
2013年も後少しとなり、今年を振り返ると、海外でPS4やXbox Oneがリリースされ、ゲーム業界は次世代へ大きな一歩を踏み出した年となりました。その中で、PS4とXbox Oneにチップを提供しているハードウェアメーカーAMD、ニュース内で度々登場した、新グラフィック制御技術(API)“Mantle”は、2013年9月に行われたAMDのイベント「GPU14 Tech Day」で発表され、PCを中心に話題となりました。
この“Mantle”は、『Battlefield 4』(BF4)などで使用している“Frostbite 3”エンジンや、『Thief』など多数のタイトルで対応が発表されています。来年を見据え、発表からその一連の流れを追ってみたいと思います。
1.仕様を統合し、開発労力を減らす“Mantle”
AMDの紹介ページによると“Mantle”は、設計が異なるPCや、多数のコンソール機などのグラフィック仕様をある程度統一して、各プラットフォームに合わせたプログラミング労力を省き、“Graphics Core Next(GCN)”設計チップの性能を、ローレベルのプログラミングで最大限引き出すことが出来る制御技術(API)です。現在、“Mantle”に対応したハードウェアはPC用のグラフィックカード、Radeon R9とR7シリーズのみですが、他のプラットフォームにも対応できるよう設計されています。

- ・他の制御技術(API)より、CPUの負担を大きく減らすことで、より9倍以上の描写が可能となる
・GPUの全特徴へ直にアクセスすることで、高いグラフィックパフォーマンスを実現できる
・新レンダリング技術
・次世代機からPC等へ、移植に関する最適化作業に影響がある
2.DICEによる“Mantle”解説
他機種間のグラフィック設計の違いに対応し、ある程度統合を目指す“Mantle”は、どのような特徴があるのか?2013年9月に同“Mantle”が発表された、AMDの「GPU14 Tech Day」で、『Battlefield 4』の開発を手掛ける、DICEのテクニカルディレクター、Johan Anderssons氏が行う解説スライド(動画では10分16秒から)では、次のように書かれています。
- Mantle
■ローレベルで高パフォーマンスな動作を可能にする、コンソール機スタイルによるグラフィック制御技術(API)のPC版!
・YAY!
■AMDとEA/DICE間に、緊密な協力関係が築かれた
・議論でダイレクトに結果が出る
・クロスプラットフォームで開発する我々にとって非常に重要だ
■『Battlefield 4』は“Mantle”の最初のユーザーであり、その実験版でもある
・ゲーマーはAMDハードウェアから、確実に最高のパフォーマンスと体験を得ることができる

- “Mantle”における“Frostbite”
■“Frostbite 3”はWindows上で動作する“Mantle”によって、より自然に描写される
・DirectX 11の代わりとして、互換性を持ったRadeonのGPUを使用する
・現在開発中!
■優れたCPUパフォーマンス
・非常に低い描写負担、ロードとストリーミング
・全8コアCPUを使用した、完璧な並列処理
・ボトルネックとなるGPUとシステムを避ける
■高度に最適化されたGPUの使用法
・グラフィックハードウェアの能力全てにアクセスできる
・多くのローレベル最適化を可能にした
■未来への出発点として
・これは始まりにすぎない…
・“Frostbite”を利用した多くのゲームがある
“Mantle”とは直接関係ないものの、同じころに発表された“TureAudio”について、PS4はそれに対応したチップを搭載していることが、AMDの公式Twitterのツイートで明らかとなり、対応タイトルも『Lichdom』、『Star Citizen』、『Murdered』、『Thief』の4タイトルが発表されています。同“Mantle”に対応している『Star Citizen』と『Thief』がラインアップされていることに注目です。この“TrueAudio”とは、グラフィックカードにサウンド処理専用のチップを搭載し、音声を処理させることで、CPUの負担を抑えつつ、多数の音声チャンネルを表現可能にしたものです。
また『Battlefield 4』の“TrueAudio”対応について、海外メディアTom's Hardwareが12月にJohan Andersson氏に行ったインタビューでは、独自のオーディオ技術を使用しているため、対応する予定がないことを話しています。
Dominic Mallinson: The audio chip on the PS4 has TrueAudio technology #APU13
- AMDGaming (@AMDGaming) 2013, 11月 13
3.“Mantle”対応版『Battlefield 4』の特徴
同年11月に行われたAMDのデベロッパーサミット「APU 13」では、同Johan Anderssons氏が解説を行い、DICEのFrostbiteのスライド30ページ目には、プラットフォームについて次のように書かれています。
- Today
■“Mantle”は、今日のWindwsに強力な利点を与えてくれる
・Windows 7と8には、コンソール機のようなパフォーマンスとプログラマビリティがある
・開発期間は十分!
■DirectXとOpenGLは業界標準である
・“Mantle”をサポートしていないプラットフォームに必要
・開発者が、詳細に制御する必然があるなしに関わらず必要
・GL/DXは、フォールバックパスを搭載しなければならないが、自分自身を狭める物ではない
■“Mantle”とPlayStation 4は、将来におけるFrostbite設計と最適化を促進している
・PS4のグラフィック制御技術(API)は、素晴らしいプログラマビリティとパフォーマンスを同様に持っている
・コンセプトの共有や、メソッドそして戦略の最適化
- Battlefield 4
■“Mantle”版を開発中
・コアレンダリング(DX11よりPS4に近い)
・BF4で使用されている全てのレンダリング技術を実行(多い!)
・CPUの最適化(並列処理、ディスクリプタセット)
・GPUの最適化(変化の最小化、MSAA)
・先進的なGPU最適化の研究開発
・メモリ管理
・マルチGPUのサポート
・二か月で作業
■アップデート目標は12月末
さらに、37ページ目には“Frostbite 3”で“Mantle”に対応した、『Mirror's Edge』や『Dragon Age: Inquisition』など、15タイトルものゲームが開発であることを発表しているので、これから長期間にかけて利用する、という意味なのでしょう。
4.コンソール機での“Mantle”には慎重な動きも
PCでMantleを導入するメリットは大きく、ゲームのパフォーマンスを大きく向上させる技術であることがわかります。しかし、次世代機で“Mantle”を導入する利点はどの部分にあるのか、PS4とXbox Oneは、多少スペックの異なる、ほぼ同じ設計のGCNチップを搭載していますが、Xbox Oneは“OpenGL”といったDirectX以外の 制御技術(API)を、2013年10月の時点でサポートしていないことがWindows公式Blogで明らかとなっています。これに対しDICEのJohan Anderssons氏は、「(今コメントする衝動を我慢する)」とツイートしているので、何らかの反論があるのは確かなようです。
Windows blog post by MS about Direct3D and Xbox One: http://t.co/rgpgzu1HY7 (resisting the urge to comment right now)
- Johan Andersson (@repi) 2013, 10月 14
AMD has an interesting opportunity with Mantle because of their dual console wins, but I doubt Sony and MS will be very helpful.
- John Carmack (@ID_AA_Carmack) 2013, 9月 26
“Mantle”に対応することを発表したデベロッパーは、『Thief』を開発するEidos Montreal、『Star Citizen』を開発中のCloud Imperium Games、そしてOxide Gamesです。また『Crysis』シリーズや、Xbox Oneで『Ryse: Son of Rome』を開発したCrytekも興味を示しています。
その中でOxide Gamesのパートナーである、Dan Baker氏は、12月に海外メディアGamingBoltのインタビューに対して、PS4/Xbox Oneは、GCNアーキテクチャーに直接アクセスする制御技術(API)を持っているため、無理に“Mantle”が必要なわけではないが、PCでは“Mantle”を導入する利点が大きく、特にバッチパフォーマンスが、コンソール機のような性能を発揮できる事を話しています。
5.これからの“Mantle”
2013年9月の発表から今年の終わりまで、一連の流れを追ってみると“Mantle”は、PCで大きなパフォーマンス向上を実現しますが、PS4/Xbox Oneで導入する利点が少なく、対応もまだ未定なものの、CryENGINEを開発しているCrytekなど、興味を示しているメーカーが多数あり、EA/DICEは“Mantle”の利用に積極的なのが分かりました。
“Mantle”に対応させる『Battlefield 4』のパッチは未だリリースされておらず、正式リリースは2014年1月に延期されています。そのため、“Mantle”が本格的に始動するのは、来年以降なのは確かなようです。