パルクール
より進化した素晴らしいマップデザイン
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感染者を躱し、柵を飛び越え、入り組んだ構造物を駆け上がり屋上から屋上へと飛び移る……『ダイイングライト』シリーズの醍醐味はやはりこういったパルクールにあります。
前作では中盤以降に別マップが解放され、スキルアップによって強化されたキャラクターと、シナリオを通してパルクールに慣れてきたプレイヤーが、より難度のあるマップを走っていくという巧みなレベルデザインがされていました。
今作も基本的にはその流れを踏襲しつつも、さらに高低差の激しいアスレチックな構造が増え、前作よりもダイナミックな移動が可能に。またシナリオ後半で入手するパラグライダーは、高層ビルが立ち並ぶマップでその真価を発揮し、移動ルートにさらに自由な幅をもたらしました。
パラグライダーは強化すると上昇までできる優秀な子で、グラップリングと併用すると、空中ブランコの要領で移動しつつ隙あらば空を舞うというそれはもう無茶な機動で強行突破できるようになります。
ルートデザインの進化
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個人的に素晴らしいと感じたのは、マップに点在する建物とその部屋のルートデザインです。内部にはゾンビや資源アイテムが転がっており、経験値稼ぎと収集の心をくすぐるのですが、パルクール用のルートとしても利用できるのです。地上に降りるのも、屋上を渡るのも移動の勢いを落としかねない!といった場面で、こういった部屋を通り抜けることでとっさの「繋ぎ」にもなるという大変ありがたい存在です。
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またもうひとつの素晴らしい点は、一部のステージ・建物内では「複数の移動ルートが用意されている」こと。例えば、パルクールスキル不足で遠くの足場に届かないプレイヤーを想定し、手すりなどの壁伝い移動用オブジェクトが用意されてある……といったものですね。これは前作でしばしば発生した、「見かけ上は届く距離」であるにもかかわらず、なぜかジャンプの飛距離が急に制限されて届かない場所がある「ルート制限問題」を大きく改善したものでした。
スタミナゲージが……
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ところが「スタミナゲージ」が絡むと、せっかくのパルクールに「制限」を感じるストレスな場面が増えてきます。前作ではもともと戦闘時やダッシュ時におけるシステムで、今回は平面移動においては無限の持久力を誇りますが、何故かパルクールの上下移動時に適用されているのです。
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これが地味に厄介で、ともすれば前作主人公よりも肉体的に強いはずなのに、斜面を駆け上がったり縁などに掴まったりするとスタミナが減少していき、力尽きれば落下……高さによってはダメージを受けるか、最悪の場合は死亡してしまうのです。
これに加えてさらに辛いのは、スティック押し込みによるダッシュ直後はゲージ半分が消費されること。狭い足場からダッシュで助走をつけて壁に飛び移り、そこからさらに登っていく……という流れでこの消費量は操作ミスを許容しません。
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このため前作であれば、掴まってからじっくり狙いをつけることも可能でしたが、本作ではゲージに急かされプレッシャーを感じてしまいがち。そこへさらに逃走劇など「ミッション自体の制限時間」が絡むとバイターみたいな呻き声が漏れました。個人的にはこのプレッシャーこそがストレスの原因ですね。
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こういったストレスは主人公エイデンのスキルアップや、グラップリングフックなどのツールの使用で軽減されていきます。これは完全な憶測ですが、もしかしたら「苦労して育て上げた先にある爽快なパルクール」というカタルシスを演出する意図があるのかもしれません。しかし前作を経験している身からすると「本来の爽快感が制限されている」という印象が拭えませんでした。
戦闘
武器はガンガン改造すべし
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今作の戦闘も、前作と同じで基本的には近接武器による斬撃か打撃が主な攻撃手段で、弓やクロスボウといった遠距離武器は、ある程度シナリオを進めると活躍してくるようになります。
見た目は同じでも基本攻撃力や耐久力などそれぞれ異なるパラメータがランダムで設定されており、中には改造によって基本攻撃力に火や氷といった特殊効果・属性を付けることができます。しかも改造によって耐久力が回復するので、くたびれてきた愛用の武器を大事に長く使い続けることもできたり。前作における修理とは少々異なりますが、個人的にはこの改造システムは大好きです。
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ただし改造は、拠点でクラフトマスターなるショップ(人物?)から設計図を購入し、手持ちの資源アイテムを消費してクラフトという段階が必要でやや面倒だったり。とはいえ前作よりも入手武器の耐久度が平気で100を超えることが多く、しかもシナリオが進むにつれ基本攻撃力のインフレが始まるので、使い捨て上等で無改造のまま進めても問題ないでしょう。
敵は基本的に避けるべし
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登場する敵は「感染者」と「人間」の2種類。緩慢な動きの前者と、回避やガードといったテクニカルな動きをする後者と、相手によって戦闘のアプローチが変わるのが面白いですね。倒せば死体から資源アイテムなどが入手可能で改造にも利用できるのですが、戦闘にかかる時間や装備やアイテムの消耗を考えると、正直なところそこらの敵を倒したところであんまり旨みがないような……。
とはいえこちらは武器以外にも消耗品として手榴弾やデコイなどの投擲アイテムが使えますし、または背後から忍び寄ってテイクダウンで消耗無しの一撃必殺で倒せるので、ここらへんはしっかりプレイヤーの攻略スタイルを受け入れる懐の深さがゲームデザインに表れています。
どこぞのショッピングモールでエンジョイしていたジャーナリストと違い、本シリーズのゲームデザインは感染者相手に無双をするというより、リスクの取捨選択に重きを置いていますからね。まあ前述の施設などを攻略してスキルアップを積極的に行っていれば、難易度・損耗を度外視で大暴れはできますが……。
ちなみに前作でしばしば話題に上がった表現規制の問題……今回はまったく一切の変更はありませんでした。感染者だろうが人間だろうが、身体の一部は吹っ飛び、血は燃え上がる赤でした。
気になる点
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敵との戦闘において、武器を振るえばスタミナゲージが減少していき、底をついてしまうと息切れを起こして大振りな攻撃になってしまうのは前作と同様。そこで、スタミナ配分を考えながら敵との距離感を適切にコントロールして着実に攻撃を当てていく……という本シリーズの戦闘スタイルが筆者は大好きです……ただしパルクールの挙動が優先されない限り。
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というのも今作は、戦闘中に足場が少しでも傾斜になるとパルクールの動きが優先され、何故か攻撃ができなくなるのです。敵はその斜面をほんの少し降りた先から切っ先を当てて攻撃してくるのに、我らが主人公エイデンは斜面に滅法弱く、ちょっとした傾斜でも武器が持てなくなるという謎の現象。挙げ句スタミナゲージも減っていくという理不尽さ。
もちろん戦う場所を選んで慎重に立ち回ればある程度は防げる話ではありますが、建物のデザイン上、特に序盤のマップにおいてこれは大きなストレスでした。主人公エイデンは壁走りもできる強靭な足腰を多少の傾斜にもどうか使っていただきたい。
スキル
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飛んだり走ったりすればパルクレールスキルが、敵と戦えば戦闘スキルの経験値が貯まっていき、ある一定値を超えるとスキルポイントが1つ増え、新しいスキルをアンロックすることができます。ただしその際、基礎体力と基礎スタミナの値が足りないと、アンロックされたスキルでも取得はできません。そのためGRE施設などでインヒビターを入手して基礎ステータスもレベルアップさせておく必要があります。
これは個人的な体感ですが、ストーリーだけ進める場合、なかなか経験値が貯まらないのでスキルアップのスピードはだいぶ遅い印象でした。しかもインヒビターによるレベルアップ要素が足を引っ張ります。とはいえこれはストーリーだけを進める場合であって、探索を重点的にこなしていればもっと早く最強の主人公エイデン君に成長するので、バランスとしてはちょうど良いかなとも感じます。
ちなみにドロップキックは今作においても最も頼れる相棒として君臨しています。
探索
各所で感じる生存者達の「年月の重み」
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探索はオープンワールドゲームである本作において醍醐味の一つ。個人的に今作の探索要素は、ゲームの世界観をより深く体験できるという意味において、前作よりもさらに力の入った設計がされていると感じます。それは今作の舞台が、ハラン事件からさらに15年後であるところが大きく、シティのあちこちで確認できる生存者の暮らしや、かつての世界の名残りが「年月の重み」として深みのあるアクセントになっているからです。
もちろん前作のハランにもそういったものありましたが、どちらかといえば「人々の最後のあがき」といった印象が強く、反対に今作のシティでは「受け入れて生き延びてきた」という印象でした。特に、地道に作られていったのであろう各拠点の構造や、屋上含むあちこちで生存者達が野菜などを育てている様子から感じ取れます。これらは素晴らしい没入感を与えてくれるので、単純なフレーバー以上に大きな役割を果たしていると言えましょう。
時間帯による変化
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前作にもあった昼夜のシステムは今作にも登場します。前作と異なる点は、主人公に設定された「免疫力」なるゲージのおかげで、夜や暗がりの滞在時間に制限がついたこと。これに加えて化学物質汚染エリアでのんびり探索でもしていたらあっという間に死亡してしまうので要注意です。キャラクターを強化すればゲージが増加するので、シナリオ後半にさしかかる頃にはそこまで気にはなりませんが、ややストレスな要素。
とはいえ、そういった制限はついたものの、ボラタイルに熱烈アタックされていた前作よりは、チェイスはあれど今作のほうが夜道を出歩きやすかったかもしれません。なんやかんやで拠点やUVライト、さらには免疫力用回復アイテムが転がっているおかげで、夜の移動はだいぶやりやすくなっています。ストーリー進行でしばしば夜帯の活動を求められることもありますが、あまりストレスを感じることはありませんでした。
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チェイスとは、特殊感染者「ハウラー」に発見されると開始される追いかけっこのこと。4段階でチェイスレベルが上がり、追いかけてくる感染者の数はどんどん増えてきます。イメージとしては「バイラルがいっぱいやってくる!」という感じ。移動ルートさえ間違えなければ、さほど苦労せず安全圏まで逃げ切れるのでそこまで脅威には感じません。というよりそもそもハウラー自体、発見されるまでの時間に余裕があるのでそこまで理不尽なことはない印象だったり。
なお夜間帯は、戦闘とパルクールの経験値にボーナスがつきます。チェイスを利用してそれらをさらにブーストさせることで、一気にスキルポイントや資源アイテムを稼ぐというハイリスクハイリターンな戦法もできたり。
施設
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街には、パルクールで利用できる建物以外にも、各勢力の拠点、盗賊含む生存者のキャンプ、ナイトランナーの隠れ家、GRE関連の施設、荒廃した店や避難車両などなど、スキルアップや探索の役に立つ施設があちこちに存在します。街中を移動しているだけでこれらの施設が気になって、ついついクエストよりも先に足を運んでしまったり。
探索という点では、GRE施設や荒廃した店などは、感染者がうろつく暗がりや化学物質による汚染エリアをかいくぐって、資源アイテムやインヒビターを探し回るなど遊びごたえ抜群。また夜間帯の方が、内部の感染者数が少なかったりと、攻略するにあたり普段のゲームよりも戦略的なアプローチが必要になってくるのが面白いですね。
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サバイバーセンスを使って周囲を索敵したときに、レア以上の資源アイテムが散らばっていてよっしゃラッキー!と思いきや、同時に敵の赤いシルエットが大量に並んだ時の絶望感は最高でした。なおボタンを押しても何故かサバイバーセンスが不発する時があるので、慎重に歩みを進めましょう。
クエストを進めるにあたり、拠点を除いたそれら施設を利用することはありますが、それ以外のゲームプレイでは、利用するかどうかはプレイヤーの自由で、強制されることはありません。もちろん、利用すればそれだけ貴重なアイテムや、スキルアップを行うことはできます。特に攻略後はファストトラベル機能としても利用できる「地下鉄の駅」は、クエスト内の移動距離が長くなってくるシナリオ中盤以降においておおいに助かる存在です。
しかし、基本的にはメインクエストをこなしていくだけで必要最低限のスキルや装備は揃うので、繰り返しますが、こういった探索をするか否かはプレイヤーの判断次第。自由に選べるゲームデザインは評価が高いところです。
選択によって勢力とマップに影響が出る
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マップはいくつかのエリアに分けられており、それぞれ「ピースキーパー」「サバイバー」「レネゲイド」といった生存者コミュニティの勢力によって治められています(?)。本作のシナリオは基本的に「ピースキーパー」と「サバイバー」が中心となって進行し、共通の敵として「レネゲイド」が置かれているような関係図です。
記事冒頭でも書きましたが、本作の挑戦的な試みとして、今回はプレイヤーの選択がその勢力図に影響を与えるシステムが導入されています。マップの中には「給水塔」や「変電所」といった施設が存在しており、感染者や敵の手に落ちたこれらを制圧後には、「ピースキーパー」「サバイバー」どちらの生存者コミュニティに施設機能を割り当てるかという選択肢が表示されます。
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今あるものを消費していくしかないという限界極まった荒廃世界において、水と電力はライフラインを支える何よりも貴重な存在。そのためマップエリアのそれら施設を手に入れたコミュニティが、そのままエリアの勢力図を塗り替えることになります。どちらの勢力に肩入れするかはプレイヤー次第ですが、各勢力の見返りとして、街中を移動しやすくなる設備や、感染者へのトラップ設置などがされていきます。
よりダイレクトに影響を及ぼすストーリー中の選択とはやや異なりますが、これもプレイヤーの意志が反映される要素で、いつの間にかコミュニティへの帰属意識めいたものが芽生えているのが面白いプレイ体験でした。個人的にはクロスボウが欲しかったのでピースキーパーにじゃぶじゃぶ回したり。
ストーリー
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本作において「プレイヤーの選択によって分岐するストーリー」というシステムは、非常に力が注がれている部分。実際、選択とその結果による重さは前作DLC「ザ・フォロウィング」よりも強烈なプレイ体験となりました。
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ところどころ共通ルートではあるもの、選んだルートによって敵味方が入れ替わり、この誠実そうなキャラクターが実は……といったイベントが重なると、自分しか信じられない!といった疑心暗鬼に陥るのが最高に楽しいですね。しかもその敵味方の線引も、「誰にとって」という視点が絡むため非常に難しいのがニクい演出。ホーコン!俺にはあんたしかいない!ホーコン……?
なお日本語の声優さん達も良いお芝居をしてくれるので、物語にぐいぐい引き込まれます。特に主人公エイデンは、一部ムービーを除き、表情が見えないのにもかかわらず、声だけで見事に感情の変化を表現しきっており、涙を流して訴えかけるシーンの凄まじさはコントローラーを握るこちらも思わず涙ぐむ程でした。
ただし……
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個人的に上記システムによって変化するストーリーは大いに楽しみました。おつかいゲーになりがちなのを、「妹のミアを探す」という一貫した目的を根底に置くことで、シティ各勢力に協力する自然な流れにしつつ、選択によって変わっていく展開が中だるみを防いでいます。しかしながらお話全体を見るとき、細かい部分の整合性は後回しにしている印象も強いです。
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主人公の超パワー発現のタイミングがお話の都合に見えるのはまだ良いのですが、ワルツに関する部分はもっとご都合的というか、言動が支離滅裂の一歩手前になってしまっています。
そのため彼とのラストバトルは、会話パートと形態変化による戦闘が繰り返し3回目に突入したあたりで「いい加減にしろ!」となり、そこから雑に処理されるGREキーとミアの下りに気持ちが全く入り込めませんでした。なお筆者の場合、そのまま街が火の海になっておしまいと続いたので、しばらく「何だったんだ今のは……」と真顔になりました。
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分岐によってエンディングが変わるので、他のパターンであればまだ納得のいく形で決着するのかもしれません。よしそれなら確認だ……となると今度は「周回要素がまったく用意されていない」ことが、最大の問題となって立ち塞がります。
プレイ中はセーブデータを分けて保存できず、クリア後は強くてニューゲームも無い。せっかく「あの時、別の選択をしていたらどうなっていたのだろう」という、周回プレイのモチベーションがあったのに、もう一度最初から30時間以上やり直しというのは流石に面倒です。
オンラインで他プレイヤーのミッションにお邪魔すれば良いとは思うものの、結局のところそれは自分のプレイ体験では無いのが辛い。中途半端に時間を巻き戻してクリア後の世界を探索させるくらいなら、せめて周回要素を入れて欲しかったですね……!
ただし、PC版ではバックアップセーブ機能がパッチにて追加されたので、コンシューマ機にも期待したいところ。
おわりに
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前作のシステムを整理しつつ、挑戦的なアプローチと圧倒的なボリュームを盛り込んだことで、根幹となる面白さはそのままに遊びごたえたっぷりになった本作。もちろん不満点はありますが、やはり全体で見れば楽しいプレイ体験であったことは間違いありません。だからこそ、動作不安定などのバグが一刻も早く解消されることを願ってやみません。
良い点
・ダイナミックに進化したパルクール
・挑戦的なシナリオ分岐
・わかりやすく整理されたUI
悪い点
・整合性の足りないストーリー
・没入感を削ぐバグの多さ
・前作から制限をかけられた一部システム