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ユービーアイソフトによる人気建設シミュレーション『アノ(Anno)』シリーズ(もしくは「創世紀シリーズ」)の最新作にして7作目の『アノ1800』。4月12日~14日にはオープンベータテストが実施され、4月16日に正式版が配信されました(オープンベータのプレイレポートについてはこちらの記事を参照)。
『アノ』シリーズの特徴としては、『シムシティ』シリーズのような建設シミュレーション要素に加え、他の都市との外交や交易、そして戦争といったウォーストラテジーの要素を取り入れているところです。ただ、『エイジ オブ エンパイア』シリーズや『スタークラフト』シリーズなどのような対戦型RTSとは一線を画しており、基本的には都市づくりや交易を中心としてゆっくり楽しめるゲームデザインになっています。
敵を滅ぼす必要はなく、交易相手として仲良く付き合っていくこともできますので、「ウォーストラテジーは忙しすぎてちょっと……」という方にも、「都市建設だけだと緊張感がなさすぎて……」という方にもおススメできる「良いとこ取り」のゲームです。この間口の広さが、これまで多くのユーザーを魅了してきた理由の一つでしょう。
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『アノ』シリーズの記念すべき第1作目は、1998年に発売された『アノ1602』です。オーストラリアを拠点とするMax Designとドイツを拠点とするSunflowers Interactiveが共同開発しました。Max Designは『1869』や『Oldtimer』(北米版は『Motor City』)など経済シミュレーションゲームを手がけてきたデベロッパーで、『アノ1602』はその下地から生まれてきたゲームと言えます。昨年の12月に「『アノ』シリーズ20周年記念」ということで、Uplayにて『アノ1602』が期間限定で無料配布されていたので、プレイした方もいるのではないかと思います。チュートリアルも親切ですし、今遊んでも結構面白い作品です。
『アノ1602』は世界的なヒット作となり、2002年には続編である『アノ1503』がリリースされました。しかし2004年にMax Designはゲーム業界から去り、2006年にリリースされた3作目『アノ1701』ではドイツのデベロッパーであるRelated Designsが開発を担当。『アノ』シリーズ初のエクスパンションが登場するのもここからです。
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2007年になるとSunflowers InteractiveとRelated Designsは、『アノ』シリーズの版権とともにユービーアイソフトに買収されました。以後、ドイツのデベロッパーであるBlue Byte(2001年にユービーアイソフトが買収)とRelated Designs(2014年にBlue Byteが吸収)の共同開発になります。Blue Byteと言えば『The Settlers』シリーズなどでも有名で、開発を担当した4作目『アノ1404』の街並みもどこかそれっぽい感じでした。本作『アノ1800』でもBlue Byteが開発を担当しています。
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5作目『アノ2070』、6作目『アノ2205』では、これまでの歴史もの的な設定を大胆に変更。未来を舞台にしたSFものとして生まれ変わりました。賛否両論はありましたが、シリーズのマンネリ化を防ぐためにも良かったのではないかと思います。SFファンでシリーズ未プレイの方への入り口にもなりましたし、基本的なコンセプトは従来と変わらないので、これまでのシリーズファンにも楽しめる作品になっていました。
そして7作目である本作『アノ1800』ではまた過去に戻り、第一次産業革命による工業化時代が舞台になっています。SFが2作続いたため、筆者的には歴史ものに戻ったのは逆に驚きがありました。蒸気船や汽車が行き来し、飛行船が空を飛び、ガラス張りのパピリオンでは世界博覧会が開催されるといったロマン溢れる時代。そんな時代で建設シミュレーションゲームができるのであれば、楽しいものになるに違いありません。まずは本作の舞台である工業化時代がゲームシステムにどのような影響を与えているのか見ていきましょう。
新旧2つの世界での都市建設
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南北アメリカという新大陸を発見(原住民にとっては侵略ですが)する以前、ヨーロッパの人たちにとっての世界とは、ヨーロッパ、アジア、アフリカでしかありませんでした。この既知の世界を「旧世界」、それ以外の新たに見つけた土地を「新世界」と呼んでいました。本作においてはこの新旧2つの世界で都市建設をすることができます。
ゲームのマップ構造は「旧世界マップ」「新世界マップ」、そして全体マップである「ワールドマップ」から成っています。都市建設は旧世界と新世界で行いますので、プレイヤーはこれらのマップを切り替えながらゲームを進めていきます。それぞれ生産・建設できるものが違うため、必要な物資を輸送したり交易をしたりして、上手く利益を得ていかなくてはなりません。異なるマップでの都市づくりが、マップ切り替えによってスムーズに同時進行できるあたり、過去作からの技術的な進歩とPCスペックの成長を感じられます(その分メモリを食いますが)。
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「旧世界マップ」はヨーロッパが舞台となっています。工業化の時代とは言え、ゲーム自体は「農業の時代」からのスタートとなるため、最初のうちは過去作の街並みとあまり変わりません。住居をアップグレードしていくことで、だんだんとモダンな街並みになっていきます。また黒い煙を吐き出す各種工場も、工業化時代の雰囲気と大気汚染の深刻さが感じられます。
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新世界では異国情緒あふれる街並みとなっており、文化の違いをグラフィカルに感じ取れます。生産できるものや建設物にも違いがあり、例えばバナナやさとうきび、コーヒーなどの農園を作ることができます(こういうのを見ると、独裁国家シミュ『トロピコ』シリーズを思い出します)。旧世界と異なる生産チェーンが、ゲームプレイにアクセントを与えます。
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本作の目玉機能でもある「設計図モード」。建物をコスト無しで仮設置しておくことができます(建物は半透明状態)。これを使ってあらかじめ都市全体の建物の配置を決めておき、後で実際に建てていくといったことが可能です。お金や資材が足りないうちから都市計画を進められるので、ゲームに慣れてきたときには重宝します。こういうモードは他の建設ゲームにも欲しいですね。
探検や新聞によるプロパガンダなどの新要素
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本作の新要素である「探検」。ワールドマップ上にある未知の場所へ船を送り、探検することができます。クエストの一種ですね。送り込んだ船は、探検が終わるまでは使用できなくなるので注意。また船には士気があり、探検によって消費されていきます。船に資材や食料などを積み込むことによって士気を上げることができます。
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探検が始まってしばらくするとテキストによる状況説明が出てきて、それに対してどのような行動を取るかの選択を迫られます。アドベンチャーゲームというかゲームブックっぽさがありますね。探検に成功すると報酬をもらうことができます。建設ゲームはどうしても物語性が薄くなってしまうので、このようなクエストを用意することで時代背景をプレイヤーに感じさせることができます。
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印刷技術が発展したこの時代、ゲーム中には写真や新聞も登場します。そしてあなたに対して、定期的に新聞記事という名の評価が下されます。発行する記事は前もって見せてもらえますが、あなたの悪政の書かれた記事は住民の幸福度を下げる結果にもなります。
ここであなたにできることは、「記事のすり替え」です。不都合な記事があるのなら、都合のよいプロパガンダ記事にすり替えましょう(あなたが言論の自由を気にしないのであれば)。情報操作という為政者のダークな面も味わえます。こういったことをしたくなければ、住民に不満を感じさせない都市づくりをして、良い記事が掲載されるようにするべきですね。
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あなたの行動は、外交にも影響を与えます。あなたがプロパガンダ記事を発行したことを快く思わない為政者もいるでしょう。結果、あなたの「評判」が落ちることになります。逆にその為政者にとって好ましい行動をすれば、あなたの評判は上がります。評判が高ければ貿易協定や同盟を結ぶことができるので、誰と仲良くしたいのか、そのためにどのような行動をすれば良いかはよくよく考えた方がいいでしょう。この辺りの判断をするのも本作の面白いところです。
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マルチプレイは「最初に住民〇人、および〇ゴールドに到達したプレイヤーの勝ち」というような平和なルールなので、他のRTSのように相手を殲滅させる必要はありません。最後まで戦争をせずにプレイを終わらせることもできます。ただ1プレイに時間がかかるので、野良でやるよりはフレンドと時間を決めてやった方がいいかと思います。
細かい不満点も
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過去作の良いところを採用し、堅実に作り上げている本作ですが、細かい不満点もあります。特に気になったのは、ゲームを一時停止したとき、建設したり情報を見たりといった操作ができなくなることです。自分の都市をチェックしたければ、時間の進んでいる間に行わなくてはなりません。収支がプラスならいいのですが、問題はマイナスになったときです。その原因を探ろうとしている間にも、時間は容赦なく過ぎていきます。下手したら破産してゲームオーバー。マルチプレイならまだしも、シングルプレイのときぐらいはゆっくり遊ばせて欲しいかと。少なくとも情報ぐらいは一時停止中にも見られるようにしてもらいたいです。
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収支や都市のデータについても簡略化した情報だけで、建物ごとのメンテナンス費用や収益など詳細な統計データや推移グラフを見ることができません。都市が大きくなって赤字を出したとき、その原因を探るのに時間がかかってしまいます。特に本作は、一度負のスパイラルに落ちてしまうと、先ほども述べたように原因解明前に破産になってしまう場合もあります(基本的には一気に建物を作らず、収支を見ながら徐々に増やしていくのがいいかと)。
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新世界・旧世界・ワールドマップの切り替えですが、画面左下のアイコンをクリックし、さらにそこから選ばなければならないというのもちょっと面倒です(ワールドマップ自体はスペースキーで表示できます)。ゲーム中は切り替えが多いので、ワンクリックで切り替えられるアイコンを押しやすい位置に配置して欲しいところ。いっそのこと、2つの世界のミニマップを画面下に並べて表示するなど、ユーザーインターフェースのカスタムをできるようにするのがいいかと思います。
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また、チュートリアルは少々説明不足でした。カメラ操作や建物の回転方法、島によって育てられる農作物が決まっていること、交易の具体的な方法など、シリーズ初プレイの方のためにも基本的な部分の説明を詳しくした方がいいかと思いました。
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そして、コンセプトが過去作と同じなため、ゲーム的な目新しさに欠けています。やることも、マーケットを作って、住居などを回りに建てて、住居のアップグレードをして新しい階級の人たちを増やして……と毎度お馴染みの流れになっています。
戦争要素もいつものごとく数種類の海上ユニットが戦うだけで、都市建設に比べればオマケ要素的なものです。そもそもウォーストラテジー部分に重点を置いていないゲームデザインなので、戦争要素を作り込みすぎるとユニット管理が煩雑になって都市建設に集中できなくなるという問題もありますが、もうちょっと目新しさのようなものが欲しかったです。安心して遊べる分、ゲームとしての驚きが足りないように感じました。
総評
本作は、良くも悪くも「いつも通りの『アノ』」でした。もう7作目なのでゲームシステムも十分に練られており、シリーズの集大成とも言える作品に仕上がっていることは間違いありません。これまでの良いとこ取りをして無難に、そして堅実に作られていますので、正直ゲームとしては細かい点ぐらいしか文句のつけようがないのですが、これまでシリーズ作品を遊んできた身としては、もうちょっとサプライズ的なものが欲しいと感じました。戦争要素にも何か新しさが欲しかったです。
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また「産業革命」という時代設定も、今一つ活かしきれていない感もあります。時代の近い『アノ1701』と比較すると、街並みなどパッと見た感じで大きな違いが感じられません。蒸気機関が発展した「スチームパンク」というSFのジャンルがありますが、あれほど極端にする必要はないにしても、「いかにも産業革命」みたいな仕掛けを加えて欲しかったです。このあたりは今後配信されるDLCに期待したいと思います。
いろいろと不満点も述べてきましたが、やはり「いつも通り安心して遊べる」というのは、「本作を買っても損はしない」という意味でもあります。特に、シリーズ作品をまったくやったことのない方は本作からプレイするのがいいでしょう。シリーズ経験者にとってはサプライズ不足な点は否めませんが、その分手堅くしっかり遊べる作品に仕上がっていることから、建設シミュレーション好きの方には安心しておススメできる一作と言えそうです。
総合評価: ★★☆
良い点
・いつも通りの『アノ』シリーズなので安心して遊べる
・日本語サポートあり
・産業革命というロマン溢れる世界観
・設計図モードにより、前もって都市計画が可能
・新世界、旧世界といった特徴ある2つの舞台
・探検や様々なイベントでプレイヤーを飽きさせない
悪い点
・新鮮味に欠ける
・詳細な統計データや各種グラフを見ることができない
・新世界、旧世界の切り替えや管理が少々面倒
・時間を止めた時に、建設したり情報を見たりできない
・チュートリアルにおけるゲームシステムの説明不足
・産業革命という時代設定を今ひとつ活かしきれていない
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