※このページは多くのネタバレを含みます、以後の閲覧はご注意ください。
種明かしと滑稽さの中に
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今作は、過去作におけるメトロの不思議が早々に種明かしされてしまいます。
電撃の玉であるアノマリーはモスクワメトロの中では恐るべき存在として忌避されていましたが、遠く離れた地上では、鉄骨に囲まれた場所であれば回避できることがわかります(地元住民は神の力だとしているようですが……)。
地上は滅んだ訳ではなく、生き残った人々が様々な環境の中で必死に生きていました。ミラーが信じていた中央司令部もなく、攻め込んでいると思われた「敵軍」もいません。モスクワメトロも、結局は限られた環境の中にうごめく、井の中の蛙にすぎなかったのです。
シリーズを遊んだ方は、ある種の寂しさ・滑稽さを感じたことでしょう。ある意味で「メトロの魅力を楽しみにしていた」部分を裏切られたとも言えます。
『メトロ』は何の物語なのか?
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なぜ、そのようにタネ明かしをしたのでしょうか?結論から言えば、『メトロ』はアルチョムが報われるかどうかの物語なのです。
『エクソダス』の設定から、『2033』のバッドエンド、『ラストライト』のグッドエンドを正史とすることがわかります。
『2033』のアルチョムは、ハンターやカーンといった大人たちから半ば利用される形で動かざるを得ませんでした。若く、実力も未熟だったアルチョムは、ただ必死にメトロを突き進みます。バッドエンドということは、アルチョムはダークワンを滅ぼす選択を取ったことになりますが、それでもアルチョムにとっては決死の正義でした。
『ラストライト』では、アルチョムはグッドエンドを迎えています(そうでなければメトロもろとも爆死していたはずです)。幼い頃にダークワンと接触していたアルチョムだけは、彼らと交流する副作用を受けずに済む体質を獲得していました。
その中で献身的な青年であった彼の姿から、生き残ったダークワン達はやさしさを学び、遂にはアルチョムとメトロの崩壊を防ぐために手助けをしてくれるまでになりました。オーダーとして訓練されたアルチョムは心も体も強くなり、貫いた正義は種族を超えて未来を繋げたのです。
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『エクソダス』でアルチョム達は結果的に「環境に捉われてしまった人々を解放する」という旅を巡ることになります。それは彼らが真実を知り、自分たちの手で追い求める者達となったことを意味しています。
何も知らず未熟だったアルチョムが成長し、それでも勇気と誠実さを失わなかったことで、最後は真実を追い求める旅に出る。筆者は『エクソダス』で、そうしたアルチョムの人生が真に報われたことを意味するのだと信じたく思います。
現実と虚構は隣り合わせ
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アルチョム達だけではその時点で解決しきれない問題が残されてしまう……これが本作の特徴でもあります。リアルさという意味ではむしろ、これこそ真に迫るものと言えます。ヴォルガ川の巨大ナマズを信仰しているカルト集団は、まだ分かりやすい例かもしれません。
そうした本質的な問題は、広いマップの中でプレイヤーが求め、探索して初めて浮き出てくるようになっています。特徴的な一例を示しましょう。
カスピ海ではバロンという人物が奴隷を使って燃料や水の独占をしており、ギウルという女性がこの解放を目指して戦っています。普通にクリアすれば、バロンを打ち倒し、ギウルがその後を担うという話で一件落着です。
しかし、カスピ海の中央部分には不思議な人物が一人で佇んでいます。
彼は自らを「本物のバロン」だと名乗り、うるさく指示しているバロンこそが影武者だというのです。面白いことに、彼自体はメインストーリーの中に配置されておらず、存在に気付かなければ話すこともありません。
彼は、仮にギウルが勝ったとしても、この地で生き抜く以上はまた同じような構造になるだけだと語り、アルチョムを前にしてさえ、うろたえる様子を見せません。
奴隷を解放したところで彼らは自活できない、水や燃料を確保する労働力として彼らを活用することで誰もが生きていける、そして全体の指針をまとめるために「聖火」という信仰の形が必要なのだと説明を続けます。
自称「本物のバロン」が語る話の是非については置くにしても、この時のアルチョム達には、確かにその形を崩してまで、この地の人々を救う力はありません。
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もしプレイヤーであるあなたがこの「本物のバロン」に出会った時、怒りを持ったなら倒してしまうこともできます。しかし、それでカスピ海の何かが解決する訳でもなく、彼自身もそのように発言してくるのです。
彼は正しいのでしょうか?本当に彼が本物なのでしょうか?
「本物のバロン」は常に、一人でタールの海を崖から眺めています。横に置かれたマネキンに向かって指示を叫びながら、いつまでも。
丁寧に進めるプレイヤーへの報い
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本作のクエストは、明確な報酬が設定されていません。
誰かの大切なものを取り返してきたりといったサブクエストは、その思いがにじむ一瞬の表情と、感謝の言葉とで締めくくられます。人形やギター……例え小さな舞台装置であっても、それらは物語の最後まで旅路を共にし、仲間たちの違った側面を輝かせてくれます。
アルチョムとして動き、アルチョムの正義に重ね、丁寧に進めていったプレイヤーならば、物語が終わろうとするその時、仲間たちが駆け寄る一瞬のシーンに大きな価値を感じたことでしょう。
正しくあろうとしたことが、すべて自分の未来へと報われていきます。ご都合主義かもしれませんが、筆者はこの点が貫かれて本当によかったと感じました。(グッド)エンディングの読後感の良さは、小説を読み終えたあの清々しさに近いものだったと思います。
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アルチョムがアンナを助けるために研究所へ突入しようとする時、屋上に見える小さな影に気付かれたでしょうか?筆者はこれをただのイースターエッグだと捉えたくはありませんでした。アルチョムが挑んだ決死の戦いに、ダークワンがほんの少し助けてくれたのではないかと考えています。
シリーズを通して、アルチョムが重ねてきた誠実さが誰かを救い、そして彼が命を懸けて戦うとき、これまでのすべての縁が彼を救ったのだと思いたいのです。
今作のバッドエンドでは、過去作のキーキャラクター達が登場します。『エクソダス』では名前すら登場しない者達です。アルチョムの迷いや後悔が、最後まで断ち切れなかったことを表現するのに、これ以上の場面はないだろうと思います。ただし、過去作をプレイしていない方にとっては意味の分からない演出であることは残念としか言いようがありません。
もし、まだグッドエンドを観ていなければ、是非とも挑んでほしいと思います。三部作を通したアルチョムの生き様が報われてこそ、本作の魅力はシベリアの真珠のように輝いて見えるからです。
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総合評価: ★★★
良い点
・絶妙な配分のロールプレイ要素
・ティハールライフルという優秀な調整役
・上手に割り切られたシステム
・仲間達の会話量とその愛おしさ
・オープンワールドと一本道のメリハリ
・調度品や小物、室内の内装の作りこみ
・物語を報酬とするサブクエストの質の良さ
・様々なバリエーションのステージ
・報われるシナリオ
・読後感の良い小説のようなグッドエンディング
悪い点
・変わり映えしない戦闘システム
・古典的なバグやスタックの存在
・ステルスの光源判定が不明瞭
・(CS版)操作が重く、爽快感を阻害する
・スキップ可能な場所が少なく、進行テンポが遅い
・移動が遅すぎる箇所がある
・セーブデータ管理の幅が少ない
・人を選ぶジャンルとシステム
・過去作未プレイでは理解できないバッドエンディング