2010年の『ゼノブレイド』から12年、シリーズの一区切りとなる『ゼノブレイド3』がリリースされました。先日発表のThe Game Awards 2022においてThe Game of the Yearにノミネートされ、傑作との呼び声高い評価を得ています。巨神や巨獣の上の広いフィールドを駆け巡り、世界の創造を巡る壮大なストーリーは本作に於いても健在で、『1』『2』の世界も巻き込んださらにスケールの大きい物語が展開します。
今回も順当に行けばクリアまでに100時間はかかる特大ボリュームですが、「最近は長時間にわたってゲームを遊ぶ気力がない」ということで敬遠している人もいると思います。しかし、本作はそんな人にこそぴったりな作品であると言えるでしょう。1回30分ずつのプレイでも物語が前に進む、その心地よさが「胃もたれ気味」のあなたにきっと優しく染み渡ります。
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『ゼノギアス』から続く「ゼノ」を関した作品群は膨大なイベントシーンが特徴で、本作に於いてもストーリードリブンの方針が現れています。事前情報で「約150時間」のボリュームとあり、メインストーリーを駆け足で追っていけば約50時間、ノーマルクエストが約100時間と、大作RPGの規模としてはちょうど良い案配です。
近年にリリースされたRPG作品の中でも、『ゼノブレイド3』は「ダレる時間」が一番少なかったように思います。というのも、やはり「お使い」がほとんど無かったのが大きいでしょう。本作ではRPGにありがちな困っている人を助けて感謝されて終わり、はほぼ無くなり、アイテム収集をいつでも納品できる「コレペディア」に集約されました。そして、クエストはコロニーそれぞれの変化に関わる大きなエピソードとして、どれをとってもエモーショナルな場面があるようにしっかり練られています。
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アグヌスとケヴェス、それぞれに属していたコロニーが解放されることで、陣営を越えた交流が発生する。シリーズで踏襲されたキズナグラムは、「ノーマルクエスト」を進めていくことで人々の繋がりが広まっていくのを一目で確認できるので、エリアの枠をあまり超えなかった旧作よりもやりがいを感じられます。
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私たちがいわゆる「JRPG」に期待しているものは、ただ単にキャラクターが強化されていくのではなく、少々大げさでもキャラ立ちした登場人物が戸惑ったり悩んだりして心が揺れ動く「エピソード」です。「お使い」は、正直に言ってそれが全くありません。よっぽどキャラが濃くなければ強化のためのタスクでしかなく、初対面の相手からフルボイスで延々身の上話を聞かされても、それが物語的な面白さに寄与することは一切無いのです。
報酬をもらってキャラが強くなっても、プレイヤーにとってはただの埋め作業。そういう「タスク」を大量に用意することが、RPGにとってのボリュームであっていいのだろうか?本作の方針は改めてそう問いかけているように思えます。
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「ノーマルクエスト」でコロニーの信頼を得ていくとフィールド探索が多少有利になる効果を得られますが、基本的にはわかりやすい魅力的な報酬をもらえることは少ないです。システム的に強力な武器を必要としないせいもありますが、混成部隊のノア達は歓迎されないボランティアとして、コロニーの信頼を得るために助太刀します。
戦闘の鍵となるクラスを覚えられるのは、各コロニーのリーダーにあたるヒーローから信を得たときのみ。それ以外は経験値と能力がある程度上がるアクセサリーくらいです。お金も大抵余っているので、わざわざ稼ぐ必要も無いでしょう。
ですから、本作においてプレイヤーがサブイベントを進める理由は、“キャラクター強化”としてではなく“そのコロニーの住人の物語を見たいため”になると言えます。一度刃を交え、命の火時計を壊してから後、生きるために頑張っている彼らの「エピソード」がしっかり描かれていなければ、面倒になってメインをさっさと進めていたでしょう。仲間になったヒーロー達が抱えている悩みや心配事を解決したい、コロニーがよりよい方向へ変わっていくのが観たい、その一心でノーマルクエストの全てを見届けたくなるのです。
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ひとつのクエストはファストトラベルを使えばおおよそ30分ぐらいで収まるボリュームで、毎回何かしらキャラクター同士の関係変化や、本編では未解決だった意外な事実がテンポ良く描かれます。ダンジョン攻略などの探索要素が少ない分、イベントシーンのウェイトを多くして、「タスク」でなく「エピソード」を楽しむ時間がたっぷり用意されていました。
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その結果どのようなプレイフィールが生まれたかというと、クエストひとつにつき「アニメ1話分」の満足感があって、1日にちょっとしかプレイ時間がとれなくても、その短い時間の中でエピソードの起承転結をしっかりと楽しめました。
チェインアタックで敵を倒すとボーナス経験値があるため、回復が追いつかない強敵相手に逆転の一打で決着を付けると、音楽に専用のアウトロがついて(ここ重要!)まさに「今週の山場」を自分の操作で作り出せます。そこで切りよく終わって続きはまた明日、という遊び方がよく馴染み、アクティビティが山積みで消化不良になるようなことはまずありません。レビュー担当としてはあまり褒められたものではないですが、3ヶ月かけて150時間プレイし続けてみて、終わった後の心地よい充足感に「これこそRPGに求めていたものなのだ」と思いました。
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ゲーム市場が拡大した現在では毎月のように大作RPGが登場し、プレイヤーが1作品に割ける期間も短くなってきました。発売日を迎えたら一気にプレイして、積みゲーを作らないよう急ぎ足で終わらせる。こういうプレイスタイルの人も多いのではないでしょうか。そのために一旦クリアした後、残っているアクティビティをきちんとコンプリートできているでしょうか?忙しい人だとメインの物語を終えたら後はもういいや、となっているでしょう。
RPGに「エピソード」の楽しさを期待する人にとっては、チャレンジを中心にしたアクティビティは「タスク」でしかなく、その部分に手を付けることなく、その作品のエンディングを迎えます。満漢全席で大量の料理を用意してもらったけれど、結局食べ切れたのは一部だけで、手を付けられなかった食べ残しがもったいない……そんな感じで止まった大作が結構ありませんか?
先述したとおり、『ゼノブレイド3』は事前情報で全イベントで約150時間のボリュームと予告されていたため、正味どれだけ楽しめるかと案じていましたが、いざやってみると最初から最後まで「エピソード」がぎっしり詰まっており、次の物語はどのようなものだろうという期待を常に持ち続けられました。急かされる大量のタスクに支配されるよりも、ずっと楽しい時間を過ごせたと思います。
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ストーリーには複雑なバックグラウンドや政治闘争はなく、ほとんどのエピソードが「限られた時間の中で前向きに生きていく」というストレートなものでした。前作までの民族同士のあれこれが「消されてしまった」ので寂しくもありますが、その分キャラクター同士の関係性や、性格を掘り下げる話にフォーカス。文字通り全てのクエストで登場人物の喜怒哀楽がある、それが『ゼノブレイド3』の150時間を持続させる心地よさなのです。
メインとは別軸のノーマルクエストを進めていくと、知り合ったキャラクターとは何度も顔を合わせることになり、ほとんどがノア達と顔見知りの状態から話が始まります。それが人物に親しみを感じさせますし、一層続きを観たくなる仕掛けでもあります。
やがて独立していたコロニー同士が交流を始め、かつての敵味方が混ざり合った大きなエピソードに辿り着きます。恩讐が全て消えたわけではないけれど、戦いを止めて共存していく。わかりやすい報酬など無くても、その光景を見られたことそのものが喜びになるでしょう。
目移りする食べ放題バイキングでなくても、ワンプレートで毎日満足できる。そういう充実が本作にはありました。RPGに物語を求める人にとっては、これ以上密度の濃い作品は今後もそう得られないに違いありません。
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バトルシステムも、ノーマルの難易度だと味方の連係さえしっかりできていれば負けることはないバランスがうまく働いていました。「弱点を突いたり特定の攻撃の対策をしなければ勝てない」という攻略法にしていると、山場のポイントを放置して寄り道をする必要が出てきます。そうなると直前のイベントシーンで盛り上げたテンションが台無しになって、倒せても回り道の徒労感が強く残ってしまうでしょう。
本作ではキャラクターの強化要素を最小限に、かつセッティングの幅を大きくしてあるので、ボスに負けたとしてもその場でカスタマイズすれば必ず勝機はあります。裏を返せば、敵に対する戦略の変化があまりないということ。長い時間連続でプレイしていると確かに単調に感じられますが、山場の勢いを削がずスムーズに物語を進められますし、行き詰まってモヤモヤを抱えたまま終わることはほぼありません。
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それと同時に、キャラクター同士の絆を表現するのにも一役買っています。本シリーズの『1』『2』に限らず、いわゆるJRPGのカテゴリーでは戦闘メンバーの選別がつきものであり、大抵6~8名くらいの一行のうち、戦いに出ているのはその半分、3~4人ぐらいに制限されているのが常でした。
その分、強敵との戦いに挿入されるイベントシーンで、全員が連携して攻勢を仕掛けているのを観ると、そのギャップに少し興醒めを感じてしまいます。凝ったアクションのあるカットはRPGのおいしいところでもあるのですが、その動きがゲームシステム上でできないために、演出が戦闘からスムーズに繋がっていないのです。
また、『2』ではブレイドがたくさんメンバーに加わっても、重要なところでは強力な盾、回復が必要となるため、育成しきっていなかったり特徴が半端なキャラクターを使う機会はありませんでした。こういったメンバー数の多さと実戦参加人数のアンバランスが、前作ではサブイベントの会話やバトルの面でマイナスに働いていたように思います。
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『ゼノブレイド3』では旅のメンバー8名が最初から揃っており、リザーブの廃止と、役割とキャラクターの紐付けを外すことで、「補欠」のいない自由なチーム編成ができるようになりました。ディフェンダー、アタッカー、ヒーラーの役割分担が明確になり、ターゲットラインやピンチの表示が加わったため、動きながら仲間のカバーに入るというカットシーンさながらの状況がやりやすくなりました。
オンラインRPGではやりにくいタンク役も、スタンドアロンの本作では「やっていて一番熱くなれるロール」ではないでしょうか。他のキャラクターの側に立つことで防御を確保し、敵の強力な攻撃から体力の低いキャラを守る。倒れた味方が戦闘不能になったところに駆けつけ、ヒーラーの組成と回復が完了するまでしっかりガードする。カットシーンでランツがやっていたようなアクションが、ゲームシステムの自然な流れでできるようになっています。
状況に応じたキャラクターの会話も多彩で、敵の引きつけが離れるなどの変化も、画面のUIよりも声の方がわかりやすいかもしれません。ボイスが多すぎて、ボス戦での重要な会話が埋もれてしまうのが残念ですが、ウロボロスの6人とヒーロー枠の7~8人がひとつのチームとなって戦っている様子はゲームプレイとしても物語の演出としても美点です。戦闘攻略の駆け引き以上に、イベントシーンと乖離しないその雰囲気があることこそ、『ゼノブレイド3』において最も素晴らしい部分ではないでしょうか。
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近年はシナリオ分岐がある自由度の高い海外作品が主流で、映像や規模の面では制約のあるSwitchというハードではなかなか太刀打ちできないでしょう。その代わりに、本作ではストーリーを先に進める喜びそれ一点を徹底的に磨き上げ、大作ゲームに付きものの「作業感」を払拭しました。AAA級の特大ボリュームでありながら、忙しさの合間にじっくり進めても飽きが来ない、ロングスパンで楽しめるRPGです。シリーズを通してプレイしてきた人は、半年でも、1年かかってもいい。是非「最後のエピソード」まで辿り着いてください。
良い点
ストーリードリブンへの徹底的なこだわり
ピンチから逆転のチェインアタックで押し返すサイクルが爽快
コロニー同士の関係構築を追求したくなる
悪い点
バトルの変化や戦術は乏しい
一部イベントにおける開始の特殊条件が難しい