!注意!
本記事はビジュアルノベルADVのプレイレポという都合上、ネタバレに触れざるを得ないため、閲覧にはご注意下さい。
もし「事前情報は仕入れないようにしている」「初見で楽しみたい」といったような方が、何かの間違いで本記事に迷い込んでしまったのであれば、この時点で画面上部にいるスパくんの顔をひっぱたくか何かして、速やかにブラウザバックすることを強くおすすめします。
今回は個人デベロッパーhcnone氏が、2023年5月5日にSteamにてPC(Windows/Mac/Linux)向けにリリースした限界社員ビジュアルADV『Endless Monday: Dreams and Deadlines』をご紹介したいと思います。
『Endless Monday: Dreams and Deadlines』とは?

本作は、とある大手企業に務める限界社員ペニーが絶望的な締切を前に頭を抱えるところから始まるビジュアルノベルADV。要領を得ないプロジェクト概要を睨みつけ、多肉植物に話しかけては裏切られ、スマホゲームに現実逃避をしながらも、どうにかこうにかもがいていく様子がコミカルに描かれています。
ゆるいタッチのグラフィックデザインに反して、ゲームシステムは手堅く作り込まれている本作。それとなく添えられた誘導もわかりやすいため、筆者がプレイした範囲では「わからん、詰んだ」という事態は起きませんでした。最短BAD END(?)直行な場合を除いて、1周クリアがだいたい1時間程度なものの、その中身は胸に来るこくまろがいっぱい。早速紹介してまいりましょう。
ついに日本語化
2023年6月27日、ついに日本語にも対応。その翻訳を担当されたのはmimirin氏で、校正とLQA(翻訳をゲームに実装し、確認する工程。ただしく反映されているかどうかのチェック)はnicolith氏、ささざき氏によって行われました。日本語であっても各キャラクターの人物像が味わい深く、違和感のない台詞回しで非常に質の高いものだと感じます。
ゲームは短編的な位置づけ
ところでhcnone氏はもともと「Endless Monday」というZINE(個人出版の印刷物、フライヤー……あまり正確とは言えませんが、日本でいうところの同人誌的なもの)を刊行しており、本作はそれらの世界観などをベースにした短編的位置づけになります。
いやぁZINEの方もボリューミィで最高ですな!順序が逆かもしれませんが、ゲームをプレイした後だと、「あ!ゲームのあのキャラだ!」といった具合にホクホクで、素晴らしい余韻に浸ることができました。もちろん最初から同氏のファンで、ZINEを楽しんできた読者が本作ゲームをプレイした時の感動も想像に難くないですね。
サントラもグッド
またBGMはChance Thrash氏によるもの。ゲームプレイをひとつのトーンで整え、かといって没入感を邪魔せず、むしろ心地よく耳に残る粒ぞろいの曲ばかりで個人的に大好きです。サウンドトラックも配信中なので、気になる方はこちらのウェブサイトを要チェック。
操作・設定

本作の操作はマウス&キーボードで行います。マウスによるクリック操作、キー操作どちらでもプレイは可能ですが、より直感的にグリグリ触ることができるのはマウスのほうがやりやすい印象。その他設定は極めてシンプルで、BGMとSEのボリューム変更、画面周りでは点滅ONOFF、解像度変更(720p/ 1080p)とフルスクリーンモード/ ウィンドウモードの切替などが調節できます。
個人的にテキストスキップとテキスト表示のスピード変更の項目があるのが助かります。なおセーブ画面しかり、ゲームの進捗が「プロジェクトファイル」の数で把握できるのでわかりやすい。
本編開始

さあ始まりました『Endless Monday: Dreams and Deadlines』。タイトル画面右側で眉毛を8時20分の形にしているやや笑顔の女性が我らが主人公ペニーちゃんです。後ほどの企画書でちらりと見えるファーストネームはペネロペー。属性は青髪ポニテにブルーリボンへ縦セタときました。これはアナハイムがやりやがったということです(強めの幻覚)。
タイトル画面は英語表記ではありますが、よく見ると画面右上に小さく「日本語」と書いてあり、これ以外の画面はゲーム開始時点で全て日本語に対応していました。設定の話に少し戻ってしまいますが、ここから設定画面にアクセスすると、クレジットとイラストを閲覧することが可能。多くのイラストレーターによる素敵で可愛らしい絵がずらりと並びます。

そんな中で個人的に「アッ」と喜びの声が出てひっくり返ったのはこちらのイラスト。hcnone氏Twitterのヘッダー画像(記事執筆時点において)にもあるのですが、これは皆さんご存知地獄パズル『Helltaker』原作者のŁukasz Piskorz氏による描き下ろしですね。相変わらず特徴的なキュートさがたまりません。
基本的なゲームの流れ

さてさて、本作はビジュアルノベルADVということで、プレイヤー操作を通じた主人公ペニーちゃんのアクションによって、ゲームはコミカルに進行し物語も様々な展開を見せます。そのアクションとは、状況によっては制限がかかることもありますが、「セーブ」「考える」「行動」「移動」、そして「スマホ」が主になります。
「セーブ」については、オートセーブと手動セーブがあり、データスロットがいくつか存在するので、物語の要所要所でデータを分けながら記録していきましょう。おそらく分岐などのクリティカルな影響のあるイベント前後では、アイコン上部にそれとなく「赤い点」が灯るので、それを目印にすると良いかもしれません。筆者はよく考えずに最初から最後まで同じセーブスロットに記録し続けたため、他のイベントを見るべく別データでもう一度最初からプレイし直すことに……!
「考える」については、現在置かれた状況を整理するようなモノローグが流れます。その際に、文字が色付きで強調表示されたりするため、その後のアクションとイベントにつながる意外なヒントが隠されていることもあります。
「行動」については、現在地に対応した選択肢が表示されるので、自分の行動を選んでいきましょう。デスクにいる場合は、プロジェクト概要を確認したりできますね。ただし、場合によってはエンディングに直行しかねないものもあるので要注意。とはいえ、そこらへんについてはモノローグで、さりげなくダブルチェックめいた意思確認があるので安心です。
「移動」については、文字通りオフィスの他エリアへ移動します。休憩室で珈琲をキメるもよし、会議室で何かネタの足しになるものを探すもよし、以前から気になっていた謎の廊下を調べに行くもよし、窓辺へ行って眼下に広がる街の明かりに自分の過去を顧みて半泣きになるもよし。
「スマホ」については、本作におけるキーアイテムだと思います。ミニゲーム以外にも、他キャラクターへの通話をきっかけにイベントが進行するなどかなり重要。またTODOリストを確認することで自分の状況を俯瞰できるため、イベント分岐の条件を調べる際にも有効かもしれません。

こんな具合に本作では、上記のアクションを駆使してゲームを進めていくことになります。何からどうすれば良いのかわからん、という場合は総当たり戦よろしくひとつずつ見ていけば意外となんとかなるかなと。そういった状況自体がほぼ発生しないとは思いますが……!
ゆるふわタッチのイラストから繰り出されるヘビーな焦燥感に震えよ

ゲーム開始直後に、主人公ペニーちゃんが置かれた状況についてかいつまんでモノローグがあり、そこへ先輩社員であるウィスキー女史からクラブで踊り明かそう飲み明かそうぜぃと誘いの電話がかかって、事態が進行していきます。

つまるところペニーちゃんはアサインされた仕事の締切直前金曜夜にひとりオフィスにおり、このまま月曜朝を迎えればウィスキー先輩の顔を潰すどころか間違いなくクビ。意識だけ高いふわふわした横文字が並ぶクソみたいな企画書をもとに、謎の自社製品に対して広告イラストを6枚描かなければならないという状況にあります。

いわゆる絶体絶命の危機。業種問わず似たような経験のある社会人プレイヤーはこの時点で胃がキュッとなって喉がグェッとなることでしょう。筆者はしばらく胸を手で押さえて呼吸が荒くなっておりました。

ともあれ、ここらへんにおけるレベルデザインが実に丁寧で、前述のアクションを使い分けながら状況を進めることで、1枚ずつイラストが仕上がっていく流れになります。追い詰められた人間がデスクのパソコンモニタを前にして、とりあえずプロジェクトファイルは読んだということで罪悪感を薄めつつ、落書きをして現実逃避をしてから、重い身体を引きずるように社内をぶらつき、手元のスマホを握りしめ悲鳴を押し殺したヘルプコールを関係者へかけていく……。

これら一連の行動を経て、選択肢や移動先の場所が徐々に増えていくのが、「この世界に触れたばかりのプレイヤー」と「この世界で虫の息になっている主人公ペニーちゃん」の間に横たわっていたギャップを埋めて同じ調子に整えてくれるのです。シームレスに没入感を深めてくれるナイスデザインとも言えましょう。

ここから先は、話題に触れること自体が物語への結構なネタバレになりかねないので、あえて言葉を濁しますが、とにかく濃ゆい各キャラクターとの軽妙なトークが豊富で、2回目以降の選択で若干内容が変化していたり、突然の転調ギミックがあったりと様々なコンテンツが用意されていました。
個人的に涙とともに共感していたのはスカイ女史。物語の展開はどれをとっても面白く、1周がだいたい1時間ちょいでクリアできるというのも相まって、非常に遊びやすいプレイフィールでしたね。
おわりに

他タイトルを挙げてしまうのですが、私はサイバーパンクバーテンADV『VA-11 HALL-A』が大好きで、そのねっちょりした想いはこちらの記事に綴ってあるとして……『Endless Monday: Dreams and Deadlines』に対しても、近いレベルですっかり魅了されてしまい、記事冒頭で触れたhcnone氏のウェブサイトに溢れるコンテンツを端から眺めては鼻から胸いっぱいに「いい空気」を吸い込んでおります。

ともあれ、本作は足場となる世界観がガッチリ存在しており、そこから丁寧にシステムを組んで、さらにグラフィックや台詞回し、BGMなど細部に至るまで作り込まれているため、非常に完成度と満足度の高いタイトルだと感じます。日々の仕事にちょっと疲れてしまった方には、本作が程よく息抜きにピッタリでありましょう。
涙なしには語れぬ限界社員の奮闘記『Endless Monday: Dreams and Deadlines』は、SteamにてPC(Windows/Mac/Linux)向けに配信中です。
タイトル:『Endless Monday: Dreams and Deadlines』
対応機種:PC(Windows/Mac/Linux)
記事におけるプレイ機種:PC(Windows)
発売日:2023年5月5日
※日本語対応は2023年6月27日著者プレイ時間:4時間
サブスク配信有無:記事執筆時点においては、無し。
価格:1,200円(サマーセール期間、2023年7月14日までは1,080円)
※製品情報は記事執筆時点のもの
スパくんのひとこと
ゲームとして作り込みが丁寧で、キャラもかわいいお話も面白いと完成度が極めて高いスパ!あと筆者が限界社員時代だったころ思い出しては乾いた笑みを浮かべる姿を眺めながら呑むシングルモルトは最高スパね!スーッパッパッ!
※UPDATE(2023/6/30 11:10)筆者注:日本語翻訳、校正、LQAそれぞれについて、担当された他2名のお名前を記載していなかったため訂正いたしました。謹んでお詫び申し上げます。