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『FINAL FANTASY XVI』で不毛の地が広がりつつあるヴァリスゼアでは、追い込まれる国同士が覇権を握ろうと戦争を繰り広げており、クライヴ達は騒乱を掻い潜りながらマザークリスタルの破壊に挑みます。クリスタルを擁する各国は政治形態がそれぞれ異なり、国号を「共和国」「王国」「公国」「皇国」としています。中世作品では「公国(Duchy)」をよく見かけますが、具体的に「王国(Kingdom)」とどう違うのか、曖昧になっている人もいるのではないでしょうか。それぞれどのような統治をしているのか、改めてみていきましょう。
なお、本記事では欧州における称号を基準としており、日本や中国におけるものとは違いがあることをご留意ください。
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Kingdom(王国)
国家の成り立ちの多くは、ある特定の民族が他からの干渉から独立し、それぞれが持つ文化に従った統治形態を求めることから始まります。建国時の指導者として求められる優れた人物には、その民族が持つ神話に連なる正当性が与えられます。単なるリーダーではなく、信仰を体現する存在であればこそ民は従います。そういった文化の「柱」となる君主が「王」であると言えるでしょう。
王が神そのものであるという「現人神」や、人々を統治する王の権限は神が与えたものという「王権神授説」により、その権威は不可侵の絶対的なものとなります。英語で王族に使う“Your Majesty”の「Majesty」とは神や法の威光を表し、その存在自体が神話であり法律を体現しているのです。
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Duchy(公国)
王国の統治には武力や財力などの支えが欠かせません。それを提供する有力者には功績によって爵位などの権限が与えられます。そうした恩賞を獲得した家が「貴族」となり、賜った、あるいは力尽くで手に入れた「領地」で、王の支配とは独立した統治を行います。
王族とは違って権力の絶対性はなく、剥奪される可能性もありますが、武力や経済力を握るが故に王をも凌ぐ影響力を持つことも。王権はなくともそうした実力者が自立して統治する国、そのなかでも最高位である公爵が治めるのが「Duchy(公国)」です。
ロザリア公国を治めるロズフィールド家は王族ではないので「陛下」は使わず、君主であるエルウィン大公とジョシュアは「殿下」、クライヴはナイトという立場から「閣下」と呼ばれます。英語では王族貴族共に、君主と継承者を「Highness」「Grace」「Prince」と呼ぶので、翻訳するときには必ず立場の確認をして区別しましょう。
君主以外の家族は日本語で「王妃」「王子」などと表記されるケースがあり、本作でもジョシュア、クライヴを「王子」と称しています。厳密には「大公子」ではありますが、「王子」の特別なイメージを重視してこう表記することも多いのです。
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Republic(共和国)
上記の王や領主などの「君主」がない国。合議や選出された指導者によって政治を行います。現在の一般的な民主制は広義の共和制に含まれますが、逆に共和制自体は少数の有力者による寡頭政治や、指導者が権力を握る独裁にもなります。革命で権力者を排した国が共和国になる場合が多いですが、複数の意思が混ざり合うだけに政体の維持は君主制よりも難しく、反動でより強力な権力者を求められ、遙か彼方の銀河系のように帝国化したケースもあります。
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Empire(帝国)
強力な権力を以て複数の国や民族を支配下に置く体制。『FF16』ではザンブレク皇国の国号を「The Holy Empire」としています。自国の領土を越えて征服活動を行い、植民地や属領を多く持つのが特徴です。ポイントは「皇帝(Emperor)は王よりも上位にある」ということで、皇帝を名乗った時点で諸侯や各地の王は従うべし、と宣言しているに等しいのです。ザンブレクの場合は宗教を握っており、信仰における権限は一国の王も従えるほど。支配権の拡大で権力を高めていきますが、征服地の維持では強硬な弾圧が起こりやすく、内乱や領土喪失で一気に瓦解する可能性が大きいです。
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付けている国号は実態と一致しているとは限らず、建国以降の政治によって違う性質を帯びる場合がよくあります。欧州のいわゆる「列強」と呼ばれる国々は大航海時代以降アフリカや南米、アジアを支配下に置く帝国主義を採りました。イギリス本国は「Kingdom」ですが、オセアニア、インド、アフリカの植民地を含めて「大英帝国(British Empire)」と総称し、現在に於いても多数の海外領土を保持しています。
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モナコやリヒテンシュタインなど、今も貴族が政治の中心で元首を務める独立した「公国」はモナコ、リヒテンシュタイン、アンドラ、ルクセンブルクの4カ所あり、領土が小さいため経済や文化の振興で維持しています。貴族の実権がなくなった今では珍しくなったものの、王権の有無で使われる呼称が異なるので、中世が舞台の作品ではここにも注目してみましょう。
※UPDATE(2023/8/8 18:00):敬称に関する説明に誤りがあったため、訂正致しました。