今回ご紹介する『Star Trek: Infinite』は、10月12日にSteamでPC向けにリリースされたSF4Xグランドストラテジーです。舞台は近未来の銀河系。テレビドラマや映画で有名な「スタートレック」の世界です。プレイヤーは原作に登場する惑星連邦やクリンゴン帝国といった勢力を率い、知略の限りを尽くして銀河系の統一を目指します。パブリッシャーはParadox Interactive。開発を手がけるのはNimble Giant Entertainmentです。
本作はParadox Interactiveが自社開発するSF4Xグランドストラテジー『ステラリス』の派生作品です。そのため、ゲームシステムやユーザーインターフェースは『ステラリス』に非常によく似ています。4Xとは、探索・拡張・開発・殲滅の4つの要素を兼ね備えたストラテジーゲームを指す言葉ですが、こうした要素に重点を置いている点では本作も『ステラリス』と同様です。
未知なる領域の探索……eXplore
自勢力の領土の拡張……eXpand
拡張した領土の開発……eXploit
敵対する勢力の殲滅……eXterminate
一方、本作には『ステラリス』にない独自要素も追加されています。原作である「スタートレック」のストーリーや世界観を再現するイベントがあるのはもちろんのこと、Paradox Interactiveが開発する他のグランドストラテジーゲームからもゲームシステムを借り受けているのです。例えば、第二次世界大戦が舞台の『Hearts of Iron IV』からは、外交的な緊張関係を表す「国際緊張」のシステムが「世界的緊張」という名前に変わって登場します。
本作は日本語を公式サポートしています。しかし、残念なことにローカリゼーションの品質はあまり高くありません。英語のまま翻訳されていない部分や表示が崩れている部分が随所に見られ、プレイに支障をきたすこともあります。本作のもとになった『ステラリス』には仕様上翻訳できないテキストがあるのですが、新作として開発する以上は改善して欲しかったところです。

筆者は「スタートレック」の門外漢です。原作については一般教養レベルの知識しかありません。そのため、本稿では本作の「スタートレック」らしい部分ではなく、『ステラリス』の派生作品としての部分に着目して、システム解説を交えながらAAR風にご紹介します。AAR(After Action Report)とは、Paradox Interactive作品のファンの間でよく使われる言葉で、ゲームのプレイ過程を文章化した小説やレポートのことです。
文明の相克
ゲームを進めながら随時チュートリアルを進めていくスタイルの『ステラリス』とは違い、本作には惑星連邦として序盤の操作を体験する専用のチュートリアルが用意されています。チュートリアルが完了したあとはそのまま惑星連邦としてプレイを継続することも、改めてキャンペーンを開始することも可能で、いずれの場合もプレイ中にさらなるチュートリアルが表示されます。
最初からキャンペーンを開始する場合は、あらかじめ用意された選択肢の中から自分の操作する文明を選ぶことになります。選択可能な文明は、惑星連邦、クリンゴン帝国、ロミュラン星間帝国、カーデシア連合の4種類です。文明にはそれぞれ政治体制と国是が設定されており、それらに対応したボーナスが与えられます。『ステラリス』とは違い、自分で文明をカスタマイズすることはできません。また、『ステラリス』では各勢力を帝国と呼びますが、本作では文明と呼んでいます。

今回のプレイではオーソドックスに惑星連邦(以下、連邦)を選択しました。地球人を中心に複数の種族が結束して成立した連邦国家です。ゲームを開始すると最初に連邦の母星である太陽系が表示されます。本作には銀河系全体を表示するマップと各星系の内部を表示するマップの2種類があり、いつでも切り替えることができます。
銀河系全体のマップに切り替えると、太陽系の周囲は初めから調査済みになっており、一部の惑星はすでに植民惑星になっていました。さらに、他の3文明も連邦とコンタクトした状態で最初から地図上に存在しています。『ステラリス』は銀河系に一人ぼっちの状態から始まるので、これは大きな違いです。ただし、銀河系のそれ以外の領域は未知の状態にあり、調査船を送って調べなければなにがあるのかわかりません。
また、文明が開始時から複数の種族で構成されているのも本作の特徴です。『ステラリス』では1種族が1帝国を支配した状態で始まりますが、本作の連邦は最初から地球人、テラライト人、バルカン人、アンドリア人の4種族で構成されています。

キャンペーンの開始年は2346年です。筆者は「スタートレック」の詳しい歴史を知りませんが、開始時の外交関係はカーデシアが一番敵対的で、クリンゴンが一番中立的になっていました。筆者の記憶ではクリンゴンは好戦的な敵対種族というイメージだったので、この初期設定は意外でした。
画面写真からもわかる通り、文明や天体の名前はまったく翻訳されておらず、すべてアルファベットのままです。惑星連邦(United Federation of Planets)はなぜか小文字で「ufop」と表記されていて、マップ上にもそのまま表示されます。請求権や開戦事由といったParadox Interactive作品ではおなじみの用語は、従来通りに翻訳されていました。

最初の一手
いよいよ本格的にプレイ開始です。筆者は連邦をプレイする上で、ロールプレイを兼ねて平和外交、宇宙探査、科学研究に特化した戦略を取ることにしました。連邦はこれらの分野にボーナスがあるので、この戦略はゲーム上でも有利に働くはずです。
ところが、まさかあんな恐ろしい結末が待っているとは、このときはまったく予想していませんでした……。

本作は『ステラリス』と同じ4Xストラテジーですが、ゲーム開始時に見えている範囲が広い分、序盤からできることが非常に多くなっています。『ステラリス』の常識もそのままでは通用しません。
まずは、未知の領域に調査船を派遣して銀河系の姿を明らかにしつつ、周辺の星に建設船を派遣して資源を開発しようとしました。『ステラリス』では定石とも言える行動ですが、筆者はいきなり勝手の違いに驚くことになります。『ステラリス』と異なり、本作には星系と星系を結ぶ航路がありません。艦隊は自分の支配地域から一定の範囲内なら航路に関係なく自由に移動できます。本作では「スタートレック」の世界観に合わせて、艦隊の移動方式まで変更されていたのです。
違いは他にもありました。調査船と建設船の他に、スパイ船と総督船という見慣れぬ艦種が存在するのです。スパイ船は諜報・防諜用の船で、国境を越えて敵国の情報を調査できます。今回のプレイでは、もっぱら防諜任務に使用することにしました。一方、総督船は植民惑星に対して労働生産性や科学生産性の改善といったさまざまなボーナスを与える船です。

筆者は最初に決めた戦略にしたがい、中立的な外交姿勢を取るクリンゴンとロミュランに対して関係改善を始めました。ゲーム開始時にはどの文明も戦争状態にありませんが、クリンゴンやカーデシアは原作通り好戦的な種族に設定されています。一度に複数の文明から攻撃されればひとたまりもありませんから、外交で少しでも敵を減らそうというわけです。はたして連邦の外交努力は実を結ぶでしょうか。
不測の事態
本作はターン制ではなくリアルタイムに進行します。リアルタイムと言っても好きなタイミングで一時停止できるので、それほど忙しいゲームではありません。さて、時間を進めてしばらく経過するとイベントウィンドウが表示されました。イベントのタイトルは「キトマーの灰」。どうやら「スタートレック」世界の歴史イベントのようです。

イベントの内容は、ロミュランがクリンゴンの植民地を奇襲攻撃したというものでした。ついさっき関係改善のために使節を送ったばかりの両文明が互いに衝突したのです。この事件をきっかけにクリンゴンとの関係は悪化。筆者が「スタートレック」の歴史を知らなかったばかりに、連邦の外交戦略にいきなり暗雲が立ち込めました。
このように、本作には通常のランダムイベントだけでなく、「スタートレック」のストーリーや世界観を再現するためのイベントが数多く用意されています。イベントには選択肢のあるものも少なくありません。そうしたイベントはプレイヤーの選択しだいで結果が変わったり、別のイベントが発生したりします。
連邦はこのイベントで「他の文明への挨拶は積極的に行おう」という選択肢を選びました。この事件がきっかけで動乱の時代が始まるとしても、他の文明が信義にのっとって行動することを信じたのです。

それからしばらくして、銀河系の未知の領域を調査していた調査船が見知らぬ文明とファーストコンタクトを果たしました。初めて出会う文明と意思疎通するには最初に相手を研究しなければなりません。数年の研究を経てコミュニケーションできるようになった相手は、資本主義と民主主義を奉じる小規模文明でした。連邦はこの出会いから、銀河系にはまだまだ我々の知らない領域が残されており、積極的に調査船を派遣する必要があることを学んだのです。
このように、銀河系の未知の領域には最初に選択可能な4文明以外にも独自の政治体制を持つ小規模文明が存在します。彼らは征服や外交の対象になりますが、今回の連邦は平和外交を基本戦略としているので、出会った文明に対しては常に友好的に振る舞いました。

未知の星系を調査していると、アノマリーと呼ばれる常識では理解し難い不思議な現象に遭遇することがあります。そうした現象を解明するには科学者を送って研究しなけれなばりません。研究が完了するとイベントが発生し、なんらかのボーナスが手に入ったり、予期せぬ結果が引き起こされたりします。
例えば、荒廃により太古の森が急速に消滅しつつある惑星で、失踪した車両が木の幹に飲み込まれた状態で見つかり、その周囲の伐採所がことごとく破壊されるという怪事件が発生しました。こういったものがアノマリーです。
このアノマリーに対して「森を保存しろ」という選択肢を選ぶと、続きのイベントが発生しました。この森の根に人間の神経と同様の複雑な電気信号が確認されたのです。森は知的生命体でした。森の保存を命じたことで森の怒りは収まり、アノマリーは解決しました。

筆者が確認できた範囲では、アノマリーに関するイベントは『ステラリス』と大きく異なっていました。『ステラリス』の序盤で頻繁に遭遇するアノマリーは今回一度も登場しなかったのです。おそらく「スタートレック」の世界観に合わせて大部分のアノマリーが作り直されているのでしょう。また、『ステラリス』で序盤の脅威となる宇宙生物も本作では確認できませんでした。
平和の代償
さらに数年が経過し、ついに外交努力が実るときが来ました。クリンゴンの方から不可侵条約を結ぶことを提案してきたのです。不可侵条約を結んだ文明は互いに宣戦布告できなくなります。現在の軍事力はクリンゴンの方が上で、戦争になれば連邦に不利な状態でしたから、条約の申し出を二つ返事で了承しました。連邦とクリンゴンの蜜月時代の始まりです。

大規模文明の間で条約が結ばれたことにより、「世界的緊張」の値が大幅に減少しました。最初に軽く触れましたが、世界的緊張は『Hearts of Iron IV』の「国際緊張」に似たパラメーターで、世界の外交的な緊張状態を表します。宣戦布告や条約の破棄で上昇、戦争終結や条約の締結で減少し、一定値を超えると外交関係に影響を及ぼすようです。
条約が結ばれてから1年後、連邦の諜報員が最初の奇襲攻撃の真相を突き止めました。なんとクリンゴンの内部に奇襲攻撃を手引きしたものがいたのです。連邦はこの情報を包み隠さずクリンゴンに提供することを決定。両者の関係は急速に改善され、防衛協定が結ばれることになりました。どちらか一方が攻撃を受けたときは、もう一方が守るという軍事同盟です。ついに、連邦とクリンゴンは固い絆で結ばれたのです。

平和外交、宇宙探査と並ぶ基本戦略の柱である科学研究も全力で進めていました。この頃、「スタートレック」の世界ではおなじみのフェイザー(ビーム兵器の一種)に関する基礎理論が完成。このように、テクノロジーの多くは原作の世界観に合わせて名前や効果が変更されています。
また、『ステラリス』では研究に必要なリソースが3つの分野に分かれていますが、本作では「研究」という1つのリソースにまとめられています。ただし、研究分野が物理学、社会学、工学に分かれている点は変わりません。

さらに数年後、関係改善を続けていたロミュランとも不可侵条約を結ぶことに成功。敵対する勢力はカーデシアのみとなりました。連邦の外交努力により世界的緊張の値はさらに低下します。奇襲攻撃以来、険悪な雰囲気が漂うクリンゴンとロミュランもいまだに砲火を交える様子がありません。
すべてが順調に見えますが、ここで一つ大きな問題が発生しました。条約を維持するために影響力というリソースを消費しているせいで、支配地域が拡大できないのです。
他の文明は銀河系の深部に向けて着々と支配地域を拡大していました。一方、連邦は開始時の支配地域を維持したまま、内部の植民惑星を開発することで国力を増やすのが精一杯です。このままでは他の文明との国力差が拡大し、いずれは滅ぼされてしまうでしょう。

英雄の時代
連邦の危機を救ったのは布告と伝統、そしてアセンションパークでした。
布告は文明全体に強力なボーナスを与えるシステムです。当初は調査船の調査速度を上げる布告を出していましたが、これを影響力を増やす布告に変更することで問題を改善しました。
一方、伝統は特定のリソースを貯めることにより解放できる一種のスキルツリーです。ツリーを一つ完成するごとにアセンションパークと呼ばれる強力なボーナスを獲得できるのですが、筆者が選んだのは条約の維持に必要なコストを下げ、さらに外交交渉が成功しやすくなるパークでした。
こうしたボーナスの助けを借りて支配地域を拡大できない問題は解決。最後に残ったカーデシアとも不可侵条約を結び、ついに連邦に敵対する文明は存在しなくなったのです。

平和を謳歌しながら銀河系の調査を続ける連邦に優秀な人材が現れました。その名はスポック。「スタートレック」に疎い筆者でも名前を知っている、かの有名なミスター・スポックその人です。さっそく登用すると、スポックはレベル5の科学者としてゲームに登場しました。専門分野は異種人類学です。そのとき連邦で働いていた一番優秀な科学者がせいぜいレベル3ですから、その並外れた優秀さがわかるのではないでしょうか。

このように、本作には「スタートレック」の登場人物が実名で現れることがあります。名前を聞いても筆者には誰だかわかりませんでしたが、スポックの他にも優秀な人材を登用するイベントは用意されていました。
スポックの登場から数年後。ついに、このときが来ました。ジャン=リュック・ピカード艦長が指揮するU.S.S.エンタープライズDの登場です。

エンタープライズ号の登場は特定の年に自動的に発生するイベントではなく、プレイヤーが一定の条件を満たすと実行可能になるミッションの報酬です。本作には『Hearts of Iron IV』の国家方針や『Europa Universalis IV』のミッションに似たミッションツリーがあり、ツリーの上から下にミッションをクリアしていくことで原作のストーリーを再現する仕組みになっています。

ピカード艦長は強力な固有特性を持つ提督として登場し、エンタープライズ号は軍用艦であると同時に調査船としても機能する特殊な船としてゲームに登場しました。このような船は『ステラリス』には存在しません。
理想の世界
さて、ここで非常に困った問題が持ち上がりました。これまでただの一度も戦闘が起きていないのです。プレイレポの締め切りは刻一刻と迫ってくるのに、連邦はおろかどの文明も戦争を起こす気配がありません。このままではプレイレポの見せ場がなくなってしまいます。筆者にとってなんと恐ろしい結末でしょうか。
しかしある意味で、この結末は原作における連邦の理念にかなった「理想の世界」だとも言えます。それではなぜ、探索・拡張・開発の次には殲滅が待っているはずの4Xストラテジーで、このような理想の世界が生み出されたのでしょうか。
もしかすると、連邦が平和外交に邁進しすぎたのが原因だったのかもしれません。連邦が条約を結ぶたびに「世界的緊張」の値は下がり続け、最終的にはゼロのまま増えなくなっていました。逆に、世界的緊張が上がり続けたなら、世界大戦が起きていたのかもしれません。

プレイヤーの介入により、ドミノ倒しのように世界のありようが変わっていくのがグランドストラテジーの面白さだと筆者は考えています。そういう意味では、今回のような結末も「あり得たかもしれない世界の一つの形」として面白いのではないでしょうか。
スパくんのひとこと
最初は『ステラリス』と同じかと思ったけど、実際にプレイしたら違うところがいっぱいあったスパ!
対応機種:PC(Steam)
記事におけるプレイ機種:PC(Steam)
発売日:2023年10月12日
著者プレイ時間:15時間
価格:3,990円