年末年始は美味しい日本酒が飲みたい!
というお酒が好きな筆者の叫びから始まりました。今回は、ゲーム内で日本酒が作れるオープンワールド村作りRPG『Sengoku Dynasty』の紹介をしながら、日本における酒造りの歴史を追っていきます。
なお、本稿はあくまでゲーム内の工程に則った紹介が中心となります。そのため、酒造りの詳細な工程などは省かせていただくので、ご了承ください。酒造りに関しては日本酒造組合中央会などで詳しく紹介されているので、こちらもあわせて参照していただければ幸いです。
『Sengoku Dynasty』の酒造り
『Sengoku Dynasty』は、封建制度時代の日本を舞台にした村作りサバイバル。プレイヤーは戦乱に巻き込まれてすべてを失い、やがて流れ着いた地で一から人々が平穏に暮らせる村を作り上げていきます。
庶民の生活や文化に重点をおいた本作では、網野善彦氏の「歴史を考えるヒント」などの書籍から歴史や民俗を徹底的にリサーチ。その歴史や文化は、本作のDLC「Scrolls of Sengoku Dynasty」でも紹介されています。このDLC、作中に登場するものはもちろん神話や偉人などの説明もあり、かなり面白いのでオススメです。
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そんな『Sengoku Dynasty』は、リリース初期から「醸造所」を建設することで可能でした。しかし当時は素材の調達が困難で、レシピのバランス調整や2023年11月に農業システムが実装されるまで、村での酒造りはなかなか難しい産業でした。
現時点でゲームの酒造りに必要なのは「米・水・麹・薪」の4アイテム。まずは醸造所にある“炊飯樽”で「炊いた米」を製作します。続いては“発酵樽”にて炊いた米や麹、水を入れてしばらく待てば「もろみ」が完成、最後に“圧力ろ過器”に入れれば「日本酒」が完成します。
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ゲーム内ではいくつかの工程を大幅に省略しており、特に「麹」は水田で稲を刈ると「米」と一緒に入手できます。麹造りまで行うのは大変という判断でもあるのでしょうが、このお陰で現時点での酒造りは容易で、しかも完成する「日本酒」が取引材料としても村の運営にも便利なアイテムなので、とても重宝します。次項からは実際の酒造りの歴史を追いながら、本作と照らし合わせていきます。
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日本の酒造りはいつから?
実は日本における「酒造り」の起源ははっきりとしていません。長野県の井戸尻遺跡でヤマブドウの種などが付着した大型の土器が出土、青森の三内丸山遺跡ではサルナシ・クワ・キイチゴなどの種子がまとめられていたこと、その場所に発酵したものに集まる虫の痕跡が残されていたことなどから、縄文時代にはすでに果実での「酒造り」が行われていたとする説もあります。
文献では、1世紀に書かれた中国の思想書「論衡」に登場。また、3世紀に書かれた中国の歴史書『魏志倭人伝』の中では、日本では喪に服す際に人々が歌い踊り、酒を飲むという記述の存在が指摘されています。しかし、この時点でも「酒造り」についての説明がありません。
酒造りに関する記述がはじめて登場したのが、8世紀に日本で書かれた「播磨国風土記」「大隅国風土記」と言われています。「大隅国風土記」には、米を噛んで自然発酵させたいわゆる【口噛み酒】を作る過程、「播磨国風土記」には供えた米にカビが生えたので酒を作るという過程が記述されています。また、同じく8世紀の「出雲国風土記」では神々が集まって酒を作って酒宴を開いたという記述もあるようです。
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8世紀には酒に関する記述が多く「古事記」では百済から酒が献上されたという記録があるほか、「日本書紀」では応神天皇に地元の国主が酒を献上したとの記述もあり、少なくともこの時代には酒造りの技術が伝来していた、もしくは独自の酒造りが行われていたとされています(国税庁・日本酒の歴史より)。
奈良時代から平安時代までの酒造りは、宮中に設けられた「造酒司」と呼ばれる専門の役所で行われていたと言われています。この司で造られるのが麹を用いた【清酒】であり、庶民はもっと簡単な【濁酒(どぶろく)】を飲んでいたようです。どぶろく造りは稲作の伝来とともに始まったと言われますが、こちらも発祥に関する正確な時期に関しては文献などで明らかになっていません。
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鎌倉・室町時代にはすでに今日の日本酒造りの原型は完成
さて、多くの人がイメージする日本酒の【清酒】が一般に普及したのは、鎌倉時代以降のことと言われています。鎌倉時代には宮中だけでなく一般的な町で酒を造って売り出す「造り酒屋」や、寺社で造られる「僧坊酒」が増え、室町時代にかけてじょじょに一般にも普及したのです。
特に京都では造り酒屋が非常に多く「柳酒」「裏梅酒」といった銘柄が人気を博し、洛外洛中だけで300軒ほどの酒屋があったと言われます。その後、寺社の作り出す僧房酒「天野酒」など多くの酒が有名となっていきます。ちなみに「天野酒」は豊臣秀吉も好んだ酒とされ、現在も再現したものが売られています。
驚くべきことに鎌倉時代から室町時代には、現代の酒造りに通ずる“段仕込み”の原型とも言える酒造りが始まっていました。段仕込みは簡単に言えば、日本酒を仕込む際に原料の米と麹を数回に分けて入れる技法のことで、お酒に安定した発酵を促す効果があります。また、僧房酒の記録には火入れ(加熱処理、品質を安定させる)の技術も存在していたようです。
その後はより醸造技術が磨かれていきます。日本酒で有名な兵庫県・灘市のいわゆる“灘の酒”も室町から江戸時代にかけて大きく発展しています。特に西宮の「旨酒」は江戸時代に大きな評判を博したことで知られており、コーエーテクモゲームスの『太閤立志伝5』でも京都など大きな町で購入できます。
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酒造りの歴史には、今回の記事で語りきれないほど多くの背景があります。酒造りが一般的になったことで発生した室町時代の「文安の麹騒動」など、非常に興味深い出来事も多いので、機会があれば調べてみても面白いですよ。
ちなみに日本で現存している最古の酒蔵は茨城県の「須藤本家」で、創業はなんと1141年。現在の当主は第55代目というからその歴史の深さを語っています。
米・水・桶に見る酒造りと『Sengoku Dynasty』
ここからは『Sengoku Dynasty』での酒造りを通じて当時の文化と照らし合わせていきます。
◆米について
酒造好適米(酒米)の歴史は実はそこまで古いものではなく、酒造りに適した米のルーツは江戸時代に発見されたと言われています。1859年に岸本甚造氏が発見して譲り受けた稲は大粒で酒造りに適していました。
酒造りに良い米があるとして普及したその稲は、岸本氏の出身地名である岡山県雄町市から「雄町」という銘柄で定着しました。「雄町」は「山田錦」など主流の酒米のルーツですが、栽培の難しさから一時生産が激減、現在は復刻され、さまざまな日本酒銘柄で名前を見ることが増えています。
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『Sengoku Dynasty』に登場する米は一般的な稲であり、いわゆる酒造好適米ではありません。しかし、本作の時代背景が封建制度の時代であることを考えれば一般米での酒造りが自然でしょう。「炊いた米」が量産に向いていて食料として便利なことを考えると、やはり嗜好品であるなと思わされます。
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◆水について
酒造りには良い水の存在は欠かすことができません。酒造りに適した水として有名なのが灘の「宮水」で、こちらは江戸時代後期にその性質が確認されています。「宮水」は硬水であり、その成分が日本酒の発酵を促進させ安定した味わいの酒造りが可能だったのです。
もちろん軟水でも美味しいお酒を醸せるのですが、硬水と比べるとミネラルが少ないために発酵が遅く、醸造のための技術が必要だったようです。今ではどちらの水でも日本酒は造られており、一般的に硬水で仕込めば力強い酒に、軟水で仕込めばなめらかな酒になると言われます。
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『Sengoku Dynasty』で水は井戸を設置して汲み上げることで入手できます。本作の舞台となる地域は明らかになっていません。しかし、かつて大きな一揆があり守護が追放されたこと、本願寺の僧侶がいること、そして主人公が目指す「平民の持ちたる国」という言葉から石川県・加賀ではないかと推測されます。加賀国は一向一揆によって僧侶と農民が力を持つ「百姓の持ちたる国」として統治された時期のある土地です。
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加賀国の存在した地域は今も酒蔵が多く、良質で豊富な水に恵まれた土地であることを物語っています。石川県酒造組合連合会が1992年に公開した石川県の酒造用水のデータでは、中軟水から中硬水くらいの水質のようです。「太閤記」には天下の銘酒「加賀の菊酒」も登場するなど、古くから酒造りに好まれた土地であることを示しています。
◆桶について
『Sengoku Dynasty』の醸造所にも大きな桶があり、建設のために大量の木材が必要になります。酒造りの歴史上では、大桶や樽の登場によって、これまで甕で造っていたより遥かに大量の酒造りや流通が可能になったようです。
大桶が日本酒づくりに利用されるようになったのは室町時代以降(鎌倉時代からとも)とされています。室町当時に大きく名を挙げた伊丹の酒は「丹醸」と呼ばれ、高品質で大量生産だったというのですが、その酒造風景を描いた資料にも大きな樽が確認できます。
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時代的にも技術的な意味でも背景として『Sengoku Dynasty』の桶の存在は正しく、本作の酒造りがしっかりと考えられている事がわかります。
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ただし、先述の通りゲーム内の酒造りの工程としてはかなり省かれています。米と同時に入手できる「麹」ですが、実際の麹(麹菌)は穀物にカビを生やして製造して利用するものです。こちらも室町時期に灰を使った技術が確立されるなどの歴史がありますが、ゲーム内では現時点でそういった麹づくりなどの工程は再現されていません。
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『Sengoku Dynasty』は専門家の書籍などの知識を得ており、道具や施設などさまざまな分野で正確な再現を目指していることが伺えます。今回取り上げた酒造りの面でも蒸米、発酵、上槽(搾り)と3つの工程に分けています。もちろんこれだけでは正確な再現とは言えませんが、かなり凝っていると言えそうです。
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日本酒の歴史は長く、時代とともに大きく技術が進化しています。みなさんも先人たちの研鑽の結晶とその歴史に思いを馳せ、年末年始に美味しい日本酒をのんでみるのはいかがでしょうか。もしよければ、地元の酒蔵の歴史を調べてみるのも面白いかもしれませんね!
<参考文献>
「日本酒の来た道 歴史から見た日本酒製造法の変遷」著者/堀江修二 発行/今井出版
「日本の食文化5 酒と調味料、保存食」編者/石垣悟 発行/吉川弘文館
「全集日本の食文化 第六巻 和菓子・茶・酒」 監修/芳賀登、石川寛子 発行/雄山閣
「ものと人間の文化史 桶・樽 I」著者/石村真一 発行/法政大学出版局
「ものと人間の文化史 酒」著者/吉田元 発行/法政大学出版局
「ものと人間の文化史 麹」著者/一島英治 発行/法政大学出版局