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「中華ゲーム見聞録」第78回目は、上海のブラック企業で繰り広げられる社畜の人生をシミュレートした、カオスな育成カードバトルRPG『Shanghai Office Simulator(非一般職場)』をお届けします。
本作は機迷工作室が開発し、Logoi Gamesによって2020年10月27日にSteamで早期アクセス版が配信されました。近年、中国では「996」(朝9時から夜9時まで週6日働くこと)が社会問題になっており、「中華ゲーム見聞録」第47回目では、ブラック企業で働く社畜をテーマにした『彼岸画廊』というゲームを紹介したことがあります。最近は996どころか「8117」「8127」(朝8時から夜11(12)時まで週7日働くこと)などという言葉まで出てきています。
本作もテーマとしては「社畜」を扱っているのですが、『彼岸画廊』とは真逆の明るいトーンの作品で、むしろストレスと戦いながらどんどん働いてお金を稼ぎ、出世してCEOを目指すという、皮肉とユーモアたっぷりな内容になっているとのことです。
本作ではカードバトルや、育成ゲームの要素も取り入れられており、イラストもやけに勢いがあります。さらに自分の代で出世が上手くいかなくても、子どもに意志を継がせることができるとのこと。果たしてどんなゲームなのか、さっそくプレイしていきましょう。
新入社員スパくん
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まずはキャラクターメイキングの「履歴書」から。名前や出身地、性別、卒業した大学の学科を設定することができます。出身地と大学はランダムで決定されますが、やり直しも可能。大学はすべて実名になっており、主人公の基礎能力に関連します。
とりあえず名前を「スパくん」、出身地を「河南省・鄭州市」、大学を「鄭州大学・情報通信工学科」としておきました。パラメータは健康17・知能29・感情12・管理7・理解20となっています。
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一週間後、内定を頂けました。というか、就職先は本作のデベロッパー「機迷工作室」ですね。自らをブラック企業としているのでしょうか。さっそく会社に行ってみましょう。
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会社に行くと、行政部(管理部門)の暁彤(ぎょうとう)という女性が出迎えてくれました。終始和やかに会話が進み、社員カードも渡されます。雰囲気的には、ブラックなところはありませんね。スパくんは「202プロジェクトチーム」に配属されました。
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オフィスへ行くと、主管(責任者)の康騰(こうとう)という人物がいました(以下「上司」)。暁彤の話では「厳格な人物」とのことでしたが、案外気さくで頼りになりそうな人です。しかし仕事に対する態度は厳しく、「ここにいるみんなは昇進したいので、チームの足を引っ張らないよう」釘を刺されます。
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自分のデスクに案内してもらったスパくん。これが本作のメイン画面となります。カレンダーは、日付ではなく年齢が書かれています。ゲームスタート時は、大学を卒業したばかりの22歳。ゲームは年単位で進んでいき、行動力として「精力」を消費するというシステムです。
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PC上の「工作事件」(「工作」は中国語で「仕事」のこと)のフォルダをクリックすると、イベントが発生しました。レポートを提出すると、さっそく上司からのお叱りが!
「グラフも何もない」「主観的な意見ばかり」「そもそも文章が中学生の作文以下」など、次々と文句を付けられ、午前中に再提出するよう言われます。まだ入社したばかりなのに、かなり厳しく当たってきますね。
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イベントの結果、1,800元の収入を得ましたが、精力は1消費されました。同僚の江氷氷(以下「同僚」)の話だと、康騰は新人をいびるのが好きな人物だとか。オフィスでの存在感を示すためにやっているようですが、スパくんからすればたまったものではありません。上手くやっていくしかなさそうです。
オフィスモンスターたちとのカードバトル!
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「オフィスでの仕事において、襲い来る困難は、怪物のような姿をしている」と同僚は言います。これら困難と戦うことにより、スパくんは少しずつ強くなっていくとのこと。いずれはどんな困難も乗り越えられる、百戦錬磨の企業戦士になれるかもしれませんね。
そう言えば日本では昔、「24時間戦えますか」というキャッチフレーズのCMがありましたが、今だと逆に「がんばるな、ニッポン」になっていますね。中国企業でもバリバリ働く人は働きますけど、「お金がすべてではない」と思うようになった人も、若い世代で増えてきています。
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同僚からいろいろアドバイスを受けるスパくん。「いずれ出世してCEOになったら、私を抜擢することを忘れないでね」と同僚に言われ、スパくんは「もちろん」と答えます。ちなみにこの会話でも給料+1,400元入り、精力が1消費されました。
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レポートの再提出をするため、書き直しをするスパくん。自分では自信作だったのですが、上司に受け入れられなかったことが応えているようです。「自分はダメなんだ」と責め始めた時に、倪不形というオフィスモンスター(「意獣」と言います)が現れました。
「おまえはダメだ」「おまえは怠け者だ」「おまえにはできない」で人を責めてくる怪物で、スパくんに「さっさと仕事を辞めて田舎のママの元へ帰れ」と言います。スパくんは怒り、怪物と戦う決意をしました。
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戦闘はローグライクカードゲーム『Slay the Spire』のようなカードバトル形式で行われます。ルールですが、手札の各カードの左上には、場に出すのに必要な行動力が書かれています。スパくんには各ターン、行動力が3与えられ、これを消費仕切るまでカードを出すことができます。
バトルの基本ですが、「攻撃カード」と「防御カード」が主軸となっています(このあたりも『Slay the Spire』と同じですね)。攻撃カードは敵のHPを減らすことができ、防御カードは敵の攻撃を受けるための防御値を増やします。敵の頭上には「次の行動」が表示されているので、それを見て対応を決めるのがいいでしょう。
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もちろんカードコンボもあります。このバトルでは、コスト0の「挙一反三」(ダメージ2)でダメージを与え、このカードを「反思」(防御値+3に加え、「挙一反三」を手札に回収)で手札に戻してさらに使うコンボで攻撃しました。
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バトル中に選択肢が表れることも。「手加減してやっている内にギブアップしろ」と言ってきたので、それに対する返し文句を選択します。「『鉄布衫』(体を鉄のように硬くする気功法)を練習しているから、遠慮なくかかってこい」を選ぶと、攻撃力アップのバフが掛かりました。
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倪不形を倒して勝利!報酬として1万元をもらえましたが、精力が7消費され、さらにストレスが+500です。本作ではストレス値と幸福値があり、ストレス値が幸福値より大きくなるとデメリットが発生します。
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戦闘後に3枚のカードから1枚を選び、デッキに加えることができます(デッキは後で編集可能)。これもローグライクカードゲームでお馴染みのシステムですね。特定のカードを集めることにより、新たなコンボスキルをアンロックすることもできます。
立身出世を目指せ!
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スマートフォンで友人グループのSNSを見ていると、上司と同僚がのぞき見してきました。友人たちは良い会社に入っていて、きれいな食堂や入社式にやってきた有名人の写真などがアップされています。「もう友達やめる」と言い出すスパくん。
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「頑張って働けば、おまえも出世できる」と上司が言います。本作は22歳に入社して、60歳で退職しなければなりません。働ける期間は38年。一年間に使える精力は36ポイントなので、計画的に物事を進め、自分の能力を上げて昇進していかなければ、あっと言う間に定年になっていまいます。
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まともなアドバイスをしてくれた上司を見直すスパくん。しかし上司は、200ページに及ぶ資料を今日中に全部読むよう言います。窓の外はもう夜になっているのですが……。そろそろブラック企業っぽくなってきましたね。
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カードデッキ編集画面。デッキは最低6枚、最高35枚で組むことができます。また前述したように、指定されたカードセットを集めることで、コンボスキルを取得することも可能。今はカードが少ないので、全部のカードをデッキに入れています。
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イベントを進めると、レポートができたかどうかを尋ねる上司のメッセージが来ました。返答によって新たな特性を得ることができます。「3分の1ぐらいしか終わっていません」と事実を伝え、謝罪しておきましょう。これにより「独立」レベル1を取得しました。これらの特性は、戦闘などに影響を与えます。
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レポートが終わらなくて家に帰れないスパくんの元に、「圧力山」が現れました。仕事が多すぎて、ストレスが大きくなった時に現れる意獣です。「結婚・子育て・親の世話」など、将来の不安を並べてスパくんにさらなるストレスを掛け、仕事を放棄させてようとします。しかしスパくんは「まだ仕事を始めたばかりだ」と、これに抗います。
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バトル開始!指定されたカードを連続で出すことで、特殊スキルを発動させることができます。今回発動したスキルは、「敵全体に5ダメージを与える」というもの。これで一気に攻めましょう。
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倒した……と思ったら、敵が増えました。仕事がどんどん増えていくことへの皮肉でしょうか。しかしコンボによるスキル発動を狙っていくことで、少ないターンで仕留め切ることができました。勝利時の報酬にも、コンボ数によるボーナスが加わります。
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会議の後に上司に呼び出されました。「クライアントにシステムを納める前に、さらなる最適化をして顧客満足度を上げたい」とのことで、男の同僚と共に仕事を押し付けられたスパくん。納期までの時間があまり無いので、急がなくてはなりません。「先に市場調査してから、似た点を排除してオリジナリティを上げる」を選択し、「浪漫」レベル1を獲得しました。
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しかし仕事はなかなか終わらず、納期は迫ってきます。ここで摘塔客(「摘塔」はどちらも口偏に)が登場。時間が無いときに出現し、焦らせて仕事効率を落としてしまう意獣です。攻撃力があって結構強い。果たしてスパくんは勝てるのか、そして納期に間に合うのか。続きはぜひ自身の手でプレイしてみてください。
魅力的なイラストのデッキビルディング育成RPG
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本作はブラック企業の社畜をテーマにした作品ながらも、内容は暗くならず、むしろたくさん働いてさらなる昇進を狙いたくなるようなストーリーになっています。またゲームは段階的に要素が増えていくので、プレイヤーは無理なく少しづつ遊び方を学んでいくことができます(画像は、能力を鍛えるためのスケジュール作成システム)。
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さらには同僚や上司、両親にプレゼントを贈ったりして、人間関係を築いていくことも可能になります。女性が相手の場合は恋愛関係になり、結婚して子を儲けることも。自分自身へのご褒美を買って幸福度を上げたりもできます。
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オンラインショップでの買い物もやたらと充実。テレビや洗濯機などの家電から、ベビーカーなどの子ども用品、果ては豪邸や高級車、自家用ジェット機まで買うことが可能です。物欲を満たすことも、お金を稼ぐことの理由の1つなのでしょう。
中国では、アリババグループを創設した馬雲などの成功例もあり、「とにかくたくさん働いて、立身出世をして裕福になろう」と思っている人たちも少なくありません。本作は「善悪」の単純な2元論では無く、スパくんをいびる上司に対しても、「ちょっと身分の高い社畜でしかないので、恨んでも仕方がない」といった、ユーモアかつ皮肉を交えた視点で物事を語っています。
立身出世を目指しつつも、ストレス値と幸福値に注意しながら、会社とのバランスの良い付き合い方を考えさせられる作品と言えるかもしれません。現在、日本語はありませんが英語はサポートされているので、興味のある方はプレイしてみるのもいいかと思います。
製品情報
『Shanghai Office Simulator』
開発・販売:機迷工作室、Logoi Games
対象OS:Windows
通常価格:1,320円
サポート言語:中国語(簡体字)、英語
Steamストアページ:https://store.steampowered.com/app/1163140/Shanghai_Office_Simulator/
※本記事で用いているゲームタイトルや固有名詞の一部は、技術的な制限により、簡体字を日本の漢字に置き換えています。
■筆者紹介:渡辺仙州 主に中国ものを書いている作家。人生の理念は「知られていない面白いもの」を発掘・提供すること。歴史・シミュレーションゲーム・ボードゲーム好きで、「マイナーゲーム.com」「マイナーゲームTV」を運営中。著書に「三国志」「封神演義」「西遊記」「封魔鬼譚」(偕成社)、「文学少年と運命の書」「天邪鬼な皇子と唐の黒猫」(ポプラ社)、「三国志博奕伝」(文春文庫)など。著者Twitter、「マイナーゲーム.com」Twitter。