば、Google Trends検索機能で調べると、「人気度の動向」グラフはほぼ底を打って横ばいです。ほとんど話題に上っていないですね。Twitterでも遡って確認すると、既に削除されてしまったなど現時点で見える範囲ではありますが、スマホアプリ配信後の反応は出来栄えについてたまに言及がある程度。それまではせいぜいが別作品に登場する必殺技の「ファイナルソード」が話題になるくらいでした。
ところがそのほぼ一年後、2020年7月05日-11日頃になるとグラフが突然スカイロケットな上がり方を見せます。奇しくも同時期の7月2日は本作ニンテンドースイッチ版リリース日……って、いやこれ全然不思議ではないのですが!
ともあれTwitterで当時の動きを確認すると、リリース当日はトレイラーやストアで確認できる映像およびビジュアルに対する警戒が、翌日からはシェア機能によるスクショや動画が感想と共に感想が現れ始めます。この時点においては、作品の完成度の低さとシュールさが話題の中心となってじわじわと口コミが広がっていく程度でした。
爆発的な広がりの決定打となったのはリリースから三日が経とうかという頃。作中BGMの盗用疑惑という問題が発覚してから一気にホットトピックとして拡散されたのです。そこからは曲以外にもゲームで使用されている様々なアセットにまで疑惑の目が向けられ、先の口コミと合わせてひたすらネタにされ続けるというサイクルに嵌ってしまい、いわゆるお祭り騒ぎの状態に。
事態を重く見たHUP Games Inc.が、リリースから五日後の7月6日にニンテンドーeショップでの本作配信を停止するにまで発展しました。なお、その配信停止がさらに話題を集め、以降もメディアでの記事化や動画サイトへの投稿、有名人による配信など様々な形で語られ続けます。流石に9月になる頃には、そういった騒ぎも比較的落ち着きを見せ始めましたが……。
そこからは、リリース後から現在に至るまでRTAプレイヤー達が本作の研究を続けることで根強い人気を得ました。完成度が低かったゆえRTAの余地が大きく存在していたことに起因はしていますが、これは本作にとっては幸せなことであったと言えるでしょう。2020年末のRTA in Japanにおいては最大同時視聴数が65,000人を越えるほどの盛況ぶりだったとのことです。
周辺事情その2:一気に話題になった結局の要因は?
そもそもスマホ版リリースの際はほとんど話題に上がっていなかった本作。それがひとたびニンテンドースイッチ版が発売された途端口コミが広がり始めた要因は、様々な要素が絡み合っており、単純にまとめることは難しいのですが、ざっくり括るなら以下の2つが大きいと思います。
- ニンテンドーeショップに並ぶタイトルに対する期待値が高いから
- ニンテンドースイッチの機能でSNS上のシェアが簡単に行えるから
BGM周りの問題は、火に油を注いだと表現すれば良いでしょうか、「そもそもの騒ぎに偶然加わった」という要素が強いためあえて外しています(それに伴う配信停止も同様)。作品自体が、それまでの時点で既に話題になっていましたからね。
さて筆者の普段のゲーム生活は、主にSteamストアを漂い、近日登場のタグに紐付けされたタイトルを眺めては購入してプレイするというもの。リストに並ぶそれらは当たり外れが本当に大きく、なかには「これゲームとして成立してるの……?」と言いたくなるようなものもしばしば。これはスマホアプリのストアにおいても同様のことでしょう。
その意味で、もしファイナルソードがこのSteamに並んでいたとしても、他の強力なタイトル(?)に埋もれて、ここまでの規模と早さで騒ぎにはならなかったと感じます。繰り返しになりますが、低水準のクオリティではあるものの少なくとも遊べるからです。
ただ気の毒なことに本作が並んでしまったのはニンテンドーeショップ。もちろんショップに並ぶ他タイトルがすべてAAA級とは言いませんが、それでも10段階評価なら最低でも6は超えているクオリティのものがほとんど。それに比べると本作は……申し訳ない、流石に見劣りしてしまいます。このことがかえって悪目立ちしてしまったのかもしれません。
周辺事情その3:アセットの使用について
せっかくなのでアセットを使用することの良し悪しについても触れておこうかなと。本作はアセットストアなどから購入した素材が積極的に使用されています。今回、BGMが問題となったのはそのアセットの中に他作品楽曲に酷似したものが含まれていたという部分ですね。これについては「有名タイトルの曲と知らずに使用してしまったというのはおかしい」など様々な意見がネットに散見されますが、そもそもの話として、そんな盗用を含むアセットが企業運営の素材サイトに紛れて販売されていたことなど問題の根っこが多岐にわたるので触れずにおきます。
筆者は素人ではありますが、製作者がそれらの素材を調理し、自分の血肉として取り扱えるのであれば存分に使用しても良いのかなとは感じます。もちろん先にも触れたBGM問題といったリスクも大いにありますが……素材を使用できる方が制作の負担が軽くなるメリットは確実にあるはずです。とはいうものの、素材ほぼそのままの状態で出されてしまうと、たちまちプレイヤー側の視点になり「せめて味付けなりして全体のトーンをまとめてくれ……」と思ってしまいますが……。
有志によって明らかにされた各素材を見ると、どのアセットもよく作り込まれていますし、何よりお値段がそこそこします。ひとつひとつを見る限り、全部を組み合わせて、オーソドックスなARPGの文法に乗せれば割としっかりしたゲームが出来そうだと思えるのですが……実際には文法には乗っているものの、なんとも気の抜ける演出や効果音など「どうしてそんな合わせ方を……?」といえる形にまとまったのが本作でした。
繰り返しになりますが、だからこそニンテンドーeショップの中でかえって悪目立ちしてしまったのかもしれません。そこへシェア機能のおかげでSNSへの投稿が簡単に行えることから、さらに早くより広範囲に広がったものだと感じます。
まとめ
さて総括です。本作のゲームとしての評価ですが、少なくとも壊滅的な破綻は無くプレイ可能ではあるものの、全てが低水準故に遊ぶためのモチベーション維持が極めて難しく、途中でプレイを断念してしまった作品でした。人におすすめできるかと言えば、申し訳ないのですが全くできません。
周辺事情については、不名誉な形でゲーム界に名を刻んでしまった本作。これは個人的に、BGM問題発覚の出る前後で、ネットでのいじられ方に変化があったように感じられます。というのも、上記でも少し触れましたがニンテンドースイッチ版リリース直後は、あくまでゲーム自体のクオリティについて言及され、そのシュールなプレイ体験が話題になっていました。
ところが問題発覚後は騒動とも言える状態で、「盗用問題のゲームだから」という理由で叩く人々も出てくるように。細かい反応ひとつひとつを見る限り一概には言えませんが「どんなに馬鹿にしても良いゲーム」というような扱いに振り切れていったと筆者は感じました。つまるところ炎上ネタとして瞬間的に消化されていったという感触です。
筆者もこんな記事を書いているので、程度の差はあれど同種の行為をしているとは重々承知の上ではあります。しかし、繰り返しになりますが、本作はあちこちの作り込みこそ甘いものの、それでもこうして完成品のゲームとして存在していることそのものが真剣に作ろうとした努力の結果だと思います。これは決して軽んじることのできないものだからこそ、最終的に心折れてしまいましたが、こちらもプレイヤーとしてこのゲームに食らいついていこうとコントローラを握ったのです。
良い点
・駆け引きの要素がある戦闘
悪い点
・低水準の演出
・無味乾燥なキャラとストーリー
・作業感の高いレベリング