あくまで筆者個人の見解ですが、2016年にPCで発売された『Back in 1995』を契機に、PS1時代を彷彿とさせるようなクラシカルなホラーゲームの製作が盛んになったと思われます。それから現在まで膨大なフォロワー作品が誕生し、近年まさに「90年代風ホラーゲームリバイバル」が起きており、PCゲーム市場においてレトロなホラーゲームが溢れていると言っても過言ではありません。
そして一概にホラーと言えど、「サイコロジカルホラー」や「コズミックホラー」など多岐にわたるサブジャンルが存在します。とくに説明不要の金字塔的作品『バイオハザード(1996年)』が確立した「サバイバルホラー」ジャンルの影響力は強く、現在も多くの『バイオ』ライクなホラーゲームがリリースされています。
こうして定番化しつつある「PS1風ホラーゲーム」ですが、中には低品質なゲームがあるのも事実。「これは良さそうだな」と思って実際にプレイしてみるとガッカリなクオリティ……ということもしばしばあります。
しかし今回ご紹介するゲームは、一味も二味も違っていました。初代『バイオ』をベースにしたグラフィック、キャラクター、ストーリー、探索、謎解き、戦闘…‥すべてが噛み合いしっかりと作り込まれている上に、ただの模倣だけでなく「現代基準に見合ったゲームシステム」を組み込んでいて非常に完成度の高い作品でした。
というわけで本記事では、Tainted Pactが開発しPC(Steam)にてリリースされた『フレッシュ メイド フィアー(Flesh Made Fear)』デモ版のプレイレポートをお届けします!
初代『バイオ』ライクな新作サバイバルホラー
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本作は、俯瞰視点(固定カメラ視点)を採用したホラーアドベンチャーゲーム。プレイヤーは、特殊部隊 Reaper Intervention Platoon(R.I.P.)の一員となって、グロテスクなモンスターが蔓延る荒廃した街を探索し、狂気に陥った元CIAエージェントの“マッドドクター”を倒すため、研究所と化した邸宅に潜入し極限の恐怖から生き延びることが目標です。
開発は、ハードコアな2Dサバイバルホラー『Terror At Oakheart』で著名なカリフォルニア在住のクリエイターTainted Pact。80年代~90年代のスラッシャー映画&ホラーゲームを愛する彼は、特に『バイオハザード』シリーズに多大な影響を受けているらしく、本作でもその「偏愛」ぶりが顕著にあらわれています。
サバイバルホラーゲームの特徴とも言える、固定カメラ視点、ローポリグラフィック、限られたインベントリ管理に加え、懐古趣味だけではない快適な操作性とシネマティックな没入感などの現代的な要素が融合し、クラシックなホラーゲームを「再構築」しているとのことです。
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操作方法は少しクセあり/日本語未対応が残念
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基本操作は、キーボード&マウスおよびゲームパッドに対応し、筆者はXboxコントローラーでプレイしました。操作感自体は素直に反応してくれて問題ありませんが、タンクコントロール(十字キーの左右でキャラクターを回転させて方向を決定し、上下で前進/後退)というクラシックな操作方法で少しクセがあるため注意が必要です。
そして残念なのが日本語に未対応なこと。本編においては、ちゃんと英語を理解せずとも「なんとなく」ゲームクリアまで可能なので英語が苦手でも心配不要。ですが、ストーリーの背景やキャラ同士の会話を楽しみたい人は、翻訳アプリや辞書を引かないと理解するのはやや難しいと思います。
行方不明事件の謎を調査せよ
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ゲーム開始前に、プレイアブルキャラを選択できます。『バイオ』のように男性主人公のジャック・リチャード(体力多くインベントリ少ない)、または女性主人公のナタリー・ルイス(体力少なくインベントリ多い)のどちらかを選び、それぞれのストーリーが展開される仕様。今回のデモでは、ジャックのみが使用可能でした。
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物語は手書き風のオープニング・ムービーと共に始まります。初代『バイオ』っぽく実写か3DCGによる壮大なカットシーンを期待していたので少々肩すかしを食らいました。
ここで描かれる物語を紹介すると、「MKウルトラプロジェクト」に従事する科学者ビクター・“ドリッパー”・リッパー博士が人間の深層心理とマインド・コントロールを深く研究するうち自らの理性を失い、悪夢のような人体実験を繰り返した結果、街から行方不明者が続発――。この事件を解決するため特殊部隊が調査に乗り出します。
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ここで派遣されたのは「Reaper Intervention Platoon(リーパー調査部隊)」通称R.I.P.という特殊チームでした。まんま「R.P.D.」のコピーした名前で苦笑しましたが、これも作者のバイオ愛から来るオマージュでしょう(だと言い聞かせた)。
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主人公のジャックもR.I.P.に所属し、ほかにも大袈裟で皮肉屋のザック、実直なリーダーのビル、女性隊員のカーチャとナタリーなど個性豊かな面々が揃っています。キャラ同士の掛け合いも軽妙で、まるで映画を見ているような感覚でプレイできます。しかし、字幕が表示されるスピードが遅いことで、せっかくのテンポ感が台無しになっていること唯一の欠点です。せっかくの没入感を削いでしまい大変惜しいので、ぜひ改善して欲しい部分です。
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さて、R.I.Pの目的は、研究所と化したリッパー博士の邸宅を探し出して潜入し捜査することです。そのために、まずは「ロットウッド・フォレスト(ROTWOOD FOREST)」にやってきたのですが、どうやら付近の跳ね橋が上がっていて渡れずやむなく別の道から進むことに……。
ナタリー&マーカスは西側から、ジャック&カーチャは東側から各チームに分かれて広大なロットウッドを探索することになります。要所要所のイベントシーンは、キャラクターのモーションやボイスアクト、カメラワークなどがシネマティックでかなり没入感がありました。
満足度の高い探索要素&シビアな資源管理
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こうしてジャック&カーチャのコンビで探索を進めていきます。操作方法は、前述のとおりクラシックなタンクコントロールで、方向入力+前進or後退ボタンを組み合わせて移動します。初期『バイオ』や90年代のホラーゲームによく見られた方式で、若いゲーマーだと慣れないうちは自分の行きたい方向にもうまく進めないでしょう。
しかし本作が一味違うのは、昔ながらの操作感覚を残しつつ、現代基準に合わせて快適な操作性になっていることです。スティック入力で360°グリグリ動かせますし、ストレスはほとんど感じませんでした。LBボタンでクイックターンも可能で、このアクションのおかげでモンスターから逃げたり距離を取って態勢を立て直したり、戦闘時の戦略性がグッと広がっていました。
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ホラーゲームの楽しさの一つは、道中をインタラクトしながら探索することにあります。本作も『バイオハザード』同様、さまざまな場所やオブジェクトを調べてアイテムを入手したり、メッセージから情報を得ることができます。
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人の気配ないロットウッドの森は、薄暗くメチャクチャ不気味です。その恐ろしい雰囲気をさらに引き立てているのが「固定カメラ視点」。三人称とも一人称視点ともいえない、俯瞰するような“先の見えない”独特なアングルは、プレイヤーに心理的不安を与える『バイオ』が発明したクラシックなホラーゲームに欠かせない要素です。
本作では、従来の固定カメラ視点に加え、場面によってはカメラがプレイヤーを追従するダイナミックなアングルも用意されていて新鮮なプレイフィールでした。
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長い遊歩道を抜けた先に給水塔を発見。デモ版とはいえ、ほかにも小屋やモーテルなど大小さまざまなロケーションが登場し、プレイボリュームが大きく探索の満足度は非常に高いです。それに、PS1時代のローポリゴングラフィックは初代『バイオ』の雰囲気を完全再現しているだけでなく、キャラやフィールドを緻密かつリッチに描写していて作者のこだわりを特に感じました。
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給水塔で鍵を手に入れ、進んだ先には今にも崩れそうな橋が……。意を決して渡るジャックでしたが、案の定橋ごと崩壊し、カーチャと離れ離れになってしまいました。こうしたハプニングも、ストーリーをよりドラマティックに盛り上げる素晴らしい演出になります。
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カーチャと生きて再会することを誓ったジャックは、孤独な探索を続けます。ここで注目したいのが、『バイオ』への数々のオマージュです。例えば『バイオ』ではセーブの際にインクリボンでタイプライターを使用しますが、本作ではインクリボンではなく「パラフィンワックス」を使用することでセーブができます。また、アイテムを保管できる「アイテムボックス」も馴染み深いものですが、ほぼ同じ機能のアイテム保管箱が使えます。もちろん、セーブ部屋では癒やしの音楽が流れホッと一息つけのも本家同様でした。
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サバイバルホラーゲームで特に重要なファクターが「インベントリ管理」です。入手可能な弾薬・回復アイテムが限られる極限の状況下で「いかに節約して進むか/いかに資源を確保するのか」を自分なりに考えて適切に管理しなければなりません。しかし、その生存に直結するスリル感こそ醍醐味であり楽しさでもあります。
またインベントリ画面は生き抜くための情報が満載です。たとえば、ジャックの場合最大スロット数は8マスしかないので、状況に応じたアイテムの取捨選択が必要となります。ヘルス(体力)状態は輸血パックのイラストで表示されますが、どれだけダメージを食らったか分かり辛いのが惜しいところ。『バイオ』の心電図風のデザインがいかに優れているか、比較すると一目瞭然です。
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行き止まりの崖を降りると、町らしき場所に到着。徐々に探索範囲が広がっていくレベルデザインが秀逸で、プレイヤーの好奇心をとても刺激する作りになっていました。
緊張感のある戦闘&やりごたえ抜群の謎解き
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町にはガソリンスタンドやフードコート、一軒家が立ち並んでいてかなり広く感じます。このオープンフィールドなステージ構造は『バイオ』には無かった本作独自の要素。移動が少し大変ですが探索するのが非常に楽しい場所でした。
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そして「何か」が潜んでそうな不気味な公衆トイレを発見。恐る恐る入ってみると……
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トイレの奥に無惨な死体の姿が。ジャックがその正体を調べようとした、まさにその瞬間……!『バイオ』ファンの方ならもうお気づきでしょう。このカットは、多くの名場面を生んだ『バイオハザード』シリーズの中でも原点とも言うべき「あのシーン」への明らかなオマージュ。筆者も思わずニヤリとしてしまいました。
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ここで立ち上がってきたモンスターと戦闘開始。所有武器はピストルおよびナイフでインベントリ画面から装備します。弾薬のリロードはいちいちインベントリ画面からしないといけないのが不便だったのと、エイムが水平方向のみで任意の部位を撃てないのが不満でした。それと、ナイフの使用感がとても悪く、戦闘の楽しさが損なわれていた点も気になります。
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とはいえ、ゾンビ風のモンスターたちはグロ恐いデザインが秀逸ですし、ピストルで射撃した感触も良好で、血肉が吹き飛ぶ派手なエフェクトも相まって倒したときの爽快感はありました。何より、敵の足が『バイオ』より早いので集団に襲われるとすぐ追い詰められたり、ゾンビだけでなく『サイレントヒル』風の異形のクリーチャーも登場するので、総じて緊張感のある戦闘を体験できると思います。
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そして本作にも、行く手を阻む数々の謎解きパズルがあります。たとえば、入手したメダルをはめ込んで正しい形に回転させるものや、拾ったテープ音声やアーカイブ資料の情報をヒントにロック解除をするものなど、ホラーゲームにおいては定番ですが、やりごたえはしっかりとありました。
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クリア所要時間も1時間半~2時間程度で、デモ版としては充分なボリューム。製品版では、さらなる探索エリアの追加や、もうひとりの主人公ナタリーもプレイキャラになるので、そちらも含め非常に期待できそうです。
本作の良かった点は、『バイオハザード』などの「90年代風ホラーゲーム」への回帰を目指した作品として、クラシックなサバイバルホラーと現代的要素がうまく融合した非常に完成度の高い作品だったこと。数々のオマージュもリスペクトに満ちていて思わずニヤリとする場面もあり、『バイオ』ファンなら絶対にプレイすることをオススメします。
日本語に対応していないこと(切実……)や、戦闘システムとUIに若干の不満点や改善して欲しいところもありましたが、全体的にデモ版といえど高品質で、非常にワクワクしながら楽しくプレイできました。
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タイトル:『フレッシュ メイド フィアー』(デモ版)
対応機種:Windows PC(Steam)
記事におけるプレイ機種:Windows PC(Steam)
発売日:2025年2月24日
著者プレイ時間:4時間
価格:無料
※製品情報は記事執筆時点のもの
スパくんのひとこと
全体的に『バイオ』や「90年代ホラーゲーム」への愛とオマージュに溢れた素晴らしいホラーゲームだったスパ!町での探索が特にワクワクしたスパよ