!注意!
本記事では「ストーリーの根幹に関わるネタバレ」が含まれています。物語の後半は特に展開が急であり、その部分への言及も行われていますので、閲覧にはご注意ください。
なお、本作は「CERO:Z(18才以上のみ対象)」と指定されており、記事内の画像にはグロテスク・暴力的なものが含まれます。
なおGame*Sparkでは、ゲームシステムを分かりやすく掴んで頂くことを目的としたファーストインプレッションを公開していますので、これからご購入を検討されている方はそちらをお読みください。
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謎のパンデミックが発生し、人類のほとんどがゾンビのような存在となってしまった世界で、生き残った主人公達が必死に日々を繋いでいる。『Days Gone』に抱くイメージはそんなところではないでしょうか。
それだけを見れば、よくある設定のゲームであるように思えます。大量のゾンビ──作中ではフリーカーと呼ばれる──を相手にして、どのようにサバイバルするのか。ドラマ、小説、映画……あらゆるジャンルで古今を問わず見かけるものです。
ならば『Days Gone』ではゲームとして、一体どんな体験ができるのでしょうか。まだ未プレイの方にとっては、数あるプロモーション・レビュー等を通してもなかなか見えてこないのではないかと思います。
ファーストインプレッション記事ではその点について、主に戦闘とサバイバルにフォーカスを当て解説しました。本記事ではゲーム性の全体を俯瞰しながら、ストーリーの構成を含めてレビューします。
一言で「こんなゲームだ」と表すのが難しい
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『Days Gone』というゲームを見通して、その全貌をあえて厳しく言うのならば、本作は「新鮮な要素は見当たらないゲーム」です。
ゲームを誰かに紹介しようとするとき、大抵の場合は「ここが目玉なんだよ」とまとめられるものです。ゾンビを題材にしたゲームに絞ってみても、例えば『Left 4 Dead』ならば、「襲って来る大量のゾンビを4人で協力してひたすらなぎ倒すのがスリル満点なんだ!」と説明できます。『バイオハザード』ならホラーゲームの傑作として、常に不利な状況で物資をやりくりしつつ、不思議な謎解きや、巨大企業の陰謀に迫る超大作だと紹介することもできるでしょう。
レースゲーム、RPG、サバイバル……大きめの枠で考えても、ほとんどのゲームはなんとなく伝えることができます。しかし『Days Gone』は何かに当てはめようとしても、それが全てという訳ではない、となかなか一言で伝えられません。
いろんな名作を混ぜ込んだゲーム?
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印象の悪い表現となってしまいますが、『Days Gone』はゲームのどの部分を切り取ってみても、どこかで見たことがある要素だと感じますし、そのどれもが一回りライトに設計されているという感覚が拭えないのです。
全体を通して最も似ているゲームは『レッド・デッド・リデンプション2』だと思います。全ての行動が『RDR2』ほど丁寧に描写される訳でもないので、比べてみるとゲームテンポとしては『Days Gone』の方が早くて軽いものとなります。
馬の手入れやキャンプの雑用をこなすといったロールプレイ的な『RDR2』の要素も、『Days Gone』ではバイクのメンテナンスだったり、動物の狩猟といったものがよく似ています。ほとんどの移動がバイクであったり、主人公の生き様に焦点を当てたストーリー構成であることも、そのように思える原因かもしれません。
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戦闘システムについても、序盤は初期の『バイオハザード』のようでもあり、終盤は『Left 4 Dead』のようでもあります。人間を相手にした拠点攻略は『ファークライ』『アサシンクリード』をライトにしたような質感です。
これだけいろいろと比較するタイトルを挙げてみると、果たしてそんなゲームシステムは成り立つのか?と思われるかもしれません。ファーストインプレッションでも指摘しましたが、本作はゲーム全体を通して戦闘のプレイスタイルが、小規模から大規模へと遷移していく特徴があります。
強制感をなくし、全てを「味付け」に
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では『Days Gone』はいろんな名作の良いとこどりをした、単なるごった煮作品なのでしょうか?一通りメインクエストを遊んだプレイヤーならば、恐らくそうした形のネガティブな印象を持たれることはないだろうと思います。
本作が最もメインに据えているゲーム体験は、主人公ディーコン・セントジョンの生き方です。悩み多き彼の行動を通して、様々な人物との信頼を取り戻していくその過程にあります。つまり、ストーリー体験こそが本作のテーマと言ってもいいでしょう。
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キャンプの人々の為に狩猟をしたり、バイクの為に燃料を探し回ったり、様々な資源を物色したり、そうした要素は必須ではありません。狩猟の方法も簡単で、かつ報酬はかなり少なく設定されているのに対し、経験値やお金はクエスト報酬で十分まかなえるようになっています。バイクの燃料も実際はいつでも簡単にタダで入手できます。資源の物色も結局は継戦能力(爆発物のクラフトなど)の確保の為だったりします。
よくある「サバイバル」という要素はこちらの特集記事でも触れている通り、メインの体験とするならばゲーム全体を通した細かい設計が必要です。その上でさえ、コツをつかんで山場を越えてしまうと、あとは単なる作業となってしまいがちです。本作が拍子抜けするほどサバイバル要素を実際には持たないのは、それらが主軸ではないことを意味しているのでしょう。
こうした要素は先の例のように、ディーコン・セントジョンとしてのストーリーを体験する為のロールプレイの味付けであり、強制力がありません。『RDR2』と比較しても、かなりライトなものになっています。本作のキモとも思える、フリーカーの「大群」ですら、そのほとんどを無視することができます。物語の進行を阻害してしまわないよう、かなり配慮されているのです。
地味だが高度なバランス調整
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一般にゲームのバランス調整と言えば、その難易度やアクション要素についてのものが話題になりがちです。しかし、本作の場合は主人公が歩むストーリーを盛り上げることはあっても、決して邪魔にならないように配慮するという目的でシステム全体に行われている印象を受けます。
開発段階で「味付け」の取捨選択をどれだけ行うかは、かなり議論が交わされただろうと考えずにはいられません。サバイバルな作風を出しておきながら、バイクの燃料が実は無限であったりといった点が、開発の初期段階から定まっていたようには思えないのです。
狩猟もクロスボウを用いて丁寧に追跡しながら行うものとはじめは思わせておいて、バイクに乗りながら銃でやっつけてしまうのが最も手軽だったりします。睡眠や食事は基本的に不要ですし、何なら各キャンプの信頼度もサブクエストをこなしていれば終盤に入るころには最大値に上がってしまいます。
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やりこみ要素と思われる部分も、そのほとんどはクエストを追いかけていれば達成されてしまいます。それだけ多くのクエストを用意することでサポートしているのです。
例外は大群のせん滅で、クリア後も「やり残し」の形でかなり残ることとなりますが、100%達成まで少し作業感があるにしても、それほど時間が掛かるものではありません。
筆者は、長い時間をかけて数値を少しずつ上げていくタイプのやり込み要素が得意ではありません。トロフィー(実績)コンプリートといったチャレンジもあまりやらない方だったりします。ですが本作はゲームプレイの進行感を損なわない範囲で、様々な要素をライトに設定しながらクエストを散りばめていて、筆者のようなタイプのゲーマーでも作られたゲーム要素をまんべんなく遊び尽くせました。
メインストーリーが完了すると、大半の進行率が100%となるような配分で、その時点でのプレイ時間は40~50時間程度です。ボリュームとしては満足できるものでしょう。常にプレイヤーから付かず離れず、細かく次へ進ませるためのバランス調整は地味ながら高度なものだったと評価できます。
相性の悪い一部のイベント
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ファーストインプレッションでは、細かいバグや不親切な操作が多発する点について言及しました。オープンワールドではありがちな笑ってしまうバグから、ゲームが強制終了したり、再ロードの必要な進行不能となるバグまで。更に役割の被りやすいボタン操作などは、本作の残念なポイントとなっています。
これまでの解説の通り、全体としてはネガティブな印象をそれほど持たないだけに、不具合の内容が特に目立つのはもったいないと感じます。
また、バイクで走行中はいくつかのランダムイベントが発生しますが、一部のイベントはかなり意地悪なものです。道路にロープを張ってディーコンがバイクごと引っかかるのを待つ野盗と、木の上などでスナイパーライフルを構えて待ち伏せしている野盗のイベントが特に悪質です。
せっかくゲームテンポを損なわない形で全体が調整され、いろんな要素への取り組みをプレイヤーの裁量に任せているのに、このイベントは回避が難しく、リカバリーも面倒なことになるという理不尽さがあります。
ロープは視認性が悪く、バイクの性能を上げていると速度の関係から余計にひっかかります。スナイパーはそのまま走行していると、信じられない精度で射撃され、バイクから投げ出されてしまうのです。罠にかかるか狙撃されるとバイクはほぼ全損となってしまい、多くの資材を使うハメに……。
そのまま戦闘して乗り切る必要があるので「やらされている感」の大きいランダムイベントだと言えるでしょう。ここで仮にやられてしまったとしても、直前のセーブポイントからやり直すとイベントが起こらなかったりするので、余計に何だったんだという徒労感が残ります。