
九井諒子の人気漫画「ダンジョン飯」とは、タイトルで内容のほとんどを説明している通り冒険者がダンジョンクロールするなかで、倒したモンスターを調理して食事するという異色のグルメ漫画として評判となりました。
とはいえあの漫画は、やっぱりほどほどにかわいい絵だったのでマイルドに見れたのも確かです。では本当にリアルな世界観で「ダンジョン飯」を体験するならどんな感じなんでしょうか?
そんな疑問に答えるかのような一作が、インディーゲームイベント「東京ゲームダンジョン7」に出展していました。それが『Abyss Ring』です。本作はランダムに生成されるダンジョンを、内部に潜むモンスターを倒して料理し、食べることで生き抜いていくダンジョンRPGです。
本作は昔ながらの厳つい西洋ダンジョンRPGのルック。つまり、リアル「ダンジョン飯」といっても言い過ぎじゃありません。果たして我々はスライムを、ゴブリンを、オークを食えるのか? 長い旅が始まる……。
食欲自体の概念がなくなりそうな暗いダンジョンにて

本作はFPS視点で自動生成されるダンジョンを潜っていく、欧米のRPGに倣ったゲームデザインを基本としています。戦闘もターンベースのコマンド制と言うわけではなく、リアルタイムのアクションで行われます。
この辺りは『The Elder Scrolls V: Skyrim』などなどを遊んだ方ならお馴染みの操作なんですが、本作に関しては “モンスターを狩って食事”が重要というのですから、常にちらつくんですよね。「こいつを食うの…?」という問いが。

上の写真のゾンビを見てくださいよ。「食えるわけねーだろ」としか言いようがないじゃないですか。欧米RPGでこの手の敵と戦いながら、食欲という概念を思い出すことはこれまでありませんでした。
しかし『Abyss Ring』は違います。全プレイヤーにリアルな欧米RPGのモンスターを見せつけ、「お前はこれが食えるか?お前はどの種類のゲーマーだ?」と映画「シビル・ウォー アメリカ最後の日」に出てきた赤いサングラスの処刑人みたいに問いかけてくるのです。


「我々はこいつらを料理するのか? 我々はこいつらを食えるのか?」そういう悩みの前に、敵の攻撃がけっこうハードで、そもそもモンスターを倒して肉塊にするまえにこっちが肉塊にされる始末。敵を「おいしく焼けました~」ってやる前に「あっさり死にました~」。
この凶暴さも、食欲という概念を消し去る往年の欧米RPGを思い出しました。「お前はどの種類のゲーマーだ?」すみません、欧米RPGの自由度がどうとか言いながら本当はなんだかんだ言って、普通に『ドラゴンクエスト』シリーズが好きなぬるいゲーマーです。くそ!メイジももんじゃ焼きを食わせてくれ!
わかりました……モンスター、料理、やってみます

葛藤がありながらも、なんとか倒せそう&食べられそうなスライムを狙います。見事に倒すと食材として入手でき、ダンジョンの奥地にある休憩できる拠点にて、いよいよ料理を開始します。

今回作るのはスライムの身をミルクと混ぜて作るスライムゼリー。ゾンビやゴブリンといった「もう無理」としか言えない相手を避けた果ての妥協案。果たしてどんな料理になるのか……。
この暗いダンジョンの中で作るだけに、地元の薄汚く人がいない定食屋にて、店主の家族の雑談が丸聞こえのなか出てきた、パサパサしたレバニラ炒めのようなものになったらどうすればいいのか…?


筆者の実話はともかく、できあがったものは…なんとInstagram映えを狙った現代の飲食店のように鮮やかなゼリーでした。そんな馬鹿な、こんな美味しそうなものができるなんてどういうことだ!このダンジョンの冒険ではPhotoshopの加工も隠しアイテムとして持っているのか!?

しかも食べた瞬間、大量の経験値が入り一気にレベルアップ。なんだこの快感は……。他の来場者のプレイも見てみると、「オークのトンカツ」などこれまた美味しそうな料理を作っているではありませんか。
やめてくれ……! そんな快感原則を作られてしまうと……グロめなリアルなモンスターが本当に「美味しそう」と感じるようになってしまう!
人間の報酬系といいますか、こと食事という生理的なレベルで快感や利益を覚えてしまうと、どんなにキツいと思えた対象も「美味しそう」という風に見えてしまいます。
本作は「こいつを食べるのは無理だろう」と思えたモンスターを「いや、美味しそうなのかもしれない」という認識に変えてしまう恐ろしい思考改造RPGです。やめてくれ……! まさか『Fallout』シリーズみたいに、ゴキブリとかえぐい虫が今後のダンジョンに登場してきて、おいしい料理にしますなんてことはしないですよね? 「えぐい虫も食って寝てレベルアップする快感を知っちまったらもう “美味しそう”としか感じられなくなるぜ」みたいにゲーマーの嗜好を変えたりしないですよね?
ともあれ、『Abyss Ring』は公式ブースに展示されていたポスターによれば2025年6月にリリースを予定。数か月後にはもうそんな問いの答えが出てきます。リアルなオークやゴブリンを食えるか食えないか。読者の皆さんはどの種類のゲーマーだ?