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『ARMORED CORE VI FIRES OF RUBICON』は非常にレビューしづらいゲームといえます。10年ぶりの『アーマード・コア』新作に対して、世間は「生まれてきてありがとう」的なお祝いムードに包まれているからです。
「シン・エヴァンゲリオン」公開直後のような「待ちに待った10年ぶりの新作!作り手も頑張って作ったのだから、どんな内容であれ批判してはならない」的な“空気”と似たものを感じます。
筆者はそんな“空気”に負けず、忖度の無いレビューをしていきます。
総評:面白いゲームではなく「面白いアーマード・コア」に留まっている
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本作はマルチエンディングのため、ゲームを3回クリアして複数のエンディングを見た後に、このレビューを執筆しています(※筆者はPC版をプレイ)。
結論として、本作は「面白いゲーム」には到達しておらず、あくまで「面白いアーマード・コア」&「面白いメカアクション」の範囲に留まっているというのが率直な感想です。
とはいえ、『アーマード・コア』としての完成度は高く(思い出補正を取り払い)シリーズ最高傑作といえるでしょう。
■点数
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先に評価を述べると、『ARMORED CORE VI FIRES OF RUBICON』は10点満点中7点です。
理由は、前述したとおり「面白いゲーム」には達していないものの、後述する「相手をしてくれるメディア」としては、十分すぎる完成度ではあるからです。
「相手をしてくれるメディア」という言葉は、桝山寛氏の著書「テレビゲーム文化論」からの引用です。この著書では、テレビゲームをメディアとして捉えた際、その特徴は「インタラクティブ性があること」、いいかえると「遊び相手をしてくれること」だと記されています。
筆者がシングルプレイ用ゲームをレビューするときは「相手をしてくれるメディア」という観点を大切にしています。
その点で本作は、究極のインタラクティブメディアであり、ミッション後に与えられるパーツや報酬は勿論のこと、(プレイヤーの承認欲求を満たしてくれる)登場人物たちからの言葉の数々は「このまま私生活が崩壊しても良い」と思わせてくれるほどの没入感を与えます。
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オンライン対戦やSNSでのシェア前提とした各種eスポーツタイトルやソーシャルゲームがもたらすものが“開かれた快楽”だとしたら、1人で遊ぶためのコンシューマーゲームがもたらすのは“閉じる快楽”です。
誰かと競うわけでもなく、誰かと感想をシェアするわけでもなく、誰かと承認欲求を交換するわけでもありません。繋がることを強いられたネット時代において、久しく忘れていた“閉じる快楽”を取り戻せるゲームです。
どんな方におすすめできるゲームか
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まず前述したとおり、「面白いアーマード・コア」&「面白いメカアクション」なので、同シリーズのファン、メカ好き、ロボ好きにはおすすめできるゲームです。アクションゲームが得意であれば、なおよいでしょう。
また、下記に該当する方には強くおすすめできるゲームです。
『アーマード・コア』シリーズのどれかをプレイしてみたい
メカアクションやロボゲーのジャンルで、レベルの高いゲームを遊びたい
一方、ただ単に面白いアクションゲームをプレイしたい方に対しては、本作をそこまでおすすめしません(アクションゲーム豊作の時代の時代なので、他にも高品質のゲームはあります)。
そもそも開発陣は「面白いゲーム」を目指していたのか問題
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レビューに入る前に、前提として、そもそもフロム・ソフトウェアの開発陣は本作を「面白いゲーム」として作ることを目指していたのかどうかを考えます。
世間では「メカ版のダクソ」と呼ばれているように、プレイヤーの視点では、本作を『アーマード・コア』シリーズの最新作としてみるだけなく、フロム・ソフトウェアの骨太なゲームシリーズの最新作(ダクソ系)としてみることができます。ただ開発陣の視点ではそうもいきません。
『アーマード・コア』シリーズの総売上と、ダクソ系と呼ばれるシリーズの総売上と比較すると、前者は足元にも及びません。
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ダクソ系が世界的に「面白いゲーム」としての評価を受けている一方、『アーマード・コア』シリーズは、あくまで「面白いメカアクション」として、一部のロボゲーファンに好まれているだけということになります。
売り上げが期待できないのであれば当然、開発予算は多くは割り当てられていないでしょう。
そのような状況においても、『アーマード・コア』の新作を任された開発陣は「我々はどこまで遠くに石を投げるべきなのか」という岐路に立たされます。
『アーマード・コア』というモチーフでしかできないことを再発見し、『SEKIRO』『エルデンリング』を超える「面白いゲーム」で全世界に衝撃を与える
ダクソ系で積み上げた信用と知名度を利用して、従来のファンと一部のダクソ新規に「面白いアーマード・コア」を紹介する
前者のような、高い志を持って開発されたのか、後者寄りの地に足をつけたスタンスで開発されたのか定かではありませんが、結果的に本作は、後者寄りの作品になっています。
本シリーズの本質を残しつつ、この10年間で蓄積したアクションゲームのノウハウを取り入れ、良くも悪くも無難な作品となっています。
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(新作が出るたびに何かしらの欠点を抱えていた)本シリーズにとって、無難な作品であることは、十分賞賛に値することだと考えています。
ここまで筆者としては高評価ではありますが、いくつかのポイントで「面白いゲーム」に到達できる要素はあったように思えるので、ここからのレビューでは、本作が「面白いアーマード・コア」に留まっている理由、および「面白いゲーム」として何が欠けていたのかを指摘していきます。
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ここからは各要素について言及しつつ、良い点、悪い点を整理します。
■ゲームシステムについて
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今回のゲームシステムを評価するというのは、スタッガーについて言及するのと同義です。これこそが『AC6』の目玉であり、賛否両論の新システムです。
筆者は「クイックタイムイベント (Quick Time Event, QTE) に走らなかっただけまだマシ」と前向きに評価しています。ただでさえ、世界ではロボゲーは受け入れられづらいので、全世界のプレイヤーを意識しすぎて、QTEを導入するという最悪なパターンも想定していました。
スタッガーが本作にもたらした恩恵は、過去作からシリーズを通して課題となっていた“小さな爽快感”です。
本シリーズはボスだけでなく、敵ACや雑魚敵も、常にスーパーアーマー状態なので、戦闘が淡々と進む傾向にあり、敵を倒した時以外に爽快感を得づらいゲームでした。
とはいえ『アーマード・コア3』のような“ハンドガンなどによるストレスフルな硬直”や、『アーマード・コア ネクサス』のような“地味な熱暴走”は、令和のゲームとして問題ありなので、『SEKIRO』の体幹ゲージを応用したスタッガーを採用したのは、時代に合った判断だったと考えます。
実際、スタッガー状態の敵に、近接武器や銃弾を叩き込むのは最高に気持ちよく、過去作にはもう戻れないかもしれません。
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一方、アクションゲームとしてのスタッガーは一定の成功を納めているものの、メカカスタマイズゲームとしてのスタッガーには議論の余地があります。(スタッガーさせることが前提なので)アセンブルの選択肢が減ったという声もあり、「機体を組まされている気がする」という意見も見ましたが、確かにそのような気もします。
実際、遠距離で戦う機体は組みづらくなっています。本作はほとんどの場合、近距離から中距離に位置取り、瞬間的に高火力を出して、スタッガーを狙うことになります。特にボス戦においてはそれが顕著です。
筆者もボス戦は、自分の好きな機体で攻略するというよりも、近距離で戦える短期決戦用の機体を組んで、ハックする(簡単に倒す)という感覚で攻略しました。
選べる武器は豊富ですが、アサルトライフルであれ、ショットガンであれ、マシンガンであれ、結局はスタッガーを狙うことになるので、従来からのファンであるほど、多様性にかけると感じる方もいるでしょう。
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とはいえ、最初から「自分の好きな方法でスタッガーを狙うゲーム」だと考えれば、気になるものでもありません。
推奨するプレイスタイルをあえて狭めたのは「多くの人にスタッガーの気持ちよさを楽しんで欲しい」という開発側からの意思表示であり、「面白いアーマード・コア」ではなく「面白いゲーム」を目指した代償といえるでしょう。
メカカスタマイズゲームというアイデンティティに固執せず、断捨離をしたのは英断だったように思えます。
・アクションゲームとしてのスタッガーは時代に合った良システム
・近接の戦いが続くので、相手の機体が良く見えてカッコいい
ゲームシステムの【悪い点】
・メカカスタマイズゲームとしてのスタッガーは賛否あり
■操作性について
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本作はアクションゲームですので、操作していて気持ち良いかどうかが肝です。
結論、良くできています。
全体的にボタン入力からのレスポンスが良く、メカの動きには多少の浮遊感がありつつも、重量感を楽しめる絶妙なバランスで調整されています。強いボスに負けて、何度も挑戦できるのは、ボス戦が楽しいのもそうですが、そもそもの操作性にストレスが少なく、動かしていて気持ちが良いからに他ならないでしょう。
本作のクイックブーストは『アーマード・コア4』よりも大人しく、移動というよりも回避という位置づけになっており、これも良い調整です。マップの大きさや、構造も上手く調整されています。メカの移動スピードに合わせたマップの大きさ、および敵の配置をしているので、ストレスなく目的地に到達して、テンポよく接敵できます。
ひとつ気になったのは、武器のリロードやクールダウンの仕様です。
実弾武器にはリロードがあり、ガトリングガンやエネルギー武器は使いすぎるとクールダウン状態になります。気持ちよくスタッガーを狙っている最中に「発射ボタン押してるけど、なんか弾でてなくね?」という感覚になりました。
スタッガー状態になった敵に瞬間火力を叩き込む、という戦い方が主になるので、大事な場面で弾が出ないのは、ストレスに感じました。もちろん、残り弾数は(見えづらいものの)表示されており、リロードも管理しようと思えば管理できるのですが、上下左右に動き回り、敵の攻撃を回避、エネルギー残量の管理など、操作や状況確認が忙しない本作において、調整が必要な部分だったように思えました。
とはいえ、このリロードやクールダウンの仕様がないと、ただのゴリ押しゲーになっていた可能性はあり、オンラインの対人戦では、この仕様によって駆け引きが生まれるので、必要な要素ではあるが、要調整だったといえるでしょう。
・操作のレスポンスが良く、メカを動かす快楽がある
・メカのスピードや移動性能とマップ構成が上手く噛み合っている
操作性の【悪い点】
・リロードの仕様についてはいくつかの弊害がある
■難易度について
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難易度を語るうえで、ボス戦への言及は避けられません。
チュートリアルのヘリ、バルテウスが代表的な難所として挙げられますが、総じてボス敵自体の強さは問題ないと感じました。本作からの新システム、チェックポイントからのリトライ機能によって、道中は好きな機体で進み、ボス戦ではボス攻略特化の機体に切り替えることで、難易度を相対化させられます(それがプレイ体験として面白いかどうかは個人差がありますが)。
一方、難易度の観点で気になったのは、ミッション選択というモチーフを活かしきれていないという点です。
せっかくのミッションを選ぶという進め方と、マルチエンディングという構成であるにも関わらず、(なかなか倒せない)ボス敵を回避して、別のミッションに迂回して、別ルートでストーリーを進められる仕様になっていないのは、「ステージ選択型ゲーム」としてのアイデンティティを活かしきれていないように思えました。
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「腕に自信ある人はボスと戦ってね。そうじゃない人は操作に慣れながら、護衛や探索ミッションを遊んでね。慣れてきたら2周目で挑戦してね」――このように遊び方の選択肢をプレイヤーに与えて本シリーズの特徴を活かせば、骨太なボス敵を配置してダクソ新規を満足させつつ、一方では『アーマード・コア』らしいミッションやAC戦だけでストーリーを楽しませられる、全方位のファンを満足させられるゲームにもなったかもしれません。
筆者自身も(主にバルテウス攻略に時間がかかったせいで)チャプター2まで「やたらと閉所でボス兵器とタイマンさせられるゲームだな」という錯覚に陥り、それが結果として、本シリーズの魅力でもある、多彩なミッション(防衛、探索、協力)をチャプター3以降に追いやっている印象を受けました。
本作をプレイする新規プレイヤーが、『アーマード・コア』シリーズの魅力を実感する前に離脱するリスクが高まっていると考えると、もったいないと感じます。
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難易度&ミッション制という切り口において、もうひとつ指摘したいことがあります。強いボスを倒すためにプレイヤーに試行錯誤をさせるのは良いのですが、その試行錯誤をサポートする情報のほとんどがゲーム内から得られません。
結局のところ「ググって攻略サイトやYouTubeを見るのが早い」というスタイルになっており、それはフロムらしいといえばフロムらしいのですが、これが良くも悪くも「面白いゲーム」ではなく「面白いアーマード・コア」に留まっている所以です。
攻略のヒント(動きの速いボスに有効な武器、空を飛ぶボスの対処法、弱点が限られているボスとの戦い方)をミッションやストーリー内に、違和感なく配置できたら、ダクソ系にはできない、全く新しい「攻略することの快楽」を与えられたかもしれません。
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本シリーズには、ダクソ系とは異なる難しさがあります。機体を変えることで攻略がラクになる反面、機体構成を変えると、一度覚えた操作を覚えなおす(左手がブレードから銃になるなど)必要があるからです。
操作技術だけでなく、機体構成にも攻略要素がある本作において、「面白いゲーム」を目指すには、もう一歩踏み込んだ配慮が必要だったように感じました。
・ボスの難易度は丁度良い
・ミッションの難易度も丁度良い
難易度の【悪い点】
・「死にゲー要素」×「ミッション選択制」だからこそ実現できたかもしれない、ダクソ系にはできなかった新たなゲーム体験を捨てている
・操作に慣れる&パーツが集まることで相対的に下がる難易度に対して、2周目以降の難易度上昇が追いついていない
■ストーリーについて
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本シリーズにおける、ストーリーの魅力は“説教臭さが皆無”なことです。
主人公の成長物語や群像劇など、多少の説教臭さを伴うゲームシナリオに疲れてきた方にはおすすめできます。本シリーズにおけるストーリーとは、あくまでミッションの雰囲気を盛り上げ、アクションに緊張感をもたらすためのスパイスです。
本シリーズが見出した“最大の発明”というのは、凡庸なストーリーでも、独特の語り口(一人称視点、モノローグ排除、ミッション中の情報のみで進行する)によって、全く新しい物語体験をプレイヤーに与えられるということです。
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主人公は生活のために傭兵活動をしているだけなのに、いつの間にか何か凄いことに巻き込まれていくという、ストーリーと主人公の絶妙な距離感が本シリーズの魅力です。
「不穏な空気が漂い、壮大なことが淡々と進む」。この硬質なストーリーテリングはシリーズ最新作でも健在です。何一つ文句はありません。
・人間が描写されないので、キャラデザの好みに左右されない点
・説教臭さが皆無
・サウンドオンリーだからこそ映える、登場人物のパンチライン
ストーリーの【悪い点】
・なし
総評
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思い起こせば、私たちが『アーマード・コア』の新作を待ちわびていたこの10年間で、私たちの現実世界は『アーマード・コア』の世界に近くなったといえるでしょう。
当たり前になったリモートワークにより、私たちはテキストと音声コミュニケーションで仕事をするようになり、フリーランスという働き方の広まりによって、企業間を横断する“傭兵”といえるようなビジネスパーソンが増えました。
『アーマード・コア3』にハマっていた20年前の筆者は、主人公が生存(報酬)のために、傭兵業に従事するという世界観に心を掴まれ――当時、体験した「自由さ」と「結果が全て」という野性的な生き方に感銘を受けたのか、後に会社員を辞めてフリーランスとなり、現在では会社を起業するに至りました。
筆者の人生を変えた『アーマード・コア』。そのシリーズ最新作は誰かの人生を変えるのでしょうか。