バトロワやFPS、オープンワールドなど、現実と見紛うリアルなグラフィックを売りにする大作ゲームが溢れている世の中。だからこそ、かつて慣れ親しんだ思い出深い、温かみのあるゲームにノスタルジーを感じている人も多いのではないでしょうか。
今回は、PS2向けシミュレーションRPG『ラ・ピュセル 光の聖女伝説』をベースにしたSteam向け移植版『ラ・ピュセル†ラグナロック』を実際にプレイして本作の魅力を紹介していきます。
『ラ・ピュセル†ラグナロック』とは
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およそ20年前に、PlayStation 2版が『ラ・ピュセル 光の聖女伝説』として発売され、さらに2009年に数々の新要素を添えて開発されたPSP版が本作の基となっています。
丸みのある可愛らしいデザインやデフォルメされたドット絵、その後の『魔界戦記ディスガイア』に続く、特徴的なシステムを持つシミュレーションRPGです。
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独特の世界観やユーモアを下地に、光の聖女を信仰する「聖女会」の一員にして悪魔祓いのシスター「ラ・ピュセル」の新人である2人の姉弟、プリエとキュロットを中心に笑いあり涙ありの物語が展開します。
主人公プリエをはじめ、うら若い聖女でありながら、健康的な美脚に黒のパンストという罪深いハレンチ修道女たちも個人的な見所ではありますが……『魔界戦記ディスガイア』シリーズに触れたことがない筆者でも楽しめる奥深いシステム、時の洗礼を受けて分かる納得の面白さ、そして本作の他にはない個性が傑作たらしめる理由なのだと痛感しました。
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Steam版の本作では、マウスキーボードはもちろん、従来のクラシカルなパッド操作にも完全対応。オーディオや各種ゲーム設定のほか、音声を日本語と英語から選択でき、オプション画面で流れる祈りの言葉は日英ともに全く違和感のない出来でした。
20年前は若手だった大御所声優も名を連ね、吹き替え派の筆者としては、だいたい知っている方ばかりの豪華出演なのは嬉しいかぎりです。
可愛い顔に祈りと願いを込めたストーリー
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女子のパンスト描写に舌鼓を打ちながら、昔話で語られるオープニングであらすじを確認した後、さっそく本編に突入します。
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幼くして両親を亡くす悲劇に見舞われたプリエは、弟のキュロットと二大教会のひとつである聖女会に入り、いつか光の聖女になることを夢見る年頃の少女です。
シスターとして確かな実力を持つ姉貴分のアルエットを交えた3人でパーティーを組み、聖女会の“ラ・ピュセル”として、事件を地道に捜査して解決することが基本的な流れです。
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ストーリーは大まかに区切られたエピソード形式となっており、プリエたちが辿った道筋によって細かく分岐します。「スペシャル」「グッド」「ノーマル」「バッド」など4種類の異なる結末が存在し、各話クリア時の報酬に影響しますが、たとえ残念な結果に終わったとしても物語は続きます。
普段はキャラクター同士の軽快でノリの良いやり取りがあるだけに、たまに挿まれる暗さが相応のギャップとなって、光と闇のバランスを保ちながら物語を昇華するスパイスになっていました。重要な会話パートはフルボイスになっているので、クリアだけでなく、実力派声優の演技を余さず堪能するためにも完璧な事件解決を目指しましょう。
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濃ゆいキャラクターの人間性がドラマを作る
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女性や子供でも楽しめそうな本作の柔らかい雰囲気と、メリハリのある物語は、極端なほどに個性化されたキャラクターが支えています。走り出したら止まらない関西のドツキ漫才のような勢いと、東京芸人の知的で洗練された皮肉を併せ持ち、それをマンガ的表現で味付けした掛け合いも本作の特徴です。
がさつで粗暴なプリエ、敬虔で規律正しいアルエット、そんな正反対の女子2人の板挟みとなって苦労するキュロットたち。分かりやすい性格と構図で無駄を省き、キャラクターの深みを一点に落とし込んで、正面から魅力を訴えかけてきます。
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また、ゲーム内のキャラクターは比較的頭身の長いピクセルアートで描かれ、豊富なフレーム数で滑らかなアニメーションを実現。フレームレートが120はありそう……というのは筆者の感想ですが、まばたきや息遣い、何通りもの向きやポーズも含めて髪の影に至るまで作り込まれていました。
ウィンドウに表示される顔画像にも差分があり、伝統的なRPGスタイルを保ちながら、当時すでに発展を見せていた3D作品にも劣らない完成度が本作にはあります。
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敵を弱くして自分は強くする連鎖バトル
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本作が『魔界戦記ディスガイア』の始祖と言われる所以は、レベル9999や万単位のカンストダメージなど、やり込みを見据えたバトルシステムです。
そういうと難しく聞こえますが、筆者のプレイ時間ではレベル6が限界だったものの、1周目の時点では相手も同じくらいの強さでした。RPGとしては情報量も多いのですが、コマンドを選んで戦ってレベルが上がるという基本は踏襲しており、ターン制なのでじっくり考えながら作戦を立てられます。
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本作独自のシステムとして「浄化」や「不浄点」といったものがあり、バトルマップ上の水流のような「闇の地場」の影響を受け、状況が流動的に変化します。それを生じさせる不浄点を浄化することで、地場にいる敵にダメージを与え、味方の場合は再行動が可能に。連鎖させれば、ターン内により多くの行動を実行し、戦闘を有利に進められます。
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さらに、浄化コマンドはモンスターに直接行うことができ、根気よく重ねることで仲間にすることが可能です。強力な敵ほど仲間になったリターンは大きく、プリエたちと同じように成長し、レベルアップで技を覚えることもあります。
モンスターには、それぞれ開発陣のウィットに富んだランダムネームがあらかじめ用意されており、時に剣となり盾となる彼らに愛着を抱かずにはいられないでしょう。
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およそ5時間のプレイでは、ちょうど第1話を終えて、苦労の末にクマを仲間にしたところで終了。あまりに眩しいミニスカシスターも然ることながら、やはり、なんといってもキャラクターの存在感が秀逸です。程よい手応えのバトルもあり、旧作とはいえ、『ラ・ピュセル†ラグナロック』は飲み頃の20年物でした。
筆者は『魔界戦記ディスガイア』シリーズ未経験でしたが、昔の同僚に「ディスガイアは神ゲー」と胸を張って主張していた人物がおり、本作をプレイした後は彼の言葉が嘘偽りのない真実だったと実感しています。
2023年には『魔界戦記ディスガイア7』の発売が予定されていますが、本作を開発した日本一ソフトウェアは他にも独自色の強い作品を精力的にリリースしており、筆者も気になるゲームが増えて忙しくなりそうです。
『ラ・ピュセル†ラグナロック』のSteam版は、8月31日から配信中。本作のデジタルアートブック、『マール王国の人形姫』のほか、日本一ソフトウェアの作品が複数同梱された各種バンドルも配信されています。
タイトル:ラ・ピュセル†ラグナロック
対応機種:筆者がプレイした機種:PC(Steam)
発売日:2022年8月31日
記事執筆時の著者プレイ時間:5時間
価格: 2,178円