エレクトロニック・アーツがパブリッシャーを、Ascendant Studiosが開発を担う新作シングルプレイヤーFPS『アヴェウムの騎士団(Immortals of Aveum)』。今回、筆者はアメリカはカリフォルニア州レッドウッドシティにある本社で行われたイベントに参加しました。
コロナ禍の影響で、オンラインでのイベント配信が増えていたなか、このように実際の現場で、皆が顔を合わせることができたのはありがたい話であります。改めてこの場を借りて、このような機会をいただけたことに御礼申し上げます。
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さてさて、今回のイベントではとにかくゲームをプレイして、その手触りがどんなもんかを感じて欲しいということが主な部分でしたが、開発者へのインタビュー時間も20分ほど設けられていました。
僅かな時間ではありましたが、実際に作品を作っている人物からお話を伺えたのは大変貴重。大まかな部分は、以前こちらの記事で取り扱ったものと同じですが、今回はグラフィックデザインを軸にしたインタビューとなりました。
インタビュー開始!
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開発を担うAscendant Studiosから、今回お話を伺ったのはJulia Lichtblau氏。リードエンバイロメントアーティスト(Lead Environment Artist)およびアソシエイトアートディレクター(Associate Art Director)で、受け答えの端々から溢れる熱量に筆者はただただ圧倒されておりました。
――本日は、貴重なお時間を頂きありがとうございます。どうぞよろしくお願い致します。早速ではありますが、私が実際にプレイして感じたのは、本作が銃などの現代兵器を魔法やファンタジーに置き換えただけのような作りではない、ということです。登場する魔法、呪文、装備、敵味方のキャラクター……これらは本作の世界観をベースに作られたものだと思いますが、デザインをする上で重要視したものは何でしょうか?
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アートデザインについては多くの試みがありますが、私を含むディレクター陣は『アヴェウムの騎士団』に、「これまでのゲームとは異なる新しい要素を取り入れたい」と強く考え、それを大切にして開発を進めてきました。その意味において、魔法を色以外にも「形」で区別するようデザインしました。
――プレイ中、例えば緑色のストライク呪文で攻撃すると丸い玉のような魔法が発射され、青色の呪文では直線のようなラインが描かれているように見えました。
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そうです。実際ご覧になった通り、緑色の魔法とそれに関する紋章などは「丸」という形をベースにしています。赤色の魔法は「三角」、青色の魔法は「四角」のイメージ。魔法の効果もそれぞれ、素早い動きで相手に取り付く、感情が爆発するようなカオス、直線的なラインを描く……といった法則を持たせてデザインしていますね。
これらが骨格となって主人公や敵味方といったキャラクターや、魔力回復用クリスタルといった小道具のデザインにも繋がったのは素晴らしいことだと感じています。
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――なるほど、まずは主要な魔法についてデザインのルールを定め、そこからキャラクターや装備、フィールドへと派生していったのですね。
フィールドのデザインについては、魔法そのものから少し離れて、一般的な建造物を取り入れる方面へ舵を切っています。ファンタジー要素だけで作り上げるのではなく、現代的な要素、SF的な要素も加えたかった。例えばプレイ中に、石造りの要塞などがありましたよね?
――たしかにそういった建造物はよく目にしました。他にも大自然の中に文明を感じさせる遺跡(?)などの存在もありましたね。
建造物には、現代要素を交えた一般的なものをベースにしつつ、Frank Lloyd Wright(フランク・ロイド・ライト、近代建築の三大巨匠の一人)のような、クラシックな幾何学模様を盛り込んだりしました。さらには巨大建造物も用意したりと……これは現実世界で例えるならドバイの超高層ビルが近いイメージかもしれません。
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これらデザインの根っこには、「本作の世界に住む人々が魔法を使い、まるでレンガを積み上げるように建造物を作った」という設定があります。また、この勢力はああいうタイプの装備、この国家はこういうタイプの建造物……といった世界観のおかげで、私達も自由にデザインをできるようになり、とても楽しく仕事ができたと思います。
――なるほど、ありがとうございます。さてここからは少し話を変えて……いや、これはズレた質問かもしれませんが、お聞きしたいことがあります。最近のエレクトロニック・アーツがパブリッシャーを務めるゲームは、スポーツやSFものが多いという印象がある中で、本作は魔法ファンタジーという、これまでと少し毛色の異なるタイトルとして登場したように感じます。そういった本作の開発にあたり、何をキッカケにしたのか、どのようにチームを組織して、プロジェクトを進めたのか、何か苦労したポイントなどはありますか?
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まず重要なポイントとして、私達は独立したデベロッパーです。エレクトロニック・アーツからの要請により……ということではなく、私達が本作のためにスタジオを立ち上げ開発を始めたのです。5年間こつこつとプロジェクトを進めて、パブリッシングを検討する段階になった時、ブレット(Bret Robbins氏、Ascendant StudioのCEOにしてクリエイティブディレクター)は多くのパブリッシャーとコンタクトを取りました。
そんな中で、エレクトロニック・アーツはゲーム・オブ・ザ・イヤーを受賞した『It Takes Two』のような……実際私もプレイしましたが(素敵な微笑み)……刺激的なタイトルを多く取り扱っていたのが決め手ですね。彼らと一緒に仕事ができたのは、本当にいい経験でした。
――ありがとうございます。スタジオを立ち上げて開発を始められたというのは……前回のインタビューと少し重複してしまいますが……「魔法ファンタジーのゲームを作りたい!」という思いがまず最初にあったからこそ、という理解で良いのでしょうか?
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そうですね。ブレットがSledgehammer Games(同氏は過去に『CoD:MW3』『CoD:AW』『CoD:WWII』の開発に取り組んでいました)を退社した時には、もうすでに本作を作るというアイディアがありました。頭上を飛び交うヘリコプターの代わりにドラゴンが羽ばたいたら?兵士が銃の代わりに魔法を撃てたら?そういった部分から本作は始まっています。
彼が渡してくれた企画書は60ページを超えていて、そこには本作のアウトラインが書かれていました。戦闘システムについては調整がありましたが、ストーリーの基本的な流れについては、いくつか小さな変更はあったものの、ほぼそのままですね。
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――企画書の時点で熱量がすごい……!ところで戦闘システムについては調整があったということですが、それは……なんと申しましょうか、こう……我々が想像するような呪文を唱えて魔法を撃つといった、よくあるデザインから大きくズラした作りを目指したのでしょうか?(ドクター・ストレンジの指をくるくる回すポーズをとる筆者)
あっはっはっはっは(同じく指を回してくださる)、そうですね。私達は常に激しくスピード感のあるゲームを作ることを目指してきました。遮蔽物を利用したり物陰から魔力を節約しながらぺちぺち撃ち合う……のではなく、よりパワフルな戦闘を。
――プレイして感じたのは、敵の殺意が高いというか魔力を温存してる場合ではなくて、多少のダメージは体力で受けたり、シールドなどサポート呪文でカバーしつつ、とにかくストライク呪文をぶつけていくという激しいバトルでした。コントローラーの振動もあいまって、自分が実際に魔法を使っているという手応えが楽しかったですね。
その通り!
――あと操作に「しゃがみ」がないことに気づいたとき、なるほど隠れてる暇があったら走れ、殴りにいけということなんだなと理解しました。
ははは、もちろんどのような難易度でも、豊富な呪文を使いこなすことで敵との戦闘が有利になるようデザインしています。
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――その敵の見た目についてですが、先程もお話にあったように、青赤緑の3つの色をベースにしたデザインがされていますよね。これは戦闘において、こちらが有利になるヒントとなるような意図が込められていたりしますか?例えば、「この敵は赤色だから、こちらも対応して赤色のブリーチファイアを当てよう」というものです。
そうですね。ただしあくまで視覚的なヒントであって、この敵にはこの呪文しか効かない……ということはなく、どの呪文でも倒せるように設計されています。もちろん色に対応した呪文であればより効果はありますが、プレイの選択肢を狭めるようなことは避けていますね。自由に戦ってもらえたら。
――ありがとうございます。ところで……これは本当に聞きづらいことかつ、失礼は重々承知の上で伺いたいのですが……5年間という開発期間の中で、魔法ファンタジーをテーマにしたAAAタイトルが発売されたりしました。そういった他社のゲームの登場によって、『アヴェウムの騎士団(Immortals of Aveum)』が何か影響を受けたりといったことはありましたか……?
開発チームは、本作に情熱と自信を持っています。私達はそういった他タイトルが登場する前から本作の開発に取り組んでおり、「私達のゲームは何か特別なものを持っている」と思ってきました。特別なもの、本当に素晴らしいものがあると。
ファンタジーゲームはこれから他にも増え続けると思いますが、私達が目指しているのは、そんなファンタジーの世界に私達独自の素晴らしいアレンジを加え、プレイヤーの心を揺さぶるようなゲームを提供することです。
――わかりました……!これは最後の質問なのですが、本作では主にストーリー、アート、戦闘システムといった3つの要素で成り立っていると感じます。これらの中で、どれに一番重きをおいて開発を進められているのでしょうか?
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そうですね、システムがまず最初にありました。プレイヤーに対し、美しい物語と美しい世界を見せることで、ゲームへの没入感を高める……ということを考えるとき、まずはプレイ自体に引き込まれるよう設計する。プレイヤーを最後まで飽きさせないことが大切です。
とはいえ話に出た3つの要素については、すべて同時進行で開発が行われましたね。それらの核となるアイディアは「魔法と戦闘」で、全ては、プレイヤーが魔法を感じ、そして強力なバトルメイジであるというプレイフィールを楽しむことに繋がっています。
――それはまさにプレイしていて感じました。ともあれ名残惜しいのですが、改めて、本日は貴重なお時間を頂きありがとうございました。
はい、こちらこそありがとうございました。
第一線の現場で活躍するJulia Lichtblau氏……穏やかなお人柄のおかげで、終始リラックスしたインタビューとなりました。アートデザインの方面からお話を伺いつつ、本作を構成する各要素について説明が繋がり、すべてのコアには「魔法による戦闘体験」が存在していることがわかりました。
実際筆者も本作をプレイして、とにかく戦闘が楽しい印象だったので納得であります。別記事ですが、今回のイベントでのプレイレポも掲載しているので、興味の有る読者の皆様におかれましてはそちらもご覧くださいませ。
そんな激しい魔法バトルを楽しめる『アヴェウムの騎士団(Immortals of Aveum)』は、2023年7月20日に、PCではSteam/ Epic Games ストア/ EA アプリ、コンソールではPS5/Xbox Series X|S向けにリリース予定です。