日本語版の『スカイリム』が抱える問題点として、状況に合わない翻訳が多すぎることが挙げられます。世界への没入感が命と言えるオープンワールドRPGであるにも関わらず、文脈が繋がらないちぐはぐな会話や明らかな誤訳がどうしても目に付いてしまいます。今でこそ『ウィッチャー3』や『Ghost of Tsushima』など、プレイヤーの没入感を最大限に高めてくれる高品質なローカライズが出てくるようになりましたが、直近では『BIOMUTANT』が音声の録り直しをするなど、ゲームの面白さを大きく損ねる例も未だに後を絶ちません。一度プレイしたら絶対に分かるだろう、と言う声も尤もですが、ゲーム翻訳では一度もプレイできないことはざらです。大作になるほどゲーム全体を見て翻訳することが難しくなっていくのです。

オープンワールドのイベントでキャラクター同士を会話させる場合、スクリプト上ではキャラクターAの音声10番、その次にキャラクターBの音声30番、のようにに記述されます。台詞の翻訳をするときには、音声収録の都合上キャラクターAだけの台本、キャラクターBだけの台本という状態で渡され、どのイベントでどんな文脈で話されているかを参照することができないのです。
言わば、10万ピースのジグソーパズルの完成図も分からないまま、一つ一つのピースを分業で描いていくような作業をしているようなもの。いざ完成してみれば噛み合わずになんじゃこりゃ、となってしまうのも致し方ない状況なのです。この点では発売後から期限無くできる有志翻訳の方が分がありますね。
これでよく起きる問題が“Don’t you ~?”に対する返答の取り違えです。この否定疑問文を肯定する場合は「No」、否定する場合は「Yes」となり、日本語に訳したときの「はい」「いいえ」と真逆の意味になります。ですが、翻訳者は質問側の文を知らずに訳すしかないのでとても間違えやすいポイントです。

役者のパフォーマンスキャプチャを中心に構成されたものであればシーン別の台本もありますが、様々な分岐が発生する『スカイリム』のようなオープンワールドでは、完成形を確認するにも膨大な手間が発生するため、品質向上のための期間も予算もなかなか確保できません。ゲーム専門の翻訳業はまだまだ途上にあり、グローバル配信が盛んになった現在ではこれからもっと人手が必要になるでしょう。
ということで、次にスタッフロールを見るときにはローカライズ担当の項目をチェックして、我こそはと名乗りを上げるものはその会社の門戸を叩きましょう。
そう、これからのローカライズ業界を作るのは、画面の前のあなたたちです!(連載「有志日本語化の現場から」も併せてよろしくお願いします)
Reading -House Building

日本では厳しい耐震基準の関係もあって施工業者に頼むことも多いのですが、海外ではDIYで家を建てる「セルフビルド」も珍しくありません。『スカイリム』では第3弾DLC『Hearthfire』に含まれる要素として、設計をカスタマイズできる別荘をセルフビルドで建てることができます。建物から家具に至るまで文字通りオールDIYなので、資金も作業も膨大になります。
ともすれば飽きるような繰り返しの作業の時こそ、大事な語学のチャンスです。漢字の練習ドリルと同じように、慣れ、飽き、ゲシュタルト崩壊のプロセスによって記憶の回路を強固にする格好の訓練が行えます。さらに、単語帳で意味を覚えただけの学習よりも、ヴァーチャルでも機能を実践する「体験」が伴うので、使う英語を積極的に学べます。
それでは建材を集めるところからやっていきましょう。使用する主な建材は以下の3種です。

Sawn Log:挽いた木材
Cray:粘土
Quarried Stone:切り出した石
木材、土、石材と、ベーシックな素材ですね。単語を覚えるときには関連する語句、つまり連想できる周辺の言葉と連結させるのがとても大事です。「Log」(丸太)を伐るのは「Saw」、製材所は「Sawmill」、丸太を製材した板材は「Plank」、さらにチャットのログは丸太の「Log」が語源、と言った具合に、新しい言葉を覚えると同時に軸となる言葉のイメージを具体的にするのです。この連想ネットワークを媒介するのが自分の体験というわけです。ゲーム上では、まず材料がどこで入手できるかを覚えましょう。

Sawmill:製材所
Cray Deposit:粘土の溜り場
Stone Quarry:採石場、石切場
「Quarry」で石が採れるという「機能」を記憶する方が印象に残りやすいですね。単語と一緒に採取場所のロケーションも紐付けて覚えれば、思い出すときの引き出しを複数作れます。「Log」は街にある「Sawmill」の管理人に“I’d like to buy some lumber.”と申し出れば20本200 Septimで購入できます。ここでは「Log」ではなく「Lumber」(材木/不可算名詞)となっているのでご注意を。
建築には上記の建材の他に、金属製の部材が必要です。購入した土地に備え付けてある「Anvil」(金床)から「BUILDING MATERIAL」を選択すると鉄から制作できます。

Nail:釘
Hinge:蝶番
Iron Fitting:鉄の部材
Lock:鍵
母屋が完成しても家づくりはまだ終わりません。家財道具一切も自分で拵えなければならないというDASHなDIY修行が待ち受けています。調度品ぐらい街で買ってきちゃダメですか?

Container:収納
Cupboard:戸棚
Wardrobe:衣装ダンス、服の収納全般
Furniture:家具、調度品
Shelf:棚
Plaque:額、飾り板
Chandelier:シャンデリア
Celler:地下室
『AE』では地下室に「Aquarium」が設置できるようになりました。家を建てる過程で日常の身の回りにあるものの名前を覚え、すぐに使える語彙を増やせば、簡単な英語の会話で詰まることは減らしていけるでしょう。難しい文を読むことよりも先に、自分が当たり前に触れているものをさっと言い表すことが、英語を「使える」手応えを得る近道です。
今週の衛兵さん:もしかしたら自分はドラゴンボーンで、まだそれに気がついていないだけかもしれないと考えることがある。

Got to thinking, maybe I’m the Dragonborn, and I just don’t know it yet.
スカイリムとは縁の無かった主人公がドラゴンボーンだと判明し、もしかしたら思わぬ人物、万が一にも自分がドラゴンボーンの可能性がなきにしもあらず、と想像が止まらない衛兵さん。スーパーヒーローの力はある日突然目覚めるのがお約束です。
練習問題:次の台詞を訳しなさい。

Could you call yourselves Nords if you ran from this monster? Are you going to let me face this thing alone?
最序盤で出くわす変な訳文「この怪物から逃げたらノルドと名乗れ。ドラゴンに殺されろっていうの?」の原文です。盛り上がるタイミングなので余計印象に残り、未だにネタ扱いされています。元はカッコいい台詞なので、イリレスさんの力強い鼓舞を表現しましょう。