神谷英樹氏がスタジオヘッド兼チーフゲームデザイナーを務め、小山兼人氏が代表取締役社長を務める新スタジオ「クローバーズ株式会社」に迫るロングインタビュー。
後編では「クローバーズ」が今後手がけていくタイトルへの可能性や社名に受け継がれる精神、神谷氏のX運用事情。そしてスタジオが求める人物像など、幅広いジャンルの質問をぶつけます。

趣味性が滲み出るゲームが好きだし、作りたい
――小山さんに続いて神谷さんのお話も伺いたいのですが。
神谷:僕はもうググったら出てくるから、話すことないですよ(笑)。
――むしろ聞きたいことばかりではありますが、少しピックアップして、小山さんの映画やハンドボールのような、ゲーム以外からの影響を少し伺ってみたいです。
神谷:僕の幼少期は本当にもうゲーム漬けでしたね。1番最初に遊んだゲームも全然記憶にないくらいで、温泉旅館やデパートのゲームコーナーで名も知らぬゲームを遊んでいました。ブラウン管に映る電子的な絵とピコピコ鳴る電子音にたまらなく引きつけられるものがあって、気付けばゲームにのめり込んでいったっていう感じですね。あまり人に自慢できるような話はできないんですよ。
クリエイターの方って、ファミリーベーシックでゲームを動かす原点を学んだとか、マイコンと呼ばれていた時代にPCでゲームを作って学んでいったとか、そういうエピソードがあるじゃないですか。僕は勤勉じゃなかったんで、そういうところには何も興味を惹かれなくて、とにかくプレイばかりしていてゲーム作りについて能動的に何か学んだってことはないですね。
――ゲームは好きではあったものの、直接的なゲーム作りの原体験ではなかったと。
神谷:そうですね。頭を真っ白にして遊んでいただけでした。ただ、それが今のゲーム作りの引き出しにはなってるのは間違いないです。最近のゲームはあんまり遊んでいなくて圧倒的にそこの引き出しは足りないので、ゲーム制作の現場では「これって最近のゲームだとどう処理してるの?」って仲間に聞いて足りない部分を補ったりしています。ただ、自分の根っこにある旧世代のゲームの知識はしっかり生かされていますね。
――神谷さんは過去に出身地である長野県松本の自然豊かな風景が『大神』の開発に生かされたというお話をされていましたし、『Scalebound』にはウルトラマンに登場する怪獣が好きであることが反映されているとも明かしていました。ゲーム作りに影響している経験や趣向をご自身でどう分析されていますか?
神谷:ゲーム以外に没頭していた分野だとアニメですよね。僕はファーストに限定されますがガンダムや、マジンガーZやグレートマジンガー、ゲッターロボなどスーパーロボット系、 またリアル系でもガンダムの系譜でザブングル、ダンバイン、エルガイムというようなロボットものってのはすごい好きで見てましたね。
ウルトラマンに代表される巨大変身ヒーローや、仮面ライダーやゴレンジャーなどの特撮ものもすごく好きでしたね。ただ、それは別に強く語るほどでもないんじゃないかなと。
――言ってみれば、当時の子供は誰もが好きだったものですよね。
神谷:そうですね。僕はそれを素直にゲームに反映させてるのかなと思いますね。『ビューティフルジョー』は自分のヒーロー趣味を強く反映させた作品でしたし、『The Wonderful 101』もゴレンジャーを100人にスケールアップさせた戦隊ものですよね。
もう僕の作れるものじゃなくなってしまったんですが『プロジェクト G.G.』も、ヒーローもののフォーマットに“巨大ヒーロー”があるなと思いついて立ち上げたプロジェクトですから、その辺は自分の趣味性が強く出てるなとは思いますね。
――今後の作品もそうした「好きなもの」を素地として、神谷さんの中の引き出しを開けてアイデアを出していく可能性が高くなるのでしょうか。
神谷:自然とそうなっちゃうんじゃないかなと思うんですよね。努めてそうしようとも思ってないですけど、絶対にしないでおこうって考えも違うんじゃないかなと。ただ『ビューティフルジョー』では「趣味性をフルで全開にすると本当に僕だけが喜べるものになってしまう」ということを学びましたね。学んだって偉そうに言う割に『The Wonderful 101』でもやっているんですけど。でもそこはバランス感覚が大事ですね。
必ずどこかに自分が好きだったものって滲み出るんじゃないかなと思いますし、自分がユーザーとしてプレイする時にもそんな“滲み出る趣味性”が感じられるゲームが好きだなと思います。
――意識せずとも滲み出る部分にこそ魅力があるのかもしれません。
神谷:ゲーム作りの現場で「ここのアイデアどうしようか」って話をしてる時に、特定のこだわりを持って熱っぽく語る奴とか、そういう人特有のアイデアって僕すごい好きなんですよね。その人ならではの原体験に基づく好みとか知識があって「こうなんです!」って訴えられるのがすごく良い瞬間ですし、じゃあそれでいこうか!って気持ちにもなれます。そういう熱量が感じられる作品や瞬間ってゲームだけでなく映画でも他のコンテンツでもそうだと思うんですけど、ここはゲーム作りで大事にしていきたいなと思います。
最近は「撮り鉄」ってよく取り沙汰されるじゃないですか。僕も線路の近くでとんでもない望遠レンズで写真を撮っている人を見たりしますけど、なんかすごくゾクゾクするんですよ。僕は残念ながら鉄道に全く興味がないので電車の違いとかも分かりませんが、多分彼らの目には僕に見えてない何かが見えてるんだなって思うんですよ。

僕で言えば、ガンダムのプラモデルなんかそれですよね。僕はファースト原理主義者なんですが、RX-78は色んなデザインアレンジを受けて何度もキット化されているんです。その時代によってアレンジの造形が違っていて、近年は特に胸部の黄色いダクトがフレームごと前に出ているものが多いんですが、僕はそれが許せないんですよ。「このダクトの解釈は違う!」って熱っぽく語っても、 「そうなんだ」くらいの薄い反応しかされないんですが。だから僕にとってのガンダムのように、撮り鉄の人にもそういう他人には分からないこだわりがあるんだろうなと思うと、ゾクゾクするんですよ。
癖(へき)にこだわるっていうのはすごい好きなんですよね。僕はよく作家性について話す場面で小島(秀夫)さんやヨコオ(タロウ)さんの名前を出しますし、上田(文人)さんもそうですよね。ただ、こうして考えるとエンターテイメントの属人化ってどんどんなくなってきているのが今の世の中なのかなっていう風にも思います。
完全に属人化したシリーズがあって、ユーザーの人も「このゲームと言えばこの人だ」って明確に把握しているタイトルがあるとします。でも、そのクリエイターさんがふっと辞めてしまうと、企業は急にそのタイトルの扱いに困ってしまいますよね。そのリスクを考えるなら会社としては“作品”よりも“商品”という面を強くしていくのが無難ですし、実際そういうゲーム作りが主流になっていると肌で感じています。だからこそ、クリエイターの人間性がにじみ出る作品作りを大事にしたいなと、僕個人は思いますね。
――この考えは神谷さんがスタジオヘッド、チーフゲームデザイナーを務めるクローバーズにも反映されますよね。
神谷:そうですね。それが冒頭に話した「工房のような雰囲気の会社にしたい」に繋がります。職人たちが、ここでしか作れない、彼らしか持ち得ない感性や技術で作るものを世に送り出していくところでありたい。そういうマインドをスタッフ全員で共有したいなと思っています。
――クローバーズでも神谷さんが開発の中心になるとは思いますが、ゲームの作り方はこれまでと変わりますか。
神谷:まず、今請け負っている仕事は僕がディレクターをやるので“神谷の会社”というイメージが強いかもしれませんが、僕はそういうつもりでのクローバーズという場所作りは一切していないんです。これはプラチナゲームズ時代もカプコン時代もそうだったんですが、僕がディレクターとして1つの作品を担っている隣で、他にも個性的なゲームが作られているのが好きなんですよね。
カプコンの頃には『ビューティフルジョー』を僕たちが10人足らずのチームでフロアの隅っこで作っている中で、会社全体で見ると『鬼武者』があって『バイオハザード』があって、格闘ゲームシリーズも作られているという光景が今でも記憶にあります。会社の中で自分には作れない個性のあるゲームが生まれている風景がすごく楽しかったし、じゃあ自分は『ビューティフルジョー』を全力で作るぞ!って集中できたんです。
――自分には作れないものが同じ空間で作られている状況が好きなんですね。
神谷:それが楽しいんですよ。今はまだ立ち上げたばかりで1つのプロジェクトにしか取りかかれていませんが、ゆくゆくはそういういろんなプロジェクトが立ち上がる会社にしたいと思ってますし、それは僕が作るだけじゃなくて、小山が作るかもしれないですし、他の人間かも知れません。そのゲームでは、彼らにしか出せない味を出して欲しいですね。
もちろん僕は僕で自分が作りたいゲームを作りますけど「僕だけが」とか「僕のために」でやってもらうのは嫌なんですよ。
小山:それは僕自身もそう思ってますね。会社を立ち上げた経緯には神谷がプラチナゲームズを辞めるというところが間違いなく発端になっていますが、今のクローバーズには個性的なクリエイターがたくさんいますから、そのメンバーから生まれるタイトルも出していきたいっていう思いはやっぱりあります。ここから10年、20年、30年と続く会社にしていきたいですね。
社名に流れる「第四スピリット」
――クローバーズという社名は、どうしても神谷さんがカプコン時代に在籍していた「クローバースタジオ」が連想されます。それでもこの社名を選んだのはなぜでしょうか。
小山:社名は神谷の提案なんですが、その時に受けた説明が自分の中にすっと入ってきたのが大きいですね。確かに「過去にしがみついてるんじゃないか」って思われてしまう可能性も考えたんですが、むしろそれで名前を避けること自体がしがみついている意識なんじゃないかとも思いましたね。
「CLOVERS」を“C”と“LOVERS”に分解して「クリエイティブを愛す者たち」とする表現もすごく自然に入ってきましたし、そこから二人で話し合って、より細かく「四葉を4つのCに分解して『Challange(挑戦し続けること)』『Creativity(創造し続けること)』『Craftsmanship(こだわり続けること)』そして自分だけの『C』を大切にする」となっていったのも、しっくり来たんですよ。

神谷:僕としても過去にしがみついている感覚はまったくなくて、古いものを引っ張り出してきた訳ではないんですよね。『クローバースタジオ』という社名は稲葉の命名でしたが、三上さんと稲葉の「三」と「葉」を組み合わせてクローバーにしたんだ、っていう説明を当時受けたんですよ。僕は「でもロゴは四葉だしな……」って全然しっくり来てなかったんですが、後から「クリエイティビティを愛する集団だからC -LOVER」っていう説明が付けくわえられたんですよ。
――理由を後付けすることはありますよね。
神谷:その後付けは広報の方が考えてくれたものだったようなんですけど、その降って湧いた「クリエイティビティ×ラバー」っていう考え自体は良かったなという記憶があって、今回の社名を考える時にふと出てきたんですよ。
ただ、幸せの象徴でもある四葉のクローバーを使うんだから「4」っていう数字の意味も大事だなと考えました。僕がこだわってるものがあるとすればカプコンの第四開発部なんですよ。第四開発部は僕のキャリアのスタートの場所で、そこでクリエイターとしても会社の上司としても僕のキャリアにおいて絶対に欠かすことのできない人物である三上真司さんから受けた教えがたくさんあって、それを大事にしたかったんです。あの頃から第四開発部で大切なことをたくさん教えてもらったよね、と。Cから始まる言葉にはそうしたポジティブな言葉がたくさんあるし、「C」を4つ集めればクローバーに見えるよねっていうアイデアが背景になっています。
――こだわったのはクローバースタジオよりも三上さんの教えだったんですね。
神谷:そうですね。三上さんに教えてもらったことを当時の僕たちは「第4スピリット」と呼んでいました。プラチナゲームズを辞めたのも、属人化とは反対の近代的なゲーム作りへと会社の考え方が少しずつ動いていて、僕が大事にしていた、理想とするそのスピリットから離れていってしまったことが理由になっています。
16年間やってきたプラチナゲームズを退職するというのは僕の人生における特大のイベントで、退職後にどうするかというビジョンもなかったので「これでクリエイター人生は終わりかもしれない」という覚悟を持って決心しました。仮にそうなったとしても、魂を殺してまで自分が望まない環境で働くことは許せなかったんですよ。
――幸い、小山さんの呼びかけもありこうしたクローバーズという新たな場所が生まれました。
神谷:これは自分にとっての再出発ですからね。スタッフに逐一「三上さんはこう言ってたんだよ」と教える訳ではありませんが、僕自身はこれまでのゲーム作りの中で三上さんの教えを頭に思い浮かべながら「こういう考え方をするべきだな」と判断していましたし、それを現場でも共有してきました。そのスピリットは脈々と受け継がれていくと僕は思っていますし、長いクリエイター人生の中で大事にしてきたことを再確認しながら物作りをやりたいという思いを、社名に込めました。
――過去との繋がりでは、クローバーズでは現在『大神』の完全新作プロジェクトが進行中であることも発表されています。一方で神谷さんが生み出したシリーズが他のクリエイターによって続いていくこともあると思います。会社として、こうしたIPとの関わり方や可能性はどう考えていますか?
小山:そこには明確な考えがあって、私たちは「ゲームを作ることにおいて、全ての可能性を閉じない」と思っています。会社として面白いゲームを世に出したいと考えた時に、新規IPだけでなくシリーズの続編を作るのが面白いかもしれませんし、何かの精神的後継作を面白いと思って作るかもしれません。基本的には面白いゲームを生み出すポリシーに対して、アプローチの方法を限定することはないのかなと思ってます。
神谷:全くその通りですね。もう「面白いかどうか」なんですよ。例えば既存のIPを活用したゲームを作りませんかっていう話があったとして、それを我々なりに、言ってみれば“クローバーズナイズド”するのが面白そうだったら、我々はやるでしょうね。
もちろん「自分たちがこうこういうものを作りたい」っていう欲求に従って企画書を作って、ぜひやろうじゃないかっていう機運が高まればオリジナルの作品もやりますから、まさに全ての可能性を閉じないという表現が適切だと思います。要は我々がビビッと来るか、それが全てですね。
――完全にフラットに見ているということですね。
小山:そうです。こういう話題への発言は「今後も続編を作っていきます」と曲解される可能性もあって難しいですけどね(笑)。
――そこは誤解を招かないよう、表現に気を付けさせていただきます。
神谷:そうなんですよね。今、我々が取り組んでいるものが1つしかなくて、それがたまたま僕が過去に関わったIPなので、その印象が強いのは仕方がないことだと思うんです。実際その期待値によって我々に注目が向いているので、それはありがたいことではあるのですが、1発目がこれだからと言って、それが全てという会社ではないですよ、ということは改めて伝えたいですね。
神谷氏のXは今後も「全く変わらない」
――報じられ方と言えば、先日はXにてGame*Sparkの記事内容についてご指摘をいただきました。その節は大変申し訳ありませんでした。
神谷:いやいや、僕はいつもXでネタを探しているだけで、そんな深刻な呟きじゃないですよ(笑)。あれは引用元の海外の記事がそもそも間違っていて、その記者が我々の集合写真に映っている人物を勘違いしていたんですよね。大元の記事を出していた海外メディアに訂正のメッセージを送ったんですが、そこでも違った受け取られ方をして、結局修正されなかったんですよね。
――ご迷惑をおかけしました。今はSNSで気軽に発信できる反面、クリエイターさんの投稿は何気ない情報もネットニュースになる状況です。神谷さんはXについては一貫したスタンスをお持ちのようにも感じますが、いかがですか。
神谷:スタンスではっきりしてることはふたつあって、ひとつは「居酒屋だと思っている」ということですね。僕がカウンターで飲んだくれてボソボソ呟いているだけなので、楽しいやつが来れば一緒に話もするし、楽しくないやつが来たらお前はどっか行けと追い出します。これがまずひとつ。
もうひとつは、なんでも喋るけど「仕事の不満は言わない」ということです。それはアンフェアだと思うし、かっこ悪いじゃないですか。後から「今日の取材はクソつまんない質問だったな」って呟くんじゃなくて、ここで面と向かって「質問つまんないんですけど」って言うべきなんですよ。それが仕事なんだから、現場の中で不満は片付けないといけません。
――それは……確かに後からXに書かれた方がショックかもしれません。
神谷:Xはもう完全にゲームユーザーの神谷英樹という個人、いちゲームユーザーの言葉なので「スイッチのホーム画面がクソだなぁ」と思ったらそう呟きますけど、仕事をするとなったら任天堂さんと信頼関係を持ってやりますから。
――先日は『グラディウス』攻略のアドバイスなどもされていましたね。
神谷:名指しで聞かれたから答えましたけど、世の中にもっとプロフェッショナルはいっぱいいるので僕みたいなのに聞かないで欲しいというのが本音です(笑)。1000万点プレイヤーが見て「あー、神谷のアドバイスはそのレベルか」って思われるじゃないですか。
――それでも答えてもらった方は嬉しいと思います。新たなオフィスに移って開発もどんどん忙しくなっていくと予想されますが、そのスタンスも今後も変わらずですかね。
神谷:SNSは全く変わらないと思います。プラチナゲームズを退職して身の振り方を考えていた時には「これ、どっかの会社に再就職したら間違いなくXのアカウントは取り上げられて、人生の楽しみが減るよなぁ」とモヤモヤしていましたが、かろうじて続けられるようになりました(笑) 。ただ、過去にも僕のツイートは問題になったことはありましたし、プラチナゲームズの時にも散々怒られてきたので、そうした反省と軌道修正を重ねて、自分なりに節度を守って洗練されてきているんですよ。あれでも。

――長年の経験から読み取った超えてはいけないラインを見極めつつ運用していると。
神谷:そうですね。「仕事の不満を言わない」ルールを破ったことがあるとしたら、プラチナゲームズ在籍時に当時の社長の三並(達也)さんの悪口を言ったことがあるんですが、あれは権力者に噛みついているので例外としてOKということに僕の中でなっています。
――社長も、そういうことで問題ないですかね。
小山:そうですね(苦笑)。
――神谷さんのSNSについては変わらずということですが、逆に会社として新しく始めたいことはありますか?
神谷:それで言うと「YouTubeやりたいね」って話はしたよね。
小山:採用に向けてとか、あとは会社設立の経緯をちょこっと話をしたりとか、今回のようにメディアさんを通じて発信するだけでなく、自分たちから出していくのもありかなとは思います。
神谷:発信と言えば、最近はリクルートの対応をする機会が多くなってきて転職希望者の話を聞くこともあるんですけど、そこで「みんなで和気あいあいとアイデアを出し合う環境で働きたいんです」って声をちょいちょい聞くようになったんですよ。
それは僕たちにとっては当たり前の光景なので、ちょっと戸惑って「それが普通じゃないですか」って聞いてみると、もう完全にパーテーションで区切られて個人の作業に集中する環境とか、あるいは上司に物申したら吊し上げられてしまうみたいな世界もあるらしいんです。僕は「第四開発部」から脈々と受け継がれる開発スタイルしか知らなかったので、最近驚きを感じたことでした。
――そういう自分たちの雰囲気も発信していきたいと。
神谷:それこそ、その話をしてくれた希望者の方に「では、なぜクローバーズは和気あいあいとアイデアが出しあえる環境だと思ったんですか」と聞いてみたら、Xの公式アカウントで私たちが話し合っている風景を見たからだそうなんですよ。
そんなところからも会社の中を垣間見て雰囲気を感じ取ってくれるんだなと思いましたし、それなら僕たちの日常をちょっとずつ見せていけば、クローバーズがどんな社風なのかも伝わるかなと。これから会社を大きくしていこうって時に、そういうマインドで仕事がしたい人の選択肢になれれば良いですよね。
小山:そういう動きはやりたいですね。
神谷:あと、あれやりたいんだよね。定点カメラ映像の生配信。
小山:ええ!?流せへん話ばっかりですよ(笑)。
神谷:いやいや、流石にマイクは接続なしよ(笑)。今は本当にいたるところで「ああしよう、こうしよう」っていう話し合いが日常的に起こっているんで、そういう姿を見て楽しそうにやってるなって伝われば良いかなと。胸ぐら掴んで喧嘩してる姿が流れたりはしませんから(笑)。
――ちなみに、小山さんと神谷さんは割と年齢が離れていますよね。お互いをビジネスパートナーとして信頼できると思ったきっかけや理由は覚えていますか?
小山:僕は一緒のプロジェクトでやらせていただいていて、作っているゲームが面白いなと思っていたので、クリエイターとしての信頼ができるっていうところがやっぱり大きいんじゃないかなと思ってますね。

神谷:これは色んな所で話していることですが、僕がプラチナゲームズを辞めると報告した時に、小山が「一緒にやりませんか」と声をかけてくれたところからクローバーズは始まっているんです。最初は「じゃあ就職に困ったらよろしく」くらいで本気で取り合っていなかったんですが、時間が経つにつれ周囲に「神谷さんなんで辞めるんですか」「一緒にやりたいと思ってたんです」と訴えてくれる人が増え、じゃあそのための場所を作るべきという考えが生まれたんですよ。
そこで「小山とだったらこの話を実現できるな」と思ったから今がありますし、その確信が持てた裏付けは、やっぱり彼の仕事ぶりですよね。僕が一緒のプロジェクトで見てきた姿もそうですし、DeNAやDONUTSでの話を聞いていても、明らかに処理能力の高さやマネジメントの正確さが分かるじゃないですか。
――自然と信頼関係ができていたんですね。
神谷:そうです。年齢は気にしたことがないですね。僕は自分をいつまでも巨大な5歳児だと思っているので。
小山:いやいや、神谷は本当にすごくちゃんとした人ですよ。
神谷:彼には社長として面倒くさいことを全部任せちゃってますけど、やっぱりクリエイターとして頼りにしてる面が大きいですね。実際、ゲーム作りの現場では社長とクリエイターという関係ではなくて、クリエイターの重要な仲間として頼りにしています。
こだわりを持ったスタッフたちと生み出していく「クローバーズ」らしさ
――会社としてはこれからさらにスタッフを増やして規模も拡大していく最中かと思います。「こんな人が来てほしい」「こういうタイプはクローバーズに向いてる」と思う人物像などはありますか。
小山:ゲームに限らず物事なんでも「こだわりを持っていて、そのこだわりを実現しないと気が済まないような人」は向いてるんじゃないかと思います。ゲーム開発ではディレクターが最終判断を下したりチームで話をして方向性を変えたりと自分の思い通りにはならないこともありますが、うちはそこで「自分はこう思います」と言える会社ですから。そこで自分のこだわりを表現できる人は活躍できると思います。
あとは、まだまだ小さな会社なので「自分がこの会社を動かしている」って思える人ですね。今のメンバーもきっとみんなそう思ってくれているんじゃないでしょうか。
神谷:大前提としてエンターテイメントであるゲームを作る、楽しいものを作る仕事ですから、やっぱりモノ作りをしたいという気持ちが前に立つべきかなと思うんですね。そうなってくると自ずと能動的に動いて「ああしよう、こうしたいよね」っていう風になるでしょうし。
そういうクリエイティブって、力んで一生懸命発揮するものじゃなくて、自分の中からの自然な衝動として出てきちゃうものだと思うんですよ。「仕事だからやらなきゃいけない」となると苦になっちゃいますけど、抑えようとしても「こうした方が絶対面白くなるから、これをやりたい!」と出てきちゃう、そんなマインド、クリエイティビティを持っている人に来てほしいですね。
――そういった人たちが集まることで“クローバーズナイズド”というカラーがはっきりしてくるのですね。
神谷:僕のディレクターとしての経験則ですが、スタッフの腰が重いプロジェクトってユーザーに届ける及第点というところまでは行けるんですが、ディレクターひとりがどんなに頑張って押し上げても自分自身で良いものができたっていうところには絶対に到達できないんですね。
IPの話題でも「僕だけが作る場所じゃない」と言いましたが、やっぱりチームのたくさんのクリエイターの知恵と力と工夫をもらって、その結果として自分だけでは思いもつかなかったようなアイデアが満載されることで「これは面白い!すごいものができた」と思える作品にたどり着けると思っているんです。仲間の力って大事だなと思うので、そういう人と一緒に仕事したいですね。
――小山さんも経験からくる「向いているタイプ」のイメージはありますか?
小山:ゲーム作りにはアニメーターやプログラマーなどたくさんの専門職があって、この専門職内の領域では良いアイデア・視点は出せるけど、他のセクションに踏み込んだことは言えないっていう話を聞くこともあるんですよ。
その心境自体は僕も理解できて、ゲームデザイナーなので「このエフェクト、もっと綺麗にできないかな」と思っても言及するのは気が引ける気持ちはあるんです。ただ、そこでもやっぱり発言をするべきだと思いますし、それを聞いた上でディレクターやそのセクションの人がどう判断するかは別問題じゃないですか。そこで新しい視点を加えてさらに良くなることもあると思っているので、本当に遠慮なく言える人がいいのかなっていうイメージですね。
神谷:昔実際にあった話なんですが、モデラーの人から「チェックしてください」とキャラクターのモデルを見せられて、そこで何点か「こんな感じにできないかな」ってリテイクを出したんですよ。そしたら「分かりました」ってすぐに作業に取り掛かったのでちょっと見ていたんですけど、僕の一言でものすごく作業を巻き戻すことになっていて、それで「うわ、こんなやり直しになるんだ」って思ったので、もう見ないようにしたという出来事がありました。
僕がそこで専門的な技術まで知ってしまったら、きっと無意識に「この作業って膨大になりそうだな」って遠慮して、発言にブレーキがかかってしまうと思うんですよね。でも、そこで僕がしたい話は技術的な部分ではなくて、あくまでニュアンスの部分なんですよ。それをどういう風に落とし込めるか、どこまで実現できるかと考える段階で初めて専門的な知識が求められるんです。
もちろん知識は同じセクションの中で技術共有していくためにも大事なんでしょうけど、そういう背景もあって、我々はセクションのその枠にとらわれずに取り組んでいますし、その方がやっぱり自由な発想が出ると思っています。
――そんな自由なクローバーズから生み出される作品に期待しています。本日はありがとうございました。

クリエイターとしての原体験から新スタジオの方向性まで、インタビューは2時間近いボリュームとなりましたが、展望やゲーム作りへの想いを語るおふたりは情熱たっぷりで、小雪がちらついた当日の寒さを忘れさせるほどでした。
『大神』完全新作の開発も発表されているクローバーズは現在開発スタッフを募集中。5月1日には東京スタジオも本格始動予定となっており、これから「クローバーズナイズド」の精神によってどのような作品が生み出されていくのか、注目が集まります。