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「我々が普段目にしている現実とは違う世界が存在する」
だいたいみんな引くけれど、ある種の人々はそう言う。いくつかの人間は違う世界の存在を観ることができて、時には行き来さえしているらしい。
まさしく今月リリースされた『Dusk Diver 2 崑崙靈動』(以下、Dusk Diver 2)はそういうアクションアドベンチャーだ。実在する台湾の都市「西門町」を舞台に、主人公である大学生の女の子、ヤン・ユモたちは別の時空である「酉閃町」へ行き来し、 “厄禍”と呼ばれる敵と闘ってゆく。
本作は台湾の街を歩くことを楽しみつつ、バトルしていくことが魅力のゲームだ。一方で「現実に超常的な存在が現れた時、もしかしたら、その場所に何か危機を知らせるサインとなっているのではないか……?」ということも考えさせるタイトルなのである。
今回『Dusk Diver 2』をよりリアルに考えるため、 “普段目にする現実と違う世界”を見続ける専門家・UMA研究家の中沢健氏にインタビューを打診。中沢氏が拠点としている西調布を歩きながら、現実の街で起こる超常現象の可能性についてうかがった。
どこにでもあるような町に“動く待ち合わせ場所”の研究家が立つ
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「違う世界を見ている」らしい人物は、 西調布の穏やかな雰囲気を切り裂くように立っていた。
『Dusk Diver 2』の主人公、ヤン・ユモは大学生でありながら異世界に行き来することができる女の子だが、闘う時以外は普通の学生といったルックスである。しかし中沢氏は“動く待ち合わせ場所”という異様な被り物と、体中に張り紙を身に着け、あからさまに現実とは違うものを見ていることをアピールしていた。
Game*Spark取材班は初めて中沢氏を目にしたとき、失礼ながら異様さに震えが止まらなかった。……が、一言挨拶をすませ、お話をうかがっていくと、彼の話しぶりは、極めて冷静かつ、むしろギリギリのところで一線を引いているものだった。
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——(ちょっと怯えながら)中沢さんはビデオゲームをプレイしますか?
中沢:昔はやってました。私は1981年生まれなのでファミコン世代になりますかね。みんなファミコンを持っていたんですけど、私の両親は買ってくれない教育方針で(笑)、やりたくてしょうがないので友達の家でプレイしていました。
中高生くらいのときにはゲーセン通いをしていましたね。一番やっていたのはカプコンの『ヴァンパイア』シリーズです。使えるキャラにUMAのサスカッチがいるんですよ。UMAで格ゲーができるのは嬉しかったですね。
——おお……ゲームでもUMAは外せないんですね。『Dusk Diver 2』についてはどう感じましたか?
中沢:やっぱり台湾と日本では、ゲームやアニメを好きな人が好むキャラクター設定が近いのかなと。
——台湾は日本のカルチャーの影響が大きいのもあるのかもしれません。
中沢:日本でもあまり知らない方が多いんですけど、実はUMAって言葉は海外で伝わる国はそんなにないんですよ。というのも、UMAっていうのが日本で作られた和製英語だからです。
ただ調べていくと、台湾では日本のUMA本もそのまま訳されて、流通しているんですよね。だから台湾もオカルト文化のバックボーンは日本と近いのだろうなと思っています。
“文化発信地の都市”には霊が集まる
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——さて「Dusk Diver 2」とは台湾の西門町を舞台としたアクションアドベンチャーです。西門町は、日本で言えば渋谷や原宿に近く、最新の文化発信地として親しまれている街なんですね。
この街に “厄禍”と呼ばれる脅威が現れます。主人公ヤン・ユモたちはそんな脅威と闘うために、西門町と違う次元である「酉閃町」へ向かって闘うことが、主なゲームの流れになっています。
そこで中沢さんには、西門町における酉閃町のように、現実の都市で起きる異様な超常現象についてうかがえないでしょうか。
中沢:僕の知り合いの霊能者が、日本全国の霊にインタビューをやったことがあるんですよ。
そこで霊に「どの町に住みたいか?」と聞いてみたんです。その時の1位は渋谷だったんですよ。
——な……なんだってー! ……埼玉県や群馬県の霊が回答してそうですね。
中沢:霊の中では人気のある街なんです。実際、渋谷ってすごく霊の目撃談が多いんですね。スクランブル交差点をわーっと人が歩いているところに、何人か霊が混じっているそうです。
どの町もそうかもしれないけど、ぱっと見は普通の人と見分けがつかないような霊がたくさんいます。渋谷は人がうじゃうじゃいるので、霊を気にしてない人が多いんじゃないかと思いますね。
——意外なくらい都市に溶けこんでいるんですね。
中沢:これも霊感のある人が何人か言っていたんですが……意外と幽霊というのはミーハーだって話があって。
——ええっミーハー!? でもよく考えると元々人間ですからね。
中沢:吉本興業が “住みます芸人”という、全国各地でいろんな芸人さんが住む企画をやっているのですが、その中にすごく霊感のある方がいるらしいんですよ。
その方は、地方の県でも有名人が来たらすぐわかるのだと。なんでかというと、霊ってすごくミーハーだから有名人を見に行くからです。
霊って空を飛ぶこともできるんですね。霊感がある人がスターを見たら、その周りはいわば霊のタワーみたいなものが見えるらしいんですよ。大量に霊が集まっているのです。
——なんだか、ペンライトとか持っていそうな霊もいそうですね。
中沢:その方は、あまり人の住んでいない県の住みます芸人だったんですが、あるとき、知り合いとお茶をしていたらすごい霊のタワーが見えたそうです。「誰か来てる!」って見に行ってみたら……笑福亭鶴瓶さんが来ていたんです。
——すごいですね。鶴瓶さんは霊に連れて行かれないですかね?
中沢:(笑)。こういう話っていろんな人から聞くんです。よく聞く “芸能人にはオーラがある”っていうのも、あれは実はミーハーな霊がいっぱい集まっているのをそういうふうに感じているんじゃないかって思っています。
——その話を聞くと、最近日本ハムファイターズの監督に就任した新庄剛志さんはスカイツリーくらいの霊のタワーができていそうです。
中沢:すごく霊が集まっているんだと思います(笑)。これもよくある話で、お店に幽霊が出ると嫌がる人もいるし、実際によくないこともあるんですが、「霊も集まらないお店は繁盛しない」という説もあるんですよ。
もちろん霊もいろいろあるので、本当にタチの悪い霊もいると思うんです。実はあまり公にされていないだけで、賑わっている居酒屋ってバイトの人に話を聞くと、「霊がいっぱい出る」というエピソードはいくらでも耳にします。
——霊も新年会とかに混ざりたくなるのかなー、と考えさせられますね。
中沢:だから人も集まるところって、霊も集まるんですよ。霊って必ずしも悪いものじゃないので。
——人が集まりやすい都市には、良くも悪くも霊が訪れやすいんですね。
中沢:逆に、霊が集まっている場所だから人も集まっているという側面もあると思います。
——『Dusk Diver 2 』の西門町に集まる厄禍も、人の集まる場所ゆえに怪現象が見えている……ということですかね。
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中沢:関連する話題ですが、アメリカではけっこう都市部でもUMAの発見報告があるんですよ。最初は地方で発見例が多かったものでも、気が付くと都市部でも見られるようになってくるという。例えばモスマンと呼ばれるUMAが、アメリカでも街中で目撃されています。
サブカルチャーの街には妖怪が集まる!?
——渋谷もいろんなゲームの舞台になりますが、お話をうかがうと超常的な存在って身近なんですね。
中沢:それに近いことで、さっきの都市の話に引き付けてお話すると……中野にもすごく妖怪が集まっています。
——な……なんだってー! サブカルチャーの街、中野に!? 妙に納得感が……。
中沢:もともと霊の話は東京のどこにでも多いのですが、最近は中野が特に多くて。さっきの話の流れでいうと、 “てんぐ”っているじゃないですか。
漢字で “天狗”って天のコマイヌと書くように、本来は人型の鼻の長いものじゃないんです。もともと中国のほうでは流星みたいなものですし、日本の妖怪で近いのは雷獣みたいな、獣的な姿の妖怪だったんです。いまは赤い鼻の人型のものしか連想しないと思いますけど。
その天狗が、中野駅から中野ブロードウェイのある商店街のほうに歩いていくのを見た人が複数いました。……天狗は、日本のアニメやフィギュアとかに興味を持っているんじゃないかと。
——天狗ってそこそこ神秘的なイメージありますけど、それミーハーオタクなムーブでは……。
中沢:まあブロードウェイ方向に行ったってだけでは決めつけられないですけど(笑)。
結局、人型の物って魂が宿るっていうじゃないですか。人形と聞いても、なんとなくイメージや先入観で、日本人形みたいなものしか思い浮かべないですけど、アニメキャラのフィギュアも人型として同じような役割があると思います。
あれだけいろんな人形が集まっている場所は、やっぱり変なものを呼び寄せちゃうんじゃないか?という説もありますね。
——秋葉原に向かうわけではないあたり、中野っぽいとも言えますね。
中沢:他にも僕が中野に2人で住んでいる夫婦を取材した時にこんな話をききました。
「何かが通ると、センサーが反応して光るおもちゃ」があるじゃないですか。それを夫婦が部屋に置いていたら……誰もいないのに、時々反応があったそうです。
——ええ!? ペット飼ってるとかじゃないですよね?
中沢:一応、おもちゃメーカーに故障なのか問い合わせしたそうなんです。ただ、メーカーの方が言うには「そういう故障のケースはない」とのことで、詳しく状況を説明しても、メーカーの人も分からなかったと。
そんなある日、奥さんが家に帰ってくると、レシートの裏側に「ママありがとう」と書いてあったそうです。
——旦那さんの気まぐれとかではなく?
中沢:それが本当に子どもが書いた字でした。僕も見せてもらいましたが、2人にはお子さんもいないので、誰が書いたのかもわからなくて。なので、座敷童子が住みついているのではないかと。
ちなみに旦那さんはYouTuberでシャレにならないくらい稼いでいるんですよ。奥さんは「座敷童子がいるから、旦那がうまくいっているのでは」と解釈しているようです。
——すごい! 我々にも座敷童子が来てほしいですよね。
中沢:さらに中野には色々と話がありまして……。日本の妖怪が力を合わせて、古代バビロニアからやってきたダイモンと闘う「妖怪大戦争」という映画があります。
オリジナルは1968年公開の古い映画なのですが、最近になって、中野のマンションの屋上にダイモンらしきものが立っているのが写真に撮られています。……写真はこれですね。
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中沢:もしかしたらダイモンがいるから、中野に妖怪が集まっているんじゃないかとも分析できますね。
——映画だと日本妖怪と西洋妖怪は闘いますけど、現実だと日本妖怪も集まっちゃうんですね。
中沢:きっと、ダイモンと戦うために日本妖怪が集まってきているんですよ。他にも「ピザを持っている足の無いおばちゃん」だとか、僕らも知らない新種の妖怪の目撃もかなり多いんですよ。
——新世代の妖怪が集まっていると。
中沢:そうですね! 古い妖怪から新しい妖怪も、空想上の存在もみんな中野に集まってきているんです。
超常的な存在に出会いやすい場所とは?
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——(西調布を歩きつつ)都市部の事例をうかがいましたが、こういう都市部から離れた郊外でも、超常現象や霊の存在がわかりやすい場所ってありますか?
中沢:どんな町でも、不思議な話自体は調べていけば出てきます。色々な町で「こういう場所では不思議なことが起きやすい」という共通点もあるんですよね。私が調べた限りでは、街の構造と超常現象が起こる割合には、どうやら関係があるみたいです。
——意外に街の構造をチェックすると、地元の超常現象も見えてくるのでしょうか。
中沢:(道端の駐車場を見ながら)よく聞くのが、駐車場には不思議なことが起きやすいという説ですね。
なんでかというと、駐車場になる場所はなんらかの理由で建物が作られてこなかった場所でもあるからです。その場所の歴史を調べていくと、結構ダークな事件が起きていることもありします。
その場所が駐車場になったことで、かつて何かがあった場所だとみんな意識せずに近づいてしまうから、不思議なものを見てしまうんです。
——ちょっとこのインタビューの帰りに、地元の駐車場をしげしげ見てしまいそうになりますね……。霊やUMAのような超常的な存在が現れる時って、なにか条件もありませんか。
中沢:よく言われるのが「水が多い場所は不思議な事が起こりやすい」ということです。UMAの発見報告で海や湖が多いのはそれが理由です。都市部ではプールとかが該当しますね。この傾向は霊にせよUMAにせよUFOにせよ変わりません。
——たしかに西門町の近くには大きな川が流れています。西には台湾三大河川の一つである淡水河という川があって、『Dusk Diver2』本編にも深く絡んできます。
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中沢:水がたくさん集まっているところは異界との入口ができやすいと言われています。不思議なものを見たければ、水場の近くにいったほうがいいと。
——そういえばメインキャラの一人、リ・ヴェーダは淡水河の底に住む異次元人として描かれていますね……なぜ水のあるところで不思議なことが起きやすいのでしょうか。
中沢:「宇宙のことより、海の底のほうがわからないことが多い」っていうじゃないですか。多分まだまだ私たちのわからないものが水中に潜んでいる、ということなのかもしれません。
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中沢:(西調布駅を指して)あとはこう言う場所もそうですね。
——えっ、駅と電車ですか!?
中沢:駅ってだいたい怪談のひとつやふたつあるじゃないですか。だからオカルトを調べている人って、「電車になにかあるんじゃないか?」と考えちゃうんです。都市伝説でよく聞く「知らない駅に降りてしまう」という話もやっぱり電車が関係しているので。
——鉄道関連ではどんな超常現象が……。
中沢:これは諸説あるんですが、「山手線は時空が乱れやすくなっている」という都市伝説があります。山手線に乗っていると、よく知らない世界に迷い込んでしまう、みたいな体験談が重なったことが原因だったと思います。
——ヤン・ユモたちは駅の構内から別の時空である「酉閃町」へ移動するシーンもありますけど、そんな怪談に繋がるところがありますね。
中沢:電車=近代的というイメージもありますが、意外と不思議な話が多いんです。たとえば妖怪的なものって、あんまり科学的だったり、都市的な要素だったりと接点がなさそうに思いますよね。
ところが妖怪の総大将と呼ばれ、ご存知の方も多い“ぬらりひょん”を電車の中で見たって人もいました。
——ええ……。
中沢:並木伸一郎さんという「ムー」などにも寄稿しているオカルト界の大御所ライターの方が、一時期少年野球チームの監督をしていたのですが、そのチームの関係者が電車の中で見た……とのことです。
しかも明らかに漫画とかに出てくるような、ぬらりひょんだったらしいのです。だから見てすぐに分かったのだと。だけど周囲の人は何も反応していなくて、もしかしたらその人にしか見えていなかったのかもしれません。
そのぬらりひょんが、渋谷駅で降りていったのを見て「妖怪たちも都市部に寄せられているんだなあ」と思ったのだそうです。
——あの……こう言ってはなんですが、ぬらりひょんに似ている方ってそこそこいませんか? お年を召した方とか、千鳥の大悟さんとか。
中沢:(笑)すごく後頭部が膨れ上がった、見るからにぬらりひょんだったと。妖怪って不思議で、歴史を遡っていくと本来の見た目と違っていたりするんですよ。
——ああ、時代ごとに姿が違うと。
中沢:だから本当に妖怪がいるなら、元の見た目の方なんじゃないかって考えちゃうんですけど、今の人が見るのは姿・形が時代とともに変わっていった後のものが圧倒的に多いです。
——なぜ鉄道関係でそんな超常的なものが出てきやすいんでしょうか?
中沢:山手線って路線をぐるぐる周るじゃないですか。オカルトの世界では「円を描く」というのが、なにかを召喚するんじゃないかと言われているんですよ。
UMAでいうとスカイフィッシュという、高速で飛び回る未確認生物がいます。これも輪っかを作ると、勝手にその中を飛んで来るらしいんですね。円を描くということに、何か意味があるのではないでしょうか。
——ここまでのお話をまとめると、「円」と「水」が超常現象が現れるポイントのように思えます。……あと駐車場もですけど。
中沢:そういったものが不思議なものを引き寄せる可能性はありますね。