
ついに狩猟解禁となりました『モンスターハンターワイルズ』。全世界中で遊ばれていますが、さて、そもそも「モンスター」というものが実際にどんなものなのかというと、なかなか難しいのではないでしょうか。
そこで、今回は「モンスター」の起源について改めて調べてみました。記事後半ではモンスターを取り扱った最初期のビデオゲームも紹介するのでぜひともご覧ください。
驚異の予兆「モンスター:monster」
モンスター(英:monster)は、怪物や魔物、魔獣を指す言葉ですが、元々はラテン語の「monstrum(モンストゥルム)」から来ている言葉です。
monstrumは、驚異的な出来事や、不可思議なものへの予兆といった意味があり、恐ろしいものが来ることへの「警告」というニュアンスが強いようです。

さらにmonstrumの語源をたどると「monere(モネーレ)」というラテン語の動詞に行き着きます。この語は「思い出させる、気づかせる、警告する、忠告する」という意味を持ち、神々の意思を伝えるものと考えられてきました。たとえば、ウェルギリウスの叙事詩『アエネーイス』には「monstrum horrendum(恐るべき怪物)」や「monstra deum(神々の示した驚くべき予兆)」といった表現が登場します。
古代や中世社会において、奇妙な生物や異常な出来事というのは「神の意志」として解釈されていました。16世紀のドイツで生まれた人間の顔を持つ仔牛「坊主仔牛(ミュンヒカルプス)」を見たマルティン・ルターは、この牛が修道士の堕落に対する神の怒りだと捉えています。
日本でも同様に「怪異」は災厄の前兆と見なされていた。延喜6年(906年)には、顔が二つある仔牛が生まれ、陰陽寮は強盗や兵乱の予兆だとして、国司に警戒態勢を取らせています。

ですが、やがてこうした怪異の解釈は変化していきます。日本では江戸時代に幕府が怪異を規制したことにより、怪物は次第に警告のニュアンスを失っていき、単なる異形の存在として受け取られるようになっていきました。
ヨーロッパに戻りますと、14世紀初頭では身体的障害の兆候を示す生物全般に対して使われていた言葉ですが、近世に突入した16世紀では「巨大な大きさの動物」や「非人間的な残酷さを持つ人物」という意味で使われるようにもなっていきました。シェイクスピアの『リア王』にも、人間に対して「怪物」という表現を用いている箇所が見られます。
この頃のヨーロッパには多くのエキゾチックな外国の動物が入ってきました。そしてそれらを怪物とみなす傾向があったようです(エデンの園に住まう神の創造物たちと比べて、新しく目にする動物たちは不純であると考えられたむきもあります)。たとえば、交易用の皮として入ってきた極楽鳥は、足も翼もなく、永遠に空を漂って生きるとすら信じられていました。まさにゲームに登場するようなモンスターですね。

聖書の解釈が前提にあったとしても、どうしていきなりこんな突飛な解釈がなされたかというと、そこには貿易事情が関係しています。当時の船便は数か月以上かかるのが当たり前であり、動物が完全な標本を保っているケースのほうがレアでした。腐敗したり、不完全であったりする状態のものを見れば、元の大きさや形について変に想像力を働かせてしまうのもおかしくはありません。
結果、国内ではそれらを元にした二次資料が作成され、それらを元にさらに奇形な獣が考えられていく……といった流れを辿ります。

17世紀以降は「驚異の部屋」や「珍品陳列室」といったところに奇妙な生物の標本が集められ、見世物としての価値を持つようになっていきます。徐々に娯楽としての側面が増していくわけです。
しかしながら、19世紀頃には怪物は再び「未来を告げる存在」としての役割を担うようになります。もう一度日本に戻りますが、1819年、肥前国に現れた「神社姫」は疫病の流行を予言し、自らの姿を描けば病を避けられると告げました。この伝説はコロナ禍においてインターネットミームとして再流行した妖怪「アマビエ」の下地になっているとも考えられます。

他にも「件(くだん)」という妖怪は戦争や疫病の到来を予言するとされ、写し絵が流行しました。こういった具合で、モンスターというのは警告や予兆を示す存在であったり、比喩として大きさや偉大さを表したり、単に大衆娯楽や怪異単に登場する怪物であったりと、あらゆる側面が存在するわけです。
ビデオゲームのなかのモンスターの歴史
と、ここまでモンスターという概念の歴史について追ってきましたが、そもそもビデオゲームにおいてモンスターはどう描かれてきたのかについても(筆者の独自調査の範囲内で)迫っていきたいと思います。
世界最古のRPGにして、TRPGの祖である『ダンジョンズ&ドラゴンズ』。ゲイリー・ガイギャックスとデイブ・アーネソンが作ったTRPGは、のちに「ウルティマ」シリーズや「ウィザードリィ」シリーズにつながっていきますが、最速でコンピュータRPGにしたものが『dnd』(1975)です。
このゲームよりも前にコンピュータゲームは存在していますが、明確にモンスターが登場する作品はこれが元祖であると考えられているようです。キャラクターを作成し、ダンジョンを探索しながら、聖杯と宝玉を持ち帰ることが目的であり、RPGとしての重要な要素はこの時点から搭載されています。
しかし! 『dnd』を元祖と呼ぶにはちょっと待ったがかかるかもしれません。1973年に『Hunt the Wumpus』というテキストアドベンチャーゲームが存在するのです。

本作は洞窟を探索しながら、ワンプスという怪物を探して倒すことを目的としています。洞窟は20の部屋で構成され、プレイヤーは常に隣接する3つの部屋を移動して回ります。道中には落とし穴や巨大こうもりといったギミックも存在し、一筋縄ではいかないようです。このシステムはのちに『Zork』などに影響を与えました。
曲がる矢を使って隣の部屋を攻撃するわけですが、誤って撃つとプレイヤーに当たるかもしれないという、なかなか緊張感のあるつくりをしています。グラフィックこそありませんが、モンスターを倒すゲームという意味では、もしかしたら最古として認定してもよいかもしれません。
しっかりとグラフィックが描き込まれたモンスターが登場するには、80年代まで待つ必要があります。1981年の『3D Monster Maze』です。

本作は一人称視点のゲームであり、プレイヤーは16×16の迷路をさまよい、T-Rex(ティラノサウルス)から逃げ回らなければなりません。
ステータスバーには常にT-Rexの状態や距離感が表示されています。「REX HAS SEEN YOU」(T-Rexがあなたを見たぞ)や、「RUN HE IS BESIDE YOU」(走れ! やつはもう背後にいる!)などとプレイヤーをドキドキさせます。
サバイバルホラーの先駆けとも言われるだけあって、実際にT-Rexに遭遇したときのビジュアルはなかなか驚けます。これがたったの16KBとは到底信じられませんね……。
ということで、モンスターの歴史を2つの観点から掘り下げてみました。今日もまたどこかのゲーム会社で、とっても怖いけどどこか愛らしいモンスターが何体も作られていることでしょう。
記事作成に至って参考にさせていただいたサイト:
6 - Making monsters from I - Early modern ventures Published online by Cambridge University Press: 13 December 2018 https://www.cambridge.org/core/books/worlds-of-natural-history/making-monsters/096A1D54C5564D3DF3D1407A00283A3B
UNIVERSITY OF CAMBRIDGE What is a monster? https://www.cam.ac.uk/research/discussion/what-is-a-monster
兵庫県立博物館 第121回モンスターたちは告げる https://rekihaku.pref.hyogo.lg.jp/curator/5940/