
2002年3月22日にユービーアイソフトからPC日本語版が発売され、2003年にはPS2/Xboxなどの家庭機用として登場した傑作FPS『ゴーストリコン』。極端なナショナリズムに支配されたロシアがソ連時代の栄光を取り戻すため、ウクライナをはじめとした国々に侵攻するという筋書きであり、21年前の作品にもかかわらず、今も続く現実世界での悲劇を思わせる作品となっています。
というわけで今回は、国内でも21周年を迎えたシリーズ第1作にして、すべての始まりである初代『ゴーストリコン』のPS2版を基に、現代でも色褪せない名作の気になる内容を振り返りたいと思います。
『ゴーストリコン』とは

本作は、突如として周辺諸国に侵攻したロシアの野望を喰い止めるべく、アメリカ陸軍の最精鋭特殊部隊「ゴースト」を指揮しながら、戦場と化した東欧各地で行われる様々なミッションに挑むミリタリーFPSです。
2002年にPC版が発売されて20年近い歳月が経ち、シリーズもだいぶ様変わりしてしまいましたが、記念すべき第1作である本作は、FPSというより一人称視点のシミュレーションゲームと表した方が適切でしょう。回復や蘇生などというシステムは存在せず、たった一撃で死に至るシビアな難易度。適切な指示を出し、常に仲間の状態に注意しなければならない緊張感が最大の特徴です。



いま見ても引けを取らないカットシーンのCGグラフィック、ローカライズされた吹き替え音声も収録の完全日本語版という丁寧な仕上がりとなっており、映像面と徹底的な翻訳は当時からユービーアイソフト発売作品の魅力でした。
また、PS2版は「Cat Shit One」などで知られる漫画家の小林源文氏デザインのパッケージとなっており、知る人ならば、それだけで大変な価値のある芸術的な一品です。

ミリタリー界のノストラダムス

いまやユービーアイソフトの看板タイトルとして名高い、故トム・クランシー氏の名を冠した作品群。本作も『レインボーシックス』に並ぶビッグシリーズの基礎を築いた作品として長い歴史を持っていますが、やはり、その魅力は圧倒的なリアリティにあります。
撃たれる前に撃たなくてはならないという現実に即したシステムだけでなく、軍事に関する造詣の深さが持ち味であるトム・クランシー氏の精神を汲んだストーリーも忘れてはいけません。

事実、本作において大ロシアの復活を掲げて侵攻したロシアの急進勢力が主な敵として登場しますが、トム・クランシー氏の著作「米露開戦」も含め、2022年のウクライナに対するロシアの侵略を思わせるような形となりました。米軍であるゴーストが序盤に「平和維持軍」という名目で極秘に任務を遂行するのも緊張感のある展開です。


当時のハードスペックによる限界もありますが、本作では、戦車や装甲車を伴った小隊規模の敵が何十人と現れるのに対し、ゴーストは3人1組の2チームのみ。後の『ゴーストリコン ワイルドランズ』の冒頭、味方からして“都市伝説”と恐れられるゴーストの強さはCIAの折り紙付きで、ステージクリアによって解除されるスペシャリスト隊員も例外なく優秀な能力と実績を持っていることが確認できます。


このあたりは『レインボーシックス』シリーズ同様、キャラクターに詳細なバックグラウンドが用意され、ひとりひとりが生きた存在として感じられるのです。戦闘を通じて成長、スキルポイントを割り振るなどSRPG的な要素もあって、プレイヤーと共に戦ってきた仲間との絆、その死による喪失感。あまりに完成されすぎているが故に、本作が続くシリーズ作品のハードルを極限まで高めてしまった感も否めません。



“戦術の遂行”がシリーズの原点にして本懐

先ほども述べましたが、本作は完全なリアル志向の作品であり、じっくりと慎重に確実に部隊を進めていく過程が面白さに繋がっています。一見、開けたフィールドでも茂みや物陰から突然に敵が現れたり、人質の救出や破壊工作の場面では、大勢が正面きって待ち構えている建物に突入することになるので、いろいろと考えて戦う必要があるのです。

劇中でも語られているように、そもそもゴーストは少数精鋭による隠密行動を主とし、アメリカが誇る最新のテクノロジーで武装した特殊部隊です。光学迷彩で透明になる『ゴーストリコン フューチャーソルジャー』とはまた違う意味になりますが、当時としては新しかった森林柄の迷彩服、顔にもペイントを施し、緑の自然に紛れて敵を撃つゴーストはまさしく幽霊そのもの。世間一般的な“特殊部隊”のイメージを体現しています。

同様に、武器もM16やM4といったものが採用され、それに加えてスペシャリストはXM29などのプロトタイプ銃を装備。最新の装備を与えられるゴーストがエリート中のエリートであることを感じさせます。


ミッションパートでは、そうした多様な武装を持つ4つの兵科から隊員を選び、任務内容を考慮しながらチームを結成。対戦車や破壊工作が想定される場合は、特別な装備を持つ隊員を守りながら進行し、2つあるチームを上手く分担させれば効果的に戦果を挙げることできる上、AI操作の仲間もどんどん敵を倒してくれます。特に、屋外での野戦が多い『ゴーストリコン』シリーズはスナイパーが強力で、安全圏から敵を殲滅できる花形兵科です。

ステージも一本道ではなく、広い箱庭の中に目標が配置され、攻略ルートも自由に選べる懐の深い構成。チームの選抜や作戦によって何通りもの組み合わせがあるので、実戦さながらの豊富なシチュエーションを楽しめるFPSとして、遊び方の幅はかなり広いです。特殊部隊らしく夜間のミッションもあり、少しでも明るいと何も見えない暗視装置の微妙な使いにくさもあってか、最後は自分の腕が頼みとなるのも絶妙な難易度でした。

純粋な戦闘を楽しみたいという方にはむずっかゆいところもあると思いますが、ひとりで戦うのではなく、仲間を導いて戦わせる指揮官というマネジメントが本作の正しい遊び方だと思われ、それは『ゴーストリコン』シリーズの本来の面白さです。そういう意味でも、本作はシリーズの原点として必要なものを完全に備えており、この原初の魅力は後にも先にもない唯一のものでしょう。

そして『ゴーストリコン』はどこへ向かうのか

ちょっとばかり前の話になりますが、現時点で最新作である『ゴーストリコン ブレイクポイント』の収益が思ったより伸びなかった、という発表がありました。ユービーアイソフトの分析ではいくつか原因が挙げられていましたが、こうして見ると、やはりシリーズの発端である本作とは全く別の種類のゲームのようにも思えます。

常に新しいものを作り出そうとするクリエイターの姿勢、古いものが生まれ変わる節理は受け入れられるべきであり、本作の続編『ゴーストリコン 2』も一転してアクション要素の強いTPSとして北朝鮮での激闘が描かれました。そして、その後の『ゴーストリコン アドバンス ウォーファイター』で三人称シューティングとしての形を確立し、本作の特徴を色濃く受け継いで新生を果たします。



グラフィックやシステムも含めて根本的に異なる作品ですが、この『アドバンス ウォーファイター』2作品は、派手な演出とコンパクトな操作で現代的に仕上がり、それでいて本作の指揮監督の要素を何倍にも面白くなるよう進化させていました。“クロスコム”と呼ばれる機能により、敵や味方の輪郭が色分けされて強調表示されるサイバー仕様で、さらには画面端に仲間のワイプが映るなど未来感が溢れています。


やや複雑だった本作の命令システムをワンタッチで実行できるようになり、チームメンバーだけでなく、助っ人として介入してくる友軍の戦車や攻撃ヘリ、はては無名の歩兵チームまで指揮下に与えられます。もちろん、それらは全て日本語吹き替えとなっており、演出とはいえ、大変なときに一緒に戦ってくれる展開は本当に熱いです。

こうした点も踏まえ、このシリーズの魅力にして受け継がれるべき部分、先の最新作に欠けていたとされる他作品との差別化の要素とは、すなわち“仲間の存在感”にあるのではないでしょうか。それも近年のシリーズ作品では、息を合わせて敵を撃つ“シンクショット”などの形で実装されていましたが、ハードの性能向上によってゲームの規模が無限大に広がった一方、置いていかれたものもあるのではないかと思います。
20年以上にわたって多くのファンを獲得した『ゴーストリコン』シリーズの原点。揺るぎない完成度を誇る本作の価値が素晴らしく、唯一無二の面白さは今も忘れ難いものです。再び、本シリーズが世界中のゲーマーを驚かせるような日が訪れることを期待しています。
※ UPDATE(2023/03/19 22:02):当初、『ゴーストリコン フロントライン』を開発中としていましたが、正確には既に開発が中止されていたため、該当部分を削除しました。コメント欄のでご指摘ありがとうございました。