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『メトロ エクソダス』はドミトリー・グルホフスキー氏の原作小説をもとにしたFPSシリーズの最新作です。核戦争により地上が滅んでしまった近未来、モスクワの地下鉄で数少ない人類が必死に生き残っているという世界観が綴られます。
過去作『メトロ 2033』『メトロ ラストライト』では、主人公アルチョムがメトロ内部を冒険し、様々な政治的イデオロギーによる闘争や、何らかの汚染等によって変異してしまった怪物たち、原因不明の現象で発生する幽霊のような存在に巻き込まれていきます。
『メトロ』シリーズは、小説をバックボーンにした重厚な筆致と、地下鉄での生活、怪しく危険な暗いトンネルといったメリハリある表現で、自分が活路を切り開いている体験を得られる、と評価されたタイトルです。
本稿では、2019年2月に発売されたシリーズ最新作『メトロ エクソダス』をレビュー。未プレイの人にはシステム面、クリアした人には物語面を含めてお届けします。後半はネタバレを含むので、ページを分けて構成しています。主にPC版を対象としているため、一部の動作・挙動については他のエディションと異なる場合があります。
また、発売に伴い筆者はGame*Spark掲載のPR記事執筆を担当しました。そのため本レビューの執筆にあたっては、本作を自費で購入・プレイし、全ての感想・レビューを筆者の発案として行っており、自筆ながら批判的な内容が含まれますことを予めご了承ください。
『メトロ』の実態はアドベンチャー
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『メトロ』シリーズはストーリードリブンな構成です。終始一人称視点を取り、アクションはシューティングがメインの体裁となるものの、その実態はアドベンチャーと言えます。
文字通り一人称視点の体験に没入するため用意された、数々のギミックが功を奏しました。これはシリーズに共通しており、主人公アルチョムの視点を重視したものです。実際のところ、物語に選択の自由は少なく、一人称で綴られた小説を読んでいくような構成です。
そのため、映画的な進行とは異なり、じっくりと読み込むようなゲームプレイとなります。イベントは強制力が高めで、後戻りできないパターンが続きます。今作で「半オープンワールド」なマップとなり、比較的自由にアプローチできるイベントも配置されていますが、ほとんどの場合は非常に長いセリフによって構成されており、腰を据えたプレイングを要求されることになります。
実はかなり割り切られたシステム
種々のプロモイメージから、未体験の方にとってはリアルなサバイバル系ジャンルの印象を受けるかもしれません。しかし『メトロ』はあくまでもFPS・アドベンチャーです。
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例えば、道中では弾薬や回復薬をクラフトできますが、そのために必要な資源の積載量に制限はありません(左上に表示されている二種の数字が資源)。主人公はバックパックを背負っており、運べる弾薬などの数に限りがあるものの、戦闘中でなければ大抵は常に補充できてしまいます。
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ステルスの光源判定は雑とも言えます。腕時計に装備された「光センサー」が光っているかどうかが全てです。ステージによっては、どう見ても明るい場所なのに隠れていられたり、全体が暗いはずなのに明るい判定になったりするので、必ずしもリアルに描かれた環境に沿って戦略を立てられる訳ではありません。ガスマスクのフィルター残量も、高難易度でなければそれほどシビアではありません。
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また、睡眠不足や栄養失調、ケガといったリスクがありません。フィールド上に存在するセーフハウスで寝泊まりして時間を進められますが、特に食事をする必要はないので、そうしたサバイバル要素はスポイルされています。
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ステルスで敵を排除する場合、気絶を選択しても特にリスクがありません。気絶させた敵が発見されてもそれほど警戒度はあがらず、時間経過で敵が目覚めてしまうこともありません。エンディング分岐に必要なカルマ上昇の為にも、とりあえず気絶させれば全く問題ないという部分は、シリーズを通して同様です。
以上のように戦闘・サバイバル両面は、シンプルでさっぱりした実装となっています。ギリギリのサバイバルを求める方にとっては肩透かしとなるかもしれません。クラフト資源の残量とにらめっこできるような、自分に合う難易度設定なら楽しめると思います。
メトロのリアルさは舞台装置的
ならば一体『メトロ』の何が没入感を高めているのでしょうか?その答えは、舞台装置的に用意された様々なアクションです。他のFPSに無い「そんなものまで!?」というアクションひとつひとつに操作が割り当てられています(以下はPC版での操作キーです)。
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Lキーでライターを点火。蜘蛛の巣で歩行が鈍った場合に焼き払うこともできます。
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Fでフラッシュライトを点灯。長押しで充電。地下探索、夜間の室内はライトがなければほとんど視認できないので、電池残量は油断できません。
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Mキーで地図の確認。メイン・サブクエストの位置が確認できるものの、自分でマーカーを付けられないので、何度も地図を開くことになるでしょう。
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G長押しでガスマスクの装着。装着後にGでマスク面を拭けます。ガスマスクは特に視界が大きく悪くなる訳でもなく、拭かなくても問題はありません。
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武器のひとつ「ティハールライフル」は空気圧で射出するものです。R長押しで充填モードに切り替え、クリックでエアを充填できます。弾が簡易的なのでどこでもクラフトでき、単発の威力が強いという魅力のある武器ですが、連射は遅めで、エアが無ければ豆鉄砲になる弱みもあります。序盤から、リスクを承知で戦えるという秀逸なアイテムです。
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Yキーで腕時計を見る、なんていうアクションもあります。実は頻繁に利用します。コンパスで進むべき道を、時刻は昼夜のサイクルにしっかり連動しています。一番手前に写っているのは放射線量計です。
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Hキー長押しで武器を下げることもできます。一部のNPCはこの状態でなければまともに話をしてくれないことも。仲間と話すときに、銃口を向けたままではモヤモヤしてしまうのはFPSあるあるですが、これで安心ですね。
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幕間や重要NPCとの会話では、酒を飲み、ラジオを付け、タバコを吸い(そして相手に向かって吐く)、ギターを鳴らす……と、その場に応じた様々なアクションを行えたりします。
これらのアクションは、決してゲームプレイに大きな影響を与える訳ではありません。ライターで蜘蛛の巣を燃やさなくても、通行できてしまいます。しかしながら、こうした所作をプレイヤーの意思で行うことで、主人公との不思議な一体感を演出しています。
反対に、弾丸や回復薬を作成する時はクリック一発で完了するなど、どこにリアルさを置いてデザインされたのかは明確になっています。どの面を取ってみても、物語を進める時にプレイ全体を止めなければならないような要素は排除されています。このバランス感覚は優秀と評価してよいでしょう。
『メトロ』シリーズは、アルチョムの視点にとってのリアルさを追及してデザインされており、一見して地味ながらもシリーズのオリジナリティとして大きな魅力を作り上げました。
求める者に応える環境と仲間達
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「半オープンワールド化」により、メインクエストで通過する必要がある場所以外は大半が無視できるようになっています。カットインムービーは皆無に近く、キャラクターに近づけば話がはじまりますが、その場を離れてしまうこともできます。
サブクエストや、幕間での仲間の話はほとんどの場合、かなり長いセリフが用意されており、その中で彼らの個性が段々と分かっていきます。なぜアルチョムを助けてくれるのか、どんな関係だったのか、そうしたものをプレイヤーの方から聞きに行くという構成が貫かれています。
プレイヤーが関わろうとするほど、『メトロ』はその設定をプレイヤーに返してくるのです。全てを求めようと思えばそれなりに時間はかかりますが、それは小説を読み進めるのと同じようなものです。少なくとも、旅を共にする仲間達はもれなく誠実であり、求めるだけのものはあると断言できます。
バグとスタック、操作性の悪さ
『メトロ』の持つオリジナリティは、求めるゲームプレイが合致すれば、以上のように大きくオススメできるものの、荒い部分が目立ってしまってもいます。
それほど多くはないとはいえ、チャプターをやり直すハメになるバグが発生することがあります。隅々まで資材を探したくなる設計の割に、プレイヤーがスタックしたり、一部の操作が不可になってしまい、セーブしたポイントによっては大きく戻されるリスクがあります。特にCS版では、進行不能となるバグも一部ユーザーの間で報告されているようです。筆者のPCによる環境では、スタックによる移動不可の問題が一度だけ起こる程度でした。
PC版では問題ありませんが、CS版コントローラーではエイミングが重すぎます。エイムアシストもかなり弱く、設定を最大にしても不足を感じることになります。このことから、それほど戦闘に比重がない割に、進行の足を引っ張る要因になっています。
声優さん達による日本語吹き替えは素晴らしい演技が当てられています。しかしながら、発声時間の配分の調整が悪く、キャラクター自身がかぶせ気味にセリフを話してしまう場面があり、せっかくの雰囲気を壊してしまいかねません。
以上のように、『メトロ エクソダス』は雰囲気を重視したアドベンチャー色の強いFPSだと言えます。シューティングやサバイバルを楽しもうとするにはオススメし難い部分もあり、人を選ぶ作品と言えるでしょう。
しかしながら、主人公アルチョムは王道的な旅を歩み、その物語は捻くれた作風ではありません。真っすぐに生きようとする青年の姿を追いかけるならば、報いのある結末を見届けられるでしょう。
※次のページからは、シリーズを通した物語の構成をレビューします。ネタバレを含みますので、以後の閲覧はご注意ください。