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インドネシア製MOBAは異国情緒がスゴい!ヒンズーの神々や女性独立闘士が集う戦場『Lokapala』の魅力とは

神々や実在の人物が集合するMOBA『Lokapala』……いわゆる“ヒーロー”は“クシャトリヤ”と呼ばれ、どれもこれもインドネシアらしい個性が爆発しています。

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近年、インドネシアは素晴らしいゲームタイトルを輩出するようになりました。先日急逝したムハンマド・ファーミ氏の手がけた『コーヒートーク』はその最たるものですが、オンラインでプレイを競い合うゲームにおいても斬新なタイトルが登場しています。それが本稿で紹介していく『Lokapala』というMOBA作品です。

日本では知名度が皆無のこのタイトル……もしかしたら、数年後には「黒船」と化して日本に来航するかもしれません。

ゲームと保護貿易主義

今年3月から4月にかけて、インドネシアで「Lokapala Jawara Nusantara」という全国大会が開催されました。これは、インドネシア全土43都市から215チーム1,075名の選手を集める大規模イベントで、彼らは自宅もしくは地元のコワーキングスペースから試合に参加。中央政府の各省庁が後援として名を連ね、オンライン・オフラインの両表彰式には海事・投資担当調整大臣、国営企業大臣、観光・創造経済大臣も登壇していました。

競技タイトルの『Lokapala』は、同国のゲームデベロッパーAnantarupa Studiosが開発したスマホ向けMOBA。iOS/Androidを対象にリリースされています(インドネシア国内向け)。

この『Lokapala』には、インドネシア中央政府から大きな期待がかけられています。なぜなら、インドネシアは保護貿易主義を掲げているからです。同じスマホ向けMOBAの世界的タイトル『リーグ・オブ・レジェンド:ワイルドリフト』にしろ『モバイルレジェンド: Bang Bang』にしろ、インドネシアから見れば「外国製品」なのです。若者がこれらのタイトルに熱狂している現状は、中央政府としてはあまり好ましいことではありません。

保護貿易主義とは、一言で言えば「輸入削減、輸出増大」。その方向性に当てはめると、ソフトウェア分野の供給も極力国内で賄わなければなりません。それと同時に、中央政府は「インドネシアの文化をゲームに盛り込むこと」を推奨しています。

個性的な「クシャトリヤ」

バリ島に一度でも旅行したことのある人が『Lokapala』に触れると、旅の思い出がはっきり蘇るはず。なぜなら、フィールドもミニオンもプレイヤーキャラも、バリ島でよく見かける神や精霊、自然、建築様式を模しているからです。

バリ島は今でもヒンズー教徒が多数派で、街のあちこちに祠や寺院が存在します。そもそもインドネシア自体、イスラム王朝が台頭する15世紀までヒンズー教が信仰されていました。故にジャワ島やスマトラ島でもヒンズー由来の風習を確認できるのです。

特徴的な要素をひとつ挙げると、『Lokapala』のプレイヤーキャラは「クシャトリヤ」と呼称されます。『LoL:ワイルドリフト』の「チャンピオン」、『モバイルレジェンド:Bang Bang』の「ヒーロー」に該当するものです。

「クシャトリヤ」とは、元々はバラモン教の社会階層のひとつ。日本で言うところの「武士」であり、ヒンズー社会でもクシャトリヤは支配階級を指す呼称。『Lokapala』では単純に「闘士」や「戦士」という意味合いで使われています。

このクシャトリヤの顔触れは極めて個性的。イスラム王朝成立以前のインドネシア文化を表しているようなキャラはもちろん、「異文化の合一」を体現しているキャラもいます。たとえばファイターの“Guning”は、中国拳法の使い手とシラット(ジャワ島の古武術)の使い手が2人1組で戦うという設定。

これはマジャパヒト王朝の宗教政策「Bhineka Tunggal Ika Tan Hana Dharma Mangrwa」を反映させています。この政策の名は古ジャワ語であるため、日本語に訳すのは非常に難しいのですが、意味としては「異なる文化の真実はひとつ。故にこれは同じもの」といったところ。「Bhineka Tunggal Ika」の部分は現代のインドネシアの国是になっていて、こちらは「多様性の中の統一」と訳されています。

異なる文化、異なる出身背景の2人が力を合わせて同じ目的に突き進む……そのようなインドネシア国民の理想を、ゲームの中で実現しているのです。

「忘れられた英雄」が登場!

『Lokapala』の中で最も「インドネシアらしい」キャラは、マークスマンのNioかもしれません。

彼女はインドネシア独立のために銃を取って戦う女性兵士。300年に渡る宗主国の圧政から祖国を解放するため、Nioは自分の意志で独立軍の連隊に入隊しました。その連隊では彼女が唯一の女性兵士。Nioは隊列の中で叫びます。「独立万歳!」と――。

前述のGuningが「国是の象徴」なら、Nioは「愛国心の象徴」と言えるでしょう。そしてNioは、実在の人物なのです。中部ジャワのウォノソボ出身のSin Nioは、スカルノ指揮下の連隊で唯一の女性兵士として戦っていました。男性兵士と同じ制服を着て、男性としての偽名も持っています。

ところが、中国系かつ女性だったことで戦後は差別を受け、国からベテラン(退役軍人)とは見なされなかったのです。これは国庫から年金が出ないことも意味します。故にNioは、ジャカルタでホームレス同然の生活を送っていたこともありました。

彼女がベテランに認定されたのは1981年。そして彼女の功績がインドネシア国民に広く知られるようになったのは、今からほんの2年ほど前の話。メディアがNioについて一斉に報じるようになったこと、そして人気女優ローラ・バスキが舞台でNioを演じたことが大きく作用しました。そして現在、Nioは『Lokapala』で画面狭しと戦っているのです。

細部に至る作り込み

『Lokapala』のゲーム性は、他のMOBAとそうかけ離れているものではありません。「本拠地から延びる3本のルートにそれぞれ3本のタワーがある」という点は『LoL:ワイルドリフト』や『モバイルレジェンド: Bang Bang』と変わらないでしょう。

ただ、『Lokapala』の場合は大逆転要素が見受けられない代わりに「粘り強い防衛」ができると筆者は感じました。タワーからの攻撃がかなり強いため、それを上手く使えば不利な状況を少しずつ取り返せます。なお、アイテムは『LoL:ワイルドリフト』のように本拠地でなければ買えないものではないため、HPさえあれば必ずしも本拠地に戻る必要はありません。

とにかく、このゲームは細部まで綿密に作り込まれているのです。ミニオンは可愛らしいデザインで、ネット接続が不安定な時も彼らが登場して「Menghubungkan(接続中)」と表示を出してくれます。

ただし、『LoL:ワイルドリフト』や『モバイルレジェンド:Bang Bang』のように世界各国に多くのプレイヤーを抱えているというわけではないため、マッチングには時間がかかりあます。インドネシア西部時間(ジャワ島のタイムゾーン。日本より2時間遅い)の平日日中にソロで入ると、それをよく実感できるでしょう。

インドネシアという国は、冷戦時代には日本と同じく西側諸国の一員でした。ハリウッド映画が盛んに上映され、人々のファッションやライフスタイルもアメリカナイズされました。それと引き換えに、地場産織物や染物を使った服飾や伝統芸能が日陰に追いやられてしまい、「伝統様式は時代遅れでダサい」という認識が広がっていきます。

しかし、「多様性の中の統一」は近代になっていきなり出てきた発想ではなく、上述の通りマジャパヒト王朝から受け継いでいるもの。そしてバティック(ジャワ島のロウケツ染め)や建築様式、独特の美術観や宗教観はすべて「多様性の中の統一」とつながっています。この部分こそ、「インドネシアの文化をゲームに盛り込むこと」を中央政府が推奨している最大の理由でもあります。

現代にまで繋がる歴史と文化、一風変わったテイストでありながらもよく作り込まれたMOBA『Lokapala』。その背景には、多民族国家ならではの事情が見え隠れしています。国内からのプレイにはハードルがあるものの、公式Webサイトではそのユニークな特徴の一端がうかがえるので、MOBAジャンルを好む方は必見です。


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《澤田 真一》

ゲーム×社会情勢研究家です。 澤田 真一

「ゲームから見る現代」をテーマに記事を執筆します。

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  • スパくんのお友達 2022-05-16 1:29:10
    頑張って欲しいんだぜっ!
    2 Good
    返信
  • スパくんのお友達 2022-05-15 18:24:36
    こういう設定面に異国情緒あふれるゲームはすごく惹かれるし、
    それを教えてくれたこの記事にも感謝しかないけど
    英語とスラスラと読む学がないためスルーというオチ・・
    なにとぞローカライズを(平身低頭
    9 Good
    返信
  • スパくんのお友達 2022-05-15 3:15:19
    せっかく見慣れない所からもガンガンゲームが出てくる時代になったんだから、日本人が知らないような歴史や文化もバンバン出してほしいところ
    大量に出せば一つくらい定着するものも現れるかもしれん
    21 Good
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