『塊魂』高橋慶太氏の新作『to a T』はなぜか筆者の心に強く刺さる不思議な魅力を持つゲームだった―インプレッションとインタビューをお届け【GDC2025】 | Game*Spark - 国内・海外ゲーム情報サイト

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『塊魂』高橋慶太氏の新作『to a T』はなぜか筆者の心に強く刺さる不思議な魅力を持つゲームだった―インプレッションとインタビューをお届け【GDC2025】

高橋慶太氏は『塊魂』の生みの親として知られ、最近は『Wattam [ワッタン]』など様々なゲームを手掛けています。

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『塊魂』高橋慶太氏の新作『to a T』はなぜか筆者の心に強く刺さる不思議な魅力を持つゲームだった―インプレッションとインタビューをお届け【GDC2025】
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現地時間の3月18日、GDC 2025にあわせて実施されたID@Xboxのイベント会場にて、『塊魂』や『Wattam [ワッタン]』を手掛けてきた高橋慶太氏の最新作『to a T』のプレイアブルデモが出展されていました。

本稿では、なぜか筆者の心に強く突き刺さった『to a T』のインプレッションと、高橋慶太氏のインタビューをお届けします。

不思議な魅力に満ちた『to a T』

『to a T』は、高橋慶太氏とuvulaチームが開発した、体がTのポーズのままになってしまった主人公を操作して日常を送る3Dアドベンチャーゲームです。主人公には愛犬が相棒としていつも付き添い、ゲームをナビゲートしてくれることもあります。

今回体験したデモは、主人公が朝起きて学校にいって家に帰る、というだけの流れなのですが、その間にあるプレイヤーを通した主人公の動作や、心情の動き、ちょっとした事件など、「日常」そのものがゲームとしてしっかりと落とし込まれているように感じます。

ゲームは日本語テキストにしっかりと対応しています。開始するとまずは主人公のキャラメイクからで、名前も変えられます。お気に入りのキャラになったら物語が始まります。起きたときにはすでに手がTのままで下ろすことができません。

プレイヤーがまずやるのは、朝起きて、犬を撫でて、トイレに行き、食事をして学校に行く準備をすること。誰もが日常の中でやっていることをコントローラーを使って操作しながら一つ一つこなしていきます。

犬を撫でるのも、伸びきった手をスティック操作で犬の頭に寄せ、頭に乗ったら左右にスティックを操作して撫でていきます。今回のXbox S X|Sコントローラーを使用してのプレイだったのですが振動機能によるフィードバックが本当に犬を撫でているような触感で驚かされました。

3Dの家の中を自由に移動できるのですが、手を下ろすことができないのでドアノブに手を伸ばすのにもいくつかのアクションが必要です。朝食の準備でも、シリアルをうまくお皿の上に持って行って落として、牛乳も同じようにうまくいれていく必要があります。こういった要素が本当に丁寧に作られていて、手が届きそうで届かないもどかしさと、届いたときの達成感を味わうことができます。

多くのオブジェクトには物理演算がしっかりと働いているので、こぼれたシリアルの動きを見ているだけでも面白いです。また、地面に落ちている缶や石などすべてに判定があるこだわりようです。

学校に行きたくない気持ちを抱きながら服を着替えて、犬と一緒に家を出て学校に向かいます。このときの主人公の母親の態度のそっけなさがプレイしていて少し心にチクりとします。

主人公の街は小さい箱庭のように構築されていますが、学校への道順はシンプルなのでマップを見れば迷わず行けます。その道の途中に落ちている石などオブジェクトも当たると判定があり、ただ道を歩くだけでも楽しく感じます。道中には、知り合いのキリンがやっているお店があります。人間だけでなく、いろんな姿の人がいる世界のようです。

学校に行きたくない気持ちのまま到着し、しぶしぶ教室に入った主人公を待っているのは、手がTのままであることをおちょくるクラスメイト達。「なんでそんなことするんだろう」と悩む主人公の純粋さが心に残ります。

学校の帰り道にちょっとしたトラブルが起こり、そこを乗り越えてデモは終了となるのですが、本当に一つ一つの要素が丁寧に構築されていて、日常的な動作をすることがゲームとしての楽しさに繋がっているこのシステム自体に筆者は強く惹かれました。

また、ビジュアルはかわいくほんわかとした感じですが、いじめなどのちょっとした人の心の影を描いていたり、コントローラーを通した操作感は驚くほど心地よかったりと、不思議な魅力にあふれたゲームとなっています。本作は5月にPCとコンソールでリリースされるので、ぜひ実際にプレイしてどんな体験かを確かめてほしいです。

高橋慶太氏に訊く、『to a T』誕生の理由

──本作はどのような経緯で開発されたのでしょうか。

高橋慶太氏(以下、高橋):『Wattam [ワッタン]』を作った後にとてもシンプルなゲームを作ってみたいなと思ったのが始まりです。キャラクターの両腕をスティックで操作して、物を掴んだりとか投げたりという、学生が考えるようなアイディアを思いついたんです。正直、このままだと面白くないなと思っていたのですが、そのキャラクターに対してプレイヤーが何も入力していないとき、どのような姿勢になっているのだろうと考えたら、リラックスした姿勢ではなくてTのポーズじゃないかと思いついて。そのとき思いついたTのポーズのキャラクターの印象が強くて、そこにストーリーなどを追加していってゲームになっていきました。スティックで入力した際もTのポーズだと計算したときにイメージもしやすかったですし。

そのアイデアをベースにしたのですが、世界の状況とかあんまり良いとは言えない中で皆が生活するのが大変だと言っていて、SNSに逃げていると感じて、なにかもっと自分たちの生活の基本的な部分で楽しいと感じるように、自分の若いときのことを思いだしながらちょっと視点を変えてみるのもいいかなと思いました。こんな暗い世の中だから、自分でもできないかなと思った思いをぎゅっと凝縮した感じです。

──高橋さんはバンダイナムコゲームス(現バンダイナムコエンターテインメント)で働かれた後に独立されていますが、大手の会社にいたときと今だと作品の作り方は違うのでしょうか。

高橋:会社を辞めたのは、そこで働いている人としか働けないのがすごく嫌だったんです。なんで日本人としかゲーム作れないんだろうと。ゲームの開発ももっと他の国の人とできていたら違う視点のアイデアとか入ってきんじゃないかと思っていたので。今の開発環境は、日本人ではなく、本当にいろんなグローバルな人材の中でリモートでやっています。

──今はアメリカにお住まいとのことですが、本作の主人公はアメリカの子供をイメージしているのでしょうか。

高橋:いえ、かなり日本の要素が入っているので、そういうのはないですね。アメリカの学校は、日本の学校の上履きのように靴を履き替える習慣がないですしね(ゲームでは靴を履き替えるなどのアクションがある)。学校の下駄箱がいっぱいあるスペースについて、これはどういうものなのかとチームの人に聞かれたこともありました。 靴がいっぱいあって、なんか匂いがするという表現も入れているのですが、これは日本独特のものですよね。あと、ゲームに登場する信号のデザインも日本のものに近いデザインになっています。

──あえて日本の要素を入れたのでしょうか。

高橋:そういうわけではなくて、私はアメリカで子供時代を過ごしていませんし、アメリカの学校の文化とかどうなっているかわからないので、しょうがなく日本、みたいな感じです。

──開発チームのどのような体制なのでしょうか。

高橋:アメリカ人の開発者もいるし、イギリス人もいます。イギリスは学校では制服だったたりと日本と文化的に近いところがあるかもしれませんね。

──確かに、本作の主人公には共感するところが多かったです。

高橋:この作品の主人公が学校に行きたくないと言っているのクラスメイトからのいじめが理由なのですが、これは日本だからとかではなく、世界的にあることだと思っています。私も実際にいじめられてましたし、いつも学校に行きたくないなと思っていました。

──主人公がいじめられている原因であるTポーズから戻らなくなった理由ですが、デモ版では一切触れられないまま終了しました。本編では説明されるのでしょうか。

高橋:もちろん語られます。本作はエピソードが8つあって、今回のデモは最初のエピソードとなります。話が進むにつれて謎もわかってきます。

──これまで高橋さんが作ってきたゲームは歌であったり音楽との親和性が高いゲームが多いと思っています。こういった音楽は高橋さんにとってどういうものなのでしょうか。

高橋:私はアニメが好きなんですが、オープニングの歌とエンディングの歌があるというアニメのフォーマットっていいなと思っているんです。だから、自分のゲームもそのフォーマットに基づいています。だって、歌や音楽はいいものじゃないですか。それだけですよ。

ゲームって、5年ぐらいかけて作って、ようやく人に見せて遊んでもらいますが、楽しいと感じてもらうまでにはモニターもいるしコントローラーも必要になります。でも音楽って、例えばその場で歌うだけでも人の気持ちを高揚させてくれて、みんなで楽しめるものです。その要素を少しでもゲームの中に詰め込められたらいいなと思っています。

──ゲームの音楽を作ってもらうときにどのように発注しているのでしょうか。

高橋:仕様書とかはなくて、こんな感じでお願いしますと口で伝えていますね。あのアニメのオープニングやエンディングソングのこんな曲、こんな感じの方向性の曲をお願いします、みたいな。それぐらいで、あとはお任せ。

──そのときにはゲームの画面とかも特にみせないのでしょうか。

高橋:映像なんかまだできてない段階なので。スケッチとかのラフなアイデアだけですね。デモの最後のキリンのエンディングソングは、キリンの曲でお願いと伝えています。ほかの作業も似たような感じですよね。仕様書なんてない。だから開発に時間がかかっちゃうのかもしれませんが。

──本作はどういう人にプレイしてもらいたいですか?

高橋:よく聞かれるのですが、別にターゲットは決めてないんです。自分が納得できるものを作ってるっていう感じなので、遊びたいと思ってくれた人に遊んでほしいですね。本当はもうちょっとターゲットのことを考えてゲームを作った方がいいのかもしれないですけど、それは次の人生で頑張ります。

──ありがとうございました!


『to a T』は、PC(Steam)/PS5/Xbox Series X|S(Game Pass対応)向けに5月28日(Steam版は5月29日発売)リリース予定です。


ライター:蟹江西部,編集:H.Laameche

ライター/十脚目短尾下目 蟹江西部

Game*Spark編集部。ゾンビゲームと蟹が好物です。以前は鉄騎コントローラー2台が部屋を圧迫していましたが、今は自分のボディが部屋を圧迫しています。

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